第108話 引き続き迷宮を巡る・二日目(迷宮ダンジョン内六層目での出来事)
五階層目の落とし穴に飛び込んで下へ下へと落下し続けて何分の時が経っただろうか。…多分五分くらい?とにかく、それくらいの間穴の中を落ち続けていたクロノスはついにその先に光を見つけた。
「がしがしがし…お!!ようやく出口か…ハイ歯磨き終わりにしよーっと。ブクブクブ…ぺっ…!!」
落ちる間ずっとすることもなく暇だったので四層目での食事の後にやり忘れていた歯磨きを終了して、真横に口の中を濯いだ水を吐きだしてからクロノスは足を下にして受け身の体勢を取った。
「――――よっと。はいナイス着地!!」
穴から出てきたクロノスの真下にあったのは、ふかふかの巨大な綿でできたクッションだった。クロノスはそれに驚くこともなく見事に着地を決めて、バウンドして一回転を決めてから地面へと降りた。
「次の階層へと繋がる落とし穴って大抵落ちた先でこういったクッションが置いてあるから、落下死することもないんだよな。…時々置いてないこととか壊れているときもあるけど。」
「ギギー!!」
クロノスはさらっと怖いことをポツリと呟くが、実際にはこうやってクッションが無事設置してあったのだからそれでよしだとそれを忘れることにした。
「さてお次のマップは…なんだ。普通の迷路じゃないか。ツマンネ。」
周囲を見渡すと、そこは冷たく固い土がむき出しになったままの地面と石造りの壁があるごくごく普通の迷路だった。穴の最中で見た光は壁の松明の炎だったようだ。これが仲間達ならば久しぶりに普通のマップだと諸手をあげて喜ぶことだろうが、あいにく何百ものダンジョンに潜ってきたクロノスにとっては面白くもなんともない。がっかりとばかりにため息をついていた。
「まぁそんなことよりもだ。先に送った可愛い団員達と麗しき我が雇い主様はどちらにいらっしゃるのかね?か弱い彼女たちの柔肌にモンスターの毒牙が刺さったら大変だぜ。」
「ギギー!!」
気持ちを切り替えたクロノスは先に落ちてきたはずの仲間の姿を探すが、この部屋にはクッションと天井に開いた大穴以外には壁に開いた通路へと続く横穴があるだけで誰もいなかった。
「なんだなんだ?あいつら俺を待たずに先に行ったのか?困った子猫ちゃんとお転婆姫様だぜ。通路への穴は右の壁に一つだけだからまずは「ギギー!!」…うるせぇ!!」
仲間達がどこへ行ったのか考えていたクロノスだったが、先ほどからクロノスの周囲を飛び回って下品な鳴き声を喚き立てる人一人程もある巨大なコウモリのモンスターについにキレた。そうなのだ。クロノスがこの部屋に飛び込んでからの間そいつはずっといたが、彼は面倒だったので無視していたのだ。
「ギギー!!」
「さっきからギーギーうるせぇ!!いいかコウモリくん。構ってほしいときは逆に静かにして相手の注目を引くのが今時のトレンドなんだぜ?だから静かにしていてくれ!!」
「ギギー!!」
黙れとコウモリ以上にぎゃあぎゃあ叫ぶクロノスを相手に、周囲を飛び回るコウモリの方は知るかといった口調で一鳴きすると、クロノスに噛み付かんと大顎を開いて鋭い牙を露わにして向かってきた。
「おっと…」
牙に首を噛み付かれる瞬間にクロノスは横に避けそれをやり過ごすと、ぱたぱたと飛び去って方向転換してから空中で静止してこちらを睨む大きなコウモリの方を見た。
「吸血大蝙蝠か…そりゃここはダンジョンのスタートでもゴールでもないから、落ちていきなりモンスターと遭遇しても不思議ではないな。」
そう、そのコウモリはただ大きいだけではない。ダンジョンの天井で逆さ吊りになって獲物を待ち伏せし、通路を通りかかった探索者に音も無く近づいて首元に牙を突きたてて体中の血を吸い取ってしまう恐ろしいダンジョンモンスターの吸血大蝙蝠だったのだ。
「あいつらがいないのもこいつから逃げて向こうへ行ったのかもしれない。セーヌの調子が戻ってなければこれの対処法を思いつけそうなやつがいないしな。」
「ギギー!!」
「だからうるさいって…そして邪魔!!」
「ギ…!!」
並の冒険者なら対処に苦労する恐ろしいもモンスター…であるはずなのだが、クロノスはそいつが再び接近して今度こそ噛み付くぞと口を開いた瞬間、その口に向かって手刀を振った。そしてその衝撃波で吸血大蝙蝠は口元から上下に分断されてしまったのだ。
「…!!」
頭が上顎付きでぼとりと地面へと落ちて鳴き声も出せなくなった吸血大蝙蝠は少しの間ふらふらと飛び回り、それからことが切れて自分の頭の上に墜落。そして真っ二つになった死体は消えて後に魔貨を残したのだった。
「君ごときに剣を抜くまでもないな。それにこいつ意外と硬いから無暗に斬ると剣がまた壊れるし。…さて、まさか群れで生活するコウモリがこれ一匹ということはありえないだろうな…やっぱり。」
吸血大蝙蝠の魔貨を拾ってなんでもくんの中へ無造作に放り込んだクロノスが面倒そうに首を上げて天井の方を見ると、そこには天井のクロノスが落ちてきた穴の周りを取り囲むようにして何十匹もの吸血大蝙蝠が逆さまに吊るされて、こちらを光る眼で睨んできていた。
「…ほらな。あいつらいちいち相手にしても面倒だな。フンを撒き散らされても敵わないし俺も先へ行こうっと。」
「「「ギー…!!」」」
天井の何十匹もの吸血大蝙蝠達は今し方仲間が一匹やられたため同じ轍を踏むものかと迂闊には飛び出してこないでいたが、所詮は腹を空かし血に飢えたモンスター。それがいつまでも続くとは限らない。今のうちにとクロノスは先へ行ったであろう仲間達の後を追うことにして小部屋から通路へ繋がる唯一の壁の穴に入っていくのだった。
――――――
「グエー!!」
「邪魔!!」
「グ…エ…」
クロノスは道の途中で出くわした大型の鳥のモンスターの頭を歩みを止めることなく掴んでそれを壁に叩きつけて魔貨へと変えると、面倒だと魔貨を拾うこともせず進行を続けた。
「今のはなんてモンスターだったか…グエグエペリカン?ギャースカデカバード?…どうでもいいか。それよりあいつらはどこまで行ったんだか。穴に飛び込んだ時間はそんなに差は無かったからそこまで遠くに行けるとも思えないんだが…あいつらもそんなに移動するなよな。」
仲間を探して迷路の中を当てもなくぶらぶらと彷徨うこと早三十分。未だ仲間の残した足跡の一つも見つけられず、クロノスは心底めんどくさそうにしていた。
「いくつか分かれ道があったからな…そっちの方だったか。めんどくさがって痕跡を探さなかったのは悪い癖が出たな。まったく…お、誰か壁の向こうにいるな。」
考えるよりもまず足が動く自分の手癖ならぬ足癖の悪さに呆れながら歩いていると、通路の右側の壁の向こうから誰かと誰かが話し合う声がわずかに聞こえ、クロノスはその場に足を止めて壁に聞き耳を立てた。…ダンジョンの壁は防音の性質が付与されているので壁の向こうの音を聞き取ることなど普通できないが、クロノスはなんかできる。そういうことにしておいて。
「―――この宝は俺達の物だ!!誰がお前達に渡すもんか!!」
「いいえ!!それを手にする権利はあたくし達にもありますの!!」
「…この声はイゾルデと…誰だ?アレンじゃないな…しかもただならぬ雰囲気…」
聞こえてきたのは甲高い女性の声と、まだ年若い少年の声の二つだった。そのうち女性の方はイゾルデのものであるとすぐにわかったが、もう一つの少年の方は聞き覚えがなかった。少年の声は最初はアレンの物かと思ったが声はアレンより少し低いし、なにより仲間でありイゾルデに雇われているアレンが彼女と言い争う必要がない。少なくともアレンはどんなに気に食わないことがあってもよっぽどのことがない限り立場が上の人間に食ってかかるような性格ではない。おそらく少年の声はまた出くわしたよその挑戦者なのだろう。
「やるってのか!?こっちはいいぜ!!ぼこぼこにしてやる!!」
しかし少年の声は決して友好的と言う風には聞こえず、イゾルデのことをまるで久遠の敵とでもいうかのように敵意と殺意が剥き出しになっていて、壁のこちらにまでそれが伝わってきていた。
「おいおい…ダンジョン内の喧嘩は洒落にならないぞ。」
相手は前に会ったイグニスパーティーのように冷静ではなく、かなり怒りたっているらしい。
ダンジョン内ではいつ襲って来るかもわからぬ周囲の脅威に警戒する必要があるので常に気が経っていることが多い。そのため冒険者同士のちょっとした諍いが大喧嘩に発展しかねない。ただでさえも鍛え上げられた肉体にモンスターを殺すための技や魔術を持っていてダンジョン内という人や司法の目が届かず止める者もいない環境…それがモラルの低下へと繋がり、殺傷沙汰に発展しやすい。なので抑えきれず血を見ることもなくは無い。いや百パーセント殺傷沙汰になる。そうしている間にモンスターに襲われて双方手負いのまま反撃もできず仲良く全滅…ということも割とよくあるので、ダンジョン内でよその挑戦者と出会っても喧嘩は絶対に避けなくてはならない。ダンジョン内では他人に警戒しなくてはいけないが、それと同じくらい仲良くしなくてはいけないのだ。交流って難しいね。
「さっき会った連中は比較的その辺分かっている良心的な奴らだったが、今向こうにいるのはその辺の場数が足りなさそうだな。ナナミ達はいないのか…?おおい!!俺だ!!壁の向こうにいるぜ!!いたら返事してくれ!!
一応とクロノスは壁の向こうにイゾルデと一緒にいるかもしれない仲間達へと叫んでみたが、聞こえていないらしく反応が返ってくる気配はなかった。壁には防音の性質があるので普通の冒険者に聞こえなくて当然だが、クロノスは自分は聞こえるのでそれをすっかり忘れていた。
「だめか…イゾルデは雇い主。なにかあったら大変だ。急いで合流せねば。」
言い争いの内容がなんであるかはよくわからないが、とにかくイゾルデの血を見ることになっては大変だとクロノスはすぐに彼女達と合流することを試みた。
しかし彼女たちがいるのは壁一つとはいえここは迷路の中。曲がり角を曲がればすぐあちらへたどり着けるとも限らず、最短経路を取ったつもりが却って回り道…なんて可能性もある。というよりそっちの方が普通である。そしてその間にイゾルデに何かあればそれこそ問題外だ。それは彼にもわかりきっていたようで、クロノスは道の先の二つに分かれていた分岐点を一目見てから首を振っていた。
「壁の向こうにいるのは確定なんだ…石壁一枚…いけるか?いやいける。集中…」
もたもた迷路を辿ってもまともにたどり着けないと、クロノスは声の聞こえてきた壁と向き合いそこに手を置いて何かを確かめると目を閉じた。そして息をすぅと一吐きしてから、閉じた瞼をかっと見開く。
「掟破りの一撃「迷宮破り」…とりゃあ!!」
クロノスが叫んでから壁を足で強く蹴ると、なんと蹴った部分が破壊されて大きな音を立てて崩れてしまったのだ。そして砕け散った壁を形作っていた石は粉じんとなって周囲に散らばって視界を覆い隠した。
「いちいち面倒な迷路を相手にするのもいい加減に飽きたぞコラ…こんな脆い壁俺ごときでも壊せるんだよ。あいつらと合流したらこの階層の壁という壁を壊し尽くして一つの大部屋に変えてくれようか…どうせすぐ修復されるだろうけど。…ホラな。」
足元に散らばった壁の破片を蹴ってどかして大穴を潜り抜けたクロノス。彼が振り返ると壁の穴に接している両端の壁の部分から石が液体のようにどろどろと流れ出て、穴の開いた部分はどんどん修復されやがて先ほどまで開いていた大穴はきれいさっぱり無くなってしまって元の綺麗な壁が戻ってきていた。
「ああ面倒な。壊してもすぐに直るから正攻法で迷路を抜けなくてはならない。だから俺は迷宮タイプのダンジョンが嫌いなんだ…さて、壁の向こうの人間のことを考えないで壊してしまったが…無事だろうか?」
「げほげほ…」
「なんだ突然…壁が…!!」
「なに?モンスターの襲撃…!?」
「喧嘩一時中断しよう!!ほら構えて…!!」
「あ、ああ…」
「石火の雷撃よ…音よりも速く…!!」
考えもせずに壁を壊したのでその破片は壁の反対側…つまりイゾルデ達がいた方へ降り注いだだろう。怪我をしていなければいいがと後から思いついて心配するクロノスだったが、粉じんが地面へ落ちて視界が晴れるとそこにはイゾルデやナナミ達猫亭団員とやはり見慣れぬ少年冒険者が武器を取ってこちらへと元気に構えているのが見て取れた。中でもセーヌなどは先手必勝だと魔術の詠唱をしていつでも放てるように準備していたので、魔力をいたずら使わせても無駄かとクロノスはすぐに声を上げて自分であることを伝えた。
「サンダー・シュー…」
「俺だよ俺。クロノス。だから、撃たなくてもいい。」
「…クロノスさん!?いけない…!!」
クロノスが声をかけたことでそれに気付いたセーヌは殆ど放ちかけた魔術を周囲に拡散させて被害を抑えた。雷の魔術は分散して足元や壁を小さくちりちりと伝ってやがて消えてしまった。
「よお、君達がどこに行ったかずいぶん探したぜ。団体行動なんだからあんまり勝手にうろつかれては困るぜ。…他の全員もいるみたいだな。そして彼らは一体どこの誰様かな?」
「えっと…」
「なんだコイツ。お前らの仲間か?」
クロノスは仲間の無事を全員分確認してから愚痴にも似た言葉を矢継ぎ早に立ててナナミに説明の催促をした。それに答えようとしたところで二人いた見知らぬ少年のうち、短く刈りそろえられた金髪の少年がクロノスが何者であるかを問うてきた。
「いきなりダンジョンの壁をぶっ壊して現れるなんて怪しい奴だな。そもそも壁って壊せるのか?」
「上手くやれば壊せるぞ。少しコツがいるし壊してもすぐに修復されてしまうがな。だがモンスターに囲まれた時や袋小路に追い込まれたときに隣の通路へ移動するのに便利だ。特に俺は普段から担当のお仕置きで支店の壁を壊しまくっているから壁を壊すことには慣れているんだ。壁壊しとそれの弁償代の額でなら大陸中の冒険者の中でも五本の指に入る実力があると自負しているぜ。人呼んで「壁壊しの猫」クロノス!!」
「あ…?何言ってんだコイツ…」
「いつものことだから気にしないでくれ。それとクロノス、誰もそんな呼び方していない。」
「そりゃそうだ。今作ったんだから。」
「こいつ…」
クロノスの自慢にもならない自慢に金髪の少年は毒気を抜かれ、構えていた剣を降ろしてしまった。そんな彼に隣にいたリリファが自分達の仲間だからと補足を入れる。
「クロノス、先に行ってしまって悪かったな。落とし穴のあった部屋には大型のコウモリの大群がいてそこでは待てなかったから先へ行くことにしたんだ。」
「それは俺も見たぜ。あれは吸血大蝙蝠というコウモリのモンスターだ。一匹や二匹なら囲んで倒せるが、空中からの襲撃を仕掛ける数十匹相手では厳しいだろう。逆に囲まれて全身の血を吸われたか、上手く逃げおおせても失血か唾液からの感染症で野垂れ死ぬ。だから撤退は的確な判断だ。どうせそうなんじゃないかと思っていたから恨みごとも無い。で?この状況はどうなっているんだ?」
落とし穴の部屋にいなかった理由をリリファに聞かされて納得したクロノスは、周囲を見渡してから次に今の状況を確認することにした。
「この金髪の少年に仲間と思わしき茶髪の少年。それとそこの宝箱二つ。そして…そこに転がる奴ら。」
クロノスが聞きたかったのは今の状況。それを形作るクロノスの与り知らぬ三つの要素だ。
一つ目はクロノスが壁の向こうにいた間、イゾルデと言い争っていた金髪の少年と近くにいた茶髪の少年の二人の事。
二つ目は彼らがそれぞれ後ろに置いて守るようにしていた大小二つの宝箱。一つはとても大きくて街中で使われている規格品の大樽を二つ並べたくらいあり、もう一つはとても小さくクロノスの開いた掌に軽く収まってしまうくらいだ。
そして三つ目。茶髪の少年とセーヌが挟む形になっていた地面で仰向けで寝ている二人の大人の男女。二人はどちらも目を閉じており、衣服も髪もボロボロの血塗れだった。
「…以上をまとめてお聞かせ願いたい。まとめ報告が得意なナナミに頼むとしようか。」
「私そういうのあんまり得意じゃないんだけどな…ま、いいや。その人たちはこの階層で会った冒険者のパーティーだよ。こっちの金髪の子がトーン君でそっちの茶髪がグロット君。それでそっちで寝ているのが…その…」
クロノスに代表で報告することになったナナミが少年二人の名をクロノスに教えたあと、次に横たわっている二人を説明しようとしたが、口籠ってしまう。
「何を言いたいのかはわかっているからそれ以上は言わなくてもいいし、辛いならそいつらを直視しなくてもいいぞ。こいつら…死んでいるな。」
「…だよね。さっきセーヌさんが確認していたけど。やっぱり死んでいるよね。」
そう。クロノスが遠目に見ても二人は既に死んでいた。クロノスはそのうちの男性の方に近づき、血と土で汚れた衣服を脱がせてその下の肌を確認したが、そこにはいくつかの血がにじんだ傷と、とても大きなできたばかりの生々しく赤黒い血塗れの深い傷が残っていた。女性の方も確認したかったが死んでいることはどう見ても確定だし、女性の生肌を見るのは流石に失礼だとそちらは見なかった。
「大小いくつか傷はあるが致命傷は大きい傷だな…刺し傷か?女の方は見ないことにするが似たような理由だろう。」
「…えーっと。治らない…よね?」
「ああ、死人にはダンジョンポーションも使えない。傷は治せても抜けた魂は戻ってこない。使うだけ無駄だ。」
「棺桶に入れて教会まで引っ張って行っても…」
「君は何を言っているんだ?死体を見て混乱しているのか。」
「…そうだよね。ゴメン…」
「謝らなくていい。死体に慣れろと言う方が無理な注文だ。君は正常な思考だよ。吐いたり発狂しないだけ随分マシだろう。二人とも死亡済みで確定。」
「やはり…もう助からないのですね。」
「あたくし達がもっと早く駆けつけていられれば…!!」
「やっぱりか…クソ!!」
クロノスは死んでいる男の服を器用に着直させて改めて死亡を宣言した。それを聞いてセーヌ達は残念そうにしていたし、イゾルデと言い争っていたのと同じ声を持つ金髪の少年トーンは膝から崩れ落ちて地面を両手の拳で強く殴りつけた。
「君達が来た時にはまだ息があったのか?」
「いえ、私達が駆けつけた時には既に目を開けたまま…駆けつけた時すぐに私が蘇生を試みましたが反応はありませんでした。」
「セーヌが確認した後で目を閉じて並べて置いておいたんだ。」
「…そうか。」
「ああクソ…こいつらが来る前まではまだ二人とも生きていたんだ!!だから意識のあったうちにダンジョンポーションを使えばよかったんだ!!」
「仕方ないよトーン。俺達が持ってきていたダンジョンポーションは一つだけだからどちらに使えばいいかなんてわからなかっただろうし、だいいちにあのモンスターとの戦いに夢中で二人に使う暇も無かった。無理に使おうとすれば隙ができて戦いが崩壊して、俺達も二人と同じ目にあっていたさ。」
「グロット…だけどさ…だけどさ…!!クソッ…クソッ…!!」
トーン少年は自分を宥めるグロット少年の手を突き放し、悔しそうに何度も拳を地面に叩きつけて叫んでいた。
「とりあえず…どこか話ができそうなところに移動しようか。おいそこの少年達。俺達は一つ上の階層から落とし穴から落ちてきたんだ。モンスターの襲ってこないスタートかゴールに案内してくれよ。」
「…ああうん。俺達もゴールはまだ見つけていないからスタート地点の方に案内するよ。ほらトーンも立って。こんなところで止まっていたらモンスターに襲われるからさ…」
「…!!」
「よし、じゃあ案内するから着いてきて。罠はいくつかあったけど全部解除済みだし、そこまで一本道でモンスターも全部倒したからもういないはずだけど一応注意…そっちのあんた盗賊だな?警戒を頼む。」
「了解した。」
グロットは地面を未だ殴り続けていたトーンをなんとか起こして、クロノス達をこのマップのスタート地点まで案内するために斥候役のリリファと先頭を歩いていくのだった。
お久しぶりです。ようやくゼノブレ2が一段落したので連載再開します。