表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第三章
32/51

第肆話 賞味いたしますわ~星屑サイレント~

 


 日の沈んだ夜空に浮かぶのは、上白糖を散りばめたような綺羅星たち。

 その柔らかなスポットライトに照らされて、巨大なチヌと共に薄っすらと微笑むトトキさん。


「チヌ、獲った」


 淡々とした、クールな一言。

 陽毬さんに宛てたその言葉は、しかし表面的なシンプルさとは裏腹に、眼を見張るほどの熱量が言外に籠められていますわ。

 その挑戦的な想いは、わたくしにまで伝わって参ります。


「おっしゃあ!任せろトキりん!!」


 感化された陽毬さんが、威勢良く叫びを上げる。

 いつにも増して気迫を迸らせていますわね。

 素晴らしい!


 過去最大の釣果を叩き出し、陽毬さんの心に火をつけて。

 ファインプレイですわよ、トトキさん。

 今日の部活動はきっと、いつも以上に熱いものとなりますわね!


 約40㎝のチヌを手に走り去る、若き料理人の背中をトトキさんと一緒に見送ります。

 調理の補助は花森に任せて、私は十全に仕事をこなした我らが釣り師を、しっかり労うことと致しますわ。


 ……それに「まだまだ釣り足りない」という気持ちが燻っているようですからね。

 ちゃんと諌めて監督する必要が有りますわ。


 先程から落ち着かない様子で、右見てウズウズ、左見てソワソワ。

 今すぐにでも船に飛び乗って、沖堤防へと出発しそうな雰囲気。


 あぁ、愛らしいですわ!

 でもキチンと注意しなくては。

 これもまた部長として、ひいては十六夜としての責務ですもの。


 とは言いつつも、微笑ましいという思いは止められませんが。


「うふふ、仕様がありませんわね。まだ釣りをするのでしたら、比較的安全なポイントで行って下さいまし」

「……うん、わかった。まったり釣る」




 そんなわけで、比較的に安全な釣りポイントまで移動した私たち。

 星明りに薄く照らされ、ゆっくりと揺蕩たゆたう小波。

 少し遠くから聞こえる潮騒が、岩礁に染み渡っては消えてゆく。

 時折聞こえるリール歯車ギアの回転音と、空を裂く釣竿の穂先だけが周囲に緩急を与えている。


 穏やかで、ほんの少し淋しい世界が広がっていますわ。


 私もトトキさんも、ただ海を見つめて座っている。

 そこには言葉も目配せすらも御座いません。

 それでも、確かに互いの存在を感じあう。

 ……何だか感傷的ノスタルジックになってしまいますわ。


(折角ですし、日頃の感謝を伝えてみようかしら)


 そんな想いが湧き上がった、まさにその時でしたわ。

 トトキさんに先を越されたのは。


「……いつもありがとう」

「っ!!」


 ま、まさか、あの無口なトトキさんが!

 大事なことほど背中で語るトトキさんが!

 口に出して感謝の述べている!!


 なんて尊い一瞬なのでしょう!!!


 嬉しさと驚きがぜとなって、ついつい言葉を失ってしまいます。

 先に謝意を伝えなかったのは、本当に僥倖ですわね。


「驚き過ぎ」


 そう言って少し頬を膨らませるトトキさんも愛らしい。

 ついそんな事を思ってしまったのは、ご愛嬌ですわ。


「「……」」


 天使の様なトトキさんに呼び寄せられたのか、わたくしたちの間に再び沈黙が訪れます。

 そこにあるのは、先程と同じく揺蕩たゆたう小波と、淡く聞こえる潮騒の音。


 けれど。

 なぜか周囲を包む静寂からは、一握りの淋しさが消えて失せて。

 そこには不思議な温かさだけが残されていました。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ