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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第四章
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第②話 参観日です~え、何この状況!?~

 

 十六夜称美さんに注意してくれるように頼んでから一ヶ月後。

 彼女は桔梗トトキさんと日向陽毬さんの三人で、釣りと料理を足し合わせた部活を立ち上げました。

 それ以来、彼女たちの授業態度はというと……


「……(イヤホンを装着してこっそり釣り道具を手入れ中)」


 相変わらず釣り三昧の桔梗トトキさんと、


「あ、良い事思い付いた!トイレ行ってきます!!」


 相変わらず自由で勝手な日向陽毬さん。



 ……何も変わってない!

 しかも部活の顧問は、このクラスの担任です。


 どゆこと!?


 むしろ悪化してませんか!?

 ていうか何で黙認してるんですか顧問兼担任!

 腹が立ったので直に問い詰めてみたのですが、


「いやあ、結局高くついたというか何というか」


 ポリポリと頭を掻きつつ、こんな感じではぐらかしてばかり。

 こうなったら、この事態の元凶(多分)である十六夜称美さんに聞くしかありません。



 早速突撃です。



「一体なにがどうなっているんですか!」

「うふふ、私と先生の間で交渉が成立したのですわ」


 利益の一致ですわね。

 と、美しく微笑む十六夜称美さん。

 休み時間に呼び出した渡り廊下、コンクリートで囲まれた景色の中で咲き誇る笑顔は見事の一言です。


 ちょっと前までなら、その完璧な笑顔に感動していたでしょう。

 でも今となっては完璧過ぎて嘘臭く感じます。

 きっとお腹の中はタバコを吸いすぎた肺みたいに真っ黒に違いありません。


「タールですわね。保険のテストに出ますわよ」


 なんか心読まれた!!

 妖怪ですか!?あなたは妖怪なんですか!?


「うふふ。貴女の表情や目線の動き、ちょっとした筋肉の強張りから、考えている事を類推しただけですわ」

「それでも十分に変です!」


 これはもうダメかもしれません。

 クラスで一番大きな不和の種は、桔梗トトキさんでも日向陽毬さんでもなく、十六夜称美さんだったようです。

 外面に騙されて、気付く事が出来ませんでした。

 不覚です。

 キッ!と睨み付ける事しかできません。


「そんなに綺麗な瞳で睨まないでくださいまし。ゾクゾクしてしまいますわ」


 しかも度し難い変態でした!

 もう終わりです。学級崩壊です!!


「うふふ、一先ず落ち着いて下さいまし」


 これが落ち着いていられますか!


「では、まず先生との取引内容からお教えしますわ」


 はっ、そう言えばその辺を問い詰める筈でした。

 かなり混乱していたようです。

 ……というか私、さっきから心読まれまくりなんですけど!?


「そこは取り敢えずスルーして下さいまし」

「説明する気が皆無ですね!」

「『十六夜』の人間ならば誰でも出来る芸当ですわ」


 一族揃って魑魅魍魎か!


「難しい言葉をご存知ですわね」


 やかましい!


「やれやれ、会話になりませんわね」


 会話になってるのがおかしいんです!

 私、さっきから喋ってないのに!!


「うふふ、確かに。これは一本取られましたわ」


 う、うがぁああああ!!


「あら、ちょっと遊び過ぎましたわね」



ーーーーパンッ。



 音に驚いて前を見ると、十六夜称美さんが両手を合わせています。

 手と手を打ち鳴らしたのでしょう。

 奇妙な事に、先程までの混乱が嘘のように消えています。

 これも何かの変態的スキルなのでしょうか。

 

「これは神事に於ける所作を応用した精神統一の一種で、」

「その説明は結構です。というか聞きたくないです」

「うふふ。では担任教師との取引について説明しますわね」


 ふう、やっと本筋に戻ってきました。


「といっても単純な話ですわ。先生の狙いは二つ。一つ目はもうすぐ行われる参観日で大人しく授業を受けてもらう事。そして二つ目はわたくしたちを関わり合わせることで現状に変化を与える事ですの」


 一つ目は、まぁ薄々そうじゃないかと思っていました。

 子供を預かる立場なら誰でも、下手なところを保護者に晒したくはないと思うでしょう。

 どうせ、「参観日だけは大人しくする」という条件で部活の顧問になってもらったんでしょう。


 ただ、二つ目の理由はおかしいです。


「どこがおかしいんですの?」

「現状が変化してません。むしろ悪化しています」

「うふふ、本当にそうかしら」

「彼女たちの振る舞いが以前よりも一層自由になっています!」

「確かにそうなのですが、良くなった部分もありますのよ? ただ……言葉で説明するのは骨が折れますわね」


 少し目線を外して思案する十六夜称美さん。

 ……本当に思案しているのでしょうか?

 ただのポーズにも見えます。

 穿ち過ぎでしょうか?


「うふふ、良い事を思いつきましたわ」


 腕を軽く組み、顔の横で人差し指を立てる十六夜称美さん。

 とても嘘くさいです。


「私たちの部活動を見学して、それが本当に是正するべきものか否かの判断を下す、というのは如何でしょう?」


 授業参観ならぬ、部活動参観ですわ。

 と、嬉しげに微笑んでいます。


 提案自体は悪くありません。

 しかし彼女がこの提案を持ちかけたという事実だけで、もう十分過ぎるほどに胡散臭いです。

 賛同したくありません。


「あらあら、内実を知らずに偏見で批判なさるのですか?」

「うぐ……」


 それは、もっともです。

 ちゃんとした理由もなく相手を否定するなんて、それこそまさに不和の元凶です。

 何も言い返せないし、言い返すべきでもありません。


「うふふ、納得して頂けた様ですわね。では、じっくりと参観した後に判断して下さいませ」

「……分かりました」

「日時は後ほど連絡いたしますわ」


 はぁ。

 正直に言って憂鬱です。

 嫌な予感しかありません。


「あら、」

「黙らっしゃい!」


 だから、勝手に心を読むな!!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そんなこんなで部活動参観日の当日。

 やってきたのは十六夜家所有のプライベートビーチ。

 そこからほど近い藪の中に、私たちは招待されていました。


 はい。私たち(・・・)です。

 迷彩色でカムフラージュされた建屋の中、クーラーのよく効いた十畳ほどのワンルームには、私以外にも面識のない大人が三人居ました。

 女性二人と、男性一人です。


 私をエスコートしてくれた人(花森さんと言うそうです)は気が付いたらもう居ません。



 ……え、何この状況??

 私にどうしろと!!



  

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