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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
152/163

第152話 そして更に迷宮を巡る(続々続・ナナミ達のパーティーの十階層目での出来事)



「―――やった‼エリクシールゲットぉぉ‼」

「こいつは何を言ってるんだ…なんだ寝言か。ずいぶんと大きいことだ。」

「やったよコレ絶対手に入れたよ早くイゾルデさんのところに持っていこう‼これで…うへへ…‼」

「うるさい…だめだコイツ。まだ寝ぼけているな…セーヌ。」

「はい。」

「いやーさすがは私。マジ冴えてる。クロノスさんもいっぱい褒めてくれるよこれは間違いなくランク昇か「ショック・ウェイク。」…うわばばばばばば‼」


 体を仰向けにして天高く拳を掲げ喜びに浸るナナミに、突如得体のしれない痺れが襲い掛かった‼


 体をびくんびくんとくねらせて地面に突っ伏した彼女はあまりの痺れにすっかりを覚ます。そして逆さまの視界できょろきょろしてそこにリリファとセーヌがいるのを見つけたのだ。


「ようやく起きたかこの寝坊助(ねぼすけ)が。」

「あばば…セーヌさんの魔術はしびれる…これはもう起こすを通り越してダメージだよ…」

「ごめんなさい…一応気絶している対象者の意識を覚醒させる回復技で、ダメージはないはずなのですが…」

「ぜったいウソよそれ…まだしびれてるもん。」

「しかし冒険者の皆さまが術の練習台になってくださったときには、そのようなダメージはありませんでしたよ?むしろとても気持ちがよいと…ですがまだ私の術の覚えが悪かったようで皆さま起き上がるのにずいぶんかかっておりましたが。」

「…」


 聡明なナナミは思った。それは術を喰らった男冒険者共にとってはセーヌのビリビリがご褒美でしかないからじゃないかと。そしてついでに賢いナナミは知っている。男共がなかなか起きなかったのはセーヌの魔術の精度がまだ低かったからではなく、セーヌは回復術の効き目を試すためにあえて気絶や負傷をしてくれた冒険者の具合が悪いときには起きるまで膝枕をしてくれるので、それ目当てで起きなかったことを。いい匂いで頭上におっきなたわわがある、ってゆうか顔に直にぶつかるそんな究極至宝な膝枕から起きる男はそういないことは女であるナナミにもわかる。わかるというか自分も体験して所詮脂肪の固まり

なだけであるはずのアレの重量感に興奮してしまったものだ。実体験はどんな知識にも勝るのだ。


「そんなことはいいんだけど…さっきまでのはもしかして、ゆ、夢…?私今の今まで宝箱を開けたらエリクシールが…」

「…セーヌ。どうやらナナミはまだ寝ぼけているようだ。もう一発同じのを頼む。」

「魔力は節約したかったのですが…致し方ありませんね。ショック…」

「あ~はい、起きました‼ナナちゃん快眠スッキリ朝ごはんがおいしいです‼だからビリビリはやめて~‼」

「冗談でございます。ご気分は優れませんか?」

「大丈夫です…さっきのは夢だったのね…がっくし。」


 手元をまさぐりさっきまであったはずの品を求めたが、手を見て自分の杖しか持っていないことに気付いたナナミは、夢を見ていたのだとようやく理解してがっくりと項垂れていた。


「なんか宝箱を開けたらエリクシールが入っている夢を見ていたよ。」

「そもそも私たちはまだ入っている宝箱すら手に入れていないだろう。」

「…そうだった‼遺跡はどうなったの!?宝箱は!?そもそもここは…どこ?」

「落ち着け。覚えてないのか?私が緊急用の隠しボタンを押したら遺跡が崩れ出したから、ゴブリンを押しのけて階段を上り急いで逃げてきたんだろうが。そしたら遺跡を出た途端お前が体力と魔力をいっぺんに切らして気を失ったんだ。」

「そうだったっけ?あーだんだんと思い出してきた…てゆーか結局は遺跡が崩壊しただけなのね…もっと逆転のなんかとか起きてほしかった。それよりみんな無事なの?アレン君とクルロさんとキャルロさんがいないけど…」


 リリファに教えられてだんだんと思い出してきたナナミ。今は脱出して地上に出ていたらしい。背後には見事に崩れ去った後の遺跡の残骸が残っている。あれの下敷きになれば即死はまぬがれなかっただろうとほっと一息ついた。

 

 しかしナナミの元にいたのはリリファとセーヌだけで、アレンとクルロとキャルロの姿は遺跡の方にもなかった。他の三人はどこに…


 ナナミはもしかしたら三人が脱出に遅れて遺跡に潰されてしまったのかと最悪の事態を想像してしまい慌てて探したが、その心配は杞憂に終わった。彼らは遺跡跡の反対側のここから少し離れた向こうに三人そろっていたのだ。ナナミはほっとしつつも三人へ向かって声をかけた。


「…あ、ナナミ姉ちゃん起きたみたいだね。大丈夫!?」

「うん、大丈夫だよ‼ありがとう‼」

「そっちに行きたいけど、こいつらから目を離せないから、ナナミ姉ちゃんの調子がいいなら三人ともこっちに加わってほしいな。」

「そっちって…あら?」


 アレンとクルロとキャルロはこちらに背を向け武器を取り出しており、何事かとナナミが彼らの更に奥を見れば、そこにいたのはゴブリンの群れだった。彼らはそいつらと睨みあっていたのだ。


「ゴブリン…あいつらも逃げ出せたみたいね。」

「ああ。しかし奴らは数が多かったら全員とはいかなかったようだがな。それより早く起きろ。戦いはまだ終わっていないから疲れてないのなら向こうへ加わるぞ。」

「う、うん…‼」


 すぐにナナミは立ち上がりリリファとセーヌを伴って前方の戦線に加わった。 


「あーよかった‼ナナミちゃんが起きてこなかったらクルロさん後でクロノスにぶっ殺されてたよー‼あとキャルロもベッドでオシオキされちゃうね‼」

「ちょ…なんで私まで…‼」

「うるさい連帯責任だもんね‼」

「あはは…それよりゴブリン達、よく襲ってこなかったね?」

「それはだな…見ろ。逃げてきた奴らもただでは済まなかったということだ。」


 リリファに言われてゴブリン達を見れば、奴らは全員は脱出できなかったのかたしかに数を随分と減らしており、遺跡の地下で百匹前後いたのが今はその半分程度しかいない。ナナミ達が何匹か倒したことを加味しても数十匹が逃げ遅れ瓦礫の下となったようだ。しかもほとんどが傷を負っていて…中には今にも力尽きそうな重傷の個体もいた。


「うぐ…人間どもめ…やってくれたな…‼」

「ジェネラルゴブリン…あんたも無事だったのね。」

「クク、これが無事と言えると思うか…?」


 ゴブリンの中から群れを支配するリーダーのジェネラルゴブリンが出てきた。だが奴もまた逃げる際中に落石にでも当たったのかはたまた別の理由があったのかは知らぬが、頭からは真っ赤な血と黄色い脳漿をどくどくととめどなく垂れ流しており、顔色もずいぶんと悪そうだ。二匹のゴブリンに肩を貸されながら地面にに座り込み生き絶え絶えの状態だった。


「この通り先ほどから頭がふらついている。視界も狭い…片目をやられたな…ギギッ‼予想外とはいえ我に重傷を負わせるとは見事だぞ人間ども…‼」

「…うわー痛そう。なんか申し訳ないカンジ。」

「相手は敵だ。どうなろうと知ったことではない。むしろこれは奴を仕留めるチャンスだ。」

「ええそうですとも。リーダーである彼を倒せば、残りはちりじりに逃げ出すでしょう。そうなればあとは遺跡を掘り起こして地下への階段を使い彼らの言っていた宝物庫を探しましょう。」

 

 トンファーを両手に持ち珍しく好戦的なセーヌの言う通りだ。ジェネラルゴブリンを倒すことができれば他のゴブリンは大したことはない。この戦いはナナミ達の有利を通り越しもはや勝利は目前である。ナナミは魔術のストックも新たに唱える魔力も殆ど残ってない。他の仲間もゴブリンとの戦いと遺跡の脱出でだいぶ披露しているようだったが、それでも今の重傷を負ったジェネラルゴブリンを倒すまでなら十分に余力はあるだろう。


「相手はこっちに向ってくる元気もないから離れて魔術を撃てば楽勝よ‼みんなに守ってもらってその間に私とセーヌさんで合成魔術をどかーんとぶつければ…‼」

「「「ギギッ‼」」」

「ゴブリンが前に出てきた。ナナミとセーヌを守れ‼」

「おぉ…我が優秀なる戦士たちよ…我を庇うか…」


 ナナミ達が仕掛けようとしたところでゴブリン達が飛び出してきたが、それは魔術の詠唱の妨害と言うよりはジェネラルゴブリンを守るためのようだった。奴らは自分も怪我を負っているにも関わらず前に立ちふさがり重傷のジェネラルゴブリンを守る。


 それもそのはずでジェネラルゴブリンはこの群れを統べるリーダーなのだ。奴がいなければ群れをまとめることができなくなってしまう。今はまだ見当たらないが、このマップに他のモンスターがいるかもしれないし、リーダーを失ったゴブリン達に待ち受けるのはより強いモンスターの糧となるか、そうでなければ新たにやってくる人間に倒されるかの運命のみである。ジェネラルゴブリンによって知能が向上しているゴブリン達にはそれがよくわかっていた。


「「「ギギッ‼」」」

「勇ましき同胞よ…我はもう長くない…だが、最後の悪あがきくらいはしてやろう…次の我にあたる守護者やゴブリンがまたダンジョンから生み出されるまで…群れを維持するだけの個体を生かさなくてはならん…一匹でも多く生き残れるための指揮をせねば…‼」

「ギギッ‼」

「むぅ…?どうした…」


 ()()()()()最後の仕事だとジェネラルゴブリンがゴブリン達に戦いの命令を下そうとしたそのとき、一匹のゴブリンが何かをジェネラルゴブリンの下に持ってきた。


「あ、ソレ…‼」

 

 ゴブリンが持っていたのは金色に光り輝く宝箱だった。見ればそのゴブリンだけでなく、何体かのゴブリンが同じようにきらんきらんと光る宝箱を抱えている。明らかに普通とは違うそれにナナミ達は反応を示した。


「それは…宝物庫にあった宝箱だな。逃げる前に持ってきたのか…そんなもの我々にはなんの価値も…そういえば、中身を見たことはなかったな…どれ、お前たち人間が欲しがったものを死ぬ前に拝んで…む?」

 

 子分のゴブリンに支えられながら自ら震える手で鍵のついていない宝箱の蓋をぱかりと開き中を無造作にまさぐったジェネラルゴブリンが手に何かが当たる感触を感じてそこから取り出したのは、一本の小瓶だった。小瓶は手のひらに収まるくらいに小さく色は茶褐色で、表面に古代語の書かれたラベルが貼られていた。コルクで閉じられた中身には液体が入っており、瓶の色からして断定はできないが液体はおそらくは無色だろう。


「ねぇセーヌさん‼あの形…‼」

「ええ。以前トーンさんとグロットさんが見せてくれたものと同じものです。」

「だよね。ならやっぱりあれは…エリクシール‼」

「なんだ?酒?クックック…‼人間どもが我らと命を賭して戦ってでも欲しかったのが酒とは…我も人間から奪った物を飲むことはあったから美味い物だとは知っているが、死んでまで欲しいとは思わん…人間とは本当にわけがわからんな…まぁいい。飲んだところでどうにかなるとも思えんが、死ぬまでの痛みを誤魔化すくらいにはなるだろう…‼」

「ちょっと…それ飲んじゃ…‼」


 ジェネラルゴブリンはエリクシールの価値を知らなかったようだがそれでも酒と知り気付けにでも使おうとしたのか、小瓶を開けて中身を飲もうとした。それにぎょっとしてナナミが急いで止めに入ろうとしたが、お互いの距離は十メートル以上離れていてとても間に合わない。


「よせ‼ここからでは無理だ。ゴブリンもいるんだぞ‼」

「でも…くっ、ファイアボール‼」

「ギ…ギャギー‼」

「ああっ邪魔された‼」


 やけっぱちで放った火球はリーダーを守ろうとしたゴブリンが捨て身で浴びて防がれてしまう。


「どれ…死に前の酒、口にあえばいいがな…ングッ‼」

「しまった…‼」


 その他のゴブリンにも守られている手前たどり着けるはずもなく、小瓶の中身はジェネラルゴブリンにごくごくと豪快に消費されあっという間に飲み干されてしまった。


「…む。味がない…?水にしても…水の味すらしない…なんだったのだこれは…」

「…あー‼飲まれちゃった…エリクシール…‼」

「どうした…?そこまでお前たちは飲みたかったのか?」


 ナナミ達が悔しそうな悔しそうな表情をしているが、飲んだ本人であるジェネラルゴブリンはこの小瓶の酒にそれでけの価値があるように思えなかった。なにせ味は無味無臭。酒ではなく水かとも思ったが、水の味すらもしなかったからだ。


「人間の舌には極上の味に感じるのか…?エリクシールとはこの酒の名…む?な、なんだ…!?」


 金の概念のないゴブリン達にとって酒に味と酔えるかどうか以上の価値などない。ゴブリンと人間の味覚の違いでもあるのかとジェネラルゴブリンは若干混乱しながら死に際に頭を悩ませていたが、次の瞬間飲んだエリクシールの収まっているであろう腹の辺りを拳で抑えて焦りと驚きが入り混じったような表情を見せた。


「どういうことだ…!?さっきまでの痛みがない!?傷も塞がっていく…!?それどころか、体の内から力がみなぎってくる…‼これはいったい…!?」


 ジェネラルゴブリンの頭部の痛々しい傷はみるみる消えていき、それ以外にあった体中の傷もどんどんと無くなっていく。残ったのは体内から漏れ出た血の跡だけだった。顔色もすっかりよくなっており、突然良くなった体調にジェネラルゴブリンはとても驚いていた。


「…あーあ、怪我が治ったってことはやっぱり本物だったんだ…てゆうかモンスターにも効くんだアレ…」

「怪我が治る…?…ウハハハ‼そうか、なるほど‼飲めばどんな傷も治る酒と言うわけか‼それなら命を懸けて挑んできたのも納得だ‼」


 ナナミの呟いた一言がヒントとなりジェネラルゴブリンは高い知能で自分が今飲み干した酒がどんなものであったのか。なぜ人間達は命懸けでそれを求めてきたのかを察した。


「なんという宝だ…このようなものがありながら、今まで我は知らずに放置していたというのか…おい‼もっと持ち出していないのか!?」

「「「ギャギ‼」」」

「わ、まだあんなにたくさん…‼」


 ジェネラルゴブリンが追加を所望すると、他のゴブリンが何匹も最初のゴブリンと同じく金色の宝箱を抱えて持ってきた。どうやらちゃっかりとかなりの量を持ち出していたらしい。


「おぉ‼こんなに…できた配下だぞ‼お前たちも飲め‼数はある‼一匹一本飲んで怪我を治せ‼無事な者は奴らを足止めしろ‼」

「「「ギギッ‼」」」

「あ、あぁ~‼」

 

 エリクシールの正体に気付いたジェネラルゴブリンは、他の瀕死のゴブリン達にも宝箱を開けさせてエリクシールをどんどんと飲ませていく。ナナミ達は止めに入りたいがやはり元気の残っているゴブリンに邪魔をされて進めない。そうしているうちにゴブリン軍団はどんどんと傷を治して力を取り戻していった。


 エリクシールを飲んで次々と復活していくゴブリン達。腕の千切れたゴブリンがエリクシールを飲んで、失われた腕が患部からぽこぽこと泡のように生えてきたのを最後に瀕死のゴブリンの群れは完全復活してしまった。


「どうしよう…ぜんぶ飲まれちゃったよ…‼」

「しっかりしとナナミ。それよりも問題がある。」

「そうでございますね。あちらは気力体力ともに全快に。一方こちらは先の戦いと遺跡からの脱出の疲労が残されたままでございます。」


 セーヌの言う通りナナミ達は遺跡の地下でゴブリンと戦いそこから全速力で走って遺跡から抜け出したので体力も魔力もだいぶ消耗してしまっている。ダンジョンポーションも連続で使ったので次に使っても回復効果は殆どない。そんな状況でジェネラルゴブリンによって強化されエリクシールによって万全の体調に戻った何十匹ものゴブリン達をたった六人で相手するのは無茶だ。正直地下にいたときよりも分が悪いかもしれない。


「そんなんでまた戦えなんてヤバいね…‼退却のほかないよ‼」

「仕方ないね…いっかい水晶の部屋まで戻って…」

「逃がすと思うか…?貴様らが求めていたこれが本当にあったと貴様らの同胞に知れたら、もっとたくさんの人間が押し寄せる。貴様ら一人とて生かして帰さんぞ‼」


 ナナミ達は敗色濃厚になったと一時撤退を決めるが、負傷したゴブリンがそのまま戦力に変換され劣勢から一気に優勢になったゴブリン達は、もはやナナミ達を逃がす気はさらさらないようだった。


 すっかり元気になったジェネラルゴブリンは倒した人間の衣服から奪って作ったような布切れで血まみれの顔を拭きながらゴブリン達に指示を出し、ナナミ達にじりじりと近づいていく。


「うぐ…‼」

「人間よ。お前たちは今まで来た人間んお中でもよくやったほうだ。守護者としてお前たちのことは我が死ぬまで憶えておいてやろう。誇りに思え。」

「自分を殺した相手に覚えてもらいたくなんてないね‼」

「強がりを…全員でかかれぇ‼」

「「「ギャギー‼」」」


 ジェネラルゴブリンが叫びゴブリン達が一斉にナナミ達に襲い掛かかってきた‼


「来たぞ‼絶対に後ろに通すな‼一匹でもやったら挟み撃ちにされるぞ‼投合刃(スローイングナイフ)‼」

「ギッ…‼」

「行かせるもんか…喰らえっ、魂撃打‼」

「炎風剣だぞー‼熱いだろー‼」

「ギギッ‼」

「わっとっと!?矢が飛んでくるから気を付けて‼」

「ギャギャギャボール‼」

「あっちっち!?魔術まで!?てゆーかなんでクルロさんばっか‼」


 向ってくるゴブリン達をリリファのナイフ投擲を始まりにしてアレンやクルロが必死に迎撃したが、ゴブリン達は前のゴブリンが捨て身で盾となり後ろの仲間を守り、守られた仲間の内のゴブリンアーチャーやゴブリンメイジが矢や魔術で攻撃してくる。やはり数が圧倒的なゴブリンの、それも矢や魔術などの飛び道具攻撃の混ざった猛攻に消耗した体力ではぜんぜん抑えることができていない。前衛はぶつかるたびに捌ききれない攻撃で傷ついていき、自分を守るので精一杯だった。


「ナナミちゃんとセーヌの二人はどんどん魔術撃って…‼魔力がないなら弱いのだけでもいいから…「ギギッ‼」…しつこいよ…俊烈刃‼」 

「わかったわキャルロさん。でも先に…んぐ、ファイアボール‼」

「エレキショット‼」


 後衛のナナミとセーヌも取り出したダンジョンポーションを飲んで必死に魔術を放つが、ダンジョンポーションの連続使用で回復力が下がっており魔力が不十分で弱めの魔術しか撃てない。それでも攻め手を緩めるわけにもいかずに唱え続けていたのだが…



「…いったーい‼クルロさんのお尻になんかが刺さった‼」

「「「ギャギャ‼」」」

「まずい…そっちに行ったぞ‼…く、足止めされてるから自分で処理してくれ‼」


 クルロの尻にゴブリンアーチャーが放った矢が刺さってしまった隙をついて、ついに何匹かが前衛四人の壁を突破しナナミとセーヌの後衛組に棍棒や剣を振ってきた。


「いやー‼こっちきたー!?」

「「ギギッ‼」」

「迎え撃つしかありませんね…はぁっ‼」


 セーヌの方は襲ってきた二匹のゴブリンの頭部をトンファーで素早く突いて砕き、そこへ電撃の魔術を通して即死させていた。さすがにB級冒険者。万が一のこちらへの強襲の対処は体力を消耗していても万全だ。


「わ、えいっ‼くるなっ‼」

「ギギ…ギ‼」


 しかし接近戦が苦手なナナミは自分に向ってくるゴブリンに、慌てて杖をぶんぶんと振り回し威嚇するだけ、それも短杖ゆえリーチが短すぎてゴブリンには届いていない。緊急時のために残していたストックの魔術を放てばよかったのだが、手を止めた途端ゴブリンが襲ってくるような気がしてそちらに気が回らなかった。


「くるなっ‼えいっ‼当たると痛いわよ‼」

「ゲゲッ‼」

「笑うな‼えいっえいっ‼」


 ナナミは魔術は使えるが近接技はいっさい使えないので杖の振り方がいい加減なのは仕方ないとはいえ、ゴブリンにもその姿が滑稽に映ったようで鳴き声もどことなく嘲笑しているようにも聞こえた。運よく一度だけ一匹の頭にぽかりと杖の先端が当たったが、それも大して痛くなかったようでぶつけたゴブリンはにやにやして頭を擦っている。


「…っく、ぜぇ…ぜぇ…ちょっとタンマ。」

「「「ギギッ‼」」」


 そのうちナナミは杖を振り回すのに疲れてしまい手が止まってしまう。そのチャンスをゴブリン達が見逃すはずがない。いつの間にか弱い方を先に仕留めようと集まったのか五匹に増えたゴブリンがナナミに殺到した‼


「ナナミさん‼」


 セーヌが手助けに入ろうとしたが、自分の方にも四匹のゴブリン。それも全員(ジョブ)持ちが詰めかけていて持ち場を離れられない。前衛の四人はもっと距離が空いているので駆け付けられるはずがない。


「ギギっ‼まずは一匹‼そうすればあとは疲れ目の神官と前衛だけだ‼」


 厄介な魔術の使い手を倒せばあとは楽。ジェネラルゴブリンは指揮をしながらゴブリン特有の下品な鳴き声で鳴いた。将とはいえ鳴き声は普通のゴブリンと変わらないようだ。

 


「(やば…これは絶対痛い。頭に当たったら死んじゃうかも‼)」


 ナナミは咄嗟に頭だけは庇い地面に伏せたが、五匹のゴブリンはそんなことお構いなしにほぼ同時に彼女に飛び込みながら棍棒を振う。



 もう駄目か‼仲間達がそう思ったそのとき…




「にゃ、「戦描の大盾」にゃ‼」 


 がん、がん、ががん、がん‼



 どこからか女の声がした。次に聞こえてきたのはゴブリン達がナナミの前方でなにかにどかどかとぶつかる音だった。


「…?」


 いつまで経っても棍棒で殴られないことを不思議に思ったナナミが腕をどけて顔をあげると、目の前には大きな盾があった。どうやら突っ込んだゴブリン五匹はこれに衝突したらしい。


「ギ…!?」

「逃がすか…「スパイダーネット」‼」


 さらに盾にぶつかった反動で地面に倒れ込んでいたゴブリン達が起き上がろうとしたが、地面に張られた白い何かに体がくっついて起き上がれない。


「モンスター捕獲用の粘着網だ。殺傷能力はないがそう簡単には脱出できないぞ。」

「ギギギ…‼」

「おっと、痛くないなら大丈夫ですってか?なら…痛いのをもらったらどうだ?」


 もがく五匹のゴブリンだったが、網を張った男に声を掛けられたと思ったら喉元に斬撃が走るのを感じた‼


「「「ギ…‼」」」

「急所を一撃の暗殺技「喉笛斬り」ッス。声も出せずに死んでいけや。」

「「「ッ…‼」」」


 声を掛けられたあとに激痛のする喉元を掻くようにして、五匹のゴブリンは死んでいった。



「あ…‼」


 あっという間に五匹のゴブリンは倒された。助かったナナミはそこで初めて手助けしてくれた三人が見覚えのある人間であることに気が付いたのだ。


「ニャルテマさん‼ヘメヤさん‼それにダンツさんも…‼」

「遅れてすまないッス。俺らダンツたちミツユース組、九層目を攻略してただいま到着ッスよ。間に合ってよかったぜ。」

「エリクシールを飲まれたからぜんぜん間に合ってないのにゃ。」

「うっさいッスよネコ女。ナナミちゃんが怪我しなかったんだからセーフッスよ。」

「三人がいるってことはそれじゃあ…‼」


「ギッ!?」「ギャギャ‼」

「ぎゅう‼」「…‼」


 頑張って前線を抑えてくれていた前衛四人のいた方が騒がしくなった。ナナミがそちらを見ると、そこには黒いザコウサギと腕から刃を生やしたリザードマンが、ゴブリンを蹴散らして暴れていた。あれが乱入してきたこのマップのモンスターでないことをナナミは知っている。あれはシヴァルの使役獣だ。


「ブラック君と…スパスパ君だっけ?」

「その通りですよ。彼らにはずいぶん活躍してもらいました。さすがはS級冒険者の使役獣です。」

「…オルファンさんも‼」

「皆さんお疲れでしょう。今回復術を唱えます…猛き者達の傷を癒せ…「ホーリーサークル」‼」


 ナナミに声をかけた最後の一人のオルファンが神聖教会の回復魔術を唱えると、ナナミ達の足元が光り輝いた。


「これは…疲れが抜けていく…‼」

「回復術の効き目は術者のコンディションが良いほどよくなりますから。今なら疲労しているセーヌさんよりも効果があるでしょう。」

「やったー回復だー‼クルロさん切傷と火傷とお尻の矢でバタンキュー寸前だからやばかったぜ‼」

「お尻に矢が刺さったままだよクルロ…」


 光を浴びたナナミ達は徐々に疲れがとれていき、リリファたちが受けた小さな傷はそれだけで治っていった。


「ありがとうオルファンさん‼私たちダンジョンポーション使いまくっちゃってそっちじゃもうあんまり回復できなさそうだから助かったわ。」

「どういたしましてです。これが僕の役割ですから。そして敵の攻撃は…」

「「「ギャギャギャボール‼」」」

「にゃ‼もう一度、戦猫の大盾にゃあ‼」


 三匹のゴブリンメイジがナナミとオルファンに向け火の玉を放ってきたが、それはニャルテマが猫の顔のついた盾を召喚して防いでくれた。盾はそこについた猫の髭に火が燃え移り「にゃにゃにゃ‼」と熱そうに叫んでから消えた。



 新たに表れたヘメヤ、ニャルテマ、ダンツ、オルファンの四人。そして彼らに預けられたシヴァルのブラック君とスパスパ君。登場と同時に大活躍だ。



「素敵な援軍はお気に召してもらえたッスかね!?さぁ、もうひと踏ん張りッスよ‼」

「ええ‼そうね‼」


 ダンツが目をぱちりとさせてウィンクしてきたのでナナミは同じようにウィンクし返してやるのだった。





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