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サカナ部の暇潰し’nシーサイド  作者: カカカ
第三章
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第壱話 十六夜さん家のお嬢様

  

 美しい蒼穹そうきゅうには太陽が燦々と輝き、海辺に佇むわたくしたちのもとには、世界を彩る可視光と、肌の彩色いろどりを奪う紫外線が降り注ぐ。


「うふふ」


 たとえ手元の日傘でそれらを防ごうとも、地表から照り返す光がわたくしを襲い来る。


 自然は全てを容赦無く包み込み、勝手気儘かってきままに身を振り手を振るう。

 それは時に美しく、時に無慈悲で……。


 嗚呼あぁ自然あなたはどうして、こうも私の心を震わせるのでしょう!

 

 この大き過ぎる存在感に、その理不尽なまでの無軌道さに、私の全てを捧げたい!

 ついつい、そんな想いを抱いてしまいますわ。


 ……本当に捧げたりは致しませんわよ?

 現に、日焼けとUVへの対策は万全ですわ。

 女性にとって、白い肌は強力な武器ですもの。


 化け物が跳梁跋扈する、社交界という魔窟に生きる身ですから、一つでも多くの武器が欲しいのですわ。

 なにせ男性相手であれば、お手軽に相手の集中力を削ぐことが出来ますからね。

 交渉事に置いては、とても便利ですの。



「ふふ」



 心では自嘲的に、表面では完璧に微笑む。

 いつも通りの慣れた笑顔。

 何人たりとも看破は出来無い、その自信がありますわ。

 なにせ、十六夜家の令嬢としての在るべき姿を、

 指導者として必要な知識・所作・精神性を、

 幼い頃から指導されてきましたから。


 世界各国の言語、歴史、文化を知り、経済学、心理学、社会学など、様々な学問を身に付け、絵画や音楽、彫刻などの教養を詰め込まれた。

 今では海外の知識人たちとジョークを交えて談笑できますわ。


 常日頃から所作を監視され、指先の一本々々に至るまで意志的に動かすすべを学び、一分いちぶの隙もなく身体を操作するよう仕込まれる。気がつけばわたくしは、ただ立ち尽くすだけで衆目を惹きつけ、軽く動けば相手を威圧する程の域に達していました。もはや武道ですわね。


 集団の頂点に立つ者としての精神性も植え付けられる。

 曰く、

 人を動かし、事を成して、人に報いるべし。

 人情・道徳は最強の盾でありほこである。

 されど邪道もまた道、侮るなかれ。

 全勝とは敗北。窮鼠を生むべからず。

 相競う敵もまた味方なり。

 エトセトラエトセトラエトセトラ。

 多くの訓示が、私の人格に型を与えていった。


 それらは『十六夜』として生きるには必要だったと、今ならわかります。

 それに、感謝もしていますの。

 ただ……それと同時に、くだらないとも思ってしまいます。


「……ふぅ」


 もっと純粋に、単純に、生きてみたかった。

 私の敬愛する二人のように、真っ直ぐでありたかったと思う。

 今はもう難しいですけれど。

 純粋でいるには、少し物事を知り過ぎてしまいました。



 おっと、こんなことを考えている場合ではありませんわ。

 今は大切な部活動の最中。

 特に今日は、いつにも増して(・・・・・・・)十全にサポートをしなくてはなりません。


 御二人に目を向ければ、そこには一心不乱に釣りと料理を追い求める姿が。

 どこまでも鋭利で、美しくも儚い姿。

 心の底から、愛おしいですわ!


 ああ、そういえば。

 有名な訓示にこのようなものがありますわ。


『清流に大魚なし』


 浅く澄んだ水の中には、小さな魚しか住んではいない。

 然して、底の見通せぬ沼には大抵、巨大な魚が住んでいる。

 故に、清濁併せ呑む度量を持ちなさい。という訓示ですわ。


 要するに、「環境に適応して、好事も悪事も許容し、己が糧としなさい」ということですの。

 ちょっぴり灰汁あくの強い、ビターな内容ですわね。


 この例えをトトキさんと陽毬さんに当てはめるなら、さながら「深海魚」ですわね。


 誰よりも深みへと潜り、特異な環境に特化するべく研鑽を積んだ存在。

 海底の闇も、高濃度なミネラルも、圧倒的な水圧も。

 総てを受け入れ糧とした、まさに真なる大魚。

 ああ、堪りませんわ!

 今すぐにでも御二人を食べて、いえ、むしろ食べていただきたい!!!


「おほん、お嬢様」

「あら、御免あそばせ」


 花森に窘められてしまいましたわ。

 錯乱具合が外に漏れていた様ですわね。気を付けなくては。


 ともあれ。

 言うまでもありませんが、深海魚を清流に投げ入れれば、たちまちのうちに息絶えてしまいますわ。


 であるならば、

 彼女たちが棲息できる沼を用意して、大切に大切に育んでゆく所存ですわ。

 いつか彼女達が陸へと上がり、地上を席巻するその日まで。


 

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