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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第24話 ノンギャランティ・クエスト(団員を紹介してもらいましょう)


「あ、ここだね。」


 いまだに不安がるリリファを励ましながら教会の中を歩いていたナナミは、廊下の途中で「冒険者ギルド治癒士斡旋受付」と書かれたプレートが掛かる扉を見つけて立ち止った。コンコンとノックを二回して反応を待つ。そして「ここはトイレじゃないわよ?礼儀知らずの冒険者さん。」と野太い女口調の男の声が返事が中から返ってくると「やばっ、また間違えた。ノックの回数の意味とか私たちには理解できない。」と、ナナミはテヘペロして扉を開けて中に入った。

 

「こーんにちー…うわぁ。」

「どしたナナミ…うわぁ。」


 二人は目の前に入ってきた光景に絶句した。といってもあまり広くはなく家具も資料の入った本棚と粗雑な作りの机と椅子があるのみのこの部屋の貧相な…神に仕える者から言わせれば清貧な光景に絶句したわけではない。その原因は二人の正面。受付とプレートが置かれた机を陣取ってこちらを向いて座る一人の大男だった。大男は受付担当と書かれた名札を胸につけ、女性用の白いローブを纏っていた。顔は元の肌の色がわからなくなるまでに白く化粧が施され唇は紅で赤く塗られている。


「なによ?何か文句でもある?」

「あの…念のためにお聞きしますけど…実は私の失礼で女性とうことは…」

「あらん。あたしが女に見えるなんて、見どころのあるお嬢ちゃんね!!」


 ナナミの問いの混じった呟きに、大男が反応した。この時点で二人は気付いた。いや、とっくの昔に気付いていた。気づいていてあえて知らないふりをして何かの間違いであれと、わずかな可能性に賭けていたのだ。そして、賭けには負けた。大男の容姿にただ絶句している二人だったが、大男に背を向けて相談を始めた。


「こっちの聖職者って、オカマはありなの…?」

「どうだったかな…?同性愛者ゲイはアウトだった気がする…」

「いやね~あたしは両方行けるわよん♪」

「「(じゃあもっと最悪だ。)」」





「せっかく来てくれたところ悪いのだけど、今は紹介できる治癒士がいないのよ。」

「どうしてだ。ここに来れば質はともかく治癒士は紹介してもらえると聞いたぞ?」

「そうだよ。そのために来たんだもん。」


 冒険者向けの治癒士を斡旋する部屋の受付のスーザン(多分本名じゃない。偽名を使えない冒険者に偽名を使うとはいい度胸だな。)の回答に、二人は抗議した。


「今は、と言ったでしょう?冒険者はせっかちさんね。」


 良く聞きなさいと、スーザンは二人に説明した。

 

 そもそも冒険者となり治癒士の職に就く者は皆神聖教会の聖地にある神官学校から派遣されてきた将来の神官候補の見習い生徒だと言う。世を学ぶため、そして多くの人々の役に立つためと冒険者となり各地で活動するのだが、元々ミツユースでは冒険者ギルドの規模に対して派遣される生徒は少ない。実際は山ひとつ越えた冒険都市チャルジレンに見習い生徒が派遣を希望してそちらに吸われてしまうらしい。


「神官見習いと言ってもまだ子ども。そりゃ冒険に憧れて冒険都市の方へ行きたがるのも無理はないわ。財宝やダンジョン。憧れの高ランク冒険者に会おうってね。ミツユースに来るのはそういうのに興味のない、治癒士の仕事をキャリアの一環としか考えていない現実主義者リアリストの子たちなの。どちらかといえば欲に目を捕らわれないそちらの方が神官にあるべき姿だと思うけど、子供だって夢を見てほしいわけよあたしは…」

「つまりいないのはわかりました。それで、次に治癒士の見習いが派遣されてくるのはいつごろなんですか?」

「ちょっと待ってね…ええと、この間来た子たちは派遣先のパーティーにみんな決まったばかりだし、意見の不一致とか解散して帰ってきた子もいないわ。あと3か月は待ってもらわないと。」

「ええ!?それは困る!!だって団員集めの期日まであと2か月無いんだよ!?猫亭潰れちゃうじゃん!!」


 ナナミが聞いていた、ギルドがクロノスに提示した猫亭解散を阻止するための団員探しの猶予は、提示された時点で2か月しかなかった。新たな治癒士が補充されるまで悠長に待っていたらとても間に合わない。


「どうする?一度クロノスが返ってくるのを待ってそれからにするか?」

「でもクロノスさんの用って指名クエストなんでしょ?ヴェラさん言ってたよ?内容は聞いていないけど、2、3日やそこらで終わるとは思えないよね…」


 S級冒険者のクロノスが手を離せなくなるからと言い、わざわざ自分たちに頼んできたのだ。おそらく指名クエストと言うのはそれなりの期間を要し、さらに自分たちが治癒士を連れてくるのまでを今後のプランに組み込んでいるだろう。なにより…


「せっかくクランリーダーであるクロノスさんからの頼み事だもん。君が欲しいだなんてお姫様だっこされてスカウトまでされたのだから、これをクリアできなきゃ猫亭の団員の名が廃るわ!!」

「まぁ確かにな…ん?おい待て。お姫様抱っこだと!?お前もされたのか!?もしかしてあいつ、誰にでもあんな風なのか!?」

「いやー多分そんなことないんじゃない?」

「あらまあ、頼もしいじゃない。あら、あなたたち猫亭と言ったかしら?ならボスはクロノっち?」

「クロノっちのことがクロノス・リューゼンならそうですけど。」

「あらまぁやっぱり!!クロノっちも隅に置けないわね~。」


 スーザンの質問にナナミが答えると、彼女?は喜びの笑みを浮かべ巨体を揺すって跳ね上がった。彼女?としては若い女性がきゃいきゃいする時の仕草を再現したつもりだったのだろうが、リリファとナナミには恐ろしい大熊が得物を前に歓喜しているようにしか見えなかった。


「クロノっちの所の子なら紹介しても問題ないでしょう。」

「なんだ?アテがあるのか?」

「実は一人だけ、どこのパーティーにも入っていない治癒士の冒険者の子がいるのよ。最も、その子は神官見習いではないのだけれど。クロノっちが団員を探していると知り合いから聞いてね。彼が来た時のために他には紹介していなかったの。」

 

 スーザンの言葉に二人は驚く。治癒士の回復術は神聖教会の関係者にしか使えない。なぜ神官でもないのに秘匿の術を使える物がいるのかと。


「それはあたしにもわからないけど…まぁ事情は複雑みたいだから、直接会って話を聞いた方がいいのではないかしら。」

「その子はどちらに行けば会えますか?」


 どちらにせよここにいても治癒士の加入は期待できない。二人は一抹の希望を託してその人物に会ってみることにした。


「ちょっと待ってね。今地図を書いてあげるわ。」


 スーザンはそう言って手元から紙を取り出してそこに絵と文字を書いていく。その字はごつい顔には似合わず繊細で、スーザンを知らぬ者からすれば彼(彼女?)のことを美しい女性と勘違いしてしまいそうだ。やがてスーザンはペンを置き、2枚の紙を二人へ手渡した。


「ありがとうございます。でも1枚はともかくこっちは…」

「そっちはあたしがママをしているバーの場所ね。基本一見様お断りでこれはあたしからの紹介状にもなるから。夜にヒマならクロノっち連れて遊びにいらっしゃい。」


 スーザンの投げキッスに二人は若干引き気味だったが、ありがたく頂戴することにした。バーへの案内状件紹介状は今度クロノスに何も教えずに渡しておこうと。二人はスーザンのことを美人と勘違いしてホイホイ出かけるクロノスを想像して、ざまあみろと内心笑っていた。




――――――その頃のクロノス――――――――


「クソッ、いったいどうなってるんだ?」


 ミツユース近くの深い深い森の中。モンスターが出現するので一般人は立ち入り禁止になっているそこで、クロノスは誰にぶつけるでもない怒りに苛立っていた。


 猫亭を出たクロノスはまず暗黒通りに向かった。実際は暗黒通りの手前で何をしでかすかわからないクロノスに10人もの監視員が出てきて取り囲まれたので、クロノスはその中にいた知り合いのジムとアトライアに事情を話し(本当は宝剣探しは極秘のクエストなのだが)グランティダスがダグとして暮らしていた家から、宝剣の隠し場所のヒントになりそうな物を物色してもらい持ってきてもらった。その中の1つ、複雑な暗号で書かれた地図を解読してその場所へと向かったのだが…


「この森、前はモンスターは出るけどごく普通の森だったはずだ。どうしてダンジョンになっているんだ?しかも…」


 独り言をつぶやくクロノスの背後から大きな影が一つ襲いかかる。クロノスはそれを難なく避け、影の正体が猫とその他の獣が混じったような風貌をしているモンスターである「合獣猫キメラキャット」であることと、攻撃が合獣猫の鋭い爪から繰り出されるものであったことを確認して振り返りざまに斬撃を繰り出す。凶刃を受け真っ二つになったモンスターはその場に崩れ落ちて光となって消えていく。


合獣猫キメラキャットか…こいつら、難易度C相当のモンスターだったな。ミツユースの雑魚冒険者パーティーじゃ油断一つで死人が出かねないぞ。」


 クロノスは消えた合獣猫キメラキャットの残した魔貨をしゃがんで拾おうとするが、いくつものモンスターの殺気を感じたので拾うのを止めて剣を構える。剣は既に鞘が外さており、普段剣の刃を見せないクロノスが抜刀しているところから見ても彼の緊張具合が感じてとれる。


「ここに宝剣があるとみて間違いない。これもグランティダスが仕掛けた宝剣を守るための罠か、それとも…」


 クロノスが考えようとしたところであちらこちらから何匹もの合獣猫が飛び出してきた。その殺気は先ほどよりも強くなっており、どうやら仲間が殺されたことに怒りを覚えているようだ。


「まったく、これだから群れで行動するモンスターは嫌いなんだ。とにかくここを乗り切ってダンジョンの奥へ行くか。」


 魁に襲ってきた合獣猫の一匹を斬り伏せてクロノスは次の標的へと駆けていく。まだまだ合獣猫は残っているのだ。S級冒険者とはいえ現在ソロで行動しているクロノスに背後からの支援は期待できない。信じられるのは己のみだと。



――――――――――――――――――――――――――――




「そういえばさ。リリファちゃんの宝剣?だけど…ダンジョンでは使わなかったよね。なんで?」


 地図に書かれた目的地までの道のりの中、ナナミが退屈を和らげるためにリリファへ話しかけた。話の内容はリリファが腰のベルトに帯刀した今は短剣となってしまった彼女の家フーリャンセ家の家宝。宝剣イノセンティウスであった。


「ああ。私は使おうとしたさ。しかしイノセンティウスがどうしたわけか力を発揮しない。しかもこのままでは普通の剣より脆いかもしれない。」


 リリファが宝剣を鞘から抜いて、刃を顕わにするが、刀身はごく普通の銀色の光沢を放っている。しかしその輝きはどこか弱弱しい。


 リリファはゴブリンの林で何度か抜剣して使用を試みたが、そのいずれも宝剣は赤く光らず、刃を森に注ぐ太陽の光に当てれば勢いのない鈍い輝きのままで、もしゴブリンに斬りかかればそのままポキリと折れてしまいそうなくらい頼りなかったからである。


「宝剣は持ち主を選ぶと言っていた。クロノス曰く、所持できているのなら宝剣はきちんと私を所有者であると認めている。ただ、使用条件を満たしていないから特別な力が解放されないらしい。いつだったか父さんはこの剣の別名が「メイヨヲマモルツルギ」だと言っていたから、そこにヒントがあるのかもしれない。」

「名誉を守る剣…でもギルドで喧嘩していた時はちゃんと赤く光ってたよね?私もクロノスさんも見てたし…」

「そうなんだ。もしかしたらあの時偶々条件を満たす何かがあったのかもしれないが、あそこでは何十人もの冒険者が各々好き勝手に術や技を放っていたからな。再現しようにもどうしたらいいか。まぁただ単に私の実力不足で宝剣を上手く扱いきれていないだけかもしれないし、そこは気長にやるさ。」

「そうそう。冒険者は努力あるのみだよ。…あ、ここだね。」


 話の終わりでちょうど目的地に到着したらしい。ナナミはスーザンにもらった地図を取出して住所があっていることを確認すると、そこにある一軒の建物を見た。建物は平屋で、周りの住人の家よりもかなり大きく、古さと共にしっかりとした作りを二人に感じさせた。


「なんの建物だろう?中にいるのは…子供?」


 建物の敷地を覘いたナナミはそこの庭で子供たちがそれぞれ好き勝手に遊んでいるのを見つけた。一人で土遊びをする子どもや他の子どもと追いかけっこする子ども。紙にお絵かきをして同じく絵を描いている子どもにそれを見せる子ども等がいたが、彼らは一様に幼く見え、最年長でも10歳ほどであろうか。


「ここは…託児屋か?」


 ナナミに続いて中を除いたリリファは、すぐに建物の正体に気付いた。


「託児屋って?」

「金を払って子供の面倒を見てもらう施設だ。ミツユースでは夫婦共働きで子供の面倒を見ることのできない親も多いからな。市民街にはそれなりにあると聞く。神聖教会から派遣されたシスターが子供たちの面倒を見ているから安心性もばっちりらしい。でもなんでこんなところに冒険者が…」

「人を癒すのが仕事の治癒士ヒーラーなら、こういうところで働いていても不思議はないんじゃない?」

「どうだろうか…半分慈善事業だから教会に面倒を見てもらえるシスターには給与が殆どでないと言うし、よほど子ども好きでないとやらないと思うが…」


 ナナミとリリファが、敷地の中で各々に遊ぶ幼い子供たちを眺めていると、それに気づいたのか中から一人の初老の女性がこちらに向かってきた。頭にベールをかぶり修道服という恰好から察するに子供たちの面倒を見るシスターの一人だろう。


「あの、何か御用ですか?」


 そう尋ねてきた女性はどこか不安げだ。ナナミとリリファは現在普段着で冒険者とは思えない格好だが、リリファは腰のベルトとミニスカートの下から覗く太ももに付けたベルトから鞘に収まる短剣が見えたし、ナナミは右腕に付けたホルダーに短杖をセットしている。年の頃から見ても子どもを預ける側にも預けられる側にも見えないし、これでは市民からすれば普通の不審者よりもよっぽど不審者だろう。


「すみません。私たちここに治癒士の冒険者がいると聞いて神聖教会の方からやってきたんです。こちらで会っていますか?」


 怪しまれる前にとナナミは先制攻撃で挨拶の一発をかまして、続けざまに来訪の目的を告げる。いきなりの行動に女性は驚くがすぐに納得の色を見せた。


「治癒士…ああ、セーヌのことね。彼女は今買い物に行ってるわ。昼過ぎには戻ると言っていたけど…」


 目的の人物は現在いないようだ。どうするかと二人は顔を見合わせて相談するが、やがて結論が出て頷き前を向いた。


「そうか。ならばどこかで時間を潰して出直そう。失礼する。」


 女性に礼を言って二人は立ち去った。





「とんだ無駄足だったな。」

「でもお昼すぎたら戻るって言っていたし、ちゃんといることが分かっただけでも収穫だよ。」

「そうかもな。さて、昼まで時間があるしそれまでどこで時間を潰すか…」

「あ、なら私自由市に行きたい!!」


 昼過ぎまでどこで過ごすかというリリファの悩みに、ナナミは自由市での散策を希望した。


「ん?別にここからたいした距離でもないから構わないが…何か用でもあるのか?」

「前クロノスさんと言った時は入り口で引き返したからね。私、探している物があるの。」


 ナナミは何か目的があるらしい。


「私は特には用が無いから、お前の提案に乗ろう。」

「やったね!!じゃさっそく…ゴーゴー!!」


 ナナミは手をつなぎ機を逃すなとばかりにリリファを引っ張っていく。



「(あの時クロノスさんは私が何度も来ることになるとか言っていたけど、なるほどその通りね。世界中から物が集まるのなら、その中にきっとあるはず!!米とか味噌とか醤油とか…とにかく、私は和食に飢えている…!!)」


 じゅるりとよだれを啜るナナミを見て、リリファは食い意地の張った奴だと思った。



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