発明
中世ヨーロッパ。
あるところに優秀な発明家がいた。
彼は画期的な発明をいくつもした。
ある日、彼はあるアイディアを思いついた。
「あ、あぁ、このシステムがあればより便利になるのか!
誰もこんなことを考えたことあるまい」
その日から彼は自宅に引きこもり
そのアイディアを具現化しようとした。
さまざまな機械を考え
あるときは、それを大空に飛ばし
あるときは、地中に埋めた。
周りの人たちは彼がしていることを見て、
いつしか彼を魔術師扱いしはじめたが
彼にとってはどうでも良いことだった。
彼は、その計画に夢中だったのだ。
かなりの月日が流れた。
そして、ついに彼はそのアイディアを具現化させることができた。
「おい、みんな聞いてくれ…」
彼は周りの人たちに出来上がったシステムを紹介した。
最初は不審がっていた人たちも
しばらく聞くと目の色を変えて褒め称えた。
「なんて素晴らしい」
「すごいアイディアだ」
そうして、彼の村でそのシステムが広まり、多くの人たちがそれを楽しんだ。
人間は自分にあった面白いことを他人に話そうとする。
その村人たちも他の村人へそれを伝えていった。
「俺の村ではな…」
その話を聞いた人は目を輝かせ
必ずこう言った。
「是非、それを私たちにも…」
やがて、そのシステムはその国全土に広がっていった。
人びとは思い思いにシステムを活用し
それぞれの方法で楽しんだ。
そのうちに発明家が亡くなり
システムが広まってしばらくたった頃。
その国の王と臣下は会議をしていた。
王が言った。
「例のシステムのことだが…」
「えぇ、我が国ではいっそう広まり、
それで多くの国民が楽しんでいますね。
また、仕事に活用したり商売にしていたりしている者もいますが」
「あぁ、それだが、わしは禁止しようと思う」
「え、また何故です」
「確かに、これのおかげでかなりの利益や発展があった。
しかし、このシステムがないときに比べて
システムに熱中するあまり
国民から『人』としての何かが欠けてしまった。
いくら利益があっても
国民が『人』として成り立たなくなるなら
それは禁止すべきだろう」
その国にある禁止令が出た。
例のシステムを発案した発明家の作ったものの使用と製造の禁止。
また、彼の公式記録は抹消すること。
発明家が作った全ての機械は
落とされ、掘り返され、壊された。
最初のうちは国民の反発が凄まじかったが
やがてシステムが広まる前と同じような空気が広がっていった。
「不便かもしれないが、これでよかったのだ」
王はそう言って亡くなったという。
やがてシステムを知る者もいなくなり
もちろん公式の記録からもそのシステムは姿を消した。
現代。
ある日博物館で、資料の整理が行われていた。
「博士、こっちに来てください」
中世の無名な発明家のメモを整理していた学芸員が言った。
「なんだね」
「見て下さいよ、このシステム…」
「これは…今まで気づかなかったが…
中世とは思えない素晴らしい発想だ…」
「これって、今のインターネットそのものですよね…」