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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第三章
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第拾参話 十六夜さん家の称美ちゃん

 


 『十六夜』の力を駆使して建造した海辺の厨房。

 その外側に設えたバルコニーにて。

 目の前に広がるのは美食の数々。

 そして私に微笑みかけるトトキさんと陽毬さん。


「うふふ」


 お父様とお祖父様は勿論ですが、御二人のお蔭で今の私があるのですわ。


 お父様をねじ伏せた後も色々ありました。

 御二人との対話と和解したり、部活動を反対するトトキさんの両親を説得したり。

 部を設立する為に、生徒会と勝負も致しましたわね。

 すべて、長いようで一瞬でしたわ。


 ……おっと、早く始めないと料理の味が落ちますわね。


 見回せば、御二人とも食べる気満々といった状態ですわ。

 でも、御免あそばせ。

 もう少し我慢して頂きますわ。

 これは大切なことですの。


「さて。それでは、」

「「「「いただきます!」」」」

「の前に!」



「「!?」」



 今にも箸を伸ばさんとしていた御二人が固まります。

 大きな瞳をまん丸にして驚きを露わにする陽毬さんと、頭の中が疑問で一杯になり過ぎて寧ろ一周回って冷静なトトキさん。


「うふふ」


 陽毬さんにサプライズが成功するのは珍しいですわね。

 異常に勘の良い方ですから、途中で気付かれてしまうのではと冷や冷やしておりましたわ。

 上手くいって良かったですの。


 おそらくはトトキさんのチヌ釣りへの熱に当てられて、負けじと料理で手一杯になった結果でしょう。

 お蔭で貴重な光景が見られましたわ。


 さてさて、あまり待たせては可哀想ですわね。

 満を持して登場頂きましょう。


「さあ御出おいでませ、本日のゲスト様」


 私の呼び掛けを合図に、建屋の陰からおずおずと姿を見せたのは、


「……委員長?」

「おー!委員長だ!!」


 不思議そうに首を傾げるトトキさんと、

 心なしか嬉しそうな陽毬さん。

 二対の冷静な眼と期待する眼に曝されて、少し居心地悪そうにも身動みじろぎする益有ますあり委員長。

 かといって、誠実な彼女は黙って項垂れるのではなく、折り目正しく言葉を紡ぎます。


「えっと、ご相伴にあずからせてもらおうと思います。構いませんか?」

「もちろん!ジャンジャン食べて良いんだよ!!ね、トトッチ?」

「うん、構わない。歓迎する」


 少しほっとした表情を浮かべる委員長さん。


「あ、ありがとうございます」


 軽く会釈すると、花森が用意した白椅子に着席されました。

 陽毬さんは想定通りの反応ですが、トトキさんが『歓迎する』と付け足したのは意外ですわね。

 言葉少ない彼女から、この一言を付け足してもらえる存在というのは、中々に稀有ですわ。


「さて、そろそろ始めますわよ」

「待ってました!てか、本当に早くするんだよ!!」


 ええ、陽毬さんの言う通りですわね。

 もしも刺身に意思があれば、『乾燥してまうやないか!』と猛抗議をされてしまいそうですわ。


「では、改めて」

「「「「いただきます!」」」」

「い、いただきます」



 皆が思い思いに箸を伸ばす。

 クラスの調和を保たんとする人間と、調和を破ってでも個を貫こうとする人間。

 交わらない者たちが同じ皿を囲んで食事を共にする。


 素晴らしいですわね。


 私は御二人のように真っ直ぐは生きられないけれど、不純でなければ出来ないことが社会にはありますの。

 ですから、自分の役目はそれですわ。

 周囲との摩擦を軽減し、必要なものを用意し、修練するための最高の環境を作り出す。そして必ずや、二人を超一流に導いてみせますの!


「うふふ」


 そのついでに、軽く十六夜家への利益でも出しますわ。


 

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