幕間その2 〜陽毬スクール 2〜
小学生時代は、どっぷり料理漬けの日々を送ったわたし、日向陽毬。
料理が最強と信じて、その他のことはそっち除け。
とりあえず中学生まで突っ走った訳だけど……。
事あるごとに集団から浮いちゃうんだよね。
なんでだー!
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「おっはよーございまーす!」
今日も元気に、教室の扉を開け放つ。
「あ、ひまちゃん。おはよー」
「ひまっち、おっはー」
「陽毬ちゃん、おはよう……。(なんで『スッ◯リ!』の山◯さん風なんだろう?)」
「おはよー」「おはよー」って、クラスメートたちから、いろんな反応がドバーッと返ってくる。
リアクションの、満漢全席やー!
……え?
クラスから浮いてないじゃんって?
うん、今はそこそこ馴染んでるよ。
調理実習のおかげで。
やっぱり料理は最強!
……でも、入学してから数ヶ月は完全に敬遠されてたんだよね。
てか、小学生時代も多分敬遠されてたんだと思う。
料理に夢中過ぎて気が付かなかったケド。
中学校っていう新しい環境になって、ちょっと冷静に周りを見たら「あれ?浮いてる!」ってなってたんだよ。
チャーハンの上のグリンピース気分を味わったね。
んで、そこで気が付いたわけ。
好きな事だけやって生きていくのは、普通のことじゃないんだなって。
集団行動ってやつだね!
確かに、集団の和って大事なんだよ。
フレンチのフルコース食べてる時に、いきなり味噌汁が出てきたら、もう台無し。
ガクン!って食欲が下がっちゃう。
……だとしたら、学生っていう集団を美味しく食べたいのは誰なんだろうね?
これって大切だと思うんだよ。
だって、このまま味噌汁で居続けるためには、フルコースを全部ねじ伏せるくらい美味しくないとダメだし。
だったら、食べる人がどんな人か分かってなきゃね。
まぁ、それはともかく。
お喋りしてたら、いきなり料理を始めたり。
突然教室を飛び出したかと思えば、口元に食べカスつけて戻ってきたり。
そんなわたしを、若干迷惑そうに見つめるクラスの皆さん。
これが日常だったんだよ。
そんな感じで、ふわっふわに浮いていたわたしは、調理実習の班分けで余ってしまったのです。
思いのままに料理してやったぜ!!
課題はナポリタンだったけど……まあ当然、時間が余っちゃうよね。
その辺の素人中学生が何人いたって、わたし一人の調理スピードにはついてこれないんだよ。
だから余分に持ってた材料とか、購買で売ってた牛乳とかお菓子とか、いろいろ使って品目を追加!
ビシソワーズっぽいスープとかクリームコロッケもどきとか。
有り合わせの素材で、ナポリタンに合いそうな物を無理矢理作ってみました。
授業中に堂々と料理が出来る!って思ったらテンション上がっちゃって、だいたい20人前くらい作っちゃった。
つい、パッ!となってやりました。後悔はしてないぜ!!
んで、一人じゃ食べ切れないから、他の人にも食べて貰う流れになって……あとは御察しの通り。
皆んなが「美味い!!」ってなって、わたしの存在が認められるようになったんだよ。
見事、ねじ伏せる味噌汁になれたわけだね。料理、マジ最強!!
それ以来、突然キュウリを切り始めようとも、数種類のうま◯棒を粉々にして調合し始めても、ハサミと下敷きをアルコール消毒して包丁とまな板代わりにしても、色んな厚みの鉛筆削りカスを作って匂いを嗅ぎ比べても、いきなり芋虫とかをぱくっと食べても……いや、あの時はさすがにドン引きされてたかな?
とにかく!
これまでなら嫌な顔されてた行動が、なぜか調理実習以来は、
「まぁ、仕方ないか」
って感じで、黙認されるようになった。
てか、むしろ積極的に「今度は何してるの?」ってイジられるようになったんだよ。
いわゆる、マスコットキャラクターみたいな感じかな?
クラスの皆んなで、珍獣を一匹飼ってます。的な扱いなんだよ。
確かに、以前よりはいい状況なのかもしれない。
……でも、わたしがちょっと変な事をすると、違う生き物を見つめる目を向けられる事が、割とある。
そういう時は、どうしても心がざわつく。
わたしは皆んなと同じ場所にいても、違う景色の中にいるんだなって。
そう思うと、失敗したシフォンケーキみたいに、へなへなのショボーンってなる日もあったり。
その点、委員長は態度が一貫してて、結構好きだったりするんだよ。
「日向さん」
「なあに、委員長。 あ、揚げた麺類あるけど食べる?」
「いりません。というか校則違反です!」
怒られちった。
ラーメンとか、うどんとか、そばとか。
それぞれ味付けして、色々揚げてみたら意外と美味しかったから、食べて欲しかったんだけど。
「えー、美味しいのに」
ちなみにオススメは、揚げた中華麺の甘酢風味!
「美味しいかどうかは関係ありません!」
早くカバンに戻して下さい!と急かされる。
相変わらず、委員長はブレないね。
だがそこが良い!
「いいですか、日向さん。規則というのは、それを守ろうとする心こそが……」
いつも通りにいっぱい説明してくれるけど、要は学校に調理器具とか材料を持ってくるな!って感じかな。
どんなに美味しくても、味噌汁である時点でフレンチ失格!っていうスタンスだね。
確かに正しい。でも、その頼みは聞けないね。
「でも、学校は色んな料理があっていいと思うんだよ!」
誰もフレンチ限定なんて言ってない。
色んなジャンルの集まった、ごった煮状態こそが学校だと思うんだけど。
「り、料理……?なんの話をしているのですか!」
「あれ?」
そういう話じゃないの?なんか間違えた??
「とにかく。あなたの行動が、集団に悪影響を及ぼすんです」
まぁ、味噌汁の残り香と一緒に、ローストビーフ食べるのは勘弁だよね。
食べる人にとっては、コース料理全体としての調和も大切。
……でもなぁ。
「でも、委員長はわたしたちを食べないでしょ?」
「ん?えっと……???」
あれま。また噛み合わない。
ってやってる間に、チャイムが鳴り響く。
残念。委員長とはもっともっと、お喋りしたいんだけど。
「と、とにかく!最低限、校則違反はしないで下さい!!」
そう言い残し、彼女は席に戻っていく。
わたしの言葉を解読しようと、頭を捻りながら。
他の人なら「そういう生き物だから」で理解を諦めるけど、
委員長はきっちり人間に向き合ってくれる。
やっぱ好きだなぁ。
いつの日か、全力の手料理をお見舞いしてやるんだよ!!
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委員長とのおしゃべりを堪能した、その日の午後。
わたしは称美お嬢様と、初めて会話する事になった。
会話するのは初めてだったけど、でも目はつけてたよ。
だって、調理実習での反応が一人だけ違ったもん。
他の人は「あ、うまい!」だったけど、
でもお嬢様は「……美味い!」って感じだったからね。
料理への造詣が深そうな間があったんだよ。
だから、そのうち何か食べさせて、感想を聞いてみたいと思ってた。
あの瞬間までは。
だって、
「規則を守るとはどういう事か、ご存知?」
こんな事言ってくるし。
この時はまだ、『ショウビー』とか『よいしょっち』って感じじゃなかった。
ただの『お嬢様』だったんだよ。
まあ、内容は委員長と一緒なんだけどね。
でも心が違う。全然違う。
本当はそんなこと思ってないのに、着ぐるみして喋ってる。
……って言えばいいのかな?
しかも、着ぐるみするって事がどういう事なのか分かってて、
深く深く分かってて、それなのに着ぐるみしちゃってる感じ。
その辺が、こう、無自覚な人たちより、
なんかモヤっとする。
だから、言ってみた。
「はい、ダウト!!!」
「っ?!」
あんなに驚いた顔のよいしょっちは、後にも先にも見た事ないかな。
いつか、料理であんな顔させてみたいんだよっ!!
次から、称美パートが始まります。
お話が半分まで来ました。転に入ります。