第⑧話 参観日です~ダンス イン ザ キッチン~
とても普通な女子中学生、ザ・一般人の私が見つめる映像の中で、
日向陽毬さんが謎の行程を踏んでます。
塩を振って放置していたチヌの切身を水洗いしてます。
キッチンペーパーで水気を切って、さっとスライス。
刺身の完成です。
うーん、塩を振って水洗い……?
「あの、日向紅葉さん」
「ん?どしたよ委員長ちゃん」
「刺身にする際には、ああやって処理するものなんですか?」
「あぁ、あれは普通の行程じゃねぇぞ」
委員長ちゃんの言う通りだぜ、と小気味良い笑顔を向けてくれました。
その少年のような表情はとても彼女にマッチしていて格好良いです。
「チヌなら普通は、開いてからしっかり内臓とか血を洗い流して、あとは塩振って一週間くらい冷蔵庫の中で様子見って所かな」
「えっ!?」
どのみち放置するんですか!?
新鮮じゃなくなっちゃいますよ!
日向紅葉さんは驚く私を見て、悪戯な笑みを浮かべています。
「にひひ!マグロなんかは三週間くらい経つと最高に旨いんだぜ?」
「う、えぇ?」
咄嗟に『嘘です!』と言いかけましたが、ギリギリで止めました。
何せ相手はプロの料理人です。おそらく本当なのでしょう。
……しかし、釈然としません。
刺身って新鮮さが命なんじゃないんですか?
「最近は『熟成させた方が美味い』って考えが存在すんだよ。知らなかったろ?」
「な!そうだったのですか……」
驚愕です。魚を熟成させるなんて。
すぐに腐りそうな気がします。
うーん……。
本当に大丈夫なんでしょうか?
そもそも日向陽毬さんは料理人ではなく素人です。
不安になって来ました。
集団食中毒とかにならなければ良いんですが。
「……それって難しい技術じゃないんですか?」
「おう、もちろん!経験がモノを言う繊細な作業だぜ?」
下手したら腐るぞ、と何て事もなさそうに語る日向紅葉さん。
腰に手を置くその立ち姿もスラッとしていて、ってそんな事より大変な事実が判明しています。
「え、ダメじゃないですか!危険です!!」
「まあ素人には難しい場合もあるが、あいつなら大丈夫だ。家でも外でもしっかり経験積んでるからな」
私の心配をよそに、サラッと流す日向紅葉さん。
……まあプロが言うのですから、大丈夫なのでしょう。
確かに学校での生活ぶりから考えれば、料理の経験だけは物凄い量のはずです。
なにせ頭の中は料理で満たされてる感じですから。
そのうち頭が弾けて溢れ出すんじゃないかと思うほどにパンパンです。
まったくもう。
そうして気を揉んでいる間にも、着実に料理は完成して行きます。
すると、唐突に日向陽毬さんの動きが変わりました。
行程が進むほどに作業効率が上がって行きます。
残りの作業が減ったことで、処理速度がどんどん増しているのでしょう。
次にするべき行動が全て分かっているような淀みのなさ。
足の運び方から指先の角度まで、あらゆる動きが洗練されてゆく。
流れるような動作に十六夜壌砥と波澤翠さんが賞賛を零す。
「ほぉ、これはなかなか」
「将来が楽しみですね」
身体のあらゆる部位が、何時のタイミングで何処に存在するべきかすらも見据えたようなテンポの良い動き。
まるでエンディングに向けて加速するダンスを見ているみたいです。
「す、すごい」
ありもしないメロディーが聞こえて来そう。
ポップで軽快なリズムが彼女を飛び回らせています。
激しいパフォーマンスで観る人すべてを釘付けにしたまま踊り続け、そして気がつけば三種類の料理が完成していました。




