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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
110/163

第110話 引き続き迷宮を巡る・二日目(迷宮ダンジョン内??層目での出来事)


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スキルのオーブ

希少度(七つ星評価):☆☆☆☆☆☆★

予測価値:金貨百枚~


 ダンジョンで見つかる宝箱の中から極々まれを超え、さらにまれに見つかることのあるお宝。形状は半透明の球体で中にはオーブごとに異なる色の模様がある。大きさは掌に収まるくらい小さい。


 割ると割った人間にオーブの中に入っているスキル。すなわち才能が付与され、付与された人間はそれまで持っていなかった非凡な力に目覚める。才能の中には時として人智を超えた者も存在する。スキルの付与される原理についてはオーブの魔術的な要素が関与しているとみられるが詳しいことは不明。


 オーブの中のスキルの種類はギルドの各支店に常在している鑑定の資格を持つ職員が調べることができるので、発見者はまずギルドの支店に持ち込み鑑定をしてもらうこと。鑑定後はギルドが発見した冒険者から預かり競売にかける。スキルの需要によるがいずれも高価でありその価格は最低でも金貨百枚は下らない。

 ギルドが預かり代理で買い取り手を探す理由について、過去に「国家運営」なるスキルが発見され、これを見つけた冒険者が個人で買い手を探して情報を流布したところ、オーブを巡って国家間で数多の血が流れたことに由来する。  


 非常に希少性の高い宝であり、大陸中での発見例はギルドが把握している物で年におよそ百前後である。しかし実際の発見数はその十倍ともいわれている。極端に数が少ない理由については、発見した冒険者が持ち帰るまでに息絶えた。ギルドに報告せずに自分で割って使用した。そもそもスキルのオーブを知らないのでガラクタと間違えて捨ててきた。などが挙げられる。特に三つ目の理由についてはスキルのオーブの知識を持つ者が高い希少性を維持するためや知らずに手にした者から安く買い叩くために情報を意図的に伝えないようにしているとの報告がある。 

 

 ギルドではスキルのオーブについての研究や情報収集を行っており、特に発見した冒険者によるギルドへの持ち込みは最も重要である。オーブの発見例も少なくどんなオーブであっても大切な資料となり将来の冒険者ギルドの益となるので、発見・入手した冒険者はすぐにオーブを割ってスキルを得ようとしたり勝手に購入者を探したりせず、必ずギルドの支店にてスキルの種類を鑑定すること。


 冒険者ギルドでは今後もスキルのオーブについての研究を進めると共に、冒険者のスキルのオーブについての知名度を更に深めてもらって支店への持ち込みを増やしていく所存である。


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「…なになに!?何が起こったの?」

「う…眩しい。」

「目が痛いかも…」

「落ち着け。暗いから強力な閃光で一時的に目を潰されたんだ。こればっかりはセーヌの治癒魔術でもどうにもならないな。無理に動くなよ?慌てずにゆっくりと、少しずつ瞼を開けて慣らしていくんだ。」

「う、うん…」


 目が潰れるくらいに眩しい光を目に受けたクロノス達。全員が手や腕で咄嗟に目を庇ったがそれでも文字通り高速の光の速さには追いつけない。完全には防げずに目をちかちかとさせていた。


「全員目を潰されてしまったようだな。こんな時にモンスターにでも襲われたら大変だぞ?」

「そこまで心配しなくても大丈夫でしょリリファちゃん。だってここはスタート地点で…」

「リリファの警戒は正しいぜ。油断しない方がいい。とはいえ俺が耳を立てているから安心しろ。」

「どういうことですの?…あら、だんだんと目が…」


 目は見えなくなったがここはスタート地点なので警戒の必要はないと考えた仲間達だったが、クロノスはそこに喝を入れた。その意味がよくわからないイゾルデだったが視界の全てを覆っていた光がようやく収まっていき、一行はやがて視界を取り戻すことができた。


「びっくりした~!!もう一生目が見えなくなるんじゃないかと思っちゃった。」

「さっきの光はなんだったんだ?」

「あれは…」

「ねぇ!!水晶が無くなってるよ!!」


 周囲の確認をしていた中で最初に異変に気付いたのはアレンだった。彼が指さす先、さっきまで部屋の中にあったはずの赤と青の水晶が姿をすっかりと消してしまっていた。


「もしかしてさっきの光で壊れっちゃったとか…!!」

「ええ!?それじゃあゴール見つけるまで帰れないじゃん!!」

「大丈夫だアレンにナナミ。水晶が無くなったわけじゃない。俺達が…別の場所に飛ばされたんだ。」

「飛ばされた…?」

「ああ。壁も地面も微妙にさっきと違うだろう?」

「そういえば…」


 クロノスにそう言われてアレンが足元や壁をもっとよく観察してみると、確かに壁の模様と地面の土の色が先ほどと異なる。極めつけは壁にある通路へと続く穴で、さっきは一つしかなかったのに今は左右に一つずつ、計二か所にできていた。


「通路が増えてる…これは一体…」

「さっきの宝箱に仕掛けがしてあったんだ。壊したり燃やしたりして宝箱が破損すると転移の魔術が発動する呪いがな。」

「転移魔術…じゃあここは六層目のマップのどこかってこと?」

「いや…それだけなら壁の色まで違うのは変だ。同じマップどころか違う階層かもしれん。…ったく、古代の先輩もえげつないことしてくれるじゃねえの。もっと後輩への思いやりの心を大事にしてもらいたいね。」


 慌てるアレンを落ち着かせたクロノスは壁や床の色でここが先ほどまでいた六層目と異なる階層のいずれかであると予測を付けて、更に詳しく調べるためにあちこちを触りだした。


「見ただけでわかるんですの?」

「見ただけでは特定できないからこそこうしてあちこち触ってみてるんだ。もちろん罠を作動させるなんてヘマはしないから安心してくれ。」

「本当に大丈夫?なんかのフラグじゃないよねソレ。」

「フラグ…まーた君は故郷の言葉を使って不安を煽る。わかってるから心配するな。…うーん。細かくは分からないがかなり下の方の階層まで飛ばされてるみたいだ。おそらくここは…」

「ね、ねぇ…」


 心配するイゾルデとナナミにそう受け答えて鑑定を終えかけたクロノスに、アレンが不安げな表情と声で話しかけてきた。


「どうしたアレン?」

「ここが六層目じゃないってことは分かったんだけど…この部屋に水晶が無いってことは、ここはマップのどこかにある小部屋なんだよね?」

「そうだよ。だからモンスターが襲ってくる可能性だってある。だから二つの穴からモンスターが入ってこないかよく見張って警戒を怠るなよ?」

「…もういるんだけど。」

「もういる?ははは、何言ってんだ。いたら俺がとっくに気づいて…って、ええ!?」


 アレンにそう言われてクロノスが笑いながら彼の指差す先に振り返れば、通路へと繋がる穴の一つに一匹のゴブリンが立っていた。突然の敵の出現にクロノスは思わず驚いてしまう。


「…」


 そのゴブリンは全身どす黒い黒色であること以外はブサイクな面にボサボサの髪。口から飛び出した不揃いな二本の牙についでに膨れた腹のでべそつき…ようは冒険者にとって見慣れた普通のゴブリンだった。目の前の個体のその他の特徴として右手に錆び付いたナイフを持っているが、コブリンにも武器を持つのはいるため特に珍しいというわけではない。


「…ギャギ。」


 ゴブリンはクロノス達を見ても騒ぎ立てるようなことはせず、目をぎょろぎょろと動かしてまるで商店の陳列棚に並べられている品を値踏みするかのように一人一人を観察していた。


「(気配が無かっただと…!?黒いゴブリン…まさかな。)」

「なんだゴブリンじゃないか。脅かしてくれる。」

「黒色…初めて見た。レアモンスターかな?」

「ゴブリンくらいならおいらが一人で倒すよ!!」


 襲い掛かってくる気配を微塵も見せようともしない黒いゴブリンにクロノスは何か悪い予感を感じていたが仲間はそれに気づかず、そればかりか現れたのがゴブリンであったことに安堵していたようだった。そしてアレンが前に出て手に大嵐一号を構えて前に飛び出した。


「待てアレン…油断するな!!」

「わかってるよクロノス兄ちゃん。ゴブリン相手でも気は抜かない…仲間を呼ばれたりしたら面倒だから一撃で終わらせてやる!!」


 止めようとしたクロノスに大丈夫だと念を押してからアレンは敵に向かって真っすぐと走りだし、やがて敵との接触二メートル手前で急に立ち止まって大嵐一号の先端の槍先をゴブリンに向かって突きだした。


「…!!」


 襲い掛かる槍先に気付いてそちらに視線を移すゴブリンだったが、それでもなおその場を動こうとはしなかった。アレンはそのことをただ単に急な攻撃に驚いて動けないのだろうと決めつけて、疑問に思うこともなく槍先を更に前にと突きだす。


「先手必勝…「封じ突き」!!」


 アレンが繰り出したのは敵の攻撃を受ける前に敵から離れた範囲外の距離から一撃必殺を狙う突き技である封じ突き。武器のリーチの長さを活かした槍を扱う冒険者が扱う技で最もポピュラーなそれをを繰り出して、ゴブリンの胸目掛けて一撃を与えた。


「…ギャギ。」

「…なんだって!?」


 アレンの放った一撃は確かにゴブリンの胸を刺し貫いたかに思われた。しかし槍先はゴブリンの胸を突き刺すことなくまるで鉄に当たったような硬く鈍い音を奏でると、あっさりと弾き返されてしまったのだ。


「そんな…!!」

「やっぱりあいつは…アレン下がれ!!君にはそいつは無理だ!!」

「えっ…」

「…ギャウ!!」


 敵の正体に気付いたクロノスはすぐにアレンを呼び戻そうとしたが、彼は技が弾き返されたショックで動けないでいた。黒いゴブリンはその隙を見逃さず静観を終えて突然牙を剥いて襲い掛かってきた。


「うわっ!!」

「危ない…投合刃(スローイングナイフ)!!」


 黒いゴブリンが飛び跳ねてアレンに組み付こうとした瞬間、リリファが咄嗟に太股のホルダーからナイフの投げ技を放った。


「ギッ…!!」


 ナイフはアレンを掻い潜りその先の黒いゴブリンに当たりそうだったが、それをゴブリンは後ろに飛び退くことで回避する。


「…ギャギ。」

「リリファ姉ちゃんありがとう…」

「気にするな。しかしあいつ…投げ技を避けただと?ゴブリンにそんな知能があるのか…?」

「考えるのはあとあと!!物理がだめなら魔術で対抗!!ファイア・ボール!!×3!!」


 後ろに跳んで攻撃を回避したゴブリンの判断力とそれを実行できた反射神経の良さに驚くリリファ。そんな彼女の前に今度はナナミが飛び出して、黒いゴブリン目掛けて火球の魔術を三つ飛ばした。


「…ギャ!!」

「…嘘ぉ!?ファイアボールを…!!」


 しかし迫りくる火球を前に黒いゴブリンは動かず、なんと火球を空いている左の素手で掴み握り潰してしまったのだ。それも三個とも連続で。最後にゴブリンは掌から出た燻る煙を手を振って払った。


「なにこいつ…」

「…ギャ?」


 物理の攻撃も魔術も効かず驚く三人。攻撃を殆ど無傷で躱したゴブリンはまるで「もう終わりか?」と言わんばかりに鼻を鳴らして三人に挑発していた。


「三人とも、おさがりなさい!!」

「次は私たちが…!!」

「待った。」


 今度はアレン達三人よりも実力が上のイゾルデとセーヌがそれぞれの武器を構えてゴブリンと戦おうとしたが、それをクロノスは手で制して止めた。


「何故止めるのですか!!」

「おかしいと思わないのか?普通のゴブリンがここまでやれるかよ。」

「そういえば…」


 前に出たイゾルデはクロノスに抗議したが彼に問いかけられ少し考えた。


 イゾルデは特別ゴブリンに詳しいと言う訳ではない。頭の中の記憶にあるのもイザーリンデとして城にいた時に城で勉強したモンスターの知識の中にいたことと、ポーラスティアの騎士団に嗜みの稽古をつけてもらっていた時に訓練と慈善活動の一環で王都の近隣の森で行ったモンスター退治で相手のモンスターの中に混じっていた程度であり、此度のダンジョン探索においても一層目や二層目で出くわした程度だ。


 しかしそれだけの経験であってもゴブリン=モンスターの中でも屈指の雑魚という認識は十分に持てたし、それ以上に強いゴブリンがいるという想像もつかなかった。ならば目の前のゴブリンはどうだろうか?決して強者という訳でもないがそれでも並のモンスターならばダメージに繋がりそうな三人の冒険者の術技を受け止め、躱して、握り潰した。それだけの存在が本当に、あの、ゴブリンなのだろうか…イゾルデはそこで初めてあのゴブリンがただ黒いだけではないと言うことに気付いた。


「もしかして…すごく強力なモンスターなんですの…?」

「そうだよ。ゴブリンが魔術を握り潰した時点でおかしいって気付けよ。君の考える通りあの黒いゴブリンはただのゴブリンじゃない。あれは…「ブラッドネスダークゴブリン」。ゴブリンの中でメチャクチャ強い種類だ。」

「ブラッドネスダークゴブリン…私は存じ上げませんが…」

「地上だと人の住んでいない土地のはるか山奥に生息するモンスターだから資料も少ない。知っているのは俺やシヴァルみたいな一部の物好きだけさ。だからセーヌが知らなくてもそれが普通だ。こいつはとにかく残虐なモンスターでな…昔群れのリーダー争いの闘争で負けて棲家を負われたオスの個体が野を越え山を越えた先に会った辺境の小さな村にたどり着いてしまい、そこに暮らしていた村人九十人を皆殺しにしてしまったんだ。村にだって自警団や常在する国の兵士が何人もいた。それなのに手負いで、しかも老いた個体が一匹でやったんだ。」

「たった一匹で…!?」

「あいつは強さと同時に冷静さと狡猾さ…それに賢さを持ち合わせた強者だ。動かないのは多対一であるから確実に一人一人潰すため。同時に俺たち全員の実力を見るためだろう。もしイゾルデとセーヌでも倒せずあいつが俺達全員が大したことがないと判断すれば、奴は大声で仲間を通路から呼んで袋叩きにするぜ。」

「もし援軍が来ても反対の通路から逃げれば…!!」

「おそらく両の通路とも奴の仲間で一杯さ。…そうだろう尖兵くん?」

「…ギャギ。」


 暗い通路の奥から見えてくる輝くいくつもの目の光があった。クロノスはイゾルデとセーヌが飛び出してくるのをずっと黙って待ち構えていた黒いゴブリンに尋ねるが、彼は「その通りだ。詳しいじゃないか?」と言わんばかりに返事をした。


「あのゴブリン言葉がわかるんですの…!?」

「イゾルデ様。モンスターの中には人の言葉を理解する賢いモンスターもおります。中には自ら言葉を紡ぐ個体も。」

「それは書で目にしたことがありますが…実際に会ってみるとまた違った感想を持ちますの。」

「クロノス兄ちゃんよく知っていたね?すごく珍しいモンスターなんでしょ?」

「さっきの話で出てきた個体を倒したの…俺だからな。クエストの資料は可能な限りヴェラに集めさせるし、それを読むのが俺という冒険者なんでね。あいつと戦った生き残りの兵士が町まで伝えに来てたのが大きかった。」

「そんなやばいモンスターがなんで…!!」

「なんでかと問われれば当然ここがダンジョンであるからとしか言いようがないな。なんでもありだ。ただ…奴がいることからしてもやっぱりこのマップは随分下の階層っぽいな。悪いが君達に相手をさせることはできない。こいつ相手では練習なんてできない。…格上すぎてな。俺が行くから君達は通路を見張れ。」


 クロノスは全員に通路を見張るよう指示を出して剣を鞘から抜いて前に構える。その紅い目には冗談の一欠片も無いような目の前の敵を排除する本気の色があった。


「よぉ、会うのは二回目かな?いや…俺と君は初対面だよな。スマンスマン。ゴブリンの見分けは人間にはつき辛くてね。俺の知っている君の仲間がゴブリン界でも屈指のブサイクで、君が同界でとんでもない絶世の美貌の持ち主だったとしたら許してほしい。」

「…ギャウ!!」


 これまでの人間とは違い強者である。ゴブリンは正しくそう認めて普通のゴブリンのように下品に鳴いた。そして右手の錆びたナイフをクロノスを真似るように前に構えると、視線を目の前のクロノス一人に集中させた。




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