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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第三章
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第弐話 賞味いたしますわ~お嬢様マネジメント~



 目映まばゆい陽光の降り注ぐ荒磯に、波飛沫を従えて立つトトキさん。

 相変わらず、画になりますわ。


 手にしたロッドにはおもりだけが下げられている。

 いつも通り、海底を探るつもりですわね。


 竿先が鋭く空気を裂き、遠方へと錘が投擲キャストされる。放物線を描いて飛んでゆき、滑らかに着水して水底へと沈んでゆく。

 それを見届けたトトキさんも、静かに意識を海中へと沈めてゆく。


 深く集中していらっしゃいますわね。

 ただ、釣り以外の事に気がまわらなくなるのが難点ですわね。せめて自分の体調管理くらいは、自分で出来るようになって貰わなくては困りますわ。


 このまま放っておけば脱水症状になるまで……いえ、なったとしても気付かないでしょう。

 特に今日は、その傾向が強いですわ。


 それ程までに彼女の憧れは、プロの釣り師 波澤翠なみさわ すいは大きな存在なのでしょう。


「……」


『偉大な存在に挑む』

 脳裏にお祖父様の背中がぎりますわ。

 日傘を握る手にじっとりと汗が滲んだことで、自身が緊張と興奮を覚えていることを悟ります。


 わたくしも平常心を保てるかどうか。自信がありませんわね。


 ならわたくしは、トトキさんを戒める言葉を持ちませんわ。

 今日のところは大目に見るしかありません。

 致し方無いですわね。

 頃合いを見て、花森に水分補給をさせると致しましょう。



 一方で陽毬さんはというと、頭の後ろで手を組んでトトキさんを見つめていますわね。

 熱心なその瞳には、眩い対抗心が煌めいていますわ。

 互いをライバルと認め合い、互いに刺激しあって高め合う。

 美しい関係性ですわ。


 普段から料理に対して燃え盛る陽毬さん。

 そんな心の炉へと、燃料トトキさんを盛大にべてゆく。

 瞳に宿る輝きが次第に増幅され、膨れ上がって……そろそろ動きそうですわね。


「「……」」


 勘の鋭い陽毬さんに悟られぬよう、私と花森は緩やかに身構えましたわ。

 目線の先で陽毬さんは、傍に置いた巨大リュックを漁り、その場に折りたたみの台を設置しました。

 さらに、陽光を反射して妖しく光る包丁と、ヌルヌルと震える様が若干卑猥なコンニャクを「お嬢様」分かっていますわよ!品位に欠けると言いたいのでしょう?理解はしていますが、そう感じてしまうのですから仕方ないではありませんか!

 ……まあ、花森に読み取られてしまった私に非がありますけれど。

 十六夜家には、相手の表情や挙動から内心を予測する読心術が存在致しますの。今は花森のほうが長けていますが、私の方も……おっと、話が逸れましたわね。


 陽毬さんがその場で調理を始めたので、安心して気を抜いてしまいましたわ。


 どうやら、この磯を離れて何処かへ、具体的には背後に広がる藪の中へ、突入することは無さそうですわね。

 もちろん、普段なら自由に動き回って頂いて構わないのですが、本日に限っては少し都合が悪いんですの。


 そうして気を揉んでいる間にも、陽毬さんはコンニャクを鮮やかにスライスして……。


「?」


 包丁捌きは普段通り、華麗にして流麗。

 まるで包丁が勝手に舞い踊っているかの様ですわ。

 しかし、出来上がったコンニャクの切身はと言えば、厚みも形状も何もかも、ほぼ全てが不揃いな有り様。

 ここから一体何が作り出されると言うのでしょう。


「よし、完成だぜ!」

「!?」


「ただの不揃いなコンニャクですわよ?」

 そう問い掛けるよりも早く、単なるコンニャクの切れ端に軽く醤油を付けて、一枚一枚味わいながら口へと運ぶ陽毬さん。


 なるほど、そちらのパターンでしたのね。

 料理を作るのではなく、料理の研究を行なっていたのでしょう。

 おそらくは切り方と味の関連性、それも刺身を想定したものですわね。


 肉や魚を使用出来ない精進料理にいては、代用品として刺身にコンニャクを使用する事がありますの。

 そんな事前知識も無しに、さらりとコンニャクを選択するあたり、陽毬さんの高い料理センスが垣間見えますわ。


「ふむふむ、奥が深いんだよ」


 瞳を閉じて、しばらく考え込みます。


「……うん、とりあえず方向は決まったかな!!!」


 かと思えば、唐突にバッ!と両手を振り上げる陽毬さん。

 本日のメニューが定まったようですわね。

 一体どんな逸品なのかしら。

 想像するだけで、興奮のあまり垂涎を禁じ得ませんわ!!!


「もう、ヨダレが垂れてるよ?」


 何時の間にか目の前にまで来ていた陽毬さんに、クッキングペーパーで口端を拭かれてしまいました。

 本当に滴っていたようですわね。ごめんあそばせ。



 ともあれ。

 トトキさんも陽毬さんも、本日の部活動に向けて気力は十分。


 あとは、御二人が安心して全力を注げるように、私が少しサポートをするだけですわ。



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