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猫より役立つ!!ユニオンバース  作者: がおたん兄丸
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第100話 引き続き迷宮を巡る・二日目(続・迷宮ダンジョン内二層目での出来事)


「むっ…!!なにかよくない気を感じる。これはいったい…」「ぎゅい!!」


 そう言って相棒の黒いザコウサギのノワール・ヴァイス・シュバルツ・ダークネス・シャドウ・オンブル・ソンブル・ブラスハドゥ・カドヴェイ・ムーン・スリュンナ・マルモーント・ネクロズヴァルド・ステル・エトワール・ミュイナイト・ノーチェナットラスト・ブラックハイラビットであるブラック君を肩に乗せて足を止めたのは、現在ソロで迷宮ダンジョン挑戦中のクロノスの親友(ここ重要)の冒険者シヴァル。彼は石造りの壁や何もない通路をきょろきょろと周囲を見渡してから不安の正体を探った。


「もしやクロノスの身に何か…ああ、今もこうして親友の僕に助けを呼ぶ声が聞こえ…るわけないか。終止符打ちが助けを呼ぶほどの相手がいたらその時はもう大陸が滅びてるよ。ね?ブラック君。」「ぎゅーい♪」


 シヴァルは自分と同じく迷宮ダンジョンに挑んでいるであろう親友の身を案じて、すぐにそれを止めた。どうせ心配したところでそれは徒労に終わるだけであるからだ。それには肩のブラック君も同意であるらしくぎゅいぎゅい鳴いていた。


「さてさて…クロノスの心配をするよりも、まず僕らの心配をしようか。」「ぎゅい。」

「「「グロロロロ…」」」


 シヴァルが自分に同意するかのように鳴いたブラック君と共に、おどろおどろしい声が聞こえたに前方に顔を向けるとそこにいたのは三匹の虫型のモンスター。それは二つの腕に巨大な銀光りする鎌を持ち、シヴァルを三人、いや四人はつなげたかのようなずんぐりとした緑色の大柄の胴体を六本の脚で支える…待って。私このモンスター達知らない。こいつなんて名前ですか?教えてシヴァル先生。


「ん?ブラック君なんか言った?」「ぎゅい?」


 何かを感じ取ったシヴァルは肩に乗ったブラック君の仕業かと思ったが、当のブラックんは「俺なんも言ってないけど?」って感じだ。まぁ実際にそうなんだけども。


「まぁいいや。こいつはね…ソードマンティスっていうモンスターのダンジョンモンスターバージョンだよ。マンティス…ああそうだ。カマキリっていう昆虫のことだね。」

「「「グロロロロ…」」」


 へぇーそうなんだ。さすがはモンスター狂いの男。見た目だけでどんなモンスターかわかるなんて。その調子で解説をどうか続けてください。詳しい生態も後学のために聞いておきたいです。この通りメモの準備もばっちりだ。


「ん…なんか急に誰かに解説してあげたくなったぞ。…こいつの一番の特徴はなんて言ってもこの鎌だよね。普通のカマキリは鎌で切るっていうわかりやすい名前の虫の癖に、実際は腕に切断能力なんて無くて鎌の間の腕の関節を曲げて獲物を挟んで捕まえて強力な顎でバリバリ噛み砕いているだけなんだ。棘は獲物を引っ掛けて、かつ逃げないようにするためだね。でもこいつは違う。腕の鎌は幼少期から食べて摂取している鉄鉱石から作られたマジモンの鉄でできていて、その辺の三流武器屋で買えるようなナマクラ剣よりも遙かに鋭利なんだ。それで獲物をばらばらに斬り裂いて食べやすくなった破片を丸呑みにするんだよ。もちろんこの腕は同族の縄張り争いにも使うんだけど、その時の戦いは下手な剣士の決闘よりも見ごたえがある。代わりに口は顎が退化してブラシ状の髭がびっちりになっていてこっちに殺傷能力は無いんだけど…これは鎌が錆びないようにする分泌液を口から出して塗るための進化とも言えるよね。どうせ食べ物は腕が食べやすい大きさにカットしてくれるんだし。あ、あと普通の昆虫は脚が六本だから…腕に二本持ってかれたカマキリには四本しかないんだけど、こいつが脚を六本持っているのは大きな体を支えるために進化っていうかそもそもこいつはモンスターだから…」

「ギシャアアアアア!!」


 シヴァルが突然思いついた独り言とも取れるような解説をしている途中で、隙ができたと思ったソードマンティスの中の一匹が彼に襲い掛かった。


「おっと…」


 高速で振り下げられた右腕の大鎌による斬り裂き攻撃。シヴァルは為す術もなく真っ二つにされるかに思えたが…そうはならなかった。


「ぎゅーい…!!」

「ギシャシャ…!?」


 シヴァルの肩から飛び出したブラック君がその鎌の横に強力な飛び蹴りを浴びせ、それを受けたソードマンティスの右腕が胴体に繋がる肘の関節ごと捥げて吹っ飛んだのだ。吹き飛ばされた鎌はくるくると回転して後ろへ飛び、通路の石造りの壁に突き刺さった。


「ギシャ…ギシャ…!!」


 あまりの突然の反撃を受けて右腕を失ったソードマンティスは狼狽していた。もしかしたら人間のように腕の付け根に言葉にできないくらいの痛みを覚えているのかもしれない。


「あはは。ブラック君ナーイス!!」「ぎゅーい。」


 地面に降りたブラック君はそれを見届けてから振り返り、主の元へ戻ってきた。主は戻ってきた友達に労いの言葉を掛けてから彼を肩に戻すのだった。


「さて…人の話も聞かないでしっかり襲ってきたところを見てもらえばわかるけども、こいつは当然の如く肉食の大変獰猛なモンスターだ。大型なもんだから普通の虫じゃお腹を満たせなくてイノシシやクマなんかの大きくて危ない動物も積極的に捕食する。もちろん人間も大好物だぜ。こいつの棲息する森とかに近い村や街では、よく森へ行った冒険者や猟師なんかが行方不明になって死体も見つからないことが多いんだ。全部が全部こいつらのせいってわけではないんだろうけど…ギルドの計算では大陸全土で年間にして出る山や森での行方不明者のうち約600人程はこいつのお仲間が美味しく頂いているってことらしいよ。」

「ぎゅう?」

「え?そいつらのための敵討ちかって…?まさか!!僕は別にそいつらがどうなろうと知ったこっちゃないし、そもそもここはダンジョンだから関係ないんだけど…ほら、よく言うじゃない?人の恋路を邪魔した奴は馬に蹴り殺されて死んでしまえって。だけど僕のモンスター解説を邪魔した奴は…もっと派手に散ってもらうべきじゃない?」

「「ゲシャシャシャシャ!!」」


 シヴァルが右腕を吹き飛ばされ倒れ込み重傷のソードマンティスにとどめを刺そうとゆっくりと足を進めると、その前に他の二匹のソードマンティスが立ちふさがった。 


「わお。もしかして仲間を庇ってる?ごらんよブラック君!!普通のカマキリは仲間同士共食いも辞さないくらいにお互いのことに無関心なのに…モンスターとはいえこの結束力は大したものじゃない?ああ、モンスターって面白くて素敵だなぁ…」「ぎゅう!!」


 ソードマンティスの美しい友情劇にうっとりして、シヴァルは両の手を頬に当てて感動していた。ブラック君も彼に一言鳴いて同意しているようだった。たぶん。


「「ゲシャシャシャシャ!!」」

「ま、でも…」


 こちらが動かなかったゆえ攻勢に回って襲いかかってきた二体のソードマンティスに、シヴァルはひるむことなく袖からモンスターを閉じ込めている魔道具を取り出してそれを向けた。


 一体の鎌がシヴァルの突き出した魔道具を持った腕に到達しそうというところで、魔道具は光を放つ。しかしソードマンティスの高速の斬撃は繰り出された後であったため光で止まることはなくシヴァルの腕へ吸い込まれていった。それを見ていた斬撃の主のソードマンティスももう一体のソードマンティスもおそらく勝利を確信していただろう。だが、そうはならない。


「「ゲシャシャ…シャシャ…!?」」


 高らかに勝利の雄たけびを上げる二体のソードマンティスだったが、そこで自分の視界が逆さになっていることに気付いた。そして自分の目の前に自分の首から上の無い胴体が立ち尽くしていたことに気付き、そこで意識を失い魔貨へと変わるのだった。


「ま、でも…ソードマンティスなんていくらでもいる雑魚。僕のスパスパ君にははるか遠く及ばないんだけども。」

「スパッ…スパッ…!!」

「ぎゅう?」


 足元の二枚の魔貨に語りかけるシヴァルの前にいたのは二つの脚と大きな尻尾を支えに地面に立つ青色の大きなトカゲだった。そのトカゲは両の腕を体の前で組み、その腕の外側には水色で半透明な刃が生えていた。そしてブラック君はそのトカゲを見て「こいつだれ?」とでも言いたげにぎゅうと鳴いていた。


「ああごめん。ブラック君とは初顔合わせだったね。この一週間の間はブラック君にしか出てもらってなかったからね。紹介しよう。こいつはスパスパ君ことクリティカルリザードマン。二足歩行の竜人系モンスターのリザードマンの中でもかなり貴重な一種なんだ。彼には腕の外側にブレード状に発達した鱗があってね。これと強靭な脚力を使った俊敏な動きで敵を仕留めるんだよ。その速度は二足歩行する同サイズのモンスターの中じゃ最速と言われるほどなんだぜ?さ、スパスパ君。君の先輩のブラック君だよ。挨拶して。」

「スパ…!!」

「ぎゅい!!」


 シヴァルに己を説明してもらったスパスパ君は両の腕の鱗を見せつけながらブラック君に挨拶をして、ブラック君もまた挨拶を返した。どうやら二匹のファースト・コンタクトは穏便に済んだようだ。シヴァルはモンスターが大好きだがモンスター同士ではあまり相性がよろしくない者がいて、そういった者は初顔合わせの際に殺し合いに発展することすらある。しかも種族レベルで相性が悪い時はどっちかが死ぬまで戦い続けることも珍しくない。


「お互い仲良くやれるみたいでよかったよ。レアモンスター同士何か通じるものがあるのかな?そういうのも研究したいけど今はダンジョン攻略を進めないとね。さて…」

「ギャヒヒ…!!」


 シヴァルが唯一残った敵である右腕の無いソードマンティスに視線を向けると、ソードマンティスは床に倒れ込みながらも必死に残った左腕の鎌を振り回して威嚇し、シヴァルを追い払おうとしていた。


「ダメだよ。だって最初に仕掛けてきたのは君達じゃないか。君がもしもっと珍しいモンスターなら命乞いも認めてあげるんだけど…家に帰れば君の仲間の()()はたんとあるんだ。どうせダンジョンモンスターは死ぬと消えちゃうし。スパスパ君おねが~い。」

「スパ!!」

「ギャ…!!」


 シヴァルの命令を受けてスパスパ君はソードマンティスの目の前に一瞬で移動したかと思うと、ソードマンティスがそれに気づくよりも速くそいつの首を切り落とした。そうして最後のソードマンティスは自分が死んだことにも気が付かずに消えて魔貨になって地面に落ちたのだった。


「やれやれ、ダンジョンモンスターってなんで実力差があるとわかって向かってくるのかな?外のモンスターは危ない敵には近づかないのに。おかげでちっとも進めやしない。さ、ゴール探しの続きをしようか。」

「ぎゅう。」「スパ…」

「…あ~ちょっと待って。魔貨を拾ってかないと。今の僕は貧乏極貧生活だから友達のご飯代のために賤貨の一枚だって惜しいんだ。」


 襲ってきた三体のソードマンティスを使役する友達の力によって全て退けたシヴァルは通路を歩き出したが魔貨をまだ拾ってないことを思い出し、少し引き返して地面に転がった三枚の魔貨を拾い上げてポケットにしまった。


「ひぃふぅみぃ…よし三枚。いや~お待たせ!!」


 通路の先で待っていたブラック君とスパスパ君と合流したシヴァルは、彼らを引き連れてマップのゴールを目指し再び歩き出すのだった。


「僕の方は問題なし。でもクロノスはあんなにお荷物をたくさん引き連れてどこまで進めるかな…?精々頑張って下の階層を一つでも多く目指したまえ親友。くくく…」


 S級冒険者で神飼いの二つ名を持つ男シヴァル。バランスの良いC級冒険者以上がパーティーを組んでやっと攻略できる二十階層付近のマップを、彼は今日も一人と友達のモンスター数匹で何事も無いように歩いて行った。





---------------------





「――――あんなにお荷物をたくさん引き連れてどこまで進めるかな…?精々頑張って下の階層を一つでも多く目指したまえ親友。くくく…とか言ってるに違いないぜ。あいつ今頃。」

「それはどうかなぁ…?」


 シヴァルの声真似をして彼が今行っているであろう言葉を予想して喋っていたクロノスは隣で話を聞いていたアレンに感想を聞くが、アレンにはそんなことわからないしどうでもよかった。


 死の危険と隣り合わせな難しい階層を歩くシヴァルとは違いその遙か上の階層の二層目をゴール目指して進むクロノス達。彼らは先ほどスタート地点の小部屋でイゾルデが選んだ道を進んでいたのだがそれは見事に外れの道で、そこで遭遇したアックスこけこっこの群れから逃げて一度スタートに引き返した。それからまた別の道を選んだところすぐ先が行き止まりになっており、今は残る最後の通路を進んでいたところだった。


「いいやきっと言ってるね。俺は詳しいんだ。」

「やっぱりクロノスさんとシヴァルさんって仲良いんじゃ…」

「そんなことないぜナナミ。俺にとっては、奴のことは嫌いとまではいかないが基本会いたくない…そんな存在なんだぜ。」

「そうなんだ。まぁ嫌いだからこそ詳しいってこともあるしね。私の妹もオレンジとかの柑橘系の果物全般大嫌いなんだけど、なぜか国内品種は全種類そらで言えるし。」

「そう。そんな感じ。」

「おい、おしゃべりする暇があるならもっと前に目を向けろ。またいつアックスこけこっこが襲ってくるかわからないぞ。」


 リリファの言うとおり彼らは現在マップ中で暴れているであろうアックスこけこっこを警戒して進まなくてはならないのだ。この通路はこけこっこが現れた通路ではないので警戒する必要はなさそうだがそうもいかない理由があった。


「あ、またありましたよ。」

「…ゴブリンの魔貨だな。」

「アックスこけこっこにやられたんだろうな。」


 道を進む途中で彼らは足元に落ちていた魔貨を何枚も発見していた。おそらく暴走状態のアックスこけこっこにやられたのだろう。


「あっちの通路とこっちの通路でどこかが繋がっているのかもしれない。仮に一本道でもこっちにいるこけこっこも暴走するから戦う羽目になりかねない。」

「そうだね。警戒は怠れない…って小部屋だ。」


 ナナミが気を引き締めようとしたところで、通路の途中で壁に穴が開いているのを見つけた。


「もしかしてお宝部屋ですの!?宝箱の中にエリクシールが…!!」

「今私が中を確認する。少し待て。」


 誰よりも早く見つけた小部屋に入ろうとしていたイゾルデだったが、そんな彼女を斥候役もしているリリファが止めて、初めに自分が中に入っていった。


「…おい喜べ。ゴールだ。」

「マジで?」

「本当だ。」


 しばらくして戻ってきたリリファの言葉を受け中に入った一行は、そこにある赤い水晶と青い水晶を目に入れた。どうやら本当にゴールにたどり着いたらしい。


「割と早かったね。」

「二層目ならこんなもんだ。むしろハズレを先に引いて時間がかかってしまっただけ。」

「むっ…あたくしのせいだとでも?」

「そうはいわないさ。結果論だ。また別れ道を見つけても選びたかったら選んでいいから拗ねるな。」

「そうですわね。ならば次で挽回しますわ。」

「まだ通路は続いていたけど…次の階層に行く前に見てくる?私日本人だからそういうマップの取りこぼし気になるのよね。」

「やめとけ。たぶん最終的に最初の通路とつながっている。それにこけこっこがいるからな。」

「そういやそうだった。やめておこう。」

「次の階層に行く前に休憩されますか?」

「いや、どうせ戦闘もしていないしすぐ次に行くぞ。全員いいな。」

「オーケーでーす。」

「じゃあ一人ずつ入ってけ。また俺は最後に行くから。」

 

 クロノスの言葉に全員が頷いて一人ずつ水晶に触れて次の階層へと行くのだった。




二層目ゴール

三層目へ

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