奴隷少年の英雄譚
第1話 この奴隷の国で僕は出会った
この世に光なんてない。陽の光も灯の光も毎日を俯いて過ごす僕等には…奴隷には関係のないことだった。
今、僕らは今馬車の荷台に番号付きの首輪のようなものを付けられて檻に入れられて積まれている。物のように…すし詰めで。何度売られたか分からない。数えてる奴なんていない。僕等は売られるたびに働けなくなるまで値段が上がる。罵詈雑言を浴びて、鞭で打たれ段々と従順になるからだ。だが僕は最初から高く売られていた。いや、最初の最初はとても安かったのだろうが…僕は両親に売られたらしい。快楽に溺れかつ食うに困ったクズどもの間では当たり前らしい。ともかく僕は最初から奴隷として育てられた。だから、光を知らず、最初から従順だった。
馬車が止まる。目的地に着いたようだ。そして馬車をそのまま陳列棚に見立てて僕等の今の持ち主は商売を始める。僕はそれなりに早く売れた。奴隷の子だからだろう。いつものことだ。新しい持ち主に首輪で繋がれて歩いていく。
そして新しい持ち主の家の前の柵に犬のように繋がれた。かなり大きな家だった。そして新しい持ち主はドアを開けてこう叫ぶ。
「ステイシー、誕生日プレゼントだ!今年は奮発したぞ!」
やがて少女が現れる。透き通るような白い肌に鮮やかな金髪そしてどこまでも青く吸い込まれそうな瞳。そして彼女が顔を上げる。目が合う。光を知らずに生きてきた僕でも綺麗だと思った。
「ステイシーをいやらしい目で見てるんじゃねぇ!」
彼女の父親の拳が飛ぶ。続けてもう一発殴ろうとした父親を止めたのは彼女の叫びだった。
「パパやめて!それは私の物よ!」
この叫びに父親は慌てて手を引っ込める。
「ご、ごめんよ。ステイシー。そうだよな。奴隷の躾ってのは持ち主がするもんだ。ほら、奴隷の部屋に連れて行きなさい。」
しかし彼女は首を横に振った。
「嫌よ。また私のがパパに殴られちゃう」
「じゃあどうするんだ」
「私の部屋で飼うわ」
「そんなのダメに決まってるだろう」
「ペットを家で部屋で飼ってる人はたくさんいるでしょう」
「ペット…そういうことなら…」
と言いつつ父親は納得していない感じで続ける。
「だが、やっぱり一緒の部屋はダメだ。家は許そう。屋根裏を使ってなかっただろう。そして夜は鍵を閉めろ」
「ええ。わかってるわ」
そして、僕は彼女のペットになった…と思っていた。彼女の部屋のドアの閉まるその音は僕の物としての生を断ち切る音だった。
彼女はこう切り出す。
「あなた…奴隷についてどう思う?」
僕は困惑した。そんなことこう答えるしかなかった。
「どうもこうも、私にとってはこれが普通のことなので…」
すると彼女はとても悲しそうな顔をして…
「そう。やっぱりそうなのね。そしてきっとあなたはずっと…あなたにあなたの主人として最初の命令よ。私と対等な友人でいてほしい」
だが、僕は少しイラついて
「そんなのは、ただの…」
しかし言い切る前に彼女は言う。
「他の人の前では主人と奴隷に戻るのだから、ただの偽善だと思っていいわ。でも私はずっと偽善のままでは終わらせない」
そして、言う。
「いつかこの国を変える」
奴隷の僕にはぶっ飛びすぎていて理解に数秒を要した。そして理解して僕の顔色が変わるのを見て、彼女はその上品な見た目とは正反対のいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「そう。奴隷を解放するために私は反乱を起こす。そのとき奴隷の人たちは自由のために立ち上がってくれるはず。そして私はもっとあなた達を知らなければいけないの」
達成できるとは到底思えなかった。しかしまたしても彼女は僕の考えを読んでそのいたずらっぽい笑みをさらに深めて、もはや魔女のそれで
「確かに勝てないでしょうね。よっぽどのことがない限り。でも、それは確実に火種になるそして、私たちは奴隷解放の英雄といつまでも語られるの。ねえ、素敵じゃない?」
そこでついに僕も自然と笑みがこぼれた。それは彼女の目がその目の奥に、青く吸い込まれそうな目の奥にはっきりとした意思と決意の光を見た。そしてその目的地が自分の死と後の世に残る名声と来たのだ。これが笑わずにいられるだろうか?
僕はこの魔女の笑みを、青い目の光を守りたいと思った。どうやら、奴隷の子だから従順というだけではなく…生まれつきだったらしい。知りたくなかった。
「あなたの名前をもう一度お聞かせください」
「私はステイシー。ステイシー・オルブライド。あなたは?」
「もう忘れてしまいました。ずっと呼ばれてこなかったので」
「じゃあ私がつけてあげる…そうね…その茶髪と金色の目…まるで鷹よね。決めたわ。あなたはホーク。ホーク・モロウよ」
「その名前。もらっておきます。ただ、セカンドネームの由来は?」
「適当よ」
今度こそ僕は本当に笑った。ステイシー「パパに聞こえるから」注意を受けるまで笑った。幸いそのパパは入浴中だったらしい。僕は微笑んで言う。
「よろしく、ステイシー」
彼女も微笑んで言う。
「よろしく、ホーク」
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