第140話 そして更に迷宮を巡る(続・クロノス達のパーティーの二十三階層目での出来事)
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種族名:サキュバス
基本属性:闇(水属性及び地属性説あり)
生息地:大陸中に広く分布
体長:150~170センチメートル(個体差あり)
危険度:C(男性の場合A)
人間の女性の容姿をした亜人種のモンスター。男性版はインキュバス。多くの個体は人の言葉を理解することができ、それを利用して人の社会に溶け込むこともある。亜人種のモンスターは種類ごとに群れで暮らすことが多いがサキュバスは完全な単独生活。人によっては魔族の一種であると言う者もいるが、ギルドではモンスターとして扱っている。それに習い多くの国でもサキュバスは人間に危害をなすモンスターとして討伐対象である。
人間と見分ける特徴として、二本の角が頭に。蝙蝠を模した漆黒の小さな翼が背中下部から生えている。角は先が矢印状になった柔らかく稼働できる触覚型ものと、羊を模した硬い螺旋型の二タイプを主流に複数種類が確認されている。宙を浮いて移動することが可能だが翼の方は体格に対して小さすぎることから、翼はあくまで飾りであり実際は魔術によって浮遊していると考えられている。ただしこれらの特徴はサキュバスの幻覚魔術で隠すことができるので隠している時は発見が難しい。
容姿は個体ごとに髪や瞳の色など人間と同じように異なり年齢も幅広いが、共通して人間の男性が一般的な美的感覚で美しいや可愛らしいと感じられる容姿をしているということがあげられる。これは男を惑わし栄養の補給を効率的に行えるようにするためと考えられ、優れた個体は地域の男ごとの異性に対する美的感覚のずれに対応するために自由に容姿を変えられるらしい。逆に言えば容姿を変えられない劣った個体は前述の地域の美的感覚の関係で活動できる範囲が限られる。服装は露出の多い物をを好むが、衣服は魔術で作ったものと街で買った通常の生地を使いわけている。
食物の摂取をする必要が無いが代わりに人間の男の精力を生命活動のエネルギー源としており、接種の仕方はかなり有名である。その方法とは夜中に若い男性の寝所に忍び込み、寝ている男性に淫夢を見せることで精力を奪いとることだ。この場合の精力とは男性の持つ生命エネルギーのようなものを指し、これを奪われたものは一時的な体力の低下を引き起こしたり寿命が少し縮んだりするらしい。眠りが浅く淫夢を見ない男性に対してはその美しい容姿と淫らな肉体を用いて性行為を行い男性に出させたアレを摂取して物理的に精力を奪う。賢い個体は人の社会に溶け込み娼婦や痴女などのふりをして男に近づくことも。基本的に若い男性を狙うことが多いが、ときに精通も未然である幼い男児やどう見ても男として枯れている年配の老人を好む個体もいるようだ。効率が悪いのにこういった相手を選ぶ理由は今のところ不明。
前述の特性から男性にとっては夢のようなモンスターに思えるかもしれないが、サキュバスが一度に奪い取る精力の量はすさまじく、普通の男では命に係わる。実際に大陸中で発生している就寝中の男性の不審死の半分と関わっているとされているので、間違っても遭遇を期待してはいけない。期待しているような奴はたぶん会っても吸い尽くされて死ぬから。こっそり飼うのもだめだからな‼
男性の魔物使いが選ぶ使役したいモンスターランキングの上位に毎年選ばれているが、知能が高く簡単には人間に従わないうえ、個体によって男性の容姿に好みがあるためテイムは大変に難しい。完全に服従させなければ使役獣として認められないことからも使役にこぎつけた者は少ない。そもそも飼育には莫大な魔力と精力が必要となるのでそれの確保をすることが困難である。あの神飼いのシヴァルですら所有していないころからもその難易度の高さがうかがえる。…ただ単に彼のひょろい体力ではサキュバスを繋ぎ止めるだけの精力を提供できないだけかもしれないが。
戦いにおいては個体ごとに様々な属性の魔術を得意としているほか、魅了の魔術を扱える。そのため魅了に耐性の低い男性はサキュバスとまともに戦うことができず、むしろ洗脳されて敵に回る可能性がある。討伐はパーティーをなるべく女性で固めるのがいい。ただし、女性でも同性愛者には魅了が有効なことには注意。物理面では非力なので上空に飛んで逃げられないようにしてから接近戦で対処すること。
大陸中で特に男性の間で高い知名度を持ち、個体ごとに大きな個性を持っているという興味深い性質から多くの研究者の間で盛んに研究がおこなわれているが、調査に必要な資料がどれもこれもあいまいな体験談や風説ばかりで、しっかりとした資料は実は少ない。これは寝ている男性の夢の中に現れるために目撃者は起きた直後の記憶が曖昧であるし、何よりも夢の中の記憶などあてにできたものではない。直接精力を奪い取られた者も、搾られすぎて絶命するか生死の境を彷徨うかして同様に際中の記憶が朧気であるためきちんとした証言をとれないから。
ギルドの研究部門ではサキュバスの詳しい生態を調べるために体力に自信のある男の冒険者を数十名募集して、そこにサキュバスをおびき寄せる実験を試みたことがある。結果としてサキュバスをおびき寄せることには成功したのだが、その数があまりにも多く被験者の冒険者のみならず観測者のギルド職員まで巻き込まれてしまい、残らず精力を奪われ実験どころではなかったとのこと。
ギルドのモンスター資料より抜粋
参考文献「真冬の夜床での出会い~僕はあの子に命を奪われた~」より抜粋
参考文献「モテない男性必見‼魅力的な美人モンスター‼」より抜粋
参考文献「サキュバスの異名を持つ女の教える男を虜にする床技集」より抜粋
参考文献「このモンスターがエロい‼殿堂入りクラス」より抜粋
参考文献「ねえ知ってる?意外と危険なモンスター」より抜粋
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「そら行きな‼あたいのカワイイペットたち‼一番活躍したコにはご褒美あげちゃう‼」
「うおぉぉぉ…‼」
「あぁぁぁぁ…‼」
「ごおぉぉぉ…‼」
空で脚を組んで挑発するような視線でディアナを見つめるサキュバス。彼女の号令一つで操られた冒険者は武器を構えてディアナを取り囲む。直前にサキュバスにご褒美をあげると言われてそれが拍車をかけているのだろう。男達はやる気に満ちた様子でディアナに殺到した。ご褒美がどんなものか気になるがサキュバスとそれに魅了された男達ということでそれは想像に難くないだろう。
「肉欲に溺れ浸かり切った男のなんとまぁ醜い…被害者ではあるのだろうがサキュバスに魅入られたのは貴様らの甘さが原因だ。だから痛くても怨むなよ。」
「うあぁぁぁ…‼」
向かってくる男達にディアナは侮蔑的ながらも憐れみを伴った視線を投げかける。そこに彼女に最初にたどり着いた剣を持った男が、目を血走らせながら歯零れだらけの剣を振り下ろしてきた‼
「…本当に甘いな。無策で力任せに大振りをするな三流が。」
「うぅ…‼」
しかしその一閃は、ディアナの肌を傷つけることはなかった。なんとディアナは男の振り下ろした剣の刃の断面にレイピアの先を這わせ、力をそらして剣をはじき返したのだ。
「剣を振ったことで見えたぞ貴様の力の源が…「無我奪刺」‼」
逸れた剣の重みで男がバランスを崩した隙を突き、ディアナがレイピアの先端で彼の体を連続で刺し貫いた‼
「うあぁぁぁ…‼うあ…?」
男はそのまま地面に倒れ痛そうなそぶりを見せたが、すぐに自分が刺突の攻撃を受けても血の一滴も流していないことに気付く。
「うぅぅぅ…」
「キャハハハハ‼ぜんぜん効いてないじゃ~ん‼おばさんざっこ~‼」
「…」
男が無事だったことで上空で戦況を観戦するサキュバスは、ディアナの無力さをあざ笑った。しかしディアナは馬鹿にされてもサキュバスに激高することもなく、ただ黙って男の方を見ていたのである。
「黙ってないでなにか言い返してみたら?それともさっきのはこの人数に勝ち目がないとわかってヤケクソのはったりでもかましたのかい?そらアンタ、立ち上がって反撃しな‼そんでその女に身の程をわからせてやれ‼」
「うあぁぁぁ…?」
げらげらと笑うサキュバスに命令された男はすぐに剣を手に取り起き上がろうとしたが、手足をじたばたと動かすだけで一向に立ち上がろうとしない。それどころか地面に転がる己の剣すらまともに握ることができないようだった。
「…どうしたの?早く立ち上がりなさい‼」
サキュバスの方も不思議に思いもう一度命令をしたが、やはり男は手足を不自由そうに動かすだけでそれ以上はできなかった。…いや、できないのだ。ディアナの放った技はしっかりと決まっていたからだ。
ディアナが男に放った突きはただの突きではない。無我奪刺は人間の体にある力の集中する部分を細長いレイピアなどの武器で突き刺して、技の使用者の暴走させたわずかな魔力を武器の先から毒として流しこむことで、一時的に相手の体の自由を奪うことができる敵の無力化に徹底した殺傷性の小さな技である。これを受けたことで男は見事に無力化されてしまったというわけだ。
「この技の開祖は獲物を毒で殺さずあえて生かしておく捕らえ方をするジガバチと呼ばれる特殊な蜂からヒントを得たそうだ。…その蜂は動けなくした獲物に卵を産み付け、生まれた子供はその獲物を餌にして育つのだそうだが、開祖は犯罪者を生け捕りにして引き渡した後で、見せしめの処刑をするために使ったのだとか。」
「ダメージなくレイピアで体を突くだとぉ…!?全員が全員おんなじ場所にツボがあるわけでもないのに、そんな細かな芸当人間にできるわけが…」
「それができるのだよ。できてしまう技術を有しているから私はS級冒険者なのだ。」
この技を使うためには個人によって差のある力の集中する場所を戦闘中に瞬時に見極めること、そこにダメージなく正確な刺突を与え、更に自分の魔力を相手に流す魔力の緻密なコントロール性が必要となる。なのでこれを扱える人間はごくごく限られた細剣の達人のみの超上級者向けの技である。それを容易く使えるのは流石はS級冒険者のディアナといったところか。
「ぐぬぬぬ…‼」
「その男はしばらくの間は動けないぞ。貴様がどんなに命令したところで肉体の仕様を無視することはできん。」
「…ハン‼男達はまだまだいるんだ‼一人使えなくなったところで…ちょっとアンタら何してんの‼さっさとそのおばさんをはったおしなさ~い‼ほら皆でもっと取り囲んで‼」
「ああぁぁぁ…‼」
「ぼおぉぉぉ…‼」
「ぬうぅぅぅ…‼」
剣の男が使い物にならないことをディアナに断定されたサキュバスは、次に周りを取り囲ませる他の男たちを一気にディアナに差し向けた。
「阿呆が。そんなに集団で一人に集っても一度に攻撃できるのは一人か二人だろうに。順番に攻撃を受けさせてくれと相手に申しつけているようなものだ。」
「がうぅぅぅ…‼」
「あうぅぅぅ…!?」
彼女の言うとおりで囲んだところでお互いが邪魔してしまい上手く動けない。そうしている間にもディアナは無我奪刺》で何人もの男を仕留め地面に倒して無力化していく。それはもはや戦闘というより一方的な作業であり、それは迅速に行われていた。取り囲む形にさせたことで男同士が近くにいたのが作業の効率に拍車をかけた。
男達はディアナのレイピアに突かれ力が抜けたように倒れて地を蠢いている。立っている男達はいつの間に既にその数を半分にまで減らしていた。
「へぇ、見事な刺突攻撃じゃねぇか。あの女けっこう戦えたんだな。下っ端の女たちの指揮ばっかしていたからてっきり自分じゃ戦えないもんかと思ってたぜ。」
ディアナのサキュバスに支配された男達の戦闘を少し離れた場所から観察していたクロノスたち。その中のマーナガルフがディアナの剣技を褒めていた。
「そんなことはない。ディアナはワルキューレの薔薇翼最強のレイピア使いだ。彼女の剣捌きは美しいだろう?あれはいつ見ても惚れ惚れする。」
「そうだよな。ディアナは冒険者の中では珍しくお上品な戦い方ができるからな。儂も思うぜ。芸術ってのはああいうのを言うんだってな。」
「ヘルクレスのおじいちゃんもベタ褒めじゃねぇか。だがよ…刺突攻撃はなかなか光るモンがあるがそれ以外は正直特出してるってほどじゃなくね?あれくらいの剣技なら使える奴は冒険者にいくらでもゴロゴロしているぜ。あれだけだと何をもってしてあの女がSランクに選ばれたのかよくわからねぇな。」
マーナガルフが疑問に思っていたのはディアナの実力だった。次々と襲い来る男達を一人一人確実に無力化していくのは見事だが、彼によればそれでもまだS級の実力というには物足りないのだとか。
「あれだけでも十分じゃない?僕なんて自分ではまったく戦えないからみんなが羨ましいよ。」
「オメーは全部をモンスターにぶっこんだ特別変態じゃねぇかシヴァル。」
「まぁまぁ。別に戦うだけが冒険者の実力なわけではないぞ。モンスターや自然に対する知識。クランやパーティーの長としての統率能力。有力者とのパイプ…それらを全部を評価しての冒険者ランクなんだし。君だって赤獣傭兵団のリーダーであることが評価のうちにあるんじゃなかったっけ?」
「そりゃそうだがよ…だけどあの女のほっそい剣捌きで団員がついてくんのか?」
「確かにワルキューレの薔薇翼にはリルネやアンリッタなんかの腕っぷしの強い団員はたくさんいる。君の言う通りディアナの力があれだけなら、リーダーの座はとっくに誰かに変わっているさ。マジで脳筋集団だからなワルキューレ…自分よりも強いものにしか従わない。それを取りまとめる彼女の力の底はあんなもんじゃない。あれはただ単に操られている男たちに配慮して手加減しているだけだよ。」
「だいいちディアナさんは剣士じゃないよマー君。専門外で実力が足りないと言われてもそれは無茶ぶりでしょ。」
「ほー、違うのか…って、アァン!?風紀薔薇って剣士じゃねぇのか‼さっきからレイピア振り回しているじゃねぇか‼」
「…え。知らなかったのか?」
「え。マー君ディアナさんの職業知らないの!?」
「本気かよ君…もっとまじめに勉強した方がいいじゃないのか?」
マーナガルフが知らないと素直に答えるとクロノス達は驚いて、信じらんないといった具合で彼を可愛そうな目で見ていた。それはまるでどしゃぶりの雨の日に捨てられていた子犬に出会いそれを見たかのような…
「だあぁうるせぇ‼なにが捨てられたワンコじゃあ‼どうしてあの女の職業を知らないだけでこんなに言われなきゃなんねぇんだ‼だって俺様あの女に会ったのこの迷宮都市に来てから初めてだもん‼名前が有名でもあの女ってどんな職業なのかなんて話聞いたことねぇモン‼」
「彼女は今はクランの指揮を執っているから本人がクエストとかに出る機会は少ないみたいだしそういった話を聞かないのは仕方ないだろう。でもギルドに聞けばそれくらいわかるだろ。なんのための担当職員だよ。」
「いいじゃねぇか知らなくても‼それならアイツはなんの職業なんだ?教えてくれよクロノスのセンセ‼」
「それはな…待った。男の方がだいだい片付いたたようだな。サキュバスとの一騎打ちになるぞ…」
クロノスはマーナガルフの質問に答えようとしたが、そこでディアナの戦いの場へ皆の視線を向けさせた。
「うぅぅぅぅ…」
「あぁぁぁぁ…」
「ふん、他愛もない。」
サキュバスによって操られた男達は一人残らず地面に倒れており、その場に立っているのはディアナただ一人だけだった。どうやらマーナガルフがぎゃあぎゃあと騒いでいる間に、あらかた片付けてしまったらしい。
「そ、そんな…まさかあたいのオスを一人で全員倒すなんて…‼」
「この程度で私をどうこうできると思ったのか愚か者。…モンスターにそこまでの知恵は無いか。」
「あ、あんたたち‼早く立ち上がって‼早くこの女を襲いなさい‼」
サキュバスが男達を鼓舞して何とか立ち上がらせようとするが、彼らにはどうすることもできない。確実に無力化させるのが無我奪刺》という技なのだから。
「ほらほら、フレッフレッみんな♪元気出せ♡そら、ご褒美が欲しくないのかい?今起き上がって戦った子にはあたいが特別に…」
「うぅぅぅ…」
「これでもダメなのぉ!?…クソォ‼」
サキュバスはしばらく頑張って応援し続けたが、なんとも残念そうにしている男達。そのうちそれが不毛であると悟り、応援を止めて空からディアナの方を苛立ちながら睨みつけた。
「(この女なかなかやるじゃない…相手にせずに素通りさせればよかったかも。でもあたいはダンジョンモンスターだから侵入者を無視することなんてできないし…どうするあたい…?)」
「さて、後は貴様を倒せば終わりなのだが、空にいる相手にどう仕掛けたものか…」
「…‼そうか、キャ、キャハハハハ‼そうよそうだよ‼あたいはこの通り空を飛んでいる‼そこからじゃ攻撃できないだろ‼」
サキュバスの言う様に敵の親玉であるサキュバスは地上から十数メートルの上空を浮遊しており、いくらディアナの剣技が優れているといっても、とてもあそこまでは届かないだろう。大将である自分を攻撃することはできないことを相手に教えられ、優位に気づいて調子を取り戻したサキュバスはまたもや下品に笑っていた。
「あたいを倒さなければそのオスたちの洗脳が解けることはないよ‼でもそっちの無力化の技には時間制限があるんだろ?」
「その通りだな。時間に制限がなかったら無力化を越して後遺症に繋がってしまうから何分かすれば傷なく立ち上がれる。」
「ほらね‼だったらこいつらが復活したらまたアンタを襲わせるだけだよ‼」
無我奪刺》は殺傷能力が低い。低すぎて拘束せずに放っておくとそのうち相手はまた動けるようになる。そうなったらまた男達をディアナに向かわせればよい。また動きを封じられたところでそれを繰り返せばディアナの方の体力がいずれ尽きて、多人数のこちらに嬲られる。そう考えてサキュバスは得意げな顔を作っていた。
「キャハハハハ‼あたいの勝ちだね‼ああ…ようやくアンタがこいつらにメチャクチャにされると思うと胸がスゥっとする…ほら、どんな体勢で犯されたいか先に言っておくといいよ‼リクエストに応えてやるからさ‼キャハハハハ‼」
「…なんだと?」
男達が復活するまでの退屈しのぎだとサキュバスはディアナに捕まった後どんな目に遭いたいのかふざけ半分に尋ねていたが、ディアナは何の冗談だとばかりに眉をひそめていた。
「調子に乗っているところ悪いが、私が対空の技を使えないとは一言も言った覚えはないぞ。」
「それはあたいを見つけるのに使ったナイフ投げのことかい?あれくらいならマントで十分防げるよ‼それだけじゃない。こうやってグルグルしていりゃそれだけでも十分さ。スーイスイ♪」
「ナイフのことではない…私が言っているのは、どの技を使えば貴様を楽に一撃で仕留めることができるかということだ。さて…」
上空で8の字を描くように旋回をしているサキュバスにそう言ったディアナは、歩いて彼女の飛び回る真下へ移動した。
「まずはどれにするか…そういえばサキュバスは魔族ではないかという説があったな。ならば…そらっ‼」
ディアナが真上に向けて放ったのは最初にサキュバスを見つけたときに使ったナイフだった。戦いの合間に地面に突き刺さっていたのを拾っていたらしい。
「だからさっきとおんなじナイフじゃ…なにっ!?ナイフが光って…‼」
自分へ向かってくるナイフを呆れた目で見て防御のためにマントを翻そうとしたサキュバスは、そのナイフの刀身を見てぎょっとした。刀身はナイフの刃が持つ本来の銀色よりもずっと輝いて煌めいていたからだ。
「吸血鬼を仕留める刺突の奥義…「銀の弾丸だ‼その一閃は魔族を灰へと帰す‼貴様には効くかサキュバスよ‼」
「マズイ…‼」
ディアナが投げたナイフは銀色に輝きを放ち、まっすぐサキュバスへ向っていく。その速度ではとても回避できないだろう。
「…な~んてね♪へ~んだ‼」
しかしそのナイフはサキュバスがマントを振うとはじき返されてしまい、落下して地面の操られた男の一人の肩に刺さってしまい男は呻き声をあげていた。
「ぐげぇぇぇぇ…‼」
「あ…しまった。せっかく無傷で抑えたのに…すまない‼」
「キャハハハハ‼ざ~んねんでしたー‼吸血鬼特効の攻撃ぃ?あたいをあんなデカいだけの蚊みたいな奴と一緒にするんじゃないよ‼あたいはモンスターであって魔族じゃないよ‼」
どうやらサキュバスには対魔族用の攻撃は特効性がないらしく、身に着けたマントを貫通するだけの効果を持たなかった。ディアナはナイフが刺さって痛そうにしている男に申し訳なさそうな顔をしながらもそれがサキュバスに効かなかったことにひるむことなく、次の手を打つために動いだ。
「投合した武器に退魔と銀の要素を付与する技だが貴様には効かないか…以前吸血鬼を相手にしたときは、この一撃で灰に変わったのだが。なら次は…‼」
「おっと、これ以上の小細工はさせないよ‼今度はあたいの番だ。岩塊よ集え…」
次の行動を取ろうとしたディアナに隙はくれてやらないとサキュバスが魔術の詠唱を素早くこなすと、地面の石つぶてがふわりと空へ舞い上がり、サキュバスの周囲へと集まっていく。そして小さなつぶて同士が融合して先の尖った大きな岩の塊がいくつも完成した。
「そらっ、「ストーンレイン」だよ‼グチャグチャになりな‼」
「…‼」
サキュバスが上げた腕を勢いよく振り下ろすと、岩がそれに習って次の手を試そうとしていたディアナの元に次々とまるで雨のように降り注ぐ‼しかし振ってくるのは可愛らしい雨粒などでは決してなく岩の弾丸だ。
「岩で押しつぶそうというわけか…だが‼」
ディアナは真上から降り注ぐ岩の塊を冷静に観察してバックステップで後ろに飛び退いた。そのすぐあとにさっきまで彼女がいたところにいくつもの岩が地面を抉って突き刺さる。少し回避が遅れたら彼女も串刺しになっていただろう。
「キャハハハハ‼やるねぇ‼なら次は…」
「させるか‼風力の足場よ‼」
サキュバスが次の魔術を詠唱する前にディアナはレイピアを振い目の前に風を起こす。そしてその風の塊に向けて駆け込みジャンプして思いきり踏み込んだ。
すると渦巻いていた風の力は一気にその力を上へと向け、そこに乗ったディアナは天へと飛ばされた。
「飛んだだとぉ!?」
「跳躍の力を与える「エアリアル・ジャンプ」だ‼空中がなんの…直接仕留めてやる‼」
遂にサキュバスの目の前まで飛び上がり彼女を追いこして更に上空へと飛んだディアナ。跳躍の限界に達した彼女は空中でぴたりと一瞬だけ静止して、それから地面に引っ張られて落下を始める。そして真下でこちらを見上げていたサキュバスへレイピアを構え、その鋭い先端を彼女へ向けた。狙いはサキュバスの急所一点だ。
「落陽衝空刺‼」
「くっ…ぐあぁぁ…‼」
「…チッ、避けたか…「クッション・ウィンド」。」
満月に映るディアナの黒い影を見て、体を捻り攻撃を避けたサキュバス。急所への直撃は避けたがそれでも落下の勢いが加わった刺突攻撃は彼女の脇腹を抉った。そこからは赤い血がどばどばと流れ、サキュバスは手を当てて出血を抑える。ディアナはそのまま落下したが、跳躍の時と同じように地面に魔術の風を発生させてそこにふわりと降り立ったのでダメージは受けなかった。
「いたたたた…‼なんか血を抑える布…やってくれたねおばさん‼あーいたたた…‼」
「痛むのは貴様が避けたからだ。避けなければ心臓を刺し貫かれて一撃で楽に逝けたものを。」
「くそう…あ…キャハハハハ‼どうやらオスたちが復活したみたいだね。」
「うおぉぉぉ…‼」
魔術で作り出した布で患部を強く抑えて、苦痛に身悶えるサキュバスだったが、ディアナと戦っている間に操っている男達の体の痺れが解けていたことに気付く。脂汗を掻きながら再び有利になったと思い微笑んでいた。
「そんな輩何度復活しても相手にもならん。私には欠伸をしながらでも捌けるぞ。…品が無いから実際にやろうとは思わないがな。」
「く…少し強いからって調子に乗りやがって‼アンタたち一斉に襲い掛かれぇ‼そのババァを抑え込んで穴という穴にアンタらのチ〇ポを突っ込んであげちゃえ‼」
「相当に下品な女だな。もっと包み込んだ言い方をできないのか。あと私はまだ二十八だ。いつまでも婆扱いされるとさすがに私も怒るぞ。」
「そらアンタたちいけー‼嬲れ‼犯せー‼」
ディアナはそんな風に余裕の様子でサキュバスに言葉の訂正を求めたが、彼女の目は痛みと悔しさで血走っておりディアナの話を聞いている様子はまったくない。復活して立ち上がった十人ほどに命令して一斉に捨て身で襲い掛からせた。
「おぉぉぉ…‼」「ぐうぅぅぅ…‼」
「せっかく怪我のないように無力化してやったと言うのに、さらに酷使されるとはなさけない男達だ。…仕方ない。やはり貴様らには少々痛い目を見てもらおう。」
向かってくる男達に独り言のように呟いたディアナはレイピアを鞘に戻し、その鞘ごと手に持ち直し目を瞑って開いているもう片方の手と共に振りだす。その姿はさながらオーケストラの指揮者の如くであった。
「オイオイあの女レイピアをしまいやがったぜ。何考えてんだ?それをぶんぶん振り回してるし…まさか一人じゃムリだから応援の合図をこっちに送って…ってなんだオメェら。違うのか?」
離れたところで相変わらずディアナとサキュバスの戦闘を眺めていたクロノス達。マーナガルフはディアナがレイピアを鞘に納めたことを疑問に思いつつこちらに援軍を要求しているのかと思ったが、他の三人はとくに反応していないことから違うと感じたようだ。
「ディアナさん戦い方を本来のものにするつもりだね。さすがに埒が明かなくて手加減するのが面倒になったかな。」
「オォン?本来の使い方って…敵を突くのがレイピアの正しい使い方だろうが。さっきの使い方が一番正しい使用法なんじゃねぇの?」
「あのレイピアは本来近接戦闘用の物じゃないんだ。今みたいにある程度なら戦えるが…刃は削いであるから先っぽの尖った部分で刺突をするくらいにしか使えない。」
「斬れねぇのかあのレイピア?だからあの女さっきから刺突と魔術しか使わなかったのか…でもなんでそんなことを。」
「だから…ディアナは先頭で戦うタイプの職業ではないんだ。敵に全戦を突破されて後方の自分の所にまで来られた時の臨時の防衛用の戦い方なんだよあれは。」
「後方だと?じゃあ戦士でも闘士でもないんかよあの女は。」
ディアナは剣士ではない。そう言われたことをマーナガルフは思い出した。しかもそれ以外の近接戦闘を得意とする職業のいずれでもないのだそうだ。
「だから一体あの女の《クラス》はなんだってんだ?もったいぶらないで教えろよクロノス。」
「もったいぶっているわけじゃないさ。わざわざ俺が言わなくても今見れるからな。」
「何をするつもりか知らないけど、レイピアを出してないのなら好都合だよ…今のうちに皆で襲っちゃえ‼」
「があぁぁぁ‼」「ぼおぉぉぉ‼」
目を閉じて手だけを動かすディアナに男達を突っ込ませるサキュバス。彼女はディアナが何をしようとしているのかは知らないが準備が整う前に男達に攻撃させるつもりだったが…
「ご、ごおぉぉ…?」「あ、あぁぁぁ…?」
「おいどうしたんだいアンタたち…あ、あれ…なにこれ…?」
ディアナに一斉に向かっていた男達が全員ほぼ同時に足を止めてしまった。それは本人たちも不本意だったようで、洗脳状態でまともに口が聞けない状態でもはたから見れば戸惑っているのがわかるほどだ。
男達を動かそうとするサキュバスはいつの間にか自分の手足も動かないことに気が付いた。何が起こったのかを確かめるために手を見ると…
「植物のツタ…?」
サキュバスの四本の手足に、それぞれ何かの植物のツタが巻き付いていたのだ。よく見ると男達にも同じようなツタが手足に絡みついており、それががっちりと手足を押さえつけて体の自由を奪っていた。
「こりゃいったい…んぐ、しかも硬い…‼魔術で引き裂いて…アレ?詠唱ができない!?なんで!?」
ツタを無理やりに引きちぎろうとしたサキュバスだったが、それが思ったよりも硬く引きちぎることができない。物理的には非力な自分ならまだしも、横で男達も必死に引きちぎろうとしているのにそれがなせないでいることを見てもそうとうな頑丈さのツタだ。しかもどういうわけか魔術も使えない。
「魔術まで使えないなんてやっぱり変だ。それにしてもいったいなんの植物がどこから伸ばして…ん?ツタがない…?」
魔術を使うのはひとまず諦めてどこの植物から伸びてきたものなのかとぴんと張ったツタの先を辿るサキュバス。しかしツタは一定の長さの後で空中でばっさりと消えてなくなってしまっていたのだ。
「なんだいこりゃあ…ツタの本体がないじゃないのさ。動けないし魔術は使えないしツタの先はないし…いったいどうなってるんだい‼」
「ないのではない。ツタの本体は異空間の先にあるのだ。ここからでは途中で消えてなくなっているように見えるか?」
謎のツタに疑問を持つサキュバスに、先ほどまで黙ったままだったディアナが初めて話しかけてきた。彼女は今はもう手とレイピアを宙に振り回しておらず、レイピアは腰に差し直している。
「アンタ…このツタはなんなんだ!?全部アンタの仕業かい!?」
「何かと聞かれてもツタだとしか答えようがないし、私がやったのだと答えるしかないな。最も、ただのツタではないがな。」
「あたりまえじゃないか‼これだけ強く縛っているうえに魔術が使えなくなるただのツタがあるかい‼いったいこれはなんなんだ!?さっきの変な踊りと関係があるのかい!?」
「知りたいか?まぁ知りたいだろうさ。これは魔界に咲く「デモンテッド・ローズ」という薔薇のツタさ。ツタは地味な色だが本体の花はどんな赤薔薇にも負けないくらいに真っ赤で美しいのだぞ。」
「魔界だと…!?そんなところにあるモンいったいどうやって…‼」
「もちろん、喚んだのだよ。この私がな。」
自分の仕業だと正直に答えたディアナが鞘にしまわれたレイピアを掲げ、動けないサキュバスの目の前に持っていき彼女に良く見せた。
「このレイピアの本来の使用用途は召喚魔術を使う際の媒体でな。こうして鞘に納めると空中にスペルを描く指揮棒として使うことができるのだ。いや、そもそもこれはレイピアではなく、指揮棒の先を鋭利に尖らせて武器としても扱えるようにしたものといった方が正しいか。」
「召喚魔術…だと?」
「ああそうだとも。召喚魔術こそ、私の最も得意とする戦い方だ。」
眉をひそめるサキュバスに、ディアナは自信満々にそう答えていた。
「…んん?ありゃ俺とヘルクレスのジジイが縛られたツタとおんなじモンじゃねぇか。それに召喚魔術だと?」
ツタで縛られたサキュバスを見ていたマーナガルフは、彼女を縛り付けるツタが以前自分を拘束したツタと同じものであることに気が付いた。そしてディアナが言った言葉…召喚魔術に対して食いついていた。
「召喚魔術ってアレだろ?隷属の契約をした異生物を異空間から喚び出して、力を使わせたり力を借りたりするっていう…それを使うってことは風紀薔薇の職業ってのは…」
「そうだよマーナガルフ。彼女の、ディアナ・クラウンの職業は召喚士だ。異次元より使役獣を召喚して、様々な事象を引き起こす。」
「普通は召喚魔術ってのは事前の魔法陣の準備とか長ったらしい召喚の詠唱をしなきゃならないんだけど、ディアナさんは召喚士の中でも屈指の実力者でね。オリジナルの省略術式をレイピアと鞘に刻んでいるから使役している召喚獣のほとんどをほぼノータイムで目的の場所に召喚できるんだよ。もちろん使役獣を扱うための魔力の扱いや召喚場所の調整の能力もとんでもないんだけど…あ、あの手を振っていたのは詠唱のリズムをとるためで…」
「んなこたいいぜ。そうか…‼だからあの時や今も俺やサキュバスが気づく前に縛り上げられていたのか。いくら俺様でも一瞬で現れたのならなら気配を掴めないからな。」
ディアナの召喚士としての能力をシヴァルに説明されて、マーナガルフは自分が拘束を見切れなかった理由を知り、納得していた。
「あのツタは最近契約したもんらしくて儂は知らなかったんだが、他の使役獣もとんでもないのがそろってるぜ。もっとも、一番恐ろしいのはディアナの剣技だと儂は思うけどな。まぁなんにせよあれで縛られたらもうおしまいだ。儂も動けないくらいだったんだし魔術も封じられちまうみたいだから勝負は決まっただろう。儂らもあっちへ行こうぜ。」
もう戦いを見守る必要はないだろうとヘルクレスに言われ三人も頷きディアナの元へ向かった。
「ぐぎぃ…‼岩塊よ…冷水よ…‼駄目だ。やっぱりどの魔術も使えない…」
「無駄な抵抗だ。このツタには拘束している者の魔術を封じる効果もある。物理的な力は人より劣る貴様では魔術が使えなくてはこれからは絶対に逃げられない。仮に貴様にそれだけの力があったとしても大人の男程度の力なら余裕で耐えれる堅牢さだがなこのツタは。巨漢の怪力男であるヘルクレスですら縛り上げられたのだから貴様ではまず無理だ。」
「クッソ…おいアンタたち‼早く自分のツタを切ってこっちを助けなさい‼」
自力でのツタからの脱出を諦めたサキュバスが操っている男達の方へ目をやる彼らに命令したが、彼らは頑張ってツタから抜けようとしているもののツタはびくともしていなかった。刃物などで切れば切断できないことも無いかもしれないが、それでも時間がかかるうえ魅了されて頭の回らない彼らでは無理だろうとディアナは気にしていなかった。
「クソッ、卑怯だぞ‼外しなさいよおばさん‼」
「卑怯で結構。男を色香で惑わし操って使う貴様よりはましだ。このまま戦えなくなるまで力を奪ってやる。」
「え…あ、あぁ…力が…‼」
ディアナに暴言を吐いて拘束の解除を要求するサキュバスだったが、ディアナはすべてを聞き流す。そうしているうちにサキュバスは自分の中から力がどんどん抜けていくのを感じ取っていた。
「この薔薇は大変な食いしん坊でな。私が命令していないと巻き付いた者から魔力と体力を養分として絞り尽くしてしまうのさ。十分もあれば枯れ木同然になるだろう。なに、操られた男どもの方は奪う量を少なめにしておくよう命令してあるから命までは失うことはない。貴様の方も動けなくなるくらいで勘弁してやろう。今は道を急ぐから邪魔をしなければ魔貨に変えるまではしない。」
「うぅ…‼」
抵抗をしようと試みるサキュバスだったがツタにみるみる力を奪われていくのが実感できる。このまま無抵抗でいればそのうち立っているのもやっとの体力まで減らされるが、ディアナの言う通りなら命まではとられないだろう。
ならば負けを認めて大人しくするべきなのだろうが、彼女には、ダンジョンのモンスターであるサキュバスにはそれができなかった。どこかから目の前の冒険者達を排除せよという命令が頭にがんがんと響いていたからだ。
「(止めなきゃ…こいつらを…‼あたいはダンジョンモンスターだからダンジョンに命じられて挑む人間を試すのが本能…この気持ちには逆らえない…‼)」
たとえ意志を持っていたとしても彼女はダンジョンモンスターである。ダンジョンを踏み荒らす人間の挑戦者相手に戦わないことは生きている限りあり得ない。一度挑戦者と対峙してしまえば、相手を排除するか逃げられるかもしくは自分が死ぬか…死にたくなくたって挑まねばならないのだ。
「(でもコイツは強い…このツタだってとらなきゃいけないし、仮に脱出したところで体力をだいぶ奪われたこの状態でどうやってコイツの剣技を躱す…?なんとか隙を見つけなきゃ…)」
「決着は着いた。余計な行動は継戦の意志ありとみなし、容赦はしないからな。」
ディアナのまったく見当たらない隙を探りながら様子を伺うサキュバス。そして彼女にこれ以上何もさせまいとディアナも決して油断を見せない。
「「………」」
「決着がついたようだな。お疲れさん。」
「…なんだお前たち来たのか?手出しは無用だぞ。」
しばらく対峙を続け睨みあう両者。そこに戦いが終わったようだとクロノス達がやってきた。そこにディアナの劣戦を疑う目はまったくなく、四人とも彼女の勝利を確信していた。
「手出しってもうそいつ何もできないじゃねぇか。ノーダメージで男とサキュバスを倒すなんざ見直したぜ風紀薔薇。」
「今の今まで私の力を疑っていた貴様に褒められても嬉しくはない。ところでどうやって男どもの洗脳を解かせる?」
「言葉が通じるんだから普通に話し合いで解決できないか?男どもの洗脳を解いて返してくださいなってさ。」
「それは無理でしょクロノス。このサキュバスちゃんにとって男ってのはご飯なんだよ?ご飯を全部差し出して飢え死ねなんて言われて大人しく全部差し出すと思う?」
「そうかよ。ならやっぱりトドメ刺した方がいいんじゃね?コイツ倒さなきゃこの野郎どもは解放されないんだろ。」
マーナガルフがツタに絡まれ体力を奪われている男連中を指さす。彼らもツタに体力を吸い尽くされもはや何の抵抗もできないでいる。これではどんなにサキュバスに命令をされても動くことはできないだろう。しかし彼らは今もなおサキュバスの魅了によって彼女の支配下にあることに変わりはなく、このままではずっと操られたままだ。できることなら洗脳を解いて地上へ返してやりたい。
「そもそも儂らにこいつら助ける義理あんのかよ。性欲に負けたあげくに魅了されてモンスターに尻尾振ってるような連中だぞ?…尻尾ってのは前の方に生えてるやつな。」
「ギャグがサブイぜおじいちゃん。俺様だってこんな雑魚っちゃんいちいち助けるようなこと昔だったらありえなかったぜ。でも助けりゃ金目のモンが礼にもらえるだろうがよ。それにこれを借りに今度大きな返しをもらえるかもしれねぇ。冒険者は助け合いが基本だが、それ相応の謝礼の支払いもまた然りだぜ。クランリーダーになってから金とコネはいくらあっても足りないんだよ俺は。稼げるときに稼いどかなきゃな。」
「そういう考えもあるか。まぁ金は大事だよな。金欠は冒険者にとって一番怖いもんだ。」
マーナガルフが男達を助けたいのは、単に謝礼が目的だったようだ。なんとも浅ましい理由かもしれないが金は大事だ。同じクランリーダーとしてヘルクレスはマーナガルフの考えを否定しなかった。
「そうだ。金が欲しいのならこのサキュバスを地上に連れて帰って娼館にでも売ればいい額になるんじゃないのか?見た目はいいしそういうことも積極的にやってくれそうだからいい嬢にならぁ。一流になったら儂も通ってやるぞ?ガッハッハ‼」
「サキュバスの性産業への従事は禁止だぞヘルクレス。客が快楽どころか枯れ果ててまうからな。だいいちダンジョンモンスターは外に持ち出せないから諦めろ。」
「残念だ。あとこの話は母ちゃんには内緒な。」
「わかったわかった…というわけでサキュバスちゃんよ。俺らは君の魔貨に用はないんだ。道を急ぐからこれ以上邪魔をしないなら命まではとらない。君の体力が弱った適当なところで開放してやると約束しよう。だから負けを認めてはもらえないだろうか。」
やってきたクロノス達を舐めるような目で見ていたサキュバスにクロノスが話しかけた。
「(おばさんの仲間の男ども…そうだ‼)」
「どうした?返事をもらいたいんだが。」
「…まぁ命までは取らないのなら…あたいの負けだよ。もう動けない。手を動かす力も残っちゃいないよ。助けてくれるのなら今操っている男達も諦めてひとまず解放してやるよ。また来た奴を操ればいいだけだからね。」
サキュバスは負けを認めてしょんぼした様子で顔を下げてそう言っていたが、次に顔を上げ話を続ける。もちろん先ほど思いついた悪だくみを悟られぬように。
「でも完全に体力を奪うのだけは勘弁してくれないかい?ここはダンジョン内だよ。倒れたままだと他のモンスターに喰われちまうからね。せっかく命が助かるってのにそれはゴメンだ。」
サキュバスがしてきた要求は、他のモンスターに襲われないように体力をある程度残して解放してほしいというものだった。
「頼むよぉ。ちょっと飛べるだけでいいからさ。飛ぶだけならそこまで力はいらないんだよ。」
「どうするディアナ。倒したのは君だからこのサキュバスをどうするかを決める権利は君にあるぞ。」
「わずかとはいえ体力を残すのには不安を感じるが…まぁいいだろう。」
「だそうだ。ディアナの慈悲に感謝するんだな。」
「あぁ、ありがたいよ…」
「では体力の残りを吸わせる。そうしたら解放だ。」
「うぅ…吸われていく…せっかく男どもから集めた精力がぁ…」
ディアナがレイピアを振ってツタを操り、ツタは再びサキュバスから力を奪っていく。力を奪われたサキュバスは脈動を打つツタを未練がましく見たがそれでも自体が変化するわけもなくどんどん衰弱してきていた。
「そろそろ勘弁してください…もうこれ以上は…」
「…そうだな。このくらいでいいか。還れ。」
ツタに体力を奪われ始めて五、六分が経ったかという頃。体力の限界を感じ助命を請うサキュバスの絶え絶えの声を聞き、彼女の体力をぎりぎりまでツタに吸わせたと判断したディアナは、レイピアをもう一度振う。するとツタが送還されてサキュバスから消え、彼女は開放された。
「ぜぇ…ぜぇ…‼」
苦しそうにサキュバスは胸を手を当て、地面に座り込んだ。どうやら本当に体力を倒れる寸前まで奪われてしまったらしい。
「大丈夫か?少し吸わせすぎたか。」
「いや、大丈夫だよ…まだ少しくらいなら…おっと。」
「大丈夫か君?敵とはいえ情けをかけたのに倒れられたらたまらないぜ。」
サキュバスを心配したディアナに大丈夫と告げてサキュバスはよろよろと立ち上がる。しかし足元がふらつきクロノスの方へ倒れ込み、彼に肩を貸された。
「ああ。助かるよ…」
「悪いが少ししたら俺達はすぐに行くからな。時間が無いんだ。」
「ああ…このくらいなら…すぐになんとかなる…よっ‼」
「なに!?」
「いただきまーす…んちゅ‼」
しかし解放されたサキュバスは、隠し持っていた力をすべて使いクロノスに瞬時に急接近。そして誰もが反撃をする間もなく、彼の唇を奪い熱い熱いキスを交わしたのだ。
「ん…んん…‼」
「おいクロノス‼おい貴様…離れろ‼」
突然クロノスにキスをしたサキュバスは、彼の口内へ舌を突っ込み、彼の舌と自分の舌をくねらせて交わらせる。ディアナが必死に引きはがそうとするが、それでも彼女は離れないしクロノスを離さなかった。それどころか手足を絡めさらに強くクロノスを縛り付ける。
「…プハァッ‼いきなりなにを…な、なんだ?力が抜けて…」
「あーまずいよクロノス。サキュバスは男とキッスをすると…」
突然の攻撃でしばらく接吻を許していたクロノスだったが、やっとサキュバスを突き放した。だが矢先に地に手をついてしゃがみこんでしまう。どういうわけか体に力が入らないのだ。その姿を見てシヴァルが若干焦る。
「キャハハハハ‼もう遅い‼力は頂いたよ‼」
「…キスでも精力を奪えるんだ。」
「うぅ…そういうことは…さきにいっておけよ…」
「なんだって!?大丈夫かよクロノス‼」
なんとクロノスはサキュバスに精力を奪われてしまったらしい。シヴァルに教えられヘルクレスは慌てて地面にうずくまるクロノスに声をかけた。
「ああ…問題ない。少し盗られただけだ…血で例えるならほんのちょっと、指の先を包丁で切ったときくらい…」
「オォン?そんだけって…ちょい反応がオーバーすぎやしねぇか?」
「いやこれは…サキュバスの接吻が快楽的すぎて腰がくだけたんだ。さすがはサキュバス…高級娼婦のテクよりもすさまじい…‼」
クロノスは体力を奪われたことではなく彼女の繰り出した口技にやられて倒れてしまっただけらしい。さすがはサキュバスだと何度もつぶやき、快感を脳から引きずり出しては再度味わい改めてサキュバスに恐れおののいていた。
「なんだよ心配して損した。」
「なんだとはなんだ…あ、もう戻った。ふぅ、本当にすごかったんだぞ。俺が今までの人生で体験した異性とのキスの中でもベスト5に入るねアレは。間違いないぜ。」
「他の四人はだれなの?」
「んーとな…」
「んなこと言ってる場合か‼わずかとはいえクロノスの力だぞ‼それを吸ったらどうなるか…」
「この男…思っていた通りすごい精力だ‼ほんのちょっと吸い取っただけなのに力がみるみる戻っていく…今までに堕とした何十人の男を合わせたよりもまだ多いよ‼ホントに人間なのコイツ…このおばさんにゃもったいないね‼」
そう言うサキュバスからはオーラのようなものがほとばしっていて本人も増大した自身の力を実感していた。肌の張りや艶めかしさはこれまで以上に優れたものとなっており、並みの男なら見ただけでいとも容易く魅了されてしまうだろう。
「あちゃー。なんかすっごく強化されてない?」
「なんか前よりもすごくエロくなってないか?儂見ているだけでも魅了されそうなんだが。」
「当然でしょ。クロノスの力だよ。血で言えば一滴程度だったとしてももとんでもない効力があるだろうね。」
「キャハハハハ‼なにこれ!?今ならもっとすごいことができそうだよ‼さぁ、全員やっつけってやるからね‼まずはあたいの新しい魅力で悩殺してやる‼そしたら操って枯れるまで絞り尽くし…て…ててててて!?」
「「「「…?」」」」
新たな力を手に入れ調子に乗っていたサキュバス。そしてクロノス達を手に入れた強大な力を使い魅了してやろうとしたところで、なぜか突然苦しみだした。
「あが…あがが…‼」
「なんだぁ!?枝…?」
苦しげに胸を掻きむしるサキュバス。それから彼女が頭を天へと向けると、口から植物の枝と赤い花が飛び出してきてぐんぐんと伸びていったのだ。そこには蔓も混じっておりサキュバスの体を包み込んでいく。
「もがががが…‼」
「この枝…サキュバスから体力を奪っているのか…?しかもツタの時よりも激しい…」
「ってことは…ディアナか。」
「これは「ドレインフラワー」だ。…種として生き物の体内に入り込み、宿主が体力を増強するとそれに反応して芽吹き、宿主の力をすべて奪い尽くす。貴様を縛っている隙にこっそりと召喚して一つ体内へ仕込んでおいたのだ。あんな戯言誰が信じるものか。」
体をくねらせて悶えるサキュバスを見ながらディアナがそう教えてくれた。 花の正体は彼女が仕込んだ使役獣のひとつだったのだ。ディアナは完全にはサキュバスを信用していなかったらしく、事前に手を一つ打っておいてくれたらしい。
「男を魅了し操る卑しいモンスターだ。この程度で大人しくなるとは毛ほども信じていなかった。だが、だからこそ一度くらい約束を破って襲い掛かって来ても児戯であったと許してやろうと思ったのだ。どうせまた捌けばよいだけなのだからな。」
「もがが…‼」
「うわぁ…なんか可哀そう。」
見た目だけは美人の女性であるサキュバス。そんな彼女が苦しみ口から植物を生み出す光景は男達の同情を誘う。しかしグロテスクな光景だが、なんだか新しい世界の扉を開いてしまいそうな危険さも同時に持ち合わせており、クロノス達はなかなか目を背けられない。
「…マーナガルフなら、ヘルクレスなら、シヴァルなら…シヴァルは体力ないから無理か。とにかくこいつらであれば私は気にしなかった。また縛り上げて体力を奪い放置してこの先へ進むだけだった。…だが。」
「あ…あがが…‼」
苦しそうに口からどんどん伸びてくる枝をなんとか引き抜こうと抵抗するサキュバスにディアナは詰め寄って、彼女の肩に手を置きその耳元に低い声で囁いた。
「貴様が唇を盗んだこの男が、だれのなにかわかっているのか?この男は…‼」
「…もひぃ!?」
枝を払いのけながらもディアナの方を見たサキュバスは恐怖した。植物への対処をしばらく忘れてしまうくらいに。
ディアナのその表情は怒りに満ち満ちており、鬼神にも勝り羅刹すら裸足で逃げ出す…それくらいの迫力があったのだ。
「たふ…け…て…‼」
「断る。貴様のような人の男に手を出す尻軽女は魔貨になっておけ。」
「あ…ああ…‼」
ディアナがサキュバスの全身全霊の命乞いをばっさりと断ると、サキュバスの全身から肌のふくらみがみるみる失われ、どんどんと皴枯れていく。そして彼女に巻き付く枝や蔓がごきゅんごきゅんと脈を打ち吸った養分を体内の本体へ送り届けていく。
「(あたいの美貌…あたいの美しさ…オスを惑わす魅力が…枯れていく…‼)」
既にサキュバスは老齢の婆のようになっており、顔はしわくちゃであった。
自慢の美貌を奪う。サキュバスにとって一番の屈辱を与えながらディアナは彼女を侮蔑的な目で見る。
「最後に一言言ってやろうか…死ね。」
「(あが…)」
それがサキュバスが最後に聞いた言葉。直後に彼女は意識を失い永遠の闇へと旅立った。
「…すまない。少し頭に血が上ってにかけてしまった。」
サキュバスがすべてをドレインフラワーに吸い尽くされそれと一体となり絶命したあと、そこから植物は消えてなくなり後にはサキュバスの魔貨が一枚残された。ディアナはそれを拾い上げ申し訳なさそうに仲間にそう言っていた。
「いいんじゃね?あれをどうするかの権利はテメェにあったんだし。相手が抵抗してきたのなら仕方ないだろ。」
「ちょっともったいなかったような気もするがな。」
「…そうか。さて彼らはどうしたものか。」
サキュバスは消えてしまったが、主を失った男達がまだ残っている。彼らは魔術による洗脳が解けたのか意識を失い倒れていたが、いつ起きるのかはわからない。
「放っておいたらモンスターに襲われるかもしれないな。この人数だ。生きているのに置いていくのも気が引ける。かといってわざわざマップの入り口まで連れて行くのもこの人数だからこそ骨が折れるし…」
「僕は反対だぜ。僕らには時間がないんじゃないっけ。彼らを置いてきたらますますタイムロスだよ。」
「だから助けた方が金になるんだって。」
「ならばこうしよう。」
男達の処遇をどうするかで揉めるクロノス達だったが、ディアナがそれをおさめレイピアを振い、男達の倒れる地面に一輪の青い花を咲かせた。
「この花は周囲にモンスターが苦手な魔力の結界を作り出す。これでしばらくは彼らにモンスターは襲ってこないだろう。スタート地点までの地図と言伝を置いておく。彼らの意識が戻ったら自力で帰ってもらおう。」
「それいいね。採用だよディアナさん。じゃあ僕が地図を描いてあげるよ。」
「食料と水と…あと一応傷薬も少し置いておくか。といっても飯は携帯食くらいしか出せないけど。」
男達の処遇を決めたクロノス達は、倒れる男達の足元にディアナが手紙を書き、シヴァルが地図を描き、クロノスがなんでもくんから取り出した食料と水を置いた。その間にヘルクレスとマーナガルフは離れたところで倒れている男を連れてきてなるべく花の近くに寝かせていく。
「これでよし…と。それにしてもこんなチンケな花で本当にモンスターが寄ってこないのかよ?」
「当然だ。この花ならサキュバスクラスの力のモンスターまでなら近づこうとはしない。マーナガルフ以外は知っているだろう?」
「それはそうだが…」
男達を重ね合わせるように寝かせたマーナガルフの疑問にディアナが答えてクロノス達にも話を振る。彼らもディアナの喚んだ花に信頼を置いてはいたが、クロノスには疑問が残っていたようだ。
「なぁディアナ。この花ってたしか時間が経つと枯れてモンスター避けの効力がなくなってしまうよな?花が枯れるまでにこいつらの意識が戻らなかったら…それとサキュバスよりも強いモンスターがこのマップにいたらどうするんだ?」
「その時は彼らの命運は尽きるだろうな。そうなったらこの男達の運がそれまでだっただけの話だ。その時が来たら諦めろ。そうなる前に目を覚ましてさっさと地上に帰れ。」
ディアナは男達にそこまでしてやる義理はないとそれ以上をするつもりはないらしい。彼らもダンジョンに挑む挑戦者だ。もしものときは覚悟してほしい。これだけ手厚い保護をしたのだからむしろ感謝してもらいたいくらいだ。そんなかんじの視線を一度向けてすぐに向き直った。
「まぁそこまで面倒は見れないよな。じゃあ障害も排除したことだし先へ進もうか。」
「はーい。」
クロノスの号令にシヴァルだけが間延びした返事を返して、それからパーティーはマップの先へゴールを目指して突き進む。
ここまでのクロノスパーティーの被害…なし。
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氏名:ディアナ・クラウン
性別:女
年齢:28歳
ランク:S級
クラス:召喚士
携わった活動(個人):女性冒険者及び女性中心のクランの活動支援(クエスト斡旋、資金援助など)、ビジュアスタ連続婦女暴行事件の犯人拘束及び引き渡し、ヘヴィオークの大規模コロニーソロ壊滅、大規模戦クエスト「ゴブリンキングと次世代のプリンス」陣頭指揮及び敵大将ゴブリンキングのソロ討伐、サウザンドハーレムマウスのソロ討伐、…等
現ランクでのクエスト達成率:90.2%
冒険者としての総合評価:大変に優秀。冒険者は全員彼女の爪の垢を煎じて飲め。むしろ彼女の入浴後の風呂の残り湯を飲み干せ…やったら消されるから真に受けてやるなよ。
S級冒険者の一人で二つ名は「風紀薔薇」。長身でスレンダーな体系の女性であり、普段は戦闘用に動きやすく丈夫に仕立て上げた特別製のレディースのパンツスーツをしている。ネクタイはもちろん薔薇模様。その美しい顔立ちから男装の麗人とも呼ばれ女性ファンが多い。趣味は一日の終わりの入浴。風呂に全身浸からないと気が休まらないとのこと。コアなファンはそのことを熟知しており、彼女に高級な石鹸をプレゼントする。それをまるまる一個使った泡風呂はディアナの小さな贅沢である。
冒険者の規律を率先して正すことを信条としており、彼女の前で不徳を働く冒険者はもれなく楽しくも嬉しくもないただ痛いだけのお仕置きをされる。なお風紀に厳しく男女の交際にも口うるさく釘を刺してくると言われているが、本人は男女の交際に関してはそこまで厳しく取り締まっているわけでもなく、不義密通の類ではなくごくごく健全な範疇の交際であれば何も文句はないらしい。男に相応の甲斐性があればハーレムも否定はしないとのこと。それがなぜ歪曲して伝わっているのかについては、彼女を恐れる素行の悪い冒険者と彼女のファンである黄色い声のファンが恐怖と願望により捻じ曲げた噂を広めたためと思われる。
冒険者クラン「ワルキューレの薔薇翼」のクランリーダーの座を先代より継いでおり、現在はそこの指揮をメインに活動している、そのため本人がクランを離れて活動することはまれ。クランリーダーの仕事の傍らでS級という立場から得られる収入を用いて、見どころのある女性冒険者や女性冒険者が中心となって活動するクランに物資や資金。それに有力な人物や団体の紹介などの援助を個人的に行っており、それのおかげで女性冒険者を中心にあちこちに幅広い人脈を持っている。名のある女性冒険者でディアナに繋がらない者はいないと言われているくらいだ。
ディアナの武器はレイピアで刃は無くもっぱら刺突用。技も突撃系統を好んで使い、斬撃と打撃はレイピアを痛めるのを避けるためにほとんど使用しない。武器を見て彼女の職業が剣士であると言う者がいるがそれは誤りで、正しくは召喚士である。レイピアは召喚の儀式の媒体としての使用が本来の用途。異世界より契約した魔界植物を召喚して使役する。
・異性関係について
これまで彼女には異性関係の話は全くなかった。そのため一時は同性愛者ではないかと所属クランの団員やファンの女性の間で百合百合しく囁かれていたが、それに関しては本人はそちらの趣味はないと否定しており、「自分は普通に男を好む。ただこれだと思った男が今までいなかっただけ。」とのこと。
男を寄せ付けず浮いた話のない彼女だったが、最近になり時々接触している異性がいるらしいことが報告されている。その男の正体を知りたい者がいるかもしれないが、S級を嗅ぎまわっても命の保証がないので余計な詮索はしないことをお勧めする。
・来歴
もとは某国に仕える騎士の家系の出で、自身も騎士となるべく鍛錬に励んでいたが、その国では女子は騎士になり王家に仕えることができないため、出家して国を飛び出し仕えるべき主を探す旅に出た。
旅の途中で路銀を得るために冒険者ライセンスを取得して冒険者になったが、訪れた冒険者の街チャルジレンにて冒険者の素行の悪さと街の無秩序っぷりを目の当たりにし、主探しとい目標を打ち捨て冒険者業界の風紀の改善を決意。しばらくの間はソロで活動しクエストの傍らで目を付けた冒険者に片っ端から教育を施す日々を続けていたが、偶然出会った当時のワルキューレの薔薇翼のクランリーダーに気に入られ、ディアナ自身も納得して同クランに所属することに。そこで頭角をあらわしランクをあれまあれまと上げてあっという間にS級まで上り詰め、先代からクランリーダーの座を渡されて就任。現在に至る。
~筆記されるギルド職員の皆様へのお願い~
冒険者個人詳細資料はギルド職員なら誰でも自由に作成・編集が可能なフリーの資料です。個人を誹謗・中傷するような内容や根拠の無い情報は書き込まないでください。この資料は皆様の善意によって成り立っております。ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。
それと現在本項の冒険者には担当職員が着いておりません。ギルド職員連盟では、本項の冒険者の担当職員を募集しています。我こそはと思う方は、幹部のガルンド様までお願いします。なお一定の能力を持つ者とディアナ氏へ一切の下心の無い者に限ります。
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ヤッタ…ヤット、ナツヤスミダ…コウシンデキル…