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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第27話 ノンギャランティ・クエスト(才女の過去を聞きましょう)


 セーヌに猫亭加入を断られた後、二人は普段よく行く大通り支店以外の二つの支店に立ち寄り、もしかしたらと受付で治癒士の紹介が無いか尋ねた。しかし、どちらの支部でも治癒士はやはり対象外となっており、教会からの紹介でないと治癒士は探せないのだと痛感させられた。ならばついでとばかりに猫亭の維持条件のもう一つの職業である戦士ウォリアーを探そうとするがそれも上手くは行かなかった。彼女たちが知ることではないが、猫亭はギルドの妨害によりクエスト依頼者も入団希望者も停止させられているのだ。そこの団員のナナミとリリファでもそれは同じで、どうすることもできないのだと事情を知らない二人に二つの支店の受付嬢はただ謝ることしかできなかった。





「セーヌ・ファウンボルト…もしや「稲妻」のセーヌでは?」

「ヴェラさんはセーヌさんのこと知っているの?」



 広いミツユースをあちこち歩いてクタクタの二人は夕方になったので猫亭に帰還し、そこで就業時間終了だと帰るための準備をするヴェラザードに会い、今日の出来事を報告した。治癒者が確保できなかった件については始めから知っていたかのような態度だったが、次にしたセーヌの話には食いついてきた。


「冒険者の業界広しといえども、姓まで一致することはほとんどありませんからね…そもそも、冒険者は偽名を使えませんからまず間違いないかと。そうですか、彼女は今治癒士なのですね…」


 そう言ってヴェラザードは二人に自分の知る稲妻のセーヌについての情報を話し始めた。


 稲妻のセーヌ。類まれなる格闘センスと異常なまでに高い雷属性の適性を持つ冒険者で、戦士ウォリアー、魔術師(ソーサラ―)、闘士モンク魔法戦士マギカウォリアーの4つの職業クラスをこれまでに取得している。旋棍と呼ばれる不思議な武器での近接戦闘と雷属性の魔術を活かした犯罪者の退治やモンスターの討伐等のクエストを得意としていた。その中でも彼女の最大のウリは、二つの職業の術技を組み合わせた旋棍の打撃と雷属性の魔術の合成技である。例えばこの攻撃を敵が物理的に受け止めれば、そこから雷の魔術が敵の体中を駆け巡る。逆に敵が魔術的にこの攻撃を防ごうとすれば、その時は旋棍の打撃をそのまま喰らうだけである。この攻撃を初見で防ぐのはほぼ不可能ともいわれており、彼女はこの力でギルドの冒険者ランクをめきめきと上げて来たのだ。


「職業を4つも持っているのか!?いや治癒士を含めれば5つか…とんでもない人物だな。」


 ヴェラザードの話に驚くリリファ。職業を複数持つことはそこまで難しいことではない。例えばリリファ達のリーダークロノスは剣技と魔術が使えるのでそれだけで剣士ソーディアン、魔術師(ソーサラ―)、魔法剣士マジカルソーディアンと3つの職業クラスの取得が可能である。しかしそういう場合でも2つや3つがせいぜいで19歳で4つというのはかなりの数だ。


「じゃあ不良を黒焦げにしたのは今までに取得した職業のどれかの術技なのかな。雷属性の適性が高いらしいし、死なない程度に手加減して感電とかもさせられそう。」

「そうかもしれませんね。治癒士以外の職業はいずれも攻撃的な職業ですから、彼女ほどの実力者ならば街の住人ごときイチコロでしょう。しかしセーヌ女史のすごい所はそれだけではなくてですね…」


 ヴェラザードは続けて語る。セーヌの特筆すべき所は卓越した戦闘のセンスの他に、驚く程に高いクエストの達成率だ。彼女はリリファと同じ12歳という若さで冒険者デビューし、2年後の14歳でB級冒険者になるまでに受けた約300件ものクエストを達成率99%という高さでクリアしてきていた。


「B級の個人での平均クエスト達成率がおよそ89%…だいたい10回に1回程度は失敗することになるわけですから、この数値ははっきり言って異常のレベルです。比較的信用の高いと言われるクロノスさんでさえB級の時は97%でしたからね。そういう意味ではクロノスさん以上の人物です。」

「そんなに!?それにランクを上げるスピードも恐ろしく早いし…B級冒険者っていい大人でもデビューしてからなるのに4年はかかるって聞いたよ!!」

「今までのクエストの成功率が高ければランク査定におけるクエスト失敗時の減点もありませんし、彼女は他の冒険者のクエスト受注率の平均件数から見てもかなりの量のクエストを受けていますから。むしろそれで評価しなければギルドのランク査定に修正を入れなくてはいけませんね。」

「クエストの達成率は重要なことなのか?」


 ヴェラザードの話ではクロノスもたいした人物であるはずなのだが、ナナミとリリファ的にはS級冒険者ならそんなものだろうと華麗にスルーした。二人の今の興味は完全にセーヌに集中していたのだ。


「結構大事なことですよ。クエストを依頼するお客様からすれば自分の依頼を確実にこなしてくれるという安心感がありますからね。クエストの中には過去のクエスト達成率を要求する条件のあるものもありますよ。まあそんなことするくらいなら信用できる冒険者個人へ指名クエストを出したほうが早いのですが…それにギルドとしましても、クエスト達成率が高い冒険者が多くいることはギルドの信用に繋がります。自身の力を過信せずに実力に会ったクエストを選べる実力をわきまえた冒険者ということでもあります。下手に実力不相応のクエストを受けて命を落とす冒険者が年に何十人もいるというのに…」


 下手に命を落とすくらいなら低ランクの街中の雑用をしてもらった方が遙かにマシだと、ヴェラザードは過去に実力を見誤り無茶なダンジョン探索やモンスター討伐を行った結果、命を落とした顔見知りの冒険者たちを思い出した。


 ちなみにクエストの個人達成率があまりに低いと、信用を失い高いランクのクエスト受注を断られることもあるらしい。そうなったら低いランクの簡単なクエストをクリアしてちまちま平均達成率を上げて、信用を集め直すしかない。クエストは通常、個人とパーティーで1件ずつしか受けることができないので、クエストを選ぶ能力は冒険者にとってかなり重要な要素である。冒険者の中には敗北が人を強くするのだとクエストの難易度だけ尋ねてそこから当てずっぽうに選ぶなどアホ極まりないことをしていたりする者もいるが、その場合の達成率は37%と悲しい数字なうえ、死亡による未帰還率がかなり高い。一応ギルドでは経験のある受付がこの冒険者の実力に見合ったクエストなのか審議して時に実力不相応だと警告するが、それでも受けるかどうか最後に決めるのは冒険者自身なのである。


「セーヌさんがすっごい人なのはわかったけど、そんな人がどうしてわざわざ適性が低くい治癒士にわざわざ職業変更クラスチェンジして託児屋で働いているんだろう?」

「それは私にもわかりません。ですが彼女のことはギルドでもそれなりに有名で、B級冒険者になってからも彼女はレベルの高さを示し、もうじき最速のA級冒険者が誕生するかというところできっぱりと消息を絶ってしまったのです。それが5年前の話ですね。ギルドの身柄捜索の手配書は取り下げられていないし死亡発表もないので生きているとは思っていましたが、まさかミツユースにいたとは…」


 市民街の方には、そちらに住処があるとかそこがクエスト実施地に指定されている等の理由が無ければ冒険者たちはあまり足を踏み入れない。冒険者は粗雑な者が多いのでいたずらに住民を怯えさせて警戒されてしまう恐れがあるためだ。冒険者が近づかないのなら彼らをサポートするギルド職員も同じであり、そういった点がセーヌが長年発見されない理由だとヴェラザードは考えた。


「冒険者としての活動をしていないのには何か理由があるように感じたが、それは何なのだろうか…」

「それも私には答えようがありません。確か彼女は魔術師のクラス取得の際の適性試験で聖属性の適性は極めて低いと出ていたはずです。職業を治癒士に変更したのがいつの事かは調べなくてはわかりませんが、お二人の仰る通りに初級神聖術のヒールを覚えるので精一杯なら、やはり適性はあまり高くはないのでしょうね。」

「それにしてもヴェラさん詳しいね。別にセーヌさんと知り合いってわけじゃないんでしょ?」

「そうですね。会ったことは一度もありません。しかしギルドの職員というのは、大抵は実力のある冒険者を頭に覚えておくのですよ。いつか自分が面倒を見ることになるやもしれませんから…」


 さあ説明は終わったぞと、今度こそ帰り支度を整え始めるヴェラザード。夕食は厨房のテーブルに置いておいたので酔っ払いの冒険者につまみ代わりに食べられる前に食べてくださいねと、酒場のテーブルを陣取るよその冒険者たちにも聞こえるように二人に伝えた。


「とにかく、明日もう一度行ってみない?どうせ他に紹介してもらえる治癒士はいないってスーザンのおじさんも支店の受付の人も言ってたもんね。」

「だな。しかしお前的にはスーザンはもう男扱いなのだな。私も男でいいと思うが。」


 それを聞いていたヴェラザードは、「スーザン?はて、そちらにも聞き覚えが…」と一人で呟いていたが、確証を得られなかったようで帰ってしまった。


 明日の予定は夕食を食べながら考えようと、ナナミとリリファが厨房へ行けばそこにあるのはヴェラザードが買ってきた夕食用のパンと乱雑に切り取られた野菜が積み重ねられたサラダがあるのみで、朝と変わらぬレパートリーに彼女が料理が不出来であることを初めて知った二人だった。



―――――その頃のクロノス―――――――――

「あいつらそろそろヴェラが料理超下手クソなことに気付いたかな?いや、見栄っ張りのヴェラのことだからたぶん唯一まともに用意できるサラダだけ出して後は知らん顔かもしれない。まぁ金は渡してあるし、足りなければどっかその辺で食うだろ。あの辺は夜でもしっかりした食事を出す店が多いからな。さて…」


 余計な話はこれで終わりだとばかりに、クロノスは口をつぐんで前方を見る。そこにいたのは武器を地面に落として血まみれで倒れる何人もの人間達で、恰好は冒険者であったり、街の一般人であったり、その他ミツユースでは見かけないよその地方の服装の者もいた。


 その者達のいた所から先を見ればそこは塚のように盛り上がり、その頂点には一本の剣が刀身をむき出しにして刺さっている。そしてその剣の柄に手を伸ばそうと近づく男が一人…


「よぉ。先客がいたか。俺が着く前にサバイバルでもやったのか?どうやら勝者は君らしいな。」


 クロノスは塚の頂上を目指す男に声を掛ける。クロノスのいた所から塚まで距離は少し離れていたが、ここはとある洞窟の中であったため、響き渡る声が男の耳に入ったようだ。男は登る足を止めてこちらを振り返る。


「ああ。しかしアンタは遅かったようだな。どこかの国のスパイに腕に覚えのある剣士。それなりに強い冒険者や俺と同じお尋ね者なんかもいたが、全部俺が倒しちまった。最も、俺の剣も失われたがな。まあ全員生きているから助けるつもりがあるなら手当てしてやればいい。」


 男はそれだけ言って再び足を進めた。クロノスとしては宝剣を付け狙うライバルたちのことなどどうでもよかったが、死んでしまっては聞くこともできないかと、事が終われば外で待つギルドの人間を呼ぼうと決め、それまで彼らは無視することにした。


「その宝剣…俺が回収するよう仰せつかっているから、大人しく渡してくんない?一本でも回収し損ねるとやばいんだ。あの爺さん怒るとヴェラ並みに怖いんだよ。」


 ようやく頂上にたどり着き剣に手をかざす男は、今度はクロノスを無視する。そして剣を確かめるように見回してからしっかりと掴んで…引き抜いた。

 

「あちゃー。持てるってことはやっぱり資格ありの適合者だったか。」

「フハハハハ!!遂に…遂に念願だった宝剣を手に入れたぞ!!この剣は俺の物だ!!これで今まで以上に悪事を進められる…!!」


 男が剣を引き抜くと鈍い錆色だった刀身を美しい緑の光が包む。どちらかといえばエメラルド色に輝く宝剣を眺めた男は、何かに気付いたのか剣に耳を当てて聞き取る仕草を見せる。


「…聞こえる、聞こえるぞ!!そうか…お前は…俺の剣の名前は「宝剣ソーンスピリッツ」というのだな!!そうだ。俺が貴様の新たな主だ!!さぁ、力を解放しろ!!」


 男の叫びに呼応するように宝剣ソーンスピリッツは自らに纏うエメラルド色の輝きを一段と強くし、それを見た男はさらなる歓喜を覚える。


「あーあ。頑張って集めてきたけど一日目の終わりについに人に取られちゃったじゃねーか。さて、どうやって取り返すか…」


 倒れる輩をよけながらいつの間にか男と宝剣のすぐ近くまで来ていたクロノスは、どうやって宝剣を奪うかと思案した。気づけばクロノスがいた状況に少しだけ驚きの色を見せる男だったが、すぐに宝剣を構える。


「なかなかの身のこなしだ。お前が何者かなどもはやどうでもいいが…見ればかなりの実力者だと肌で感じる。俺やそこらの雑魚と同じく宝剣を狙う剣士か?まあいい。さっそくお前でソーンスピリッツの力を試させてもらう。いや、剣でやり合う必要もないか。さあ宝剣よ。その秘めたる力でこいつを倒すのだ!!」


 男が宝剣を振りかぶると、宝剣の切っ先から緑色の光がクロノスの足元に降り注ぐ。


「しまった…!!宝剣の特殊能力か!!…避けきれねえ…!!」

「フハハハハ!!死ねぃ!!」


 勝利を確信し高笑いをする男と、避けきれぬと腕で頭を囲い防御の構えをするクロノス。周囲が緑の閃光に包まれてからしばらくしてその光が消えていく。目が馴れ何もダメージを受けていないことに気付いたクロノスだったが、自分の足元にあったのは…


「なんだコレ…花?」


 クロノスの足元にあったのは、さっきまで無かったはずの一輪の花だった。その花は光も届かず松明でわずかに照らされた洞窟の中でも満開に咲き誇っている。足場は全て岩石でできており根を張る土など一片も見当たらないが、しっかりと身を安定させているその花はどこか儚げで、可憐にも見えた。


 もしかしたらこの花が巨大化して襲い掛かってくるのか。はたまた毒の花粉を撒き散らすのかと警戒を解かぬクロノスであったが、ふと宝剣を持つ男を見れば、男の方も目の前の事態が理解できていなかったようで、戸惑いの表情を見せていた。。


「なんだ…花?ここからすごいことになるのか?」

「…あーちょっと待って。タイム。」


 混乱のまま頷いた男をそのままに、クロノスは出かける前にヴェラザードに手渡された一冊の手帳を懐から取り出してパラパラと捲る。グランティダスに奪われた宝剣一本一本の特徴がイラスト付きで書かれたその中から宝剣ソーンスピリッツの項目を見つけ、書かれた内容を男にも聞こえる声で読み上げた。


「えーと…宝剣ソーンスピリッツ。花と樹木と妖精の国フワリートの国宝。宝剣に認められた人物が力を解放すると、どこにでも可憐で儚い一輪の美しい花を咲かせることができます。花はフワリートの国花こっかに指定されている種類と同類の物で、特に何の効力もありません。なお剣としての切れ味は皆無に等しいので、絶対に物理攻撃に使わないように。宝剣は傷つかないが、持ち主にダメージがフラッシュバックします。」

「…」


 男は物は試しだとばかりに、その辺に剣を振りつける。しかし何度やっても可憐な花が増えるばかりだ。そして男が何気なく足元の石を剣で叩くと男の腕が切れて出血した。


「「…」」

「…あの…」

「何?」

「投降…していいですか…?」

「…いいよ。」


 男は宝剣を足元に置いて一歩下がってから両の腕を挙げる。クロノスは持っていた捕縛用の縄で男を縛ってから宝剣を手に取った。クロノスが持った瞬間に緑色の光は消え失せて元の錆色に戻ったが、持つだけならクロノスでも問題ないらしい。男を斬りつけても良かったのだがそうさせなかったのはこの花のおかげか…ちょっぴり優しくなれたクロノスだった。



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