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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第16話 冒険者、供に(正体を看破しましょう)

「おのれ!!よくもステューデンのお頭を!!」


 ステューデン殺害がこの男の犯行であると決めつけたルガルが、獲物の剣でクロノスに斬りかかる。だがクロノスはそれをひらりと風になびく布切れのように避けると、腰の剣を手に持ちその柄をルガルの腹に叩きつけた。その衝撃で横に吹っ飛んだルガルは壁沿いに置かれた彫像にぶつかってしまい、粉々になった彫像は彼の全身に降り注ぐ。起き上がってこないルガルはどうやら気絶してしまったようだった。


「頭?ああさっきガキに指示していたこいつのことか。こいつはステーュデンなんて名前じゃない。こいつは乗っ取りのデンテンス。商会や組合の代表を人知れず殺めて得意の物真似芸でそいつそっくりに成りすまし、金目の物をゆっくりこっそり盗んでく…そんなただの悪党さ。犠牲者は8人だけだから被害の強さで言えば火吹きのヴァロイの方が凶悪だな。」

「何をゴチャゴチャと…うらぁ!!」「敵討ちだ!!死ね!!」


 ルガルに続きロイディとナヴァーロも斬りかかるが、その刃がクロノスに達する前に倒れてしまう。どうやら向こうの刃がこちらへ届く前に、クロノスが二人に一撃入れたらしかった。


「安心しろ。峰打ちだ。…いやー、一度やってみたかったんだよね。ま、肋骨の何本かは折れるしたまに内臓に突き刺さって死んじゃうらしいけど…さっき練習したからたぶん大丈夫。さて、こいつは違う。こいつも違う。こいつは…やっぱり違う。おかしいな?頭とかいう奴が当たりだったから、まだ何人かいると思ったんだけど…上の伸びてる連中は全員ただの下っ端浮浪児だったし…」


 倒れた3人の幹部の顔を確認するクロノスだったが、その結果は満足するものではなかったようで、ロイディとナヴァーロをルガルと同じく壁際に投げ捨てて道を空けると、残る1人となったゼルを見つめた。

 

「あれ、君も違うな。じゃあ後は…なぁ?」

「うひゃあ!!な、なんだよ。」


 いきなりクロノスに尋ねられゼルは硬直した。暗黒通りで培った生き残るための勘と生物としての本能が、こいつはやばいと訴えてくる。


「お前の他に誰かデビルズのメンバーって残ってないの?」

「あ?下っ端どもなら全員地上にいるよ。それと警備隊に捕まった奴。」

「なるほど。じゃあ俺の勘定違いかな…」

 

 おかしいなと考えごとにふけるクロノスを前に、ゼルは動けずにいた。相手はデビルズの頭を殺して幹部達を一瞬で倒した男。仮に自分がまともに戦った所で、万に一つも勝てるはずがない。


「(よし、ここは逃げよう。)」


 決断したゼルはクロノスが塞ぐ扉をどうやってくぐろうかと考える。実は下っ端たちに武器を持っていかせた際、幹部に内緒で幾らかの宝や金貨を運ばせていた。武器もおそらくかなりの値打ちの物。ここは逃げて持ち去った金を使い、生き残りでデビルズの立て直しをするのだ。そうすれば今度は自分がデビルズの頭だ。


「(いける…!!これからはこのゼル様の時代だぜ…!!…ん?)」


 実に小悪党らしい考えを思い付くゼルだったが、ふと自分の脇腹にドスンと大きな衝撃が走るのを感じた。何事かと衝撃を受けた部位を手で触ると、そこには大きめのナイフの刃が、柄に到達するまで自分に突き刺さっていた。


「え…!!」


 自分に訪れた突然の出来事に頭が追いつかないゼルだったが、やがてそれが痛みとなって頭に伝わると、ゼルはその場に倒れ込んで大声で泣き出すのだった。


「痛ぇ、痛ぇよ…!!なんだよコレ。誰が…!!」


 誰がやったのか。ファリスは縄で縛っているし、そもそも自分が与えた怪我で碌に動けない。目の前の男は動いていない。ならば誰がと、後ろを振り返れば、そこにいたのはゼルにとって意外な人物だった。


「ダグ…!!」

「…」


 ゼルを刺した犯人。ダグはゼルにナイフを突き刺した格好のままで、ゼルをひどく冷たい目で見つめていた。


「うっ…てめぇ…どうして…!!」


 自分を指した正体がダグであることにゼルは納得できないでいた。そもそもダグの持っているナイフは普段から刃毀れしておりろくな切れ味はない。刺すにしてもよほど力強くなくてはならず、あくまで緊急の脅しに使うだけであり、実際に刺すほどの度胸も持っていないダグに刺せるはずもないのだ。


 怒りに任せダグを怒鳴りつけようとしたゼルだったが、口の力が入らず声も出ない。刺し傷が深かったかと考察するが激痛を堪えきれずにそのまま気を失ってしまった。




「ダグよ。ここ最近のお前は一体どうしてしまったんだ…?金が必要だからと大金を盗み出したり、腐れ縁とはいえそれなりの付き合いのオレをゼルに売ったり。かと思えば今度はゼルを刺すし…何がお前を変えたんだ?」


 声がした方をダグとクロノスが確認するとそこには縄で縛られたボロボロのファリスがいた。どうやら傷だらけの体で、ここまで這いつくばってきたらしい。

 

「どうにも。別にどうにもなっていない。これが俺だよ、ファリス。」


 ダグの返答にでファリスは何やらおぞましいものを感じた。臆病なダグが普段とは違う冷酷な口調で淡々と、ファリスの質問に答えたからだった。


「ダグ…そうか、ならこいつか。ナナミの財布を奪ったというのは…」


 クロノスはファリスの方を向くダグと呼ばれた少年の顔を目を凝らしてよく観察する。そして何かに気付いたのか、口元に手を当て、頭の中の記憶を引き出した。


「ダグ…ダーグ…ダグン…グダ…グダ?グ、ラ…ダ。…!!そうか。そういうことだったのか。なるほどこれで全てに合点がいった。確かに俺はダグとかいう奴の顔を直接は一度も見たことが無かったからな。」


 何やら一人で納得したクロノスは、腰の剣を構えて抜刀準備の体制をとる。何事かと思案するファリスだったが、脇に挟んで持ってきた家宝の剣のイノセンティウスが宙に舞うのを感じ取り、そちらを見ればイノセンティウスを己の手に納めるダグの姿があった。


「それを返してくれダグ!!オレにとって大切なものなんだ。…ダグ?」

「…」

「ファリス。ダグとかいうその少年。多分ただの浮浪児じゃない。できればすぐに離れて…って、縛られてるんなら動けないか。」


 クロノスは地を蹴り跳ねたかと思うと、ダグを押しのけファリスのいる元へと一気に駆けた。その速度やファリスとダグが気づいた時には既にクロノスがファリスの元へ到着していたほどの物であり、ファリスはクロノスが瞬間移動の魔術でも使ったのかと疑った。


「クロノス。お前が何を思い付いたかは知らないが、ダグは人より臆病な、ただのどこにでもいる汚い浮浪児だ。オレは浮浪児に身を落とした時からあいつを知っている。あいつがそんなに大それたことをできるはずがない。」


 クロノスの確信にファリスは必死に否定した。しかしそれはダグをかばうというより、自分に言い聞かせるためにも聞こえた。


「君がどんなに奴の存在を保障したところで、俺の目と頭の記憶はごまかせないぜ。どうしてこんな大物がここに…なあ、宝剣コレクターのグランティダスさんよ!!」

「…!!くく、あははははは!!」


 状況を見守っていたダグだったが、クロノスの言葉に一瞬驚きの表情を浮かべると、それから大きな声で笑い出した。


「グラン…ティダス?…!!まさかあのグランティダスか!?」

「君の考えるグランティダスがどれを示すのかは知らないけが、宝剣コレクターなんて二つ名。この世に一人しかいないからたぶんそれで合ってる。」


 クロノスの放った名前にファリスは覚えがあった。いやファリスだけではない。その名を聞けば大抵の人間が驚きの顔を見せるだろう。なぜならその男は、近年でもそうはいないとんでもない犯罪者だったからだ。


 宝剣コレクターのグランティダス。その二つ名の通り世界中にある宝剣と呼ばれる業物の剣を手にすることに全てを注ぐ生粋の変態マニアだ。しかし目当ての宝剣を手にする手段を選ばないことでも有名であり、時には所有者のいる宝剣を手にするため、殺人、窃盗、脅迫、誘拐…その他口にすることもおぞましいような様々なあくどい手段を使ってきたのだ。これまでに彼の暗い情熱の犠牲になった人間の数は分かっているだけでも120を超えており、冒険者ギルドのみならず、世界各国からも個人では異例ともいえるレベルの指名手配を受けていた。


「どうしてわかったんだい?」

「どうしてと聞かれても、君は有名人だからな。手配書で顔を知っていたし、それに何より。君が持つ剣…宝剣イノセンティウスが何よりの証さ。」


 クロノスの宝剣いという言葉に一番驚いたのは他でもないファリスだ。自分の一族が代々守ってきたらしいこの剣が、まさか世界に百と九十九本しかないと語られている、いずれも有史に伝説を残してきた業物の剣と同じ存在だったとは!!


「クロノスは知っていたのか?それが宝剣だって。父さんは私にはイノセンティウスは大事な家宝だとしか教えてくれなかったぞ!?」

「ネタバレするとファーレンさんに昔一度見せてもらったことがあったんだ。自分とリリファになにかあったらこの剣をよろしくって言われていたのをすっかり忘れていた。」

「なるほどね。なんだ、さすがのファーレンもS級冒険者の「終止符打ち」クロノスを頼っていたか。イノセンティウスは史実の中でも殆ど名前の出ない代物。それだけの間隠し通せたのに、いつ死ぬかもわからない自分の立場を恐れていたか。」


 グランティダスと呼ばれたダグ少年は、頭を掻き毟り自分の中で応え合わせをしているようだった。やがて整理がついたのか。ニコリとほほ笑みクロノスとファリスを見た。


「いかにも、俺が他称宝剣コレクターのグランティダスさ。それにしてもどうしてわかったの?手配書通りなら俺は60代の男なはずだけど。」

「俺だって半信半疑だったさ。特に君は最後の犯罪であるアスカ国の宝剣強奪から8年もの間行方不明で、宝剣の眠るダンジョンに挑戦して死んだとも噂されていたからな…でも地上で倒したローヴァと、そこで斬ったステューデン。いや、火吹きのヴァロイと乗っ取りのデンテンスか。こいつらを見ていたし本人だという自白も取れたから、考えに至るのは容易だった。まったくどんなトリックだ?おっさんが3人そろってガキの姿になるなんて。若返りの秘薬でも使ったのか?」


 最後の謎が解けないとクロノスが当てずっぽうの答えに選んだのは、若返りの薬と呼ばれる高難易度ダンジョンの宝箱から稀に出現する錬金術でできた不思議な薬品の名前だった。


「あんな世界中の成功者。それこそ死以外恐れることが何も無い連中が追い求める秘薬中の秘薬。3人分も手に入るわけないだろう?そうだね。正体を知られてしまったし、お前らには全員ここで死んでもらわなきゃいけなくなった。冥土の土産に教えてあげようかな…。」


 グランティダスは手に持つ宝剣イノセンティウスを肩にかけ、背中を壁に預けて得意げに語りだした。


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