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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第136話 そして更に迷宮を巡る(ゲート開放直前の中央広場での出来事)


 迷宮ダンジョンンのゲート開放まであと十分ほどといったところとなった。広場でダンジョンへの侵入を待つ者達の興奮は次第に強くなっていく


「イグニス達が来たぞー‼」


 そんななかで誰かの呼び声で人々がそちらを振り向けば、通りからぞろぞろと中央広場に百人を超える大集団がやってくるのが見えた。


 その集団は皆が頭から足元までしっかりとした武装を整えていつでもダンジョンへ入れるようにしており、その顔も俺達ならば成し遂げられると絶対的な自信に満ちていた。


「すげぇ人数…」

「まったくだ。百人はいるぞ…‼」

「真ん中くらいにいるの前に結託してマップ埋めしてた連中だぜ。イグニスの下についたんだな。」

「一番前にいるのがイグニスか。Bランクにしてはいい面構えだ。」

「C級のおめぇが格上みたいなこと言ってんじゃないよ。」

「まったくだな。だが言わんとしていることはわかるぜ。今のあいつ…怖いものなしって感じだぜ。」

「てめぇに至ってはD級じゃねぇか雑魚が。…お、先頭にイグニスがいる。ったく、短期間でいいご身分だねぇ‼」


 彼らの先頭にいるのはエリクシールを見つけたイグニス達のパーティーで、つまりこの集団は彼らが結成した二十五階層攻略のための大集団というわけだ。彼らの存在はいまや迷宮都市で一番の話題となっており、その中でもリーダーのイグニスはその中で良くも悪くも目立っていた。


「オラオラ俺たちゃあ街で噂のイグニス様率いる大攻略団だぞ‼道を開けやがれ‼」

「それともお近づきになりたいってか?サインなら銀貨一枚だ‼」

「やめろお前ら。恥ずかしい…」

「いいじゃねぇかよイグニス。ずっと日陰者だった俺達のパーティーがここへ来てようやく日の目を浴びてんだ。ギースとヴァリストも興奮してんだよ。」

「…マットも甘いな。お前たち‼まだエリクシールを手にしたわけじゃないんだからあまり騒ぐな。…そら、ガルンドさんが来たから大人しくしろよ。」

「おお、待っておったぞイグニスよ。」


 イグニス達の大規模攻略チームをゲートの前で出迎えのたのはガルンドだった。彼はイグニスの後ろに続く彼の仲間達を適当に数えながらイグニスに声をかける。


「また増えたか?昨日の今日でずいぶんたくさん集めたものじゃのう。」

「昨日あんたと別れた後にかけた募集で前から攻略団を作ってたところを丸ごと取り込めたんだ。質は玉石混合といったところだが、今は数だけでもありがたいからな。」

「そうじゃな。儂らギルドとしても過度に争うよりは共闘してもらったほうが大きな騒ぎもおこらんから助かる。幸いなことにエリクシールはいくつもあるとお主らが教えてくれたおかげで我欲の強い冒険者も組むことを覚えてくれたの。」


 ガルンドが集めたのは殆どが冒険者だった。その中には実力はあるが暴れん坊や問題児で有名な者も混じっていて、ガルンドとしては彼らがまとめて仲良くしてくれていることに一安心といったところだ。


「それでは俺達が最初にゲートに入らせてもらうということでいいな?」

「数は多いが…いや、数が多いからこそさっさとダンジョンに入れた方がよいじゃろうな。それがイグニスの攻略団となれば皆も納得するじゃろう。どうせ先に入らせたところでエリクシールのあるマップに全員が出るわけではないしの。…本当なら特権を使って先に入ってきそうなのが五人ほどおるからそちらが来るのを待っておったのじゃが…まぁ来る気配もないしもういいじゃろう。入り入り。」


 ガルンドは未だに姿を見せない顔見知りたちを待っていたのだが、その中のただの一人もどこのゲートにも来ていないらしい。彼らを諦めひとまずはイグニス達を先にダンジョンへ入れることにして、集団を招き道を開けてダンジョンのゲートの前まで彼らを進ませた。


 大集団であったが攻略団はなんとか全員がゲートの前まで来れた。そしてイグニスは全員に聞こえるように声を張り上げてダンジョン内での作戦の確認を行う。


「手はず通りパーティー単位でダンジョンに入る。二十五層目まで進まなくてはならないパーティーは同じマップで他の仲間に出会ったら、お互いにモンスターとの共闘や罠の解除。マップの情報や薬や食料の提供で協力しあうこと。その方がマップの攻略は早いからな。次に二十五層目を探索するパーティーは俺達が行ったマップ以外に出たら、意味がないから地上に引き返してほしい。それからはエリクシールのマップに出るまで毎日ゲートに出入りしてもいいが、埒が明かないとあきらめたのなら…そこより楽な階層で他のパーティーを補助していても構わない。」

「目当てのマップに出たらどうするんだよ?」

「目的のマップに出たら可能な限りそこに留まり、他の誰かが来るまで罠の解除やモンスターの間引きをしていろ。俺達はそうしながらそのマップに出て何組か仲間が来るのを待つことにする。いいか?俺達は数であそこの守護者を倒すんだ。絶対に欲をかいて単独で守護者に挑まないこと‼」

「わかってるって‼だいたいあんたらが一番に行って見張ってるんだから悪さなんてできないさ。」

「俺はお前についていくぜ‼」

 

 イグニスが発言するたびに攻略団の誰かが茶々を入れる。中には将来のSランク様だの未来の大富豪様だのいろいろ言ってきて彼を褒め称える者もおり、イグニスは止めろと言いつつも照れくさそうにしていた。


「止めてくれお前ら。俺はまだB級だ…おほん。俺達の目標はエリクシール一点のみ。それがあるマップに一人でも多くたどり着いて全員で守護者を倒すのだ‼そうすればエリクシールの入った宝箱を一つ残らず持ち帰れる。それを皆で山分けだ‼」

「おう。今回は仲良くやろうぜ‼」

「ダンジョンの中で会ったらよろしくな‼」


 手はずを伝えられた仲間達は返事をして隣と改めて握手をしたりして友好を見せつけていたが、それが仮初の関係であることはこの場の誰の目にも明白だった。


 協力関係などと聞こえはいいが冒険者が欲を張るなとは意味のない念押しである。おそらく何組かはダンジョン内で出会ってもまともに協力せず、場合によっては相手の妨害もしたりするだろう。最悪の場合命だって奪ってくるかもしれない。人の目のないダンジョンでは死人に口なしなのだ。イグニスだってそのことは十分に承知しているのでいざという時は切り捨てる覚悟で臨んでいた。


「(せいぜい仲良くしておけよ。なぁに、俺達は自分の分のエリクシールを手に入れられればそれでいいんだから、真面目に強力してくれれば見返りはいくらでもくれてやる。)」

「ではイグニス達のダンジョンへの入場を許可する。おい、開けておくれ。」

「はい。」


 準備が終わったイグニス達をダンジョンへ入れようとガルンドが職員にゲートの前のバリケードを退けさせて、それからイグニス達を前に進めた。


 そしていよいよ先頭のイグニスがゲートをくぐろうとしたところで…



「ちょっと待った。」

「…‼」


 何者かが彼の行く手を遮ってイグニスの足を止める。しかしそれが誰であるのかはイグニスにはすぐにわかった。その人物は男で、紅い目をしていたからだ。  


「終止符打ち…あんたか。」

「よぉイグニス。随分と大人数の頭になったじゃないか。」

「ふっ、こいつらとは所詮利をとって一時的に組んだにすぎん。目的を達したらすぐに解散するさ。」

「きちんとその辺りを理解しているのなら問題ないか。偶に一時の徒党を自分の山だと勘違いしてそのまま落ちぶれる奴がいるんだよね。その点君は優秀な冒険者だな。」


 男の正体はご存知の通りクロノスだった。イグニスは彼と顔を見合わせたが、両者険悪な仲というわけでもないので特にどうということも無い。クロノスはイグニスのことを褒めていた。


「おぉ、クロノスか。今までどこに行っておったんじゃ?」

「俺がどこに行ってたかなんて些細な事だ。それよりガルンド爺、俺は特権で優先的に入れてもらえるんだろう?そこの集団には悪いが先に入れさせてもらうぜ。そっちを待っていたら時間がかかりそうだからな。」


 そう言ってクロノスはイグニス達とその後ろの列を待つ連中をちらりと横目に見て、彼らよりも先にゲートを使用させろと求めてきた。


「お主が来ないからイグニス達を先に入れようと思っておったんじゃが…」

「おらテメェ横入りすんな‼」

「ハイドラゴンバスターと仲良さげだが俺達が先だぞ‼」


 ガルンドがクロノスを先にダンジョンに入れるか悩んでいたが、そこに後ろで列に並んでいた者達から野次が飛んでくる。彼らは何時間も前からまだかまだかと待っていてそこにイグニス達が入ってきたため順番を後回しにされていたので、そこに更に順番が下ると聞かされたらこの反応は当然だろう。


「落ち着けお主ら。納得いかないかもしれんがこういう決まりなんじゃ。ダンジョンをより効率よく調べるために実力者には特権を…これは昔からある決め事じゃ。悔しければお主らもはよう上にいくがいいわい。」

「でもこういう時に限って…なんかずるいぜ。」

「そもそも実力者って言うけどよぉ、その紅目の胡散臭い男は何者なんだ!?」


 ガルンドが決まりだと言って窘めるがそれでもまだ納得いかない人間が文句を言っていた。彼らはおそらくクロノスが何者なのかを知らないのだろう。彼の特徴的な紅い目を見てもその正体に気付いていなかった。


「終止符打ちを知らないとは無知なやつらじゃわい。いや、震え上がらないということは悪さをしていない善良な連中ということかの。さてどうしたものか…とりあえずイグニスはクロノスを先に入れても良いのかの?」

「特権なら仕方ない…いいだろう。攻略団の総意として俺が認める。どうせ一人やそこら先に入れたところで何が変わるとも思えん。エリクシールを手に入れるのは俺達だ。」

「一人?おいおいイグニス君…だれが俺一人で行くと言ったよ?」

「違うのか?仲間の姿が見えんから二十五層にはお主一人で行くことにしたのかと思っておったが…」

「仲間ならきちんといるぜガルンド爺。…あれ?あいつらどこに行った?」


 ガルンドに仲間の所在を尋ねられたので、クロノスが仲間を紹介しようとその姿を探すが、近くには誰もいなかった。


「まさかあの年で全員迷子かよ…困ったもんだな。…いた。クランの人間に挨拶してたのか。そりゃしとかないと混乱するもんな。」


 あちこちを探し続けたクロノスだったが、目的の人物立ちは広場にいたそれぞれの知り合いにの所にいた。



 まず一人目。


「あ、あなたは…‼」

「セレインよ…そこまでお前たちの決意が固いのならば私はもう止めまい。ただし、必ず一人も欠けることなく帰って来るのだぞ。」

「は、はい…わかりました‼」

「リルネ。引き際を見極めるのがお前の仕事だ。サボるなよ?」

「はいはーい。お任せあれです。目はキチンとキラッと光らせますー。隊長殿の方こそ人目がないからってお兄さんと盛っちゃダメですぜー?」

「フフ…他にもメンバーはいるからな。羽目は外さないさ。」

「どうして隊長自ら…しかもあの男と…」

「なに、その方が手っ取り早いと気づかされたのだラウレッタよ。というわけで十層目の方は任せたぞ。」


 

 次に二人目。


「そっちはお前たちに任せる。地上の組は儂が戻ってくるまで仲良く壊した街の修理でもしとけぃ。」

「あ、あい…」

「なんで?どうして親分はあいつらと…」

「その方が手っ取り早いからな。儂らはあいつの分が手に入れば方法はどうだっていいんだからよ。」



 ほい三人目。 


「お、様子を見に来たのかアルゲイ?なら地上の奴らはしっかり働かせておいてくれよな。」

「あ、ああ…でもどうしてあいつらと組んだんだ!?」

「あん?その方が手っ取り早いからに決まってるだろ?」



そんで四人目。


「というわけで…僕は彼らと行くことにしたからね。後はよろしく。」

「えっと…どちら様?」

「…あれ。そういえば僕には連れがいなかったよ。誰だよ君。あはは…」

「なんだコイツ…」




「おい君たち‼これからダンジョンに入るんだから早く集まれ‼おんなじタイミングで入らないと意味ないぞ‼」

「おっといけない…それでは私は行ってくるから後は頼んだぞ。」


 クロノスが呼んだのでセレイン達のところに行っていた女がゲートの前に向っていく。他の男三人も同様に仲間に挨拶してからゲートの前に集まった。


「お、おいあいつら…」

「どどどどうして…」

「あはは…さっきの冗談。冗談ですって。」


 クロノスが呼びよせた仲間を見た挑戦者たちは、次第に野次を薄めていく。その顔はみるみる青ざめていっており、中には先ほどの野次を撤回してクロノスに謝罪する者さえ現れる始末。


 ガルンドとイグニスもまた彼らと同じように顔を少し引きつらせていて、集まったクロノス達五人のパーティーのメンバーをそれぞれ眺めていた。


「ほう…こうきたかクロノスよ。よくまとめられたな?」

「だってこの方が手っ取り早いって全員意見が一致したし。」

「確かにその通りじゃがな…加減を考えんか。」

「終止符打ちよ…いくら何でもこれは大人げなさすぎではないか?」

「悪いなイグニス。君たちが数で挑むならこっちは質をとることにしたんだ。」

「待たせたねクロノス。皆もいいみたいだよ。」

「そうか。それじゃあ準備もできたしぱぱっとダンジョンに…」

「おおそうじゃった。ダンジョンに入る前にこれを書いておくれクロノス。」


 いよいよダンジョンに入ろうとするクロノス達だったが、その足をガルンドが止める。そして彼が差し出してきたのは、一枚の用紙だった。


「これは?」

「ダンジョンに挑戦中の人間を把握せねばならんから入る前に挑戦者の名前と所属と…冒険者ならクラスを書いておくれ。これだけの人数がいるとなるとギルドでも管理しなくてはならんからの。イグニス達は人数が多いから先に書いてもらっておる。」

「そういうことか。なら俺が全員分書いておくぞ。」


 ガルンドから容姿とペンを受け取ったクロノスは、挑戦者の名前を自分も含めて全員分ぱぱっと記入してからそれをガルンドに返した。


「…記入間違いなしと。これでよいじゃろう。ま、儂から言えるのは一人も欠けることなく帰ってこいということだけじゃの。」

「爺さんよぉ。俺らの中で誰が欠けるって言うんだ?ギャハハ‼」

「その通りだな。ガッハッハ‼」

「儂じゃってそんなことは天地がひっくり返るよりもありえないことじゃと思っておるよ。じゃが言うじゃろう?冒険に絶対は無いとな。」

「だよな。爺さんならそれ言うと思った。…それじゃあ行ってくる‼」


 ガルンドに手を振り、クロノス達はゲートの向こうへ消えていった。





「…ふむ。クロノス達も行ったことじゃしお主らももう行ってよいぞ。」

「あ、あぁ…クソ、俺達も負けてられるか‼」

「ああ‼格上がなんだ‼下剋上だ‼みんな行くぞ‼」

「「「うおぉぉぉぉ‼」」」


 クロノス達が消えてから、続いてイグニス達も負けられないとどんどんとパーティー単位でゲートに入っていく。


「さて…エリクシールを手にするのはどの勢力になるのかの?老骨が震えるわい。」


 次々とゲートの向こうへ消えていくイグニスの攻略団を見送りながら、ガルンドはクロノスが書いた紙をちらりと眺めるのだった。


――――――――――

挑戦者リスト

・クロノス・リューゼン(S級・猫の手も借り亭)

・シヴァル・ビートイーター(S級・無所属)

・ディアナ・クラウン(S級・ワルキューレの薔薇翼)

・マーナガルフ・ブラスティア(S級・赤獣傭兵団)

・ヘルクレス・バーヴァリアン(S級・バンデッドカンパニー)


――――――――――


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