第①話 ウィルフル・ピース
「益有、そこをどうにか……頼む。この通りだ!!」
担任の先生が両手を合わせて頭を下げてくる。
大人のこういう姿は、正直あまり見たくないなと思う。
「先生が自分で称美さんに頼めばいいじゃないですか」
「うーん、それはなぁ……ちょっと高くつくと言うかなんと言うか」
「クラスでは勉強の手助けたり、困ってる人にアドバイスしたり、色々と面倒見がいいですよ?」
「それは生徒同士だからなぁ」
「……?」
よくわから無いけれど何か問題があるらしい。
「とにかく、ダメ元でいいから頼んでみてくれ」
と言うだけ言って、担任は職員会議に行ってしまった。
「はぁー」
十六夜称美さんとはあまり親しくないから、こんな事をお願いするのは気が進まない。
それに、その立ち居振る舞いの美しさや高い運動神経、そして人当たりのいい性格から周囲の尊敬を集める彼女が、桔梗トトキさんと日向陽毬さんに下手な事を言えば、イジメに発展する事もあり得ます。
「……」
小学五年生の頃、私はイジメを目の当たりにしました。
一人の女の子が、数人の男の子からずっとイジメを受けていて。
特にそのリーダー格の男の子がしつこくイジメをしていた。
でも、私を含む他のクラスメイトは皆んな見て見ぬ振りだった。
下手に口出ししたら、今度は自分が標的にされる。
それが怖かったから。
先生もずっと知らん振りで、結局その女の子は転校していった。
その数日後、イジメをしていたグループのリーダーも不登校になってしまった。
もしかすると、そのイジメは好きの裏返しだったのかもしれない。
好きな子に構って欲しくて嫌がらせをして、次第にエスカレートしてしまったのかも。
だから、転校に追い込んでしまった自分を責めて、学校に行けなくなった……とか。
もちろん違うかもしれない。
単に、学校へ行かずに遊んでいるだけかも。
どちらにしても、笑顔のない結末だった。
そして私たちのクラスは四月を迎えて、クラス替えとなった。
胸の中に気持ち悪さを残して。
「……ふぅ」
また同じ状況になった時、私はイジメを止められるのか。正直、自信がない。
だから私はクラス委員に立候補した。
ルールとモラルをちゃんと守って生活したい。してほしい。
だからクラス委員として、いけない事をした人がいれば注意するし、困ってる人がいれば話を聞く。ちゃんとみんながルールを守って、みんながモラルに従うように気をつける。
そうすれば、きっとイジメは起きないから。
「……こっそり注意してって頼めば、きっと大丈夫だよね」
明日、十六夜称美さんに頼んでみよう。
彼女に注意されれば、態度を改めてくれるかもしれない。
もしそうなれば、クラスはもっと一致団結する。
そしたらきっと、イジメなんて絶対に起こらない。
『みんなが笑顔でいられますように』
不純だけど、クラスのためじゃない。
これは私のワガママだ。




