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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第三章
34/51

第陸話 賞味いたしますわ~贅卓ノスタルジア~

 純白のテーブルクロスを彩る、三皿の清楚な逸品たち。


 それらを眺め、匂いを嗅ぐ。


 気が付くとわたくしは、前菜シロツメクサたちの咲き誇る河辺にたたずんでいました。


 畔道あぜみちに揺れる鯖の湯引きを眺めながら、一歩ずつ海辺へと近付いて行く私。

 大地一面に広がる水菜の表面に光る、瑞々(みずみず)しい水滴が始まりを予感させますわ。


 先へ進むに連れて、優しい海の香りが鼻孔をくすぐり始める。

 視界を遮っていた藪を抜け、目前に広がったのは潮汁うしおじると言う名の大海原。

 その優しい大海の香りに、身も心も包み込まれてしまいます!


 そんな大海たいかいわたくしとをへだてる荒磯あらいそには、豪快に釣りをするトトキさんと、簡単には釣られまいと躍動する姿盛り(さかなたち)……。


「お嬢様」

「っ!」


 花森に窘められてしまいました。いけませんわね。

 あまりの期待と興奮で、ついついトリップしてしまいました。

 当然ながら、目の前にあるのは『白詰草クローバーを模した前菜』と『黒鯛チヌのアラで作った潮汁うしおじる』、そして『アジ黒鯛チヌの姿盛り』ですわ。


 前菜には湯引きされたさばが用いられていますわね。

 いかに新鮮とはいえ、九州の一部海域を除いては食中毒の危険性があると言われていますから、お造りで頂くのは難しいところですの。

 その辺りの事情を鑑みるに、熱を入れつつ新鮮さを活かすために「湯引き」をチョイスしたのでしょう。

 加えて、飾り包丁を入れることで食中毒のリスクを下げていますわね。

 安全性と生鯖の美味しさを両立した、素晴らしい一皿ですわ!


 潮汁は味付けがシンプルな料理ですわ。

 故に、火を止めるタイミングや、アラの扱いなどなど。調理行程の小さな違いが、最終的に大きな味の違いとなるのです。

 その点、陽毬さんの濃厚な料理経験が、彼女を最高の行程に導いている筈ですわ。

 お椀から漂う、この芳醇な磯の香りを味わえばたちまちに分かります。

 美味しくない訳がないですわ!


 姿盛りでは、白波を大根のツマで、磯辺をワカメで、そして釣り竿を細く薄く切った人参で表現されていますわ。

 トトキさんの釣り風景を見て、インスピレーションが湧いたのでしょう。

 あぁ、なんという躍動感!

 しかし、内容は普通のお造りですわね。

 あくまでも素材勝負ということでしょうか?

 ……いえ。陽毬さんに限っては、何も工夫を凝らさないなんて有り得ませんわ。

 おそらく何かある筈ですわ。……でも何が隠されているのか判らない。


 ああ、なんという理不尽!


 わたくしを翻弄する一皿を前に、恍惚とすることを禁じ得ませんわ!

 今にもとろけてしまいそう!!


「おほん」

「っ!」


 またやってしまいましたわ。

 同じ失敗を繰り返すなんて、『十六夜』失格ですわね。

 けれど美食家を志す者としては、これは当然の反応です。

 反省はしても、後悔はしませんわ!


 そうして空腹に意識を向けたところで、周囲を見遣ればトトキさんも陽毬さんも、食事の準備は完了した様子。


「皆様、準備はよろしくて?」


 こちらを見て頷く御二人。

 彼女たちのお陰で、今のわたくしが在るのですわ。

 もしも御二人と出逢わなければ、きっとわたくしは本当の自分を見失ったままだったでしょう。

 ずっと美食に焦がれながらも、ただただ『十六夜』で在り続けたでしょう。


 そんな思考に引き寄せられるように、泡沫うたかたのような過去の残滓が脳裏をよぎるのでした。


 

サカナ部結成前の話、過去編に突入します。

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