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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
148/163

第148話 そして更に迷宮を巡る(続・クロノス達のパーティーの二十五階層目での出来事)


--------------------------


種族名:タートルスタチュー

基本属性:地

生息地:大陸各地に棲息(現在は絶滅)

体長:30~60メートル

危険度:S



 ガーゴイルなどが有名なスタチュー種の系統に属するモンスター。スタチュー種共通の特徴である全身が石造りの体でできており、見た目は巨大なカメそのもの。あまりにも巨大であるため個体の居場所の把握が容易なため、過去の冒険者ギルドでは観察のための人員を個体ごとの近くに配置して子細な記録を取っていたようだ。そのため生態記録に関しては豊富な資料が残されている。


 280年ほど前に、確認されていたすべての個体を冒険者アティル・ジキンハイスが討伐している。以後人類の活動域では現在に至るまで再発見されていないので完全に絶滅したものとして扱われている。人類領域外での現存は不明。


 モンスターとして扱われているが人間に対する敵意はあまりなく、人間と遭遇しても興味を示さない。害が無いのなら放っておいていいのではないかというが生憎そうもいかない。巨大な体は通った土地を物理的に破壊しつくすので、そこに人が住む村や街があった場合めちゃくちゃにされてしまい甚大な被害を被ってしまう。人間に無関心であるがゆえにたとえ人を足で踏みつぶしてしまってもお構いなしである。これは人間が虫を踏んでも気づかないしいちいち気にしないのと同じだろう。一匹の個体が移動の際に一週間で三つの大都市を復旧不可能な廃都になるまで滅ぼしたとの記録もあり、存在するだけで危険なモンスターだったことが推測される。この危険性と高すぎる戦闘能力で、ギルドで指定しているモンスターの危険度指定の最高レベルであるSランクを与えられることとなった。


 個体によって性格が大きく異なり、何年も死んだように一か所にとどまり続ける個体もいれば、ひたすら目的もなく大陸の端から端まで移動し続ける個体もいる。ただ共通して自分の周囲を縄張りとする性質を持っており、そこに敵意を持った生物が侵入して危害を加えると攻撃を開始する。この時ばかりは人間であっても無視せず攻撃対象になる。この攻撃方法がこれまた派手で、周囲の空気中から魔力を集め、それを怪光線として放出する。この光線は超高熱・超高エネルギーで、それを浴びた者は一瞬で蒸発してしまう。この性質が災いして都市の防衛機能に反応してしまい攻撃したことが先の大都市の崩壊を招いたともされている。


 生き物である以上生きていくためには栄養の補給のために何かを食べていくほかはない。これだけ大きいとそれだけ大量の食事が必要になるはずだが、調査員がつきっきりで調査をしていても食事行動を行っている様子は一度も確認されなかったそうだ。なぜなにも食べなくても活動できるのかといえば空気中の魔力と水分と熱で生命活動のエネルギーを賄っているらしく、通った後の空気中のそれらの成分測定をしたところ数値が大幅に変動しておりそれで発覚した。恐ろしくゆっくりながら成長もしているようだ。


 食事が必要ないことで周囲の環境に生命活動がまったくといっていいほど影響されない。むしろ土地のエネルギーを吸い取ることで逆に環境に大きく影響を与え土地を激変させてしまう。例として極寒の地から雪と氷が消え去り灼熱の地と化したり、逆に砂と岩だけの不毛の大地が木々の生い茂るジャングルと化したり…ここまでくると当然生態系はめちゃくちゃになり、最終的にはまともな土地になることはない。


 既に絶滅した種であるため冒険者向けの倒す方法の記載は必要なさそうだが、あえて綴るのなら…戦えない。戦うな。並の冒険者では相手にならない。

 巨大な足で踏まれたら一撃で圧死だし、それを避けて攻撃しても今度は怪光線の熱で焼死する。他にも突風による叩きつけからの全身複雑骨折。噛みつき攻撃による肉体の裂断。さらには体を甲羅にしまい刃を生やして斬り刻んだり、手足の穴から炎と風を発生させて空を飛ぶことができたらしい。奴は災害そのものなのだ。地震や嵐を消すことはできない。できるのはただ通り過ぎるのを待つだけだ。単純に大きいことが脅威である。なんであれ大きいことはいいことだと誰かが言った。それには同意だが、同時に悪夢でもあるとも知ってほしい。


 以上の生態を顧みても、明らかに自然発生したモンスターとは思えないので、ゴーレムのようにかつての古代人が軍事目的で作った人造モンスターが現在まで種を維持したものとの説が有力。しかしその説を裏付ける根拠も未だ見つかっておらず、絶滅してしまっている以上新たな発見も得づらいので今日まで詳しいルーツの解明には至っていない。だが一つ言えるのは、このようなモンスターが世に残っていれば我々人類は再び大きな被害を受けることを覚悟せねばならないだろう。討伐してくれるもはや人外とも呼べる英雄のような存在が駆け付けるその時まで。



 ギルドのモンスター資料より抜粋

 参考文献「タートルスタチュー調査記録集」より抜粋

 参考文献「最強最悪の称号「S」を手にしたモンスターたち」より抜粋

 参考文献「絶滅したモンスター集」より抜粋

 参考文献「シヴァル・レポート~絶滅した友達編~」より抜粋

 参考文献「人は魔を滅ぼせる」より抜粋

 参考文献「英雄・滅竜鬼の活躍伝」より抜粋

 参考文献「石でできた不思議な体 ゴーレム・スタチュー種図鑑」より抜粋


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「まずは…それが邪魔だから片付けておくか。君たちの死は俺がしっかりと確認したから完全に眠っておきな。」


 クロノスは炎の魔術を唱え、地面に散乱する冒険者のなれの果てである武具や肉片を炎で燃やして灰に還した。その中にはイグニスの頭部も混じっている。炎に包まれる中でそれはかすかに笑ったような気がしたがそれは気のせいだろう。死人は語らないし表情も変わらない。ライセンスは見あたらなかったがタートルスタチューの腹の中で溶かされてしまったのだろうと思いあきらめることにした。ライセンスを提出できないと死んだことにするのは難しいのだが、ヴェラザードに頼めばたぶん通るだろう。


「(イグニス…一回目は死にかけたとはいえきちんと戻ってきたじゃないか。どうして同じように逃げなかった?そもそも戦いの情報を惜しまずにギルドにだけでも伝えておけば戦ったモンスターの正体を知れて、自分達が及ばない危険な敵だと理解できただろうに。他の者にエリクシールを取られるかもしれないという焦り?一緒に戦う戦力を集めたことからの(おご)り?それとも実はエリクシールを飲んだら副作用で戦いの記憶が吹っ飛んだか?いずれにせよ君は冒険者としての押し引きを見誤った。だからこの結果はその報いであり見返りであるんだぞ。)」

「何考えてやがるクロノス。」

「…ああすまない。こんな浅い階層にもここまでの敵がいるもんだなと思ってな。Sクラスの敵なんて五十階層よりも下どころか迷宮ダンジョン全体でもそこまで目撃例はないぞ。」

「おう。儂はそこまでダンジョンに詳しいわけじゃないがこれだけはわかる。コイツは滅多にねぇ戦いよぅ…」


 そう言ったヘルクレスは冷静だったが顔には汗が流れていた。大柄のヘルクレスの汗はたとえ小粒でもそれなりの量だ。それが顔中にともなれば雨にでも打たれたのかと勘違いされてもおかしくない。見れば二つの戦斧を持つ両の手もかすかにふるえている。それは実力者となって久しく味わっていない命を懸けた戦いを前にした武者震いかそれともありえない敵を前にした動揺か。しかし裏を返せばそれは絶対に油断はしないという覚悟の表れともとれる。それを知っているからこそクロノスはそんなヘルクレスをむしろ頼もしく思えていた。


「さっきの光線で儂も目が覚めたぞ。Sクラスの敵となると儂らもそれ相応の覚悟で挑まなくてはならないな。それが滅竜鬼自らが滅ぼした種であるというのならなおさらだ。万にひとつでも(たが)えれば…死ぬぞ?」

「五人もいるんだから大丈夫だろ。」

「それが慢心でなくて自信なら頼もしいや。それで作戦はどうする?儂はそういうの立てるのは下手だからうまく使ってくれる奴に従うぞ。」

「そうだな…シヴァル‼君はタートルスタチューの情報をありったけ吐いて全員に教えろ‼全部だぞ全部‼」


 ヘルクレスに負けていられるかと剣を構えなおしたクロノスは、大声で反対側にいた相変わらずタートルスタチューに夢中なシヴァルにそう怒鳴りつけた。


 タートルスタチューははるか昔に絶滅した種なので物好きや研究者でない限りわざわざ調べることはない。したがってクロノス達が知っていることは殆どないのだ。であればまずしなくてはならないのは、唯一知識を持っているシヴァルを通しタートルスタチューのことを共有し可能な限り奴を知ることだ。先ほどの光線がどれだけ撃てるのか、どれくらいの間隔でまた撃てるのか、もしくはそれ以上の攻撃はあるのか。知ると知らないとでは大違いである。



 しかしシヴァルからの返事はまったくない。なにをしているのかと少し動いて向こうを見ると…


「いえーい‼タートルスタチューくんこっち向いてー‼そのアングルを僕の目に焼き付けさせてー‼」

「…‼」

「はいそこ‼いいアングルだねー‼いいよいいよー‼パシャパシャくんもっといっぱい撮って‼」

「…‼」


 シヴァルはやっぱりタートルスタチューに夢中になっていた。いつの間にか横に置いていたのは「フォトゴーレム」というゴーレム種の珍しいモンスターで、目で見た光景を後で紙に写すことができるらしい。おそらくダンジョンのモンスターの調査資料を作るために連れてきたのだろう。今はその力を遺憾なく発揮してフラッシュを連続させてタートルスタチューの姿を記録していた。


「あいつは何をやってるんだ…おいシヴァル‼」

「…はいはい。いいところだったのに…パシャパシャくん適当にいっぱい撮っておいてね。」

「…‼」

「うんうん。ばっちり撮ってるね。それじゃあ記録媒体の容量一杯になるまでよろしく。」


 シヴァルがやっと返事をしてパシャパシャくんに命じると、彼は足を起こして移動しながらタートルスタチューの記録を一匹で撮り始めた。自分の指示が無くてもきちんと仕事を果たせていることを確認したシヴァルは、やっとタートルスタチューの解説をしてくれた。


「おまたせ。えっとこいつはね…石の体をしているけど、体の部分ごとに細かく材質が違うらしいんだ。硬さとかも違うから狙うトコは選んだ方がいいよ。でないと武器が壊れちゃうから。カメでいえば甲羅でなくて柔らかい肉の部分を攻撃するといいんじゃないかな?」

「肉か‼勝手は普通のカメとおんなじだな‼ギャッハー‼」

「あ、おい…まず作戦を…‼」

「作戦なんてまどろっこしい‼さっきの光線のお返しをしてやらぁ‼」


 シヴァルが向こうでそう言うなり、マーナガルフがクロノスの制止も聞かずに大きく飛びだした。


「テキセッキン‼エネルギージュウテンチュウニツキ、ブツリデタイショシマス‼」


 走ってくるマーナガルフに反応したタートルスタチューは、素早く一回転して長く太い尻尾をスイングさせ、マーナガルフを叩きつけようとした。


「遅い遅い…欠伸が出るぜ‼おりゃあ‼」

「おっと。」「せいっ‼」


 真横から風を切って迫ってくる巨大な石の尻尾が当たる直前、マーナガルフは地面を強く蹴って上へ飛んだ。一緒にいたクロノスとヘルクレスも巻き添えになる前に彼に倣って上へ飛び尻尾の攻撃をかわす。



 狙いを外れた尻尾はそのまま空振りしたが、尻尾の先が奥にある宝箱の山へ突っ込んでしまった。そして宝箱の山は半分ほどが吹き飛ばされ、地面に勢いよく叩きつけられてしまう。

 

 宝箱はかなり丈夫な造りのようでここから見る限り外側に大きな傷はいずれもついていなかったが、宝箱が地面とキスするごとに、箱の中からがしゃんがしゃんと嫌な音が響いてくる。そう、それはまるで硝子が割れるような…ついでに箱の隙間から何か液体が漏れてきているような…


「おいいぃぃぃぃぃ!?エリクシールの瓶が宝箱の中で割れてないか!?割れてるよね!?絶対割れてるよねあれ‼物理的に侵入できなくしたんじゃなかったのかよ!?なんで尻尾があの中に入ってるんだよ!?」

「イマノハコウゲキダトハンダンサレマシタ。」

「ご丁寧にどうも‼つーか宝を守るのが君の仕事だろう!?なにやってんだ‼」

「タートルスタチューノニンムハ、シンニュウシャノハイジョデス。」

「なるほど…微妙に違うな‼って、ふざけんな‼守れよ‼宝を‼守護者だろう君は‼」

「…」


 クロノスが怒涛の突っ込みでタートルスタチューに抗議したが知らん顔された。タートルスタチューは守護者ではあるようだが、宝の防衛に興味はないらしい。暴れれば暴れるほど宝はめちゃくちゃにされてしまう。やはり宝の近くで戦うのは危険だ。


「宝を守る気がないとか…やっぱあの近くで戦うのは危険すぎるから離れようぜ。幸いこの空間は広いからなんとかしてあのタートルスタチューくんを移動させて…」

「そういやマーナガルフはどこに行ったんだ?」

「マーナガルフか?あいつなら上にいるぞ。」

「うえって…おおっ!?」


 姿の見えないマーナガルフの姿を探したヘルクレスがクロノスに指で誘導されて上を見上げると、そこにはマーナガルフがいた。彼は天井に爪を突き刺して片腕でぶら下がっていたのだ。


「ここから天井まで何メートルあると思ってやがる。どうやってあそこまで…何ちゅう跳躍力だ。」

「君だって似たことができるくせに何を言うか。」

「Sランクのモンスターだとぉ…?ギャハハ‼上等だ‼こりゃもう喧嘩を通り越して祭りだな‼まずは足を一本貰うぜ…おりゃ、刹破斬‼」 


 突き刺した爪に力を入れて天井を削り取ってそこから離れたマーナガルフ。落ちながら場所を調整してタートルスタチューの左前足辺りにたどり着くと一閃を放つ。それはタートルスタチューの足の付け根に見事にヒットした。


「ギャハハ‼どうだ…なにぃ!?」 


 落下する速度を加えた相当の一撃。しかし狙った部分は表面がぽろりとわずかに欠けただけで、大きな傷にはならなかった。それどころか、マーナガルフの爪の方が欠けてしまっていた。


「俺様の爪が…‼」

「あー、まさか本当に肉の部分を狙っちゃったかー。だから言ったでしょマー君。タートルスタチューは部位ごとに硬さが違うんだ。前の頑張れば斬れないことも無いイエティなんか目じゃないよ。よりにもよって二、三番目に硬い足を狙うだなんて…」

「カメっつたら普通は肉の部分が柔らけーだろうがよ‼早く言えよ‼」

「あくまでカメの姿を模してるだけだからね。弱点まで元ネタとおんなじわけないじゃない。じつに馬鹿だなぁ。」

「誰が馬鹿だ‼てめ…うおっ‼」


 バカ扱いしてくるシヴァルに腹を立てたマーナガルフが彼の元へ赴こうとしたが、タートルスタチューがもう一度尻尾を振って攻撃してきたので、さっきと同じように飛んで避けた。


「へっ、おんなじ攻撃が効くかよ‼…うん?」


 …そして同じように尻尾の先が宝箱の山を掠め、いくつかの宝箱が吹き飛び地面に落ちてがしゃんと音が鳴りそして液体が漏れ出た。


「おいぃぃぃぃぃ‼だから宝の近くで戦うなって言ってんだろうが‼一滴でも零れるとエリクシールは意味ねぇんだよ‼」

「あ、やべ。だがまぁまだたくさん残ってるし大丈夫だろ。」

「よくねーよ‼タートルスタチューを倒す前にまずはあのカメを宝から引き離すぞ‼エリクシールが惜しければ言うことを聞け‼」

「はーい。」「おう。」「承知した。」「…へいへい。」


 クロノスがそう指示すると全員が返事を返してくれた。普段は同格ゆえに命令など聞いてくれそうもないが、今回は緊急事態だ。大人しくクロノスの命にしたがってくれた。


「また攻撃されると厄介だな…シヴァルはあのカメをどうにか抑え込めそうなモンスターを出せ‼まだなんかいるだろう!?」

「はいはい。カメを倒すのはウサギだってどこかの童話のお約束なんだけど、今はブラック君がいないから…こいつだよ‼君に決めた‼」


 クロノスの命令を受けたシヴァルが魔道具をタートルスタチューの頭上に向って投げる。それはシヴァルが連れてきた六匹のモンスターのうちの最後の一匹だろう。魔道具は狙い通りに天井近くまで飛んでいき、そこでぱかりと開いて中からモンスターが飛び出してきた。


「ブモオォォォ‼」


 天から落ちてきて着地の衝撃で地面を揺らしたのは、二足歩行の茶色い牛の怪物だった。体は毛の殆どない筋肉質で、全体的な感じは鬼亜人種のモンスターのオーガの頭部をそのまま牛の物に挿げ替えたような見た目である。身長は推定で八メートル前後。亜人種の中でもここまで大きいものはかなり珍しい。


「こいつはミノタウロスか‼だがこのサイズは…‼」

「フフ、こいつは牛亜人種のモンスターのミノタウロスのなかでも最大の種…「キングミノタウロス」のミノミノくんさ‼ちなみにキングミノタウロスは現存する個体数およそ百二十匹の大変に希少な種で、雄の成体は十メートルを超えるんだよ。ミノミノくんは小さいけどそれは群れの中でも弱い子で、本来なら自然淘汰される運命なんだけど僕が群れのボスと交渉してして餌と引き換えにもらってきたの。あげた餌がなにか聞きたい?ミノタウロスの餌はね…あ、当然いち個人が持ってるのがバレるとまずい違法なモンスターなんだけど、そこは希少モンスターの保護ってことでひとつ…」

「餌に何をあげたとか違法なモンスターの一体や二体とか君なら今更だ‼どうせダンジョン内でギルドの人間なんて誰も見てやしないから存分に暴れさせてくれ‼」

「りょーかいだよ。それじゃあミノミノくんよろしく。」

「ブモオォォォ‼」


 シヴァルの命令を受けたキングミノタウロスは雄たけびを一つ上げてから、地面の土を何度か蹴り上げてから勢いよくタートルスタチューに突っ込んだ。そして奴の足の一つに勇ましくタックルを決め怯ませた隙にがっしりと掴みかかり、動きを封じようとした。


「セッテキカクニン。ハイジョ。ハイジョ。」

「ブモオォォォ‼」


 タートルスタチューは足を振り回して張り付いたミノミノくんを外そうとしたが、ミノミノくんもまた引きはがされてたまるかと腕と足を膨張させ怪力を発揮して堪えていた。しかし八メートル前後の大柄とはいえ数十メートルのタートルスタチュー相手では体格が違いすぎる。ミノミノ君は足の裏を地面にしっかりつけて踏ん張るところまで持っていけていたが、だんだんと押されてしまっていた。


「見事な踏ん張りだが、あれだけでは動きを抑えられないぞ。」

「だよね。援軍を呼ぼうか。ここの広さなら彼も十分いけるでしょ…頼むよストーンくん‼」

「GIGAAAA‼」


 シヴァルは戦力を補うために更にもう一体、オオイワグライデカケムシのストーンくんを空に呼び出す。ストーンくんは幼体の癖に背中に生えた羽で器用に飛び暴れるタートルスタチューの甲羅の上に飛び乗って、甲羅をがりがりと齧りだした。


「よかった。ストーンくんは石の味にうるさいんだけど気に入ってくれたみたいだ。」

「いかにも硬そうなのに楽々と齧っているな。」

「ストーン君の唾液には鉱物を溶かす働きもあるからね。タートルスタチューに痛みがあるかは資料にないから知らないけど、これであっちにも気は向くはずさ。」

「サラナルセッテキカクニン‼ハイジョ‼」


 シヴァルの言った通りでタートルスタチューは甲羅の上で危害を与えてくるストーンくんにも気を取られてしまい、ミノミノ君への注意が若干逸れた。その隙にミノミノ君は体勢をなんとか立て直せたようでより一層力を籠めていたが、それでもミノミノくん一匹ではタートルスタチューを引っ張るところまでもっていくのは難しそうだ。


「鉱石が主食のデカケムシがいてよかったな。だが齧るだけではミノミノくんの支援にはならん。こういうときは…ディアナかな?別の足を狙ってくれないか。」

「わかった。私が行こう…出でよ、「バインド・ソーン」‼」


 指示を待っていたディアナは待っていましたとばかりにレイピアを振ると、彼女の前に異界へのゲートが開いてそこから彼女が使役する魔界植物が喚び出された。


 今回喚んだのは表面に鋭い棘がびっちりと生えた黒光りする茨だ。茨はそのままタートルスタチューの右後ろ足にするすると伸びていき、奴の足をまるで蔓を這わせる支柱に見立てぐるぐるとまとわりついていく。


「ミギウシロアシ、セッテキ‼ハイジョヲ…!?」


 茨が巻き付いたことにタートルスタチューが気づき、それを無理やり引きちぎろうとしたが遅かった。茨は硬くどれだけ動かそうとしてもぴくりともしない。


「拘束に特化したバインド・ソーンの茨だ。その程度の力では外せまいよ。普通の相手なら更に棘が肉体を蝕みダメージを受けるのだが、さすがに石の体には効かないか。だがそれでも十分動きを封じられる。少し集中するぞ…‼」


 ディアナはそう言って目を瞑り、魔力の流れを操作してバインド・ソーンの茨をより一層丈夫に変えていく。そのうちに茨はタートルスタチューの右後ろ足のほとんどを埋め尽くし、奴はその足の自由を完全に失っていた。

 

「セイギョフノウ。セイギョフノウ。」

「UGAAAA‼」

「ジョウブニ、ジンダイナヒガイヲカクニン‼」


 ミノタウロスが左前足を、ディアナのバインド・ソーンが右後ろ足を封じたことによって、タートルスタチューは前にも後ろにも残るそれぞれ片足だけでは力をうまく入れることができない。その間にも甲羅に乗ったストーン君が甲羅をどんどんと齧っては欠けさせていく。



「よぉし…あとはそのまま押すか引くかしてこの場からカメを引き離せ‼これ以上宝をめちゃくちゃにされてたまるか‼壁に追い詰めてタコ殴りにしてやれ‼」

「おぉ‼それなら儂も行くぞ‼」


 ようやくタートルスタチューの動きを止めることに成功した。次は奴をここから引き離して自由に互いに暴れ放題な場所まで移動させる必要がある。タートルスタチューの動きを封じていた面子は、移動にヘルクレスも加え奴を押し始めた。


「そぉれ…押せ押せ‼」

「ブモオォォォ‼」

「ガッハッハ‼そこのミノタウロス。いい筋肉してるじゃねぇか‼シヴァルも良い育てかたしてるぜ‼」

「ブモオォォォ‼」

「どうも。ミノミノ君もありがとうって言ってるよ。」

「何言ってるかわかってるのかよ…」

「そりゃあね。モンスターとの愛がなせる技さ。」

「おらシヴァルとマーナガルフ‼テメェらも手伝いやがれ‼」

「わぁーったよ‼おらアホシヴァルも来い‼」

「えぇー?僕なんてなんの役にもたたないって…痛い‼殴んないでよマー君ってば‼えぇと…コンコン君も手伝ってね。」

「コオォォン‼」

「セッテキ、ハイジョ…‼」

「動けねぇくせにどうするってんだよ。ギャハハ‼」


 相当な体重のあるであろうタートルスタチューだったが、マーナガルフやシヴァルも加わり力技でどんどんと奥へと押し出されていった。 



「ふぅ…これで残りの宝箱の安全は確保できたか。なんとかして先に宝箱を回収してしまえば、俺達も暴れ放題なんだが…いやまて。そもそもイグニス達はどうやってタートルスタチューとの戦いの間に宝箱を盗ったんだ?」


 念のためとタートルスタチューの押し出しに加わらずそれを見守っていたクロノスはイグニス達のことをふと思いついた。イグニス達は一度目はタートルスタチューに勝てず死にかけてなんとか宝箱を持ち去り、その中のエリクシールで傷を治して地上に帰ってきた。しかしこの通りタートルスタチューが動いている間は宝箱の周囲に見えない壁が展開され中に入ることはできない。奴が動く前に素早く動けばもしかしたら壁を展開される前に一つくらいは持ち出せるかもしれないが、イグニス達はメンバー全員が死にかけてその分のエリクシールを使ったのだ。箱一つに一本だけならば、複数の宝箱を持ち出す時間など無いはずである。


「攻撃扱いなら体の一部も入るとカメくんは言っていたが…そうか。もしかしたら…‼」

「おいクロノス‼敵が形を変えたぞ‼」

「なんだ?これはいったい…」


 見えない壁の先の宝箱を手に入れる方法を考えていたところにマーナガルフが怒鳴りつけてきたので、そちらを見るとクロノスは驚いた。タートルスタチューが首と手足を引っ込めて、カメ特有の馴染みのある甲羅に籠った体勢になっていたのだ。


「コイツ、全員で押し出し始めた矢先にこうやって引っ込みやがった。」

「そりゃあカメをモチーフにしてるんだから甲羅に閉じこもることもできるだろうが…だがカメが甲羅に籠るのは外敵から弱い肉の部分を守るためだ。硬度に多少の違いはあれど全身石のこいつがわざわざ甲羅に籠る理由はなさそうだが。とはいえこのままでは困るな。」


 完全な防御態勢を前に、クロノス達は攻め手を失ってしまった。左前足と右後ろ足はミノミノ君とディアナの操る茨でそれぞれ封じられていたので完全には引っ込んでいなかったが、それでも上々と言えるだろう。


「動かないのなら下に穴を掘って炎を焚いて蒸し焼きにしちまうか?そういうカメの食い方があるんだよな。ちょうどここに火を吹くキツネがいるじゃねぇか。」

「石のカメに炎は効くのだろうか?」

「しゃらくせぇ‼カメが甲羅に引っ込んだときはなぁ…穴から肉をほじくり出すんだよ‼」

「…あ、やば。みんな離れて‼」

「なにっ…‼」


 別の方法を考えていたところにシヴァルが何かに気付いて慌てて大声をあげてきた。珍しく慌てる彼に違和感を持ち、全員が内容も聞かずにタートルスタチューから少し離れた。



 がしゃん‼


 全員が離れた後すぐに何かが落ちる音がした。何の音だ?これは…金属のぶつかる音だろうか。それがしたのはタートルスタチューの甲羅の端の方だった。


 全員が顔をしかめ音のした方を眺めると、甲羅の端から銀美光りする鋭利な刃が生えていた。刃はまるでノコギリのようにぎざぎざと細かく切れ味はそうとうにありそうだ。それが甲羅の縁をぐるりと一周する形であったのだ。


 ぎゅいいぃぃぃん‼


 そして刃は甲羅の淵を巡る形でグルグルと回転し始める。


「うおっ‼刃が出てきた?」

「回転するから気を付けて‼触ったらなんでも切断されちゃうからね‼」

「今度はなんだよアレ…‼」

「回転する刃…「スピン・カッター」とでも名付けようかな。多数で接近戦を仕掛けてきた相手にはああやって甲羅に籠って刃を出して一斉に斬り刻むんだ。」

「そんなの聞いてないぞ‼」

「だって僕もさっきまで忘れてたんだもん。」

「コイツ…だが奴は甲羅に籠っていて動けない。あんなことしたってこの通り全員離れた後なら…」


 ぶおおぉぉぉん‼


 クロノスがすべてを言い切る前に今度は突風が吹いたときのような音が響いてきた。今度はなんだよとクロノス達がもう一度タートルスタチューの方に目をやると、なんと引っ込めた手足のあった甲羅の穴から風が噴き出ていたのだ。


 風は勢いよく吹き地面の砂を巻き上げる。そしてその力でタートルスタチュー本体がぐるぐると回転する刃(スピン・カッター)とは逆方向に高速で回りだした‼

 

「…なんかアレ、ちょっとずつ動いてきてないか?」

「ちょっとどころじゃないよ。そのうち十分に加速して人が走るよりも速く移動できるようになるね。ああやって移動するんだ‼」

「なんでもありかタートルスタチュー‼」

「だてにSの称号貰ってないね。」

「そのようだな…来るぞっ‼」

 

 ぎゃあぎゃあと言い合っていた仲間達にディアナが警告を入れた。


 十分な回転で加速したタートルスタチューは、銀光りする刃をぎゃらぎゃらと鳴らし勢いよくクロノス達の方へ突っ込み、そして――――





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