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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第四章
44/51

第③話 参観日です~親御さん+α~

 


 迷彩色で偽装されたコンクリート製の建物。

 その中にいるのは私と見知らぬ三人の大人たち。

 後から入ってきた私に、自然と視線が集中します。


「うっ……」


 ……流石に緊張します。

 そんな心境を察してくれたのか、仕事の出来そうな男性が私に向かって声をかけてくれます。


「これで全員が揃ったのか?」


 え、いや、知りませんよ!?

 でも知らなくて当然の筈なのに、この人のテキパキとした雰囲気の所為で、私が何かをしでかしたみたいに感じてしまいます。

 謎の罪悪感によって、意味もなく謝罪しそうになった所で、


「はい。その通りに御座います」


 振り向くと、さっき私を案内してくれた老紳士、花森さんが綺麗にお辞儀をしていました。

 このテキパキとした男性は、花森さんに話しかけていたんですね。

 安心しました。


 ……というか、何時の間に戻ってきたのでしょうか?

 まったく気が付きませんでした。


「なら、まずは自己紹介だね」


 男性はそう言って、キビキビと話し始めました。

 彼の名前は十六夜壌砥(じょうど)。年齢は四十五だそうです。

 この人がトップに立っているなら、十六夜財閥はきっと凄い財閥なんだろうと思わされてしまいます。

 あと、とても厳格で真面目そうな人ですね。


 十六夜称美さんのお父さんだそうですが、正直に言ってあの腹黒愉快犯とは似ても似つきません。

 母親か祖父母のほうに似ているのでしょうか?


 そんなことを思っていると、自己紹介を聞いた女性が声を掛けます。


「ほぉ、お前があの破天荒ジジイの息子か」

「祖父と知り合いですか。父が世話になったようですな」


 ポニーテールとタイトなジーンズの似合うその女性は、少し荒っぽい言葉遣いでした。

 ただ、言葉自体は汚いのですが……不思議と嫌な感じがしません。

 おそらく年齢は四十代だと思うのですが、何だか大人っぽさが感じられません。

 若々しくて無邪気な雰囲気です。


「まぁな!色んなもん食わしてやったよ。なぁ、スイスイ?」


 ……スイスイ?


「スイスイと呼ぶな。私には波澤翠なみさわすいという立派な名前がある」

「ったく。相変わらずノリが固てぇな」

「貴女も相変わらずノリが粗雑ですね」

「んだと、コラ」



 唐突に喧嘩が始まった、のですが……何だか慣れた感じがあると言うか、二人とも自然体です。

 会話から察するに顔見知りのようですから、いつもこんな感じなのでしょう。


「大人の言い争いを前にして、随分と落ち着いているな」

「え?あ、はい」


 十六夜壌砥さんが声を掛けてきました。


「二人とも本気じゃないというか、どこか楽しそうなので」

「ほう、その歳でそれだけ見えて(・・・)いるのは大したものだ」

「あ、ありがとうございます」


 財閥のトップに褒められました。

 照れるというか何というか、気持ちを持て余します。


「十六夜の人間に目をつけられるとは、こいつぁ将来有望だねぇ」


 あう、寄ってたかって褒められます。

 どうしたらいいか分かりません。


「照れてる。可愛い」


 はう!か、か可愛い!?一番反応に困ります。

 ていうか、そう言う波澤翠なみさわすいさんの方が圧倒的に可愛いです。


「あ、あうあう」

「どうやら褒められ慣れてねぇな」

「それもまた可愛い」


 も、もう、勘弁してつかぁさい!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて、そろそろ可哀想だから自己紹介に戻るとすっかな」


 や、やっと誉め殺しから解放される!

 ありがとう、ポニテの無邪気なひと!!


 うぅ、長かったです。

 20分くらい褒めまくられたような気がします。

 死ぬかと思いました。「死因は褒め殺し」の見出しで新聞に載るところでした。


 でも何はともあれ、自己紹介へ戻ることに。


 まず無邪気なポニテの女性が日向ひゅうが紅葉くれはさん。

 日向陽毬さんの母で、プロの料理人だそうです。

 明け透けで縛られない感じが良く似ていて、なんだか納得です。

 日向陽毬さんが料理の事ばかり考えているのは、きっと母親の影響だったんですね。


 そして、クールな印象の黒髪ロングな方が波澤翠なみさわすいさん。

 ポケット一杯のジャケットや、魚の絵を描いたキャップ帽。

 肩に担ぐ細長いバッグも合わせて、まるで釣り人のような格好だな……

 と思っていたら本当にプロの釣り人でした。

 インストラクターとか釣り船屋さんではなく、自分の釣りを仕事にする人って実在するんですね。

 正直、驚いています。


 でも一番驚いたのは、彼女が桔梗トトキさんの師匠だったことです。

 トトキさんが小学生の頃に二~三年だけ、とのことですが十分に凄いことです。

 まさかプロの人に教わっていたとは。

 もしかしたら、私が思っているよりも真剣に釣りをしているのかもしれません。


 ただの釣り好きな痛い人だと思っていました。


 

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