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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
141/163

第141話 そして更に迷宮を巡る(セレイン達のパーティーの三階層目での出来事)




 さて、場面はクロノス達のいる二十三層目から移り変わり、別の階層のとあるマップでの話。


 深い森の中を連想させるこのマップでは現在一つのパーティーとモンスターの群れが戦闘を行っていた。パーティーのメンバーは五人で全員が女性。彼女たちは…ワルキューレの薔薇翼の団員だ。




「そこっ‼「ストライク・ショット」‼」

「ぎいぃぃぃ…‼」


 パーティーのリーダーで職業(クラス)射手(アーチャー)のセレインが射った矢はゴブリンの胸元に突き刺さり、それでゴブリンは絶命して消滅した。足もとに転がる魔貨を見てセレインは次に射ようと引いていた矢を降ろす。


「消えた…ってことはこれで完全に倒したってことね。ゴブリンが死んだふりなんてしないと思うけど、それでもいちいち突っついて確かめなくてもいいのは楽だわ。よし次…たぁ‼」


 ダンジョンのモンスターは死ねば消滅する。そのため死亡確認をしなくて助かると、セレインはすぐに降ろしていた弓を持ち上げ矢を引いて別のゴブリンを狙い、目標を定めたと同時に矢を発射した。


「ギャギ‼…グフッ。」


 そちらも見事ゴブリンの胸へ命中してゴブリンは即死した。


「セレイン‼そっちに四匹行ったよ‼…このっ、ファイアボール‼」

「ギャボボ…‼」

「わかったわ‼援護ありがとう‼」


 後方から魔術を飛ばすラウレッタに礼を言ってセレインが前を向くと、確かに自分へ向かって四匹のゴブリンがますっぐに向ってきていた。…今ラウレッタが一匹燃やしたのであと三匹だ。


「三匹だけなら一人で十分よ‼同時に仕留めてやるんだから…‼」

 

 新たな敵に熱意を燃やしてセレインは背中の矢筒から三本の矢を取り出し、そのうちの一本を弓に番え…るのではなく、なんと三本ともいっぺんにまとめて弓に番えた。細い矢とはいえ三本まとめたらかなりの太さになる。実際セレインもかなり持ちづらそうだ。


「喰らいなさい…「トリプルショット」‼」


 それでも彼女の手元から同時に放たれた三本の矢は当然互いが邪魔をして勢いを失い、対象にたどり着く前に地面に落ちる…それが世の道理であっただろう。しかしセレインが放ったのは三本の矢を魔力でコントロールして同時に射出可能にする技「トリプルショット」だ。


「ギャ‼」「ギッ‼」「ギヒッ‼」


 三本の矢は途中で別れそれぞれが目標のゴブリンへ向かい目や喉などの急所に命中した。命中させる方のコントロール性は技の使用者の技術に依存するので、そこはセレインの技量の高さを褒めるべきだろう。


「ギャガ…‼」「ギッ…‼」「ギギ‼」

「当たったわ…トドメをお願いクレオラ‼」

「任された…瞬連刃‼」

「「「…‼」」」


 矢が急所に刺さってもだえ苦しむゴブリンたち。セレインにとどめを頼まれたクラオラが目にもとまらぬ高速の斬撃でゴブリンの首元を切り落としていく。絶叫する間もなく絶命したゴブリン三匹は地面に落ちた頭部と立ち尽くす胴体が同時に消えてなくなり地面を三枚のコインが弾んだ。


「ありがとうクレオラ。助かったわ。」

「大丈夫よ。よし、こっちは終わり。そっちはどうエーリカ?」

「こっちも終わったよ。リルネさんがだいたい倒しちゃった。僕も頑張って殴ったけどあの人にはかなわないや。」


 離れたところで別れて戦っていたエーリカにクレオラが尋ねると彼女はこちらまで歩いてきて、 口でナックルグローブの紐を締め直しながら顎で向こうを指し示した。



 

「…あーあ、つまんないなー。」

 

 そう呟き武器の戦棍を肩にかけて心底がっかりした表情をするのはセレイン達のパーティーで唯一の先輩格のリルネだ。彼女の周囲には敵のゴブリンの姿は一体もなく、その代わりに地面には無数の浅い穴が開いていてその中心にはそれぞれゴブリンの魔貨が転がっていた。


「やっぱり上の戦いを知っちゃうとなー。こういうザコとの戦闘はもはや作業だね作業。隊長殿やクロノスのお兄さんとの模擬戦闘が恋しいよ。本気の勝負はもはや愛おしくて愛くるしいね。」

「リルネさんまた棒で叩き潰したの?」

「お、お疲れーセレイン。そっちも終わったんだねー。見ての通りこのリルネ、受け持ったゴブリンを見事に全滅してやったであります。」


 様子を見にやってきたセレインにふざけて敬礼をしたリルネは、ゴブリンをすべて倒したことを報告した。


「ここはダンジョンだから死体は残らないけど、地上だったらミンチがたくさんできてグロいからやめてよね。」

「そんなこといってもさー、奴ら弱すぎて打撃与えると弾けて潰れちゃうんだよね。死ねば体液も消えるとはいえ顔じゅうにそれをぶっかけられる私の身にもなってほしいよねー。」


 彼女自身は涼しい顔でゴブリンを叩き潰したと言っているが、それだけのことができる冒険者はそうそういない。それもそのはずでリルネはワルキューレの薔薇翼の団員の中でもかなり上の戦闘能力を持った女性だ。B級というランクの高さもその実力を物語っている。それを知っているからこそセレインもリルネの話に今更驚くことも無いし疑いもしない。…最初は随分心臓に悪かったが隊のリーダーを務めていた間にだいぶ慣れてしまった。


「叩いて飛び散る程の打撃をするリルネさんが悪いのよ。とにかく適切な相手には適切な威力の技を使って。体力も無駄に消費しちゃうんだから。」

「えーでもせめて派手に散らさなきゃザコとなんてやってらんない…」

「や・め・て・よ・ね・?」

「…りょーかいしましたセレインリーダー。以後気を付けますー。」


 セレインに注意されて渋々ながらも間延びした声で返事をして再び敬礼をしたリルネ。そんな彼女にセレインは飽きれたが、これがいつものリルネなのだ。もはや改めるのは不可能かと諦めつつも口ではよろしいと言ってから、追いついてきた残りの仲間に指示を出した。


「はいそれじゃあこっちも敵の殲滅はいいわね。みんな残党の有無を確認して。ついでに戦闘の騒ぎを聞きつけた新手の有無も。エーリカ、ラウレッタ、クレオラ。周囲の索敵をお願い。」

「はーい。…あっちの方敵影なし。」

「向こう。敵影なし。」

「あちらも敵の姿はないな。」

「…はい戦闘の終了。みんな楽にしていいわよ。」


 本来なら北や南とか、三時の方向九時の方向だとか、担当を方位で割り振っているのだが、ダンジョン内では方角とか知ったことではない。そのためそれぞれ仲間と被らないように担当を決め、そちらの確認をしていた。それを聞いてリルネが戦闘の終了を宣言し仲間達は各々気を抜いて座り込んだ。


「はぁ~やっと終わった。すごい数襲ってくるんだもんなぁ。」

「一匹一匹は大したことなかったけど、それでも数は脅威だったね。僕あの数のゴブリン同時に見たの生まれて初めてかもしれないよ。」

「そうだな。百匹くらいいたかも。」

「まさか罠でゴブリンの群れの真ん中に転移してしまうなんてね…」


 三層目にたどり着いたセレイン達だったが、スタートの小部屋を出てすぐにラウレッタがうっかり地面にしかけられていた罠を踏んで作動させてしまった。セレイン達は罠の専門家でないのでその罠の詳しい効果を知らなかったが、それはパーティーをマップ内の敵の多くいる場所に強制的に転移させるものであったらしい。そしてまばゆい光に包まれたあとで視界が復活すると、目の前には大量のゴブリンの群れがいて襲ってきたというわけだ。


「不幸中の幸いだったのは罠を踏んだラウレッタだけじゃなくて全員が転移することになったことかな。そうでなければ今頃ラウレッタ一人でゴブリン達に…スパッ。」

「ひぃ…‼」


 まだこのマップに来たばかりでマップの構造を殆ど把握していない。そんな状況でパーティーから一人離れたところに飛ばされてしまえば生きて再開できたとは思えない。エーリカが自分の首を横に掻っ切る仕草をしてラウレッタを震え上がらせていた。


「たかがゴブリンじゃない。ラウレッタは強いからもし一人で群れの真ん中に出ても、私たちと合流するまでしばらくは戦えたよ。」

「ムリムリ‼囲まれたら詠唱が間に合いませんって‼」

「大丈夫。落ち着いてやれば最初の一匹とぶつかる前に詠唱が短いファイアボールなら間に合うよ。そしたら混乱した群れのど真ん中にもっと強いのをプレゼントしてあげたらいいよー。」

「だから何十匹ものゴブリンを前にしてその落ち着くほどの余裕がないんですって‼」

「そんな余裕なのはリルネさんだけだよ。」

「そうかなぁ?人間案外緊急時にはかえって落ち着くものだよ。喉乾いたから水飲もうっと…」


 エーリカとラウレッタに惚けるようにそう言ったリルネは、武器に使っていた戦棍の関節を外して内部と繋がる蓋を開け、そこから重り兼飲料用の水をぐびぐびと美味しそうに飲んでいた。


「…ぷはー。やっぱひと暴れの後の一杯は最高だね。これが冷やした水…なんならお酒だったらもっとステキなんだけどなー。前こっそり入れておいたら隊長殿にバレて折檻されちゃったんだよね。それと飲むたびに軽くなるから武器として一撃の重みが落ちるのもネックかな。水場を見つけたら満タンにしておかなきゃ…でもそうすると水源次第ではもう飲み水としては使えないし…迷っちゃうなー飲み干すかな。」

「(…リルネさんのはもはや余裕というより呑気だね。)」

「(リルネさんの呑気を見てたらこっちまで喉が渇いてきたわ。)」

「(僕は小腹が空いちゃった。たしかビスケットが…)」


 やっぱり一度空にしてしまおうと美味い美味いと水をがぶ飲みし続けるリルネにそう感想を持ったセレイン達も、彼女の飲みっぷりに惹かれ各々携帯食を齧ったり水を飲んだりしていた。




「それにしても迷宮ダンジョン…恐ろしいところだと聞いていたけど、やっぱりその通りだったね。」

「うん。まだ三層目なのにこれだけ命に関わりかねない仕掛けの連続…もっと下の階層にいる隊長とかの方はどれだけ大変なんだろう…強いモンスターとかいるんだろうなぁ。」

「さぁね。でも隊長殿だから大丈夫でしょ。なんせあの超豪華パーティーメンバーだよ?心配するとしたらリューシャ先輩やアンリッタ先輩の方にしてあげてー。」


 迷宮ダンジョンは下の階層へ行くほど手強いモンスターや厄介な罠があるため攻略が難しくなるが、運次第で浅い階層でもそれなりに攻略が難しいマップに出てしまうことがある。


 セレイン達は初の迷宮ダンジョン挑戦だったが一層目と二層目はそこまで困難なマップでなかったため最初は余裕を見せて全力疾走していた。が、ここへ来て数で押すモンスターの群れや隠された罠に遭遇して苦戦し、進軍に陰りを出し始めていた。


「特に厄介なのは隠されている罠だよね。」

「そうね。既にラウレッタが何度か引っかかってしまったし…」

「うぅ…ゴメン。」


 エーリカとクレオラの会話にラウレッタがゴブリンの魔貨を拾いながら謝る。先ほどの転移の罠もそうだが、その直前でこんなこともあったのである。



―――――


「危ないラウレッタ‼」


 リルネがラウレッタの手を引いて自分の方へ抱き寄せた。


「リルネ先輩いきなりどうしたんですか!?」

「足元見て。」

「…えっ?」


 突然の事態に混乱するラウレッタがリルネに抱かれたまま問い詰めるが、リルネが戦棍の先で指し示す先ほどまで自分が足を置いていた地面を眺めると、そこには深く大きな穴が開いており底には銀光りする金属の尖った串が無数に設置されていた。


「串刺しの落とし穴ってところかな。落ちたら大けがじゃすまないよ。」

「あわわわ…ありがとうリルネ先輩。」

「助け合い助け合い。ここはダンジョンだから罠には気を付けてねー。」


――――



 以上。こんなことがあった。一度ならず二度までも罠にかかってしまいラウレッタはすっかり足元を畏れてしまっていたのだ。


「さっきの戦闘でもあんまり動き回ってなかったよね?魔術師だからそこまで動く必要はないけどそれでもいざというときに足元が怖くて動けないなんてことになったら厄介だね…」

「次は大丈夫…また罠を踏んでもなんとかするから。」

「なんとかってラウレッタに何ができるのさ?責めてるわけじゃないけど。あーあ、ルーシェがいないから罠とかが厄介だな…」

「そうね。罠に関することは罠士(トラップマスター)であるあの子の仕事だったからね。」


 このパーティーには罠に知識がある者がいないため、ダンジョンにしかけられた罠を見つけることができないし、罠を見つけても解除もできないので基本は放置で触らないようにするしかできない。もしもそこしか進めない場所で回避できない罠があった日にはセレイン達のダンジョン探索は終了であろう。リルネとセレインはこの場にもう一人の仲間であるルーシェがいないことを残念に思っていた。


「ルーシェの仕事はもっぱらこちらから獲物を嵌めるためや誘導のための罠を設置することだけど、逆にしかけられた罠を見破る能力もあるはずだからあの子ががいればパーティーは罠に注意する必要なく気を緩めて道を歩けたのにね。」

「そもそもルーシェの目の負傷を治すためのエリクシールを手にするためにダンジョンへ挑んでいるんだから、あの子が無事だったらダンジョンに来る必要なかったけどね。」

「それを言われると身も蓋もないけど…とにかく罠には注意しましょう。誰かが大けがで帰ったなんていったらルーシェだけでなくみんな悲しむわよ。」

「だね。今までの罠はたまたま私が見つけられたけのもあるけど、引っかからなかったってだけで通った道には他にいくつも罠があったはずだよ。ルーシェだったらそれ全部事前に見つけられたねー。」

「まぁいない子をアテにしたところで始まらないでしょう。」

「できるだけでいいからリルネさんはまた罠を見つけてほしいな。」

「まかせてー。でも本当に見つけられる分だけだからみんなも余計な場所に足を踏み入れないでね。」

「リルネさんの言う通りね。これからも足元や壁の罠に気を付けて歩くこと。」

「ゴブリンの魔貨拾い終わったよー。」

「ありがとう。休憩ももうよさそうね…それじゃあここらで休憩も終わりにしましょう。さっさと進むわよ‼」

「はーい。」


 休憩を終えていた仲間が既にゴブリンの魔貨を拾い終わったので、セレインが号令をかけるとリルネがいい返事をして残りの三人も頷いて出していた道具を片付けた。小休憩を終えて探索の再会だ。






 それから五人は時々遭遇するモンスターを倒し、リルネが見つけた地面に埋め込まれた踏むと鉄針が飛び出してくる罠や、木々の間に隠されていた通行者を察知して毒矢を飛ばす罠などを避けながら、マップを順調に攻略していた。


 残念ながらここまで宝箱の類は一度も発見できなかったが、彼女達の優先順位ではエリクシールを求めて下の階層に進むのが先であったし、宝箱に施錠や呪いがあった場合このメンバーでは開けることができないのと重い宝箱を抱えて運ぶわけにもいかない。そして宝箱が置いてある場所などではモンスターとの戦いがつきものなので、余計な気移りがなくてよいと前向きに捉えていた。


「今どの辺まで来ただろうね。」

「さぁ…でもこのマップなんとなくの感覚でそこまで広くなさそうに感じるからそろそろゴールじゃない?」

「そうであってほしいね。私はやく下に行きたくてしょーがないでありますよー。モンスターは弱いしヒマでヒマで退屈だっての。」

「ホント呑気だよねリルネさん。またいつ何時モンスターが襲ってくるかもわからないのに…どうやったらダンジョンの中でそんなにリラックスしていられるのさ?」

「抜けるトコで気を抜いているだけだよー。常に気を張り続けたらそれこそ疲れて非効率だ…こんな感じでいざという時はちゃんと真面目にやるよ。」

「えっ?」


 ふわふわとした感じで雑談していたリルネだったが突如一番前に飛び出して、足を止め背中の戦棍を前に取り出して構える。会話をしていたエーリカはそれを疑問に思ったが彼女を取り巻く重苦しい空気を感じ取った。


「どうかしたのリルネさん?」

「そっちの角の木があるところ…そっちから何か来るよセレイン。」

「来る?さっきのゴブリンの生き残りかしら?何匹か逃げた気がしていたのよ。それともそれとは違うモンスターが私たちの気配を嗅ぎつけて…」

「違うね…これは人間の気配だ。足音も聞こえる。」

「…‼」


 リルネに人間が向かってくると教えられセレインの顔が引き締まる。ダンジョン内では同じくダンジョン探索中の人間がときに危険な存在であるというのは以前説明した通り。…説明したよね?もっかい説明して?しょうがないなぁ。


 なにせ挑戦者はいずれも冒険者をはじめとして野蛮な傭兵や高慢などこぞの国の兵士などの荒くれ者だらけで、社会の監視の目がないダンジョン内で出会った他の人間に何をしてくるのかわかったものではない。例えば最初は友好的でも実力差やパーティーの人数で戦力が下だと思われたら、武力による脅しに近い形で物資や情報の提供を求めてくることだってあるらしい。もしくはセレイン達は女だけのパーティーなので舐めてかかってくるだけならまだしも、金目の物や()()()()を要求してくるかもしれない。本当に何もしてこなくても同じマップに他の挑戦者がいていつなんどき何をしてくるかわからないとそちらに警戒を割かざるを得ないこともあるので、人によってはダンジョンで最も会いたくないのはモンスターでも罠でもなく同じ挑戦者であると言う者さえいる。


「穏便な相手だといいけど…」

「おんなじくらいに危ない相手の可能性もあるけどね。大丈夫だよ。なんかあったら私が全員叩きのめしてあげるからさ。」

「こういうときリルネが頼りになるわ。さすがはワルキューレの薔薇翼で屈指の戦闘員。」

「ふふふ、照れるな。真面目な時はそうやって先輩後輩抜きに扱ってくれるのも高得点だよ。」


 既にパーティーのリーダーとしてリルネを呼び捨てにしているセレイン。彼女は既にこれから現れる相手に対して弓に矢を番え臨戦状態だったし、それはリルネをはじめとする他の仲間も同じだった。ラウレッタはぼそぼそと詠唱して魔術を杖にいくつかストックしていたし、エーリカは手のひらを開閉してグローブの具合を確かめているし、クレオラは鞘から剣を抜いてリルネが飛んだ時いつでも支援できるようにしていた。


「全員準備オッケーだよセレイン。いつ遭遇しても大丈夫。」

「そう。リルネは相手がそこの角から出てくるタイミングはわかる?」

「さっきから計ってるよ…来るよ。さん…にぃ…いち…ゼロ‼」

「来た…ってあれ?」


 リルネがタイミングをカウントしてそれがゼロになったとき、同時に道の角から人影が現れた。相手はどんな手合いかとセレインは様子を伺うが、現れた人間達に意表を突かれてしまう。


「…‼」「…‼」

「(浮浪児…?)」

 

 相手もまたセレイン達との遭遇に驚いたようで固まって動かなくなってしまう。現れたのは二人の子供で性別はよくわからない。しかし二人ともぼろぼろの服装で顔はなんだか薄汚れていた。これではまるで街のスラムの浮浪者ではないかと、セレインはそう感じた。


「その恰好…ダンジョンにいるってことは運び人(ポーター)やってる子だよね?」

「…」「…」


 すぐにリルネが子供たちの正体に気付いて相手に尋ねた。しかし二人は返事をせずにこちらを伺っていた。


運び人(ポーター)?じゃあ近くに他の挑戦者が…」

「…いないっぽいけどね。」

「どうしてあなたたちだけで…雇い主とはぐれちゃったのかい?」


 パーティーからはぐれた人間かもとリルネが警戒をしつつも彼らに優しく声をかけたのだが…


「おい、新手だぞ…」

「どうする?」

「やめとこう。相手は女ばっかとはいえ五人だ。それに俺達…「いたぞ‼こっちだ‼」…やべぇ。追っかけてきた‼」

「向こうだ‼行くぞ…‼」

「あ、ちょっとあなたたち…‼」


 ぼそぼそと会話をしていた子供たちだったが彼らが来た方から誰かが叫び声を上げると、それを聞いて慌ててセレイン達の横を抜けて真っすぐに向こうへ駆けて行った。すれちがう彼らをセレインは一度は呼び止めようとしたが、彼らは構うことなくセレイン達が来たのとは異なる道の一本に駆け込んで行ってしまう。



「待ちやがれ‼…クソ‼逃げられたか…‼」


 子供たちが見えなくなった直後、角から新たに二人の冒険者が現れた。さきほどの声の主もこの中にいたようで彼がバカヤロウと消えた子供たちの方へ向けて叫んでいた。


「オイ、今ここに二人ガキが来ただろう?どっちへ行ったかわかるか?」

「来たけど…追うのはやめておいた方がいい。私たちはあっちの道から来たけど、子供たちは別の道には行ったんだ。他はどうなっているのかまだ調べていないし、それにうっすらとだけど迷宮霧(ダンジョンミスト)が見える。マトモな冒険者なら突っ込むのはムダだってわかるよね?」

「そうか…」


 男達はすぐにセレイン達の存在に気付き話しかけてきたが、彼らへはリルネが対応した。彼女から子供たちが逃げた方向と行かない方がいいという助言を聞いて彼らは子供たちを追うのを諦めていたようだった。


「さっきの子たちそちらさんの雇った運び人(ポーター)かな?逃げられるなんて何かしたの?」

「いいや違う。それに何もしていない。…むしろ俺達はされたんだ。」

「された?いったいなにを…」

「聞いてくれるか?俺達は…あいつらに襲われたんだ。」


 男達は走りの疲れで息を整えながら先ほど自分達を襲った出来事をセレインたちに話した。


「さっき歩いていたところで偶然あのガキどもに会ってな。俺達も最初は雇い主からはぐれた運び人(ポーター)かと思って声をかけたんだが…金目のモンを出しな‼手に入れた宝や魔貨も全部だ‼…ってな具合で武器を突き付けてきたんだ。」

「だけどあっちは二人でこっちも二人…おんなじ二人なら冒険者が浮浪児に負けるわけがない。それで反撃したらすぐに逃げられたんでおっかけたんだが…あとは見ての通りさ。」


 男の片方は迷宮霧(ダンジョンミスト)で先の見えない道を見て名残惜しそうにしていた。彼らとしては子供たちが何者か捕らえて知りたかったのだろう。


「ははーん。それはきっと迷宮に根付き挑戦者から食料や宝を奪って暮らす迷賊ってやつだね。」

「でもそれはあくまで噂でしょ?だいいち迷宮ダンジョンは入り口がギルドに監視されているじゃない。どうやって浮浪児だけで出入りして宝を換金したり食料を調達したりするのよ。」

「それは…協力者がいて…」

「そこまでうまくいくのかな?そう都合よくダンジョンで挑戦者に会えるのかな?」

「そうだそうだ。運び人(ポーター)がときどきダンジョン内で強盗まがいのことをするってのは聞いたことあるが、それはあくまで雇い主と一緒にダンジョンに入ったって時だけだ。奴らだけでダンジョンを歩いて出会った挑戦者に強盗するなんて聞いたことないぞ。」


 リルネが子供たちが噂に聞く迷賊の(たぐい)かと推理したが、それは仲間と子供を追ってきた男の冒険者に否定されてしまった。


「違うか…じゃあ本当に雇い主からはぐれた運び人(ポーター)が混乱していたのかな?でもそれにしてはさっきの話…まるで最初から強盗が目的みたいな…これは何か臭うね。すごく臭う。お兄さんとか好きそうな臭いだよ。」




 リルネは子供たちの消えていった道の方。霧に包まれたそこをいつまでも眺めていた。





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