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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第153話 そして更に迷宮を巡る(続々続々・ナナミ達のパーティーの十階層目での出来事)




ゴブリンの群れを前に満身創痍のナナミ達が駆け付けたダンツ達のパーティーと合流し、一緒になって戦っているのと時を同じくして、ダンジョンの真上にある地上の迷宮都市―――



「クソ‼ここじゃなかった‼明日また挑戦のし直しだぜ‼」

「借金して道具を用意しないと…‼」

「どいてくれ‼ひどい怪我人を連れて帰ってきたんだ‼」

「よく効くダンジョンポーションはいらんかね?お買い得だよ‼」

「ダンジョンポーションの効力なんてどれも同じだろうが。だいたいいつもの倍の値段じゃんか。」

「あのパーティーも駄目だったか。」

「どこもかしこも焦りすぎなんだよ。自分達の実力以上の階層に行きやがって…」

「そういやイグニス達…戻ってこないな?守護者との戦いに時間がかかってるのか…まさか。」

「よせよ。まだ半日も経ってない。変な妄想してたことが本人たちにばれたら痛い目見るぞ。そんなことより…」

「…」


 ごった返す中央広場のゲートの前では、あれだこれだと騒ぐ人間に混じりイザーリンデ姫に扮したイゾルデが立ちっぱなしでクロノス達の帰還を待っていた。なお影武者として姫を演じる彼女の意志を汲み取り私も彼女のことをイザーリンデ姫と言うことにする。


 真夜中の日が変わるのと同時に解放されたゲートには相変わらず多くの挑戦者が出入りしており、対応するギルド職員も休まず付きっ切りで働いていた。あわただしく駆け回る職員の邪魔にならないようにしつつ、イザーリンデ姫はゲートの前で雇った冒険者が戻ってくるのをじぃっと待つ。


「…帰還者が来ます‼人数は五名‼」

「…‼」

「了解。ゲート稼働‼」


 ダンジョンからの帰還の反応を受けてゲート調整の担当をする職員が叫ぶと、イゾルデははっとしてゲートの方に目をやったが、出てきたのは見ず知らずの冒険者のパーティーだった。


「うぃー、ひどい目にあったぜ。死ぬかと思った。」

「誰一人かけずに逃げ帰れてよかったな。」

「おい、どうだったんだ?」

「どろどろに溶けた炎の岩が垂れ流しのわけわからんマップに出た…熱いし剣を落としたら溶けて燃えたしもう最悪だ。」

「クソ…お前らも駄目だったか。俺らはやたら落とし穴ばっかりの変なとこだったぜ。」

「つか一発でエリクシールのあるマップにでるなんてありえなくね?」

「それもそうか…他も似たような調子だ。入って数分で違うマップだからとっとと帰ってくるのもいれば、違うなら違うで一稼ぎしようとして大けが負った奴もいる。」

「全員十層か二十五層を目指してるんだよな?これだけ行っても誰もたどり着けないのなら、やっぱり何か特別な行き方でもあるんじゃないか?」

「迷宮ダンジョンのマップはランダムだぜ。もしその決まりを見つけられる奴がいたらマジモンの変態だな…きっと目を合わせたら目が腐るくらいの変態だぜ。」


「…はぁ。」


 戻ってきたパーティーは帰りを待っていた顔見知りと話し込んでいたが、イザーリンデ姫は彼らに興味を無くしまたゲートの方を向いた。


 このようにイザーリンデ姫は帰還者の気配を感じたらそれを確認して目的の人物でなければまた待つ。さっきからずっとこの繰り返しだったのだ。



「ほっほっほ、期間をお待ちの連中は何故か少し前の階層を指定して挑みましたし、戻ってくるのにはまだか時間がかかるでしょう。」

「ガルンド様…」


 そんな彼女を見かねて同じく帰還者の状況を確認していた現場主義のギルド幹部、ガルンドが話しかけてきた。彼が来たことでイザーリンデ姫の背後と横で彼女の護衛をしていた二人の騎士と面倒見のマックアイが割ってきたが、姫がさっと手を上げると承知とばかりに無言で下がっていった。


「もうじき夜明けじゃしだいぶお疲れになられたでしょう。こんなところで立ちっぱなしもなんじゃ。ギルドの支店内でお待ちくだされ。茶でも用意させましょう。お休みになりたいのなら寝床の用意も…」

「いえ、皆さんの帰りをここで待たせていただくと決めておりますの。あたくしなら大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます。」


 ガルンドが屋内での休憩を提案したが、イザーリンデ姫はそれを丁寧に断った。


 だが一国の姫、それも冒険者ギルドの本拠地のあるこの国ポーラスティアの姫君ともなれば、無碍な扱いなどとてもできない。困ったような顔で彼女の機嫌を窺おうとしたガルンドに、イザーリンデ姫は自分の意志を伝えた。


「皆さんが命を賭してダンジョンへ挑んでいるというのに、私だけのうのうと屋内で茶を啜るなどとてもできませんの。寝ることなどもっと論外ですわ。彼らが戦っているのなら、信じて待つことがあたくしの戦いなのです。」

「しかし、依頼主なのじゃから楽にして居れば…」

「クエストの依頼主と依頼を受けた冒険者の関係は対等。そうではありませんの?」

「…そうでしたな。ならばお好きになさるといい。疲れたら限界になる前に申し出てくだされ。」


 ガルンドは彼女の言葉に強い意志のようなものを感じた。これでは何を言っても断固としてここを動くことは無いだろう。それにイザーリンデ姫がクロノス達とダンジョンに挑んだことは既に知っている。蝶よ花よと育った貧弱という意味での可憐な姫ではないだろうから一晩立たせておいても問題ないとガルンドは自分が引き下がることにした。なおイザーリンデ姫の横にいるマックアイは「こっちの言うことは聞いてくれなかったからそっちが無理やりにでも休ませてよかったんだぞ?」とでも言いたげな顔をしていたが、ガルンドはあえて無視した。本人がいいと言っているのだ。従者の言うことなど聞く必要がない。

 


「…何者だ?これ以上このお方に近づくなよ。」

「おぉ怖い怖い。騎士様、何も俺は下心があって近づいた訳じゃないんだ。この国のお姫様が冒険者雇っているって聞いてな。王族なんて間近で見れる機会はめったにあるもんじゃないぜ。ちとその美貌を拝ませてもらおうってな。」

「…不審な真似をしたら即座にひっ捕らえるからな。」

「へいへい。いや本当にキレイなお姫様だな‼おいオマエもちっと拝んでおけよ‼」


 イザーリンデ姫の居座りが決まったところで柄の悪そうな冒険者の男が一人、彼女に近づいてきたので騎士の一人が剣を手に取り警告したが、男は本当に興味で姫の姿を見に来ただけだったらしい。それ以上は踏み込んでこずにイザーリンデ姫を興味深そうにじろじろと見ていたが様子を伺っていた仲間を呼ぶ以外はとくに何もしてこなかったので騎士も視界の端には捉えつつ無視をした。この男だけでなく他にも何人かの好奇心旺盛な者がポーラスティア国の姫君を一目見ておこうと先ほどから彼女にひっきりなしに近づいてきており、その都度騎士は目を光らせ忙しそうにしていた。


「へぇ、この女の人がポーラスティアのお姫様なんだ。さっすがお姫様なだけあってお綺麗ねぇ。あんなドレスも一度は着てみたいわ。」

「リッツ、あんまりじろじろ見てると護衛の人に怒られちゃうぞ。」

「わかってるって。それよりワルキューレの団員いた?さっき広場にクランリーダーがいたって聞いたから来たわけだけど…」

「いや、さっき人に聞いたらどうやらダンジョンに挑んだらしくて…」

「…入れ違いかぁ。他の人はバタバタしていて取り合ってくれないし。リーダーが戻ってくるまでお姫様の見物でもしてようかしら。」

「オラ、あんまりジロジロと見てんじゃねぇぞ。姫様は見せモンじゃないんだからな‼そりゃこのデカケツは思わず揉みしだきたいくらい見事だがよぉ…」

「お、お尻なんて見てないよ‼」

「隠さなくてもいいぜムッツリくん‼自分に素直になれよ。」

「何よ‼ハヤトもどうせ胸とお尻の大きい女がいいんでしょ‼」

「ちょっとリッツまで…‼」

「おい、真面目に警護しろ‼」


「(…姫様。いや、イゾルデよ。)」


 新たにイザーリンデ姫を見ようと近づいてきた若い男女の冒険者に騎士の一人がもう一人に叱られつつもちょっかいを出し、二人が痴話喧嘩を始めた横目に見て、マックアイがイザーリンデ姫にそっと耳打ちしてきた。ガルンドがいる手前怪しまれる行動はとりたくは無いが、彼の態度があくまでイゾルデとしての立場へのものだったので彼女は発言を注意してよく聞いた。


「(なんですかマックアイ?今のあたくしはあくまでイザーリンデですの。あなたも知らぬふりをしてあたくしがイザーリンデであると信じ込みなさい。隣にはあのガルンド様もいるのです。勘づかれやしないかさっきからとても冷や冷やしていますわ。)」

「(これは失礼しました姫様。ですがこれだけの大衆に姫のお顔を見られてしまいました…城にも話は伝わっていると思っていいでしょうな。)」

「(…ですわね。戻ったときには国王様からのお咎めは確実でしょう。もしかしたら本当に騎士総出であたくしを連れ戻しに来るやも。)」

「(来るやもなどと曖昧なものでなく、日が昇った後の正午までには確認のための者が来ることでしょう。この老いぼれが抑えておけるのはここにいるようなイザーリンデ姫を探しに来た雑務の騎士だけ…それ以外が来たらここに留まることはできないでしょう。)」


 マックアイの言う通りだ。なんの許可もなく城から姫が抜け出しこの迷宮都市に来ている。その話は新鮮なうちに情報屋や商人が王都にまで持って行ってしまうだろう。そうなれば城にいる大臣や王にまで話は行き届き、勝手にここまで来たイザーリンデ姫を連れ戻しに来る者を寄越すのは避けられそうにない事実である。


 イザーリンデ姫自身、城へ連れ戻されることはなんら恐れてはいない。仮に連れ戻されて敬うべき王に叱られようと年甲斐もなく尻を叩かれようと、なんであれどんとこいのつもりだ。だがこのまま何も手にすることなくおめおめと帰ることだけはできるわけがないのだ。


 城で眠ったきりの影武者だと思われている本物のイザーリンデ姫を助けるための手段をあれこれ模索していた彼女がようやくつかんだ希望こそが、この迷宮都市の迷宮ダンジョンで手に入るエリクシールだ。それがなければもはや他の方法など思いつかない。本物のイザーリンデ姫は眠ったままどんどん衰弱しており、何の手も打てなければやがて体力は尽きてそのまま永遠の眠りに…などと最悪の事態を想像した彼女は、首を振ってそれを否定した。戻るときはクロノス達が必ず持って帰ってきてくれるエリクシールと一緒であると、イザーリンデ姫は改めて冒険者達の帰還を待つ。彼女にできることはそれだけだった。



「(急がないといけないことは彼らにも伝えてありますの。しかし急いては事を仕損ずる…あせらず、確実にお願いしますわ。あたくしも時が許す限り待ちますので…あら?)」


 彼らが探索の合間に装備の見直しや休憩をきちんとしているか心配していたイザーリンデ姫だったが、ふと足元に違和感を感じたので下を見た。 



 地面は一見すると何事もないようだったが、凝視してみると 足元に転がるいくつもの小石がかたかたと揺れていたのだ。強い風が吹いただけかと思ったが、今の時間はほぼ無風でイザーリンデ姫自身肌に風を感じていない。広場ではいろんな人間が動き回っていたのでその振動かと思ったがそれにしては揺れが大きく規則的すぎる。


「石が揺れてる?いえ、これは…」

「どうかなさいましたか姫様?」

「いえ、足元の様子が気になって…あなたも何か感じませんか?」

「感じるって…そういえばなんか地面がぐらぐらしてるような?人が歩く揺れでもなさそうですし…」

「お前もかよヨーク。なんかが下で動いてるような感じが…」


 騎士も気づいていたようで足元を確認していた。騎士だけでなくマックアイや職員から連絡を受け取っていたガルンド、そのほか何人かの人間にも違和感があったらしい。皆足元を不思議そうに見ていた。そうしている間にも転がる石の揺れはより大きくなっていき、遂には地面から大きく跳ねていた。


 そこでようやく彼女達は気づいたのだ。否、この広場にいたすべての人間が強制的に気づかされた。突如として地面が大きく震えだしたのだ‼



「…地揺れ!?きゃあ‼」

「おっと‼」

「姫…大丈夫ですか!?」


 突然の強い揺れに驚き転びそうになったイザーリンデ姫を、二人の騎士ががさっと支える。合法的に女性の体に触れる機会を得た二人だが、その顔は下心の一切ない至極真面目そのものであり忠実な働きは騎士の鏡であった。これが下心丸見えな冒険者の男であれば鼻の舌が伸びていただろう。


「揺れ!?」

「うわっ、強いぞ…‼」

「大きいのう…念のため建物から離れるのじゃ‼ゲートの担当も避難せい‼」

 

 地揺れに驚いていたのは広場にいた全員がそうだった。あまりの揺れの強さに倒れこんだり近くの物につかまったりする者が続出する中で、平然と立っているガルンドは近くの職員や冒険者に避難の指示を出した。中央広場は建築物の類は中央にある巨大なゲートのみであるが、これが倒れてこない保証もないからだ。イザーリンデ姫も二人の騎士とマックアイにガルンドの四人体勢の厳重な守りに固められて、巨大ゲートから十分に離れた。


「これだけ離れたら大丈夫じゃろ。お怪我はありませんかな姫?」

「あたくしは平気ですが…このゲートは大丈夫なんですのガルンド様?もし倒れて壊れでもしてダンジョンへ行った人間が帰れないなんてことになったら…」

「なぁに、非難はさせたがあのゲートはそこまでやわな造りはしておりませんぞ。大昔から毎年安くない金を積んで点検と修繕を行っておりますので…収まったようじゃな。」


 ゲートから離れてすぐに地揺れは収まった。避難は無駄骨に終わったとはいえイザーリンデ姫に怪我がなくてよかったと、ガルンドとマックアイの両名は安心して一息ついた。


「今の地揺れでけが人や崩れた建物が無かったか街中を確認をするのじゃ。もし揺れの続きがあるようならここや他の広場に人間を避難させよ。」

「了解です。」

「ほっほっほ、どのみち屋内でくつろいでいただく訳にはいかなくなりましたの姫様。こういうときは外の方が安全じゃからな。どれ…ちと離れなくてはならなさそうじゃな。」

「あたくしなら護衛もいますし平気ですので、ガルンド様はご自身のお仕事をなさってくださいですの。」

「これはかたじげない…これそこの職員。こういった騒ぎのあとは混乱に乗じて犯罪を企む輩が出るのは常じゃからの。警備兵と暇な冒険者を使って街の見回りを…」

「ガルンド様‼あちらの方で宿屋が半壊したらしく…現場で指示をお願いします‼」

「なんじゃと?そういうのは儂の仕事じゃなかろうて…まぁよい。では一度失礼しますぞ姫。」


 集まったギルド職員たちにテキパキと指示を出したガルンドは、イザーリンデ姫に挨拶をしてから一時離脱をした。


「彼は伝説を持つだけでなく、冒険者ギルドの幹部としても優秀な方なのだな。」

「だよな。あんなに揺れても何事もなかったように立ってたぜ。ウチの爺さんなんて同じくらいの年だろうに足腰弱って立つのもやっとなのに…元冒険者ってのはみんな元気なのかな?」

「どうだろうな…おっと、護衛護衛…姫様?」


 ガルンドに尊敬の念を抱き雑談する二人の騎士だったが、すぐに護衛対象に意識を向け直した。すると、彼女は不思議そうにまた地面を眺めていたのだった。


「(今の揺れ…真下から起こったような…下ということはダンジョンから…?異空間にあるとはいえ、衝撃などはこちらの世界に干渉すると聞いたことがありますが…ではこれだけの衝撃、いったい何が原因で…)」

「姫様?ご気分が優れませんか?」

「え?いえ‼なんでもありませんわ。」


 騎士に声を掛けられてイザーリンデ姫は慌てて返事を返した。どのみち地上からではダンジョンの中で何が起こっているかなどわかるはずもないのだ。彼女は面倒な考えを捨て去ることにして騎士の元へ戻っていった。





「南区で揺れでパニックを起こして暴れた馬が馬車から逃げ出し通行人の列とぶつかったそうです。幸い死者はいませんでしたが多くの怪我人が…」

「東区の貯水槽が転倒して中身が漏れ出たそうです。地面がぬかるんで通行できないそうで至急の排水を…」

「(さっきの揺れ…なんじゃったのか…迷宮都市であれだけ大きな地揺れが起こった記録はないぞ。)」


 真夜中でも起きていた優秀な職員から被害の報告を受けながら壊れた建物を目指し歩くガルンドは、先ほどの揺れの原因を考えていた。普通に考えれば地揺れなど神の気まぐれが起こした偶然の産物なのだろうが、彼には偶然を否定せねばならない懸念材料がいくつかあったのだ。その懸念材料とは、ガルンドのよく知る五人の冒険者だ。


「(さ~てはあの聞かん坊どもがダンジョン内で何かしおったか?あれはそういう連中じゃ。疑うなという方が難しいからの。…特にクロノス。)」

「ガルンド様‼聞いておりますか!?」

「おぉ、聞いておるとも。寝ている街の代表者は叩き起こしたかの?まぁ街中あれだけ揺れたのじゃから起きてない方が無理があるか。日中の仕事に備えて寝ている職員も最低限を残して起こして仕事をさせよ。終わったらまたストライキされてしまうかもしれんが今はそんなこと言ってられん。やれやれ…」


 ガルンドもまた、今は余計な考えをしている場合でないと考えるのを止めて歩みに力を入れた。問い詰めるのは彼らが戻って来てからできる。というか戻ってこなければ話を聞くことはできない。


「ガルンド様‼」

「なんじゃ?また別の被害か?」

「いえ、そうでなく…エリクシールの件でわかったことが。どうやら見つかった内の片方がじつは…‼」

「悪いがそれは後じゃ。今は地揺れの件優先で頼む。」

「そんな‼空き瓶の方を調べたら大変なことがわかったんです‼話を聞いて…」


 彼らが返ってきた時のために説教の台詞でも考えておくか。一人の職員を無視してガルンドはそれを最後の思考として、頭の動かせる部分をすべて被害の確認と職員への指示のために注いだのだった。



―――――――――――



 一方こちらは地上の状況などず露知らずな迷宮ダンジョン内。その十層目の特別なマップにいるナナミ達エリクシール探索パーティーだ。彼女たちは度重なるトラブルにより疲労困憊でゴブリン達に追い詰められていたところ、後から追いついたダンツ達が加わり逃げる必要が無くなったので、改めてジェネラルゴブリンと配下のゴブリン五十匹前後とむきあっていた。



「さぁて、やると決まればとっととこのゴブリン達をやっつけて、崩れた遺跡を掘り起こしましょ‼手作業だから骨が折れそうだけどね…」

「その必要はなさそうッスよナナミちゃん。あいつを見て見ろよ。あそこのやつッス。」

「ギギッ‼」

「あ、あれは!?」


 ゴブリン達が持ち出したエリクシールの大半は奴らが怪我を治すために飲んでしまったが、ダンツが指さした先にいた一匹のゴブリンがまだ開けられていない宝箱を持っていた。ダンジョンの宝箱は開けて中身を取り出すと消えてしまうのでおそらくあれは未開封。怪我を治し切ったので余りが出たのだろう。


「まだエリクシールの宝箱が残っている。何もゴブリンとチマチマ戦ってやる必要はないッス。宝箱を奪って逃げれば俺たちの勝ちだぜ‼」

「まだ残ってたんだ…‼飲まれた分は残念だけど残っているのなら希望はあるわね‼てゆうか遺跡の掘り起こしなんて面倒だから奪う一択よ‼ころころしてでも奪い取る‼ああ、まさかこっちでこんな有名な台詞を使うなんて思ってもみなかった‼」


 エリクシールがまだ残っていると知ったナナミは一気にやる気を取り戻し変なテンションになっていた。あれを奪わざるを得ない。なぜならあれを手に入れられなければ、崩れた遺跡を掘り起こして地下への階段を探してそこから宝物庫探さなくてはならないからだ。そんな大変なことなんてしてらんないからね。それは絶対にごめんだとナナミは吠えていた。


「うおぉぉ‼やるわ‼やるべし‼」

「うおぉ、ナナミ姉ちゃんすごいやる気…なら方針変更するの?」

「ああ。ダンツの言う通り戦いつつも宝箱の奪取を優先するべきだろう。具体的には…ごにょごにょ。」

「うん…うん…‼」


 別にモンスターを倒す必要はない。このマップのゴールこそまだ見つけていないがスタート地点は近くの洞窟の中にある。効率と安全を考えるのなら宝箱を奪ってさっさとこのダンジョンからおさらばしてしまえばいいのだ。あちらに聞こえないようにリリファが案を言った。


「人間の小娘風情が‼我の配下をいなして逃げようなどできるはずもない‼それもたったひとつの宝を奪ってまでとはなんと欲張りなことか…舐めるなよ‼」

「うるさいわよ‼あなた達だってせっかく治したきれいな体をまた痛めたくはないでしょう?嫌なら痛い目見るまえに宝箱を置いてここから去っていいのよ。」

「だわけめが…返り討ちにしてくれよう‼ゴブリン達よかかれぃ‼」

「「「ギャギャ‼」」」


 ナナミは大人しく宝箱を差し出してどこかへ消えろと挑発する。怒れるジェネラルゴブリンは配下のゴブリンを大量に差し向けてきた。元気なゴブリン達もその命を受けて我先にと飛び出していく。


「来たわね…さっきの通りに行くわよみんな‼こっちは大人数だからうまく動けるようにセーヌさん後ろで指示を出して‼」

「えっ、私でございますか?」

「妥当だな。ここは一番ランクが高いセーヌ嬢にやってもらうッス。それならみんな言うこと聞くだろうし。」

「しかし私は…あまり人にあれこれ言うのは…‼」

「戦況を見ながら命令してついでに補助魔術かけてくれればいいから‼セーヌさん暫定リーダーなんだからもうそれで決定‼みんなも言うこと聞いてねよろしく‼…えーっと、ところでこのザコウサギとブレードリザードマンは言うこと聞いてくれるの?こっちまで巻き添えにされたら戦えないんだけど。」


 暫定リーダーだと早口でまくしたて無理やりセーヌに指示するよう伝えたナナミはそこで思った。果たしてシヴァルの使役獣二匹は、素直にこちらの命令を受け付けてくれるのだろうかと。


「さぁ?便利だったけど俺らはまったく話を聞いてもらえなかったッス。コミュがあったのも餌をねだるときだけだった。でも自分で考えてある程度動けるみたいッスよ。」

「大丈夫かな…そういや私たちの中に魔物使い(モンスターテイマー)もいないのよね…」

「一応頼めるだけ頼んでみますね…ブラックさんにスパスパさん‼お二人(ふたかた)は自己判断で確実に敵の数を減らしてください‼」

「ぎゅう‼」「…‼」

 

 セーヌは言うことを聞いてくれるのか半信半疑だったがそれでもと二匹に命じてみると、丁寧な頼み方が功をなしたのかそれとも支障をきたさない命令だったからよかったのか、二匹はそれぞれ反応を見せて誰よりも早くゴブリンの集中している箇所へ飛び込んでいった。



「…‼」

「ギ」「ギャ」「ガ」


 無口なブレードリザードマンのスパスパ君。彼は両腕から生えた骨と皮膚が変化してできた鋭利な刃で、あっという間にゴブリン三匹の首を跳ね飛ばしてしまった。奴らは痛みの悲鳴を発する間もなく首を地面に転がして消滅する。

 

「…」

「ギエイィィィ‼」

「…‼」

「ギッ…」


 三匹の消失を見届けて腕を振り一緒に消えたはずの血を刃から吹き飛ばすような動作をするスパスパ君へ剣を持ったゴブリンが不意打ちで斬りかかったが、スパスパ君はそれをあっさりと刃で受け流しカウンターで袈裟懸け斬りを浴びせる。それをもろに受けたゴブリンは血を噴水のように噴出して息絶えた。いずれの技も繊細で職人芸のようにも感じられる見事な刃捌きだった。


「ぎゅぎゅう‼ぎゅう‼」

「ギャギ‼」「グゲッ!?」


 繊細なスパスパ君とは裏腹に、ブラック君の戦い方はかなり豪快だった。彼は近くにいたゴブリンを蹴りで強引に蹴り飛ばし後ろのゴブリンへぶつけ、二匹か重なり合って倒れたところでその真上へ目にもとまらぬ速度で飛び、そこから全体重をかけた蹴りを叩き込んだのだ‼


 ウサギ一匹分の体重しかないはずのブラック君の蹴りだが、ブラック君の小さな体の小さな足を中心に地面は半径二メートルほど軽くへこみひび割れて、彼の足の真下にいた二匹のゴブリンは潰れてひしゃげ、全身から血を飛ばして死んだ。



「強い…‼リザードマンのスパスパ君はともかく、ブラック君はザコウサギの出していいスペックじゃないわね…あの子の種がザコウサギの中でも強い種類なのかもしれないけど。」


 ザコウサギとは本来その辺の野ウサギと同等の戦闘能力しかない弱いモンスターだ。牙による噛みつき攻撃を除けば毛まみれの全身モフモフアタック程度しか攻撃をもたない。というかそれも大して痛くない。しかしあのブラック君の強さは異次元の領域である。あれを目にすれば以前敗北した剣士の冒険者ジェニファーの言葉が嘘では無いことがよくわかる。


「だよな。さすがは神飼いのペットだ。でも近くで一緒に戦うと巻き込まれかねないからああして友軍させるしかできないんだ。いちおうこっちに配慮はしてくれてると思うがなにせ神飼いのモンスターである以上どれだけこちらを思いやってくれてるのか想像もできん。何も言わないととにかく片っ端から倒そうとするから折りを見て命令を入れてやってくれ。あんたの言葉ならたぶん聞いてくれるんだろう。」

「了解でございます。」

「それで十分よヘメヤさん。あの二匹が雑魚をやっつけてくれている間に、私たちはジェネラルゴブリンを袋叩きにしましょう‼」


 ブラック君とスパスパ君の実力は本物だった。仮にもS級のシヴァルの使役獣だったとナナミはかの存在を思い出して彼らに弱いゴブリンを任せることにした。その間に自分達は親玉のジェネラルゴブリンを討つのだ。


「全員でジェネラルゴブリンに向うの?」

「全員よアレン君‼ザコはブラック君とスパスパ君に任せておけばいいし四人追加なら十人パーティーだから十分あっちと戦いになるはず。覚悟しなさいジェネラルゴブリン‼」

「いいだろう…せっかく傷を治した配下をやられてしまいこのままでは終われん。受けてたつ‼お前は下がってろ‼」

「ギギッ‼」

「あ~らさがらせちゃうんだ?取られるのが怖いのかしら?」

「フン、宝箱を盗ったら逃げるつもりのようだからな。我を侮辱しおって…もう一人たりとも逃がさんぞ‼ここでぶっ殺してやるわ‼」


 宝箱を持ったゴブリンを後ろへ下げて、ジェネラルゴブリンは配下のゴブリンの中でも(ジョブ)持ちなどの強そうな個体を伴い自身も剣を抜いて前に出てきた。もはや群れを守ることなどどうでもよさそうで、自分のプライドを貶した彼女達を一人残らず殲滅する気しかなさそうだ。


「いけ‼ゴブリンメイジ共‼自慢の火球ですべてを燃やしてしまえ‼」

「「「ギャギャギャボール‼」」」

「また魔術が来ます…クルロさんとキャルロさんは迎撃を‼」

「はいよ…水覇剣‼」「水覇剣だ‼やぁ‼」


 あいさつ代わりだとジェネラルゴブリンは剣を振って三匹のゴブリンメイジを出してきてファイアボールをたくさん撃たせたが、体力を回復したクルロとキャルロがセーヌの指示で魔宝剣に魔術で生み出した水を滴らせて飛んできた火球を残らず斬り裂いてかき消した。火球は十発以上はあったのにすべて落とすとは大したものである。

 

「炎属性の魔術には水属性をぶつけるのが一番効くね…体力回復をしたから技も出し放題だよ…」

「何度も見た魔術をそう何度も喰らうかっての‼他に魔術使えないの~?やーい‼」

「ギャギ…‼」

「どうやら彼らはファイアボール以外は使えないようですね…それならお二人が受け止められるのでもう脅威ではありません。ですが前に出てる今のうちに仕留めましょう‼ダンツさんとリリファちゃんは魔術師を足止めしてください‼」

「任せてくれッスセーヌ嬢‼リリファちゃんナイフは足りてるか?これ使いな‼」

「あぁ、助かる。」


 遠距離攻撃をしてくる相手は残しておくとまた後ろへ引っ込んで厄介になる。このチャンスを逃すなとセーヌは今度はダンツとリリファに足止めを指示した。ダンツはそれに頷きリリファに補充のナイフをいくつか投げてよこす。


「「影縫い‼」」


 リリファとダンツが引こうとしていたゴブリンメイジたちの足元にナイフを何本か投げると二匹の影がかかる地面に一本ずつが刺さった。すると影の持ち主の二匹はまるで足が地面に縫い付けられたかのように動けなくなってしまった。二人が使ったのは地面に映る影に飛び道具を刺して本体の動きをしばらく封じることができる技、影縫いだ。


「よし、二匹に命中したっス‼」

「だがクロノスのと違ってほんの数秒が限界だぞ‼」

「十分にゃ、にゃあの魔術を見るがいいにゃ‼見せしめにおんなじファイアボールにゃ‼」

「ここからなら確実に当たる…投合刃(スローイングナイフ)‼」

「ギャギー‼」「ギャフッ…!?」


 動けない二匹にニャルテマが魔術の火球をヘメヤが毒を塗ったナイフを放った。それは逃げようとしていた体勢のまま動くこともできずにいたゴブリンメイジ二匹に命中する。火球を喰らった方は炎に飲まれ、ナイフで刺された方は口から紫色の泡をぽこぽこと吹いてもだえ苦しんだ。同時に影縫いの効力も消え解放されて地面に転がったがもう手遅れ…これで奴らはそのうち死ぬだろう。


「ギッ…‼」

「一匹逃げるぞ‼」

「私がやる…背突牙(はいとつが)‼」


 二匹があっという間にやられ、残った一匹のゴブリンメイジが急いで入れ替わりで出てきたゴブリンの中に紛れようとしたが、その前にリリファが敵陣に飛び込み背中を向けていたゴブリンメイジの首の後ろをローブ越しに思いきりナイフで突き刺した‼


「ガフッ…‼」

「…よし‼」


 ローブを着込んでいたので急所に刺さったかわかりづらかったが、リリファは確かな手ごたえを感じていた。その予想は正しく攻撃は見事に命中おり、ゴブリンメイジは急所への一撃を喰らい口から血を流し即死して消えた。その間に先に炎と毒で苦しんでいた二匹のゴブリンメイジもすでに消えており、これにより三匹いたゴブリンメイジは全滅だ。


「よし‼まずは厄介なゴブリンメイジをぜんぶやっつけた‼いい調子よ‼」

「おのれ…貴重な魔術を使える配下をよくも…だが遠距離からの攻撃ができる者はまだいる‼次はアーチャー達よいけぃ‼」

「「「ギャギャ‼」」」

「…‼ゴブリンアーチャーの矢が来ます‼防御態勢をとってください‼」


 ゴブリンメイジを全滅させられ怒るジェネラルゴブリンだったがすぐに気を切り替えて八匹のゴブリンアーチャーたちを前に出して大量の矢を射らせた。


 ゴブリンアーチャーは確実に矢を当てるため上と横に半分ずつ矢を放っていたので、どちらかに気をとられるともう片方から矢の嵐に襲われるだろう。 


「こっちは私が…「アイス・ウォール」‼二個‼」


 襲ってくる矢を前にそして上に、ナナミがストックを開放して魔術で薄い氷の壁を前方と頭上に二枚生み出し全員をその中へ隠れさせて、守りを固めた。これはナナミの使える数少ない防御用の魔術のアイス・ウォールだ。氷でできているため強度に不安があるように思えるかもしれないが、それでも横からも上からも飛んでくる矢が壁に当たっても表面がわずかに欠けるだけで、防ぐだけの強度はあったようだ。


「前は出した氷が半透明で向こうがよく見えない弱点があったけど、頑張って練習して質を高められるようになったから攻撃を防ぎながら向こうの様子もうかがえるわ。私は防御要員じゃないからあんまり使う機会がなくってこれは迷宮ダンジョンでの初使用よ。でも…」


 ナナミのアイス・ウォールは十分な防御力と相手の次の出方を壁越しにうかがえるだけの透明度があったので完璧に見えたが、ひとつだけ、いや一人だけ…一番前に出ていたリリファが範囲外だという問題点があった。これ幸いとゴブリンアーチャー達は彼女に多くの矢を差し向ける‼


「リリファちゃんあぶない…わっと‼矢がくるから迂闊に壁から出らんない…‼」

「ニャルテマさんはリリファちゃんへ盾を‼」

「はいにゃ‼戦猫の大盾にゃ‼」


 リリファの方にはセーヌの指示でニャルテマが猫の顔の盾を召喚し彼女へ差し向けられたすべての矢を防がせる。盾についた猫の顔は痛そうににゃあにゃあ叫んでいた。


「ニャルテマさんナイス‼盾の顔がいちいち叫んで気になるけど…」

「痛がりなだけにゃ。実際にはなんともないから気にするにゃ。それよりリリファちゃんは大丈夫かにゃ!?」

「私なら一本も当たってない‼それよりここからなら()()()()‼」

「…そうですね‼ではお願いします‼オルファンさんは支援を‼」

「はい‼「ジャンプ・ブースト」‼」


 リリファの行おうとしていた行動を察したセーヌがそれを認め叫ぶと、そのタイミングでリリファが消えるかけていた猫の盾にさっと飛び乗り、そこにオルファンが対象の跳躍力を一時的に上昇させる魔術をかけた。


 消える寸前の猫顔の盾を強く踏み込んでリリファは大きくジャンプした‼そしてゴブリンアーチャーの隊列を飛び越えたあと、受け身をとって転がりながら地面へ着地して一目散にジェネラルゴブリンの元へと駆けていく。


「なにっ!?一人がこちらに…‼」

「リリファちゃんが抜けたわ‼」

「敵の気がそれた今がチャンスです‼こちらはゴブリンアーチャーを‼」

「「「「了解‼」」」」

「ギャ?ギャギ!?」


 あらかじめ立てておいた奇策により上空を飛んでいくリリファにあっけにとられていたゴブリンアーチャー。その隙にクルロ、キャルロ、ダンツ、アレンはそいつらに駆け寄って素早く一匹ずつを仕留めた。


 ゴブリンはジェネラルゴブリンによって能力が上昇しているが、こちらもオルファンとセーヌが四人に補助魔術をかけて技の威力を底上げしており、それによってゴブリンの肉体の硬さを攻撃で相殺させたようだ。八匹は一気に半分に減らされてしまう。


「まだ半分残っておるわ‼「喰らえッ‼」…グゥ!?」

「いや、もう終わっている。」

「「「ギギギ…‼」」」

「な、なんだと!?」


 リリファの投げたナイフを剣で受け流しながらジェネラルゴブリンがまだ無事な四匹に矢を撃つように命令したが、残る四匹はいつの間にかヘメヤのスパーダ―ネットで四匹仲良くグルグル巻きにされており、体勢を崩して地面に倒れていた。弓も矢も手放され近くに転がっていて、もはや弓を番えることもできず、後はゆっくり始末すればいいだけだ。


「これで飛び道具で攻撃できるゴブリンはいなくなりました‼あとは一匹ずつ確実に減らしてください‼必ず一対一かこちらが多い状態を維持してください。厳しければここから支援します‼」

「まだだ…お前たちやれぃ‼」

「「ギャギ‼」」

「迎え撃ってください‼強化されているとはいえ単純なぶつかりあいならこちらに分があります‼オルファンさんは皆さんに補助魔術をお願いします‼負傷者がいたら回復を優先で‼」

「了解ですよセーヌさん‼では…「スピードブースト」‼」


 リリファの投げナイフ攻撃を捌きながらジェネラルゴブリンは残っていた最後の(ジョブ)持ちである剣の使い手ゴブリンブレーダーに命令をした。セーヌも前衛四人とナナミを差し向けて戦況を見張りながらオルファンと共に補助魔術を五人にどんどんかけていく。 


「とりゃあ‼」

「ギギッ…‼」

「ああくそ、やっぱり手強いな…でもなんのこれしき、おいらを舐めるなぁ‼渾身刻打(こんしんこくだ)‼」

「ゴブリンの剣ごときが俺のナイフ捌きに勝てると思うなッス‼投合刃(スローイングナイフ)‼」

「ギャッ…!?」

「そちらに多く行っていますね…サンダーショット‼」

「ギギッ!?「よそ見をするなよ‼おりゃあ‼」…ギッ…‼」


 アレンが大嵐一号のハンマーで力任せにゴブリンブレーダーを剣ごと叩き潰し、ダンツは敵の背後に素早く回って背中をナイフで刺し貫く。クルロとキャルロもセーヌの電撃の魔術の支援を受けながら同様に鍛えられた剣技と魔術でゴブリンブレーダーをあしらっていた。


「やっば…乱戦だと私の魔術使えないじゃない…どうしよう。」

「ナナミさんはアイスニードルを出せるだけ出して適当に放ってください‼負傷させれば仕留めやすくなりますから。」

「えっ、でもあれは一撃じゃあ倒せないし、仲間にも当たっちゃうでしょ!?」

「大丈夫です‼早く‼」


 セーヌに大丈夫だと言われたので、ナナミはそれを信じてストックからアイスニードルを放つ。生み出された数十の鋭い氷柱は広範囲へ敵味方関係なく襲い掛かかった‼


「ああっ、やっぱり当たる‼避けて…ってアレ?」


 …が、なぜか当たるのはゴブリンだけで味方にはひとつも当たらない。というか味方に当たりそうなのは当たる直前で何かに阻まれてはじかれていた。


「皆さんに「ユニオン・プロテクション」を付与しました‼これで味方から味方への魔術攻撃を防ぐことができます‼」

「フレンドリーファイア対策ってわけね‼そういやセーヌさん使えたんだっけ…すっかり忘れてたわ‼」

「ギギッ…‼」

「遅いね…喰らえ‼」


 氷柱が刺さったゴブリンは出血と体の冷えでうまく動けなくなる。そこへ前衛四人は技を容赦なくぶつけ仕留めていくのだ。


「弱体化させて倒すのは基本でございます。これは一対一の試合ではなくルール無用の殺し合いなのですから…」


 全体の戦局を見回しながらセーヌは確実に減らされていくゴブリンたちに申し訳なさそうにしながらも、確実なる勝利のために的確な指示と補助の魔術を出していく。ゴブリン達は確実に一匹また一匹と数を減らしていった。



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