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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第23話 ノンギャランティ・クエスト(団員たちへクエストを与えましょう)

「…というわけで、お二人にはクロノスさんから自分が不在の間に、見どころのある治癒者ヒーラーを見つけて団員に加えろとの指令が下っております。」

「ふーん。治癒者ね。てゆうかクロノスさんいないんだ。」

「なにやらコソコソ準備していたと思ったら…そういうことは団員である私たちには事前に説明してほしかったぞ。」


 ヴェラザードがクロノスを見送ってからしばらくして日が明けたころ、彼女は目を覚ましたナナミとリリファと共に朝食を採っていた。場所は元酒場である猫亭の一階。昨日の夜もバカ騒ぎしていた冒険者たちの一団が残した酒の空き瓶やら食べカスの残った皿をテーブルに置いたまま、自分たちは「団員専用 部外者以外が使うの禁止(破ったら蹴り1発)」とプレートを置いたテーブルでだ。ちなみにこの専用テーブル。プレートを設置してからヴェラザードの蹴りを食らいたい変態冒険者達にことごとく汚されてそのたびに地面に沈めた冒険者に全力で拭かせているので、他よりも幾らか綺麗になっていたりする。上級者などは美人ギルド職員が使ったテーブルだと舌を使って拭き取り、クロノスに制裁を受けていたりした。


「(しかし冒険者というのはどうしてこう散らかすのは天才的なのでしょうか。その点部の才能を、少しは良識と常識に分けて頂きたいものですね。)」


 冒険者たちが汚したテーブルを今度から片付け代を取るか、そうでなければ散らかした者達に片付けさせるか。どちらにしようか悩むヴェラザードだったが、倒れるまで飲んだ無計画の冒険者に帰宅前の片付け等全く期待できないことに気付けき、やっぱりクロノスに頼んでよその清掃系クランから人手を雇おうと決めた。


「…うーん、硬い。もう少しふわふわなのが食べたいなぁ…」


 ナナミはテーブルの上のバスケットも中に所狭しと詰められた、街で評判のパン屋のパンを一つ引き抜き、それをちぎってモグモグと食べる。パンは中がやや黒く冷えて固まってしまっているが、庶民向けのパンと言えばこんなものなので仕方ない。金持ち向けの白くて焼きたてのふわふわパンが食べたいと願うナナミだったが、それらは高価であまり大きくはないので、冒険者であり食べ盛りの少女でもあるナナミの胃袋を満たせるものではないだろう。


「あとパンの付け合せが水って…そりゃミツユースのお水美味しいけどさ。」


 それともう一つあるナナミの不満が、食卓にミルクが無いことである。近隣に大きな牧場の無いミツユースでは、ミルクは金さえ出せれば船で運ばれてきた物が飲めるが、金を出せないのなら我慢しろというのが市民の常識であり、パンはやっぱり牛乳と一緒が一番と思っているナナミには非常に辛い。クロノスがナナミに毎日渡している彼女の分の食費(今日はクロノスが不在なのでヴェラザードが替わりに渡してくれた)は一日に三食と午後の茶飲み休憩にはおやつが食べられる程の額ではあったが、さすがに毎日ミツユースでミルクが飲めるレベルではなかったし、先日にスリ騒動で全財産を失ってしまったナナミにとっては高価なミルクは手の届かない物であった。


「あー、ミルク飲みたいなー。いやね、ミツユースのお水も美味しいのよ。でもパンに水ってのは何か違う。絶対に違う。そういえば親戚のお姉ちゃんが両親の反対を押し切って都会の大学に出て一人暮らしの貧乏生活をしているとか言ってたなー。本人は毎日パンの耳に水道水で、栄養は仕送りの野菜とインスタント食品頼みだとか言ってたなー。もしも帰れても私は絶対に一人暮らしなんかしない。」

「(なにやら以前聞いた山奥で師匠と二人きりという設定とは程遠い言葉が出てきていますが、面倒なので無視しましょう。)」

「ヴェラさん何か言った?あとちょっとミルク分けてください。」

「ダメです。クロノスさんから団員の金銭管理はしっかりと見張るようにと言われていますので、手の届かない物は不相応なので諦めてください。」

「ええー、けちけち!!」


 ヴェラザードは自分一人だけちゃっかりと出来立てふわふわ真っ白な高級パンと新鮮なミルクを食していたが、彼女は元々小食なのでナナミ達と同じ食費で小さなパンだけで十分だった。量より質を取りたいのがヴェラザードの小さなこだわりである。彼女の手元には他に少量のサラダがあるのみである。


「そういえばこの件はクロノスさんが試しにクラン内の団員へのクエストという形にするそうです。成功しても冒険者ランクの査定に評価されませんが、逆に失敗しても減点はありませんし気軽にやってください。それとクエスト達成時には報酬を用意しているようですよ。」

「えっ、報酬もらえるんだ。それなら頑張らないとね!!」


 ヴェラザードの言葉でナナミに気合が入った。金が絡めばやる気に満ちるのが冒険者という生き物である。特に今のナナミは財布が寂しい。ここでひと儲けして毎日白パンとミルクライフを送りたい。


「ならば冒険者ギルドに行ってスカウトするのか?それとも私みたいに素質がある者に冒険者になってもらうとか…」


 ナナミとは反対に食えるだけありがたいと、次々にパンやら野菜のサラダやら焼きベーコンやらを口へ詰め込むのは盗賊の素質を持って冒険者になったリリファ。彼女は食べる途中で空になった口でヴェラザードの話に付き合った。

 

「いえ、他の職業であれば確かにそのようにするのが正しいのですが、こと治癒士に限ってはそうもいかなくてですね…お二人にはこれから市民街の神聖教会に向かっていただきます。」


 量が少ないので早くも食事を終えたヴェラザードは、リリファの質問にそう答えた。実はサラダの器に苦手な野菜が残っていたが、それはこっそりリリファの器に入れた。


「教会?どうしてそんなところに…」

「リリファちゃんあのね。それには訳があって…」


 人よりは冒険者には詳しいがそれでもすべてを知っているわけではないリリファに、固いパンとの格闘がひと段落した先輩冒険者のナナミが教えてくれた。



 その数は20を超えるという冒険者の職業クラス。その職業を取得して訓練することで初めて使えるようになる冒険者の術技だが、その中に実は治癒術などの回復術は無い。正確には冒険者が使えるのは冒険者術技と呼ばれる系統の類のみで、治癒術は神聖教会の管轄の神聖術に分類されるものなのである。神聖術は大陸の神を崇める神聖教会が門外不出の術として教会で働く神官やその見習いにのみ教えており、普通では絶対に習得できない。



「もちろん格闘家ファイター武闘家モンクの気功術とか、猟兵レンジャーの解毒なんかの簡単な怪我の治し方はあるけどね。でも人体の傷を瞬時に治すことができるほど強力な魔術は殆どが治癒術に限定されていて、そういうこともあって冒険者ギルドは毎年の神聖協会に対する少なくない額の寄付をして、僧侶の見習いに修行のためとの名目で治癒士の冒険者になってもらっているんだって。…えっと、ヴェラさんこれで合ってた?」

「おおよそその通りです。」


 ナナミは以前暇つぶしに読んでいた分厚いギルドの冒険者ガイドから、治癒士の項目を知識から引きずり出してなんとか答えることができた。ちなみにこの冒険者ガイド。ギルドのとある部署が発行していてこれさえ読めば冒険者の知識は完璧と新人冒険者に購入を推奨しているのだが、分厚すぎて持ち運べないほどに重いことと、金貨1枚という一番必要であろう低級冒険者にはとても買うことのできない値段設定から、支店で読む者は多いが買う者は一人もいないという代物だった。他の部署はジャンルごとに小分けして必要な部分だけ買ってもらえばと意見しているのだが、その部署はロマンが無いと理解を示していない。


「まぁ要約すると治癒士はどう探しても野良はいないから教会で雇えってことだな。」

「はい。雇用の費用はクロノスさんが負担するので金額はいくらかかっても構わないそうです。表向き真面目に活動している神聖教会の神官見習いならば足元を見てぼったくる薄汚い人もいないでしょうし、なによりギルドの妨害も受けないかと。」

「「妨害?」」

「あっ何でもないです。忘れてください。」


 ヴェラザードはうっかり口から出たワードを冷静を装ってごまかした。現在猫亭はクロノスをフリーにしたいというギルド上層の考えから、彼らによって絶賛妨害キャンペーンの真っ最中であり、それによって入団希望者もクエスト依頼客も来ない状況だ。意味が解らなかったのか二人はそれ以上追及することもなく、食事に集中した。


「(危ないところでした。二人から何かの拍子にクロノスさんに伝われば、反応次第で地獄を見ますからね。主にギルドが。)」


 せめて私には飛び火しませんようにと願い、自分も食事を続けるヴェラザードだった。






「ああ、そういえば。クロノスさんが治癒者の希望があると。伝言も預かっております。」


 朝食を終えて教会へと出かけようとしたナナミとリリファに、留守番を任されたヴェラザードは声を掛けて呼び止めた。


「希望って使える治癒術の種類とか、得意な武器とかですか?」


 治癒者と言っても様々であり、そもそもギルドでは治癒術が2種類以上使えれば治癒士のクラス取得が可能である。そのため適当に捕まえて初級術の「ヒール」と「アンチポイズン」だけしか使えない治癒士を雇っても少々さびしい。


 武器に関しても魔術の行使に特化した治癒術と相性の良い魔石仕込みの「魔法杖マジックワンド」の他に、戦闘で打撃や突きに使える丈夫な作りの「戦闘杖(バトルスタッフ」)や、詠唱しながらモンスターを相手にできるその他武器。変わったところでチャクラムや苦無クナイなどの飛び道具を得意としている者もおり、そこまで行くともはや近接戦闘職の段階ではあるのだが、団員の少ない猫亭ではもしもの時のために治癒士にもある程度の戦闘能力が必要になる可能性もある。


「中級以上の治癒術を最低一つとか武器は杖以外に近接で戦える物が欲しいとか…とにかく何かあれば聞いてきますよ。」


 クロノスに希望があったとしても、自分たちが探すに手間取るような条件を提示する男ではないだろう。ナナミとリリファはヴェラザードからクロノスの伝言を聞くことにした。


「えっとですね…オホン。「まな板はナナミとリリファと厨房にある物も含めて既に3つあるからもういらない。」それと「治癒士は清楚ボインな全身タイツの上に貫頭衣式の上着を重ねるのがもう最高。王道。正義。ジャスティス。修道服のシスター風も至高だから可。スカートが短めでスリット入っていて生でもタイツでも御御足おみあしが覗けばもう…」だそうです。ちなみに最後途切れているのは私がトリップするクロノスさんを床に沈めたからで…」

「「………」」


 クロノスからの言伝ことづてを涼しい顔で応えるヴェラザードを視界から外して二人はお互いを見つめてから己が心に誓った。あいつが帰ってきたら、死なない程度に殺そうと。ナナミとリリファの絆ゲージが、少し上昇した瞬間の出来事であった。がんばれ、成長期はまだまだこれからだぞ。







「まったく、クロノスさんもデリカシーがないな!!だいいち私もリリファちゃんもまだまだ成長期だっつーの!!これからメロンどころかスイカになってみせるからその時は覚悟なさい!!」

「同意だな。確かに浮浪児をやっていた今までは食うに事欠く事もあったが、これからはきちんと食べて…」


 メロンに!!スイカに!!と高らかに宣言しようとしたところでリリファは気付く。自分はともかく既に16で自分と同じかそれよりも年下にしか見えない童顔で、胸の方も悲しいナナミはもう…


「まぁメロンは無理でも形なら…大丈夫だ。大事なのは大きさじゃない。通りの八百屋でも果物は小さくて形の良い方が高くて美味いと言っていたから。」


 彼女に待ち受ける未来は悲しいものでしかないと断定したリリファは、背伸びしてナナミの肩に己の手を置いた。ナナミは身長に関しては年相応よりそこそこ高い所が、その事実をさらに残念に昇華させていた。


「なんのことかな!?それと確かに全身タイツはロマンかもだけど…そんな人こっちにもやっぱりいないし、だいたい居たら居たで変態じゃん!!」

「そんな恰好の奴が道を歩いていたら何の罰かと思ってしまうな。しかしこの気持ちなんだろう…なぜか壮大な前ふりにしか聞こえない…」


 教会の道をクロノスのロマンをボロクソに否定して歩くナナミとリリファ。ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を何事かと道行く人々は一瞬そちら見るが、すぐに顔を戻し歩みを戻す。流通都市ミツユースの住人はいつだって忙しいのだ。ガールズトーク程度で歩みを止めるわけにはいかない。


 ちなみに冒険者の治癒士の恰好と言えば、魔術師のようにローブを着込んだ者が多く、治癒士である事を目立たせるため白を基調とした装いが殆どだった。




 なんだかんだと話を続けているうちに、二人は市民街の広場にある白く大きな神聖教会の入り口の扉の前までたどり着いた。さっさと中に入ろうと扉に手を掛けるナナミだったが、自分の後ろでリリファの足が止まるのを感じた。


「入らないの?」

「いや…足を洗ったとはいえ元スリ師の、叩けば埃が出る身だからな。やっぱりこういう聖なる場所では自然と足が止まるというか…もちろんやったことは反省しているが…なんだか胸騒ぎがする。」

「自覚があってこれから変えていこうと思える意思があれば大丈夫だよ。元々盗賊シーフ職業をやる冒険者は闇属性の魔術の資質もあるらしいしね。きっとそっちが反応しちゃったんだよ。別に害があるわけじゃないし一緒に行こう!!」


 遠慮するリリファの手を引き、ナナミは教会の中へ入っていく。この時二人は気付いていなかった。リリファの嫌な胸騒ぎは何も彼女が持つ闇属性の適性のせいだけではなく、暗黒街で浮浪児をして暮らしてきたリリファの一線級の生命の危機警報装置アラートもあったことに。


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