導入 ~全力料理少女、日向陽毬~
やっほー!
みなさん、初めまして!日向陽毬と言います。
好きなように呼んでくれて大丈夫だよ?
ひまちゃんでも、マリリンでも、ひゅまっちでも、何だったら花子でもアレックスでもオッケー!
その時の気分で、良い感じのをチョイスして…あ、ちょうちょだ!
羽根とかすごい綺麗だけど、美味しいのかな?
知ってる?
セミとかカミキリムシの幼虫とか、結構美味しいんだよ?
みんな「うえぇぇおぇぇ」ってなるから、頭の中で思っても言葉にはしないけどね。
でもでも、世界には美味しいものがてんこ盛りだし、いろんな味を知ってれば 知ってるほど選べるものが増えるし!
そしたらもっと美味しいものが作れて、みんなが笑顔になるはずなんだよ。
まぁ、嫌がってる人に無理やり食べさせたって、喜んではもらえないんだけどね。
さて、自己紹介なんてこのくらいにして。
今まさに、サカナ部は部活動の真っ最中!
もちろん私たちは、部員それぞれが何時でも何処でも部活動してる訳だから、これはサカナ部が全員集合してるって意味の言葉だよ?
朝でも昼でも夜でも、家でも学校でも屋外でも。わたしの頭の中では、料理こそが全ての中心軸!
まあ、そのせいで変な子扱いされることも多いけど。
「……」
背後を振り返ると、美食に燃えるお嬢様の十六夜称美が、包容力バツグンの執事である花森さんと歩いている。
相変わらず、二人とも歩き方が綺麗だ。
あんな風に姿勢がいいと、ゴハンも美味しく食べられる。素晴らしいね!
目が合った。にこやかに微笑みながら、高貴な感じで手を振ってくれる。
そして正面に目線を戻せば、釣りに真摯でまっすぐな桔梗トトキが、いつも通りに海へと想いを馳せて……おや?
いつもなら、釣りに向かうトトッキーは「これから真剣勝負でござる」って感じの、武芸者みたいな雰囲気のはず。
なのに今は少し頬を赤らめて、ちょっと浮ついてる感じ。
わたしの料理人としての勘が囁いてくる。
こういう時は、アレが一番美味しく食べられるはず!
早速、よいしょっちに聞いてみよう。
「へい、よいしょっち」
「何ですの、その安っぽい呼び名は?」
お嬢様ちっくに髪をかきあげ、ちょっぴり拗ねたような声を上げる称美ちゃん。
この呼び名はお気に召さなかったようだ。
「んー、じゃあイザビー?」
「スナック菓子にありそうですわね」
「ならオッケーだね!」
「そんな訳ないでしょう!!」
これもダメかぁ。
まあいいや。
「そんなことより、今日って紅茶は持ってきてる?」
「ええ、もちろん」
さすがはお嬢様だね。午後のティータイムは欠かさない!
「前に飲んでた海外産のやつも持ってる?持ってるなら、ちょいと下さいな」
「ん?あぁ、成る程。そういうとですのね」
なにかに納得した様子で、すぐさま執事の花森さんに合図を送る。
「花森」
「はい、こちらを」
花森さんが、まさしく以心伝心のタイミングで、どこからともなく取り出した水筒を、わたしに恭しく差し出してくれる。
「さぁ、早くトトキさんに飲ませてさしあげて」
そう言って、イザビーは柔らかく微笑んだ。
美食家を目指してる上に頭もいいから、わたしのやる事くらいはすぐに分かってくれる。
この紅茶はあま~いレモンにも合う。
しかも、お茶系によくある渋い感じがないから、今のふわふわなトトっちゃんには最適な味のはず。
わたしの勘は噓つかない!
早速、ふわふわトトっちにアプローチ。
近所のエキゾチックな雑貨屋で見つけた旅行用のリュックサック(15泊16日まで対応ってポップが付いてた)をガサゴソ。
テッテレー!陽毬は蜂蜜レモンのキャンディドフルーツを手に入れた!!
説明しよう!
こいつはレモンを甘々にしつつも、ちょっぴり天日塩で味を「きゅっ!」ってしてあるのだ!!
トトっちゃんに手渡すと、酸っぱウマ〜って顔をした後、紅茶をがぶ飲み!
「ふぅ〜」
染み渡るわぁ、って感じの吐息を漏らしてから、もう一口。
紅茶がぶ飲みで、また一口。
「うん」
満足そうに頷くトトっちゃん。
いやぁ、こういう時に「料理作って良かった!」って心から思うんだよね。
さっきまでのふわふわ感も消えてるし、やっぱり美味しいは正義だよ!
あと、カラダの調子がバッチリじゃないと、ゴハンも不味くなっちゃうしね。
さてさて、そんじゃ料理を極めるために、周辺散策の続きと行きますか!