第7話 料理するんだよ~捌く!その2~
「うぉりゃぁーー!!!」
音の壁を越えてやるぜ、くらいの気持ちで鯖と鯵を1匹ずつ三枚おろしに。
小ぶりな魚だから捌きやすい。
何だったら素手でも捌けちゃうくらいだね。
……え?
うん、マジだよ?
さすがに三枚にはおろせないけど、開くくらいなら楽勝かな。
小さめな魚の場合は、頭を「えい!」って折れば簡単に取れるんだよ。
あとは、その断面からお腹の中に親指を入れて、「ずるずる」っと内臓を押し出しながら尻尾まで引き裂けば、アジの開きがバッチリ完成だよ!
さて頭の片隅がそんな説明をしている間に、身体の方はきっちり三枚下ろしを終わらせたみたいだね。
鯵は身を全て刺身にしてキレイに整列。頭と尾ひれを前後に飾ればバッチリ。
いわゆる……なんだっけ?
「花森さん、これなんだっけ?」
「姿盛りですね」
「そう、それそれ!」
海っぽい感じにシソとかツマを盛り付けた、陶器の大皿にその姿盛りを設置!
大海にポツーンと鯵が泳いでる状態の完成。
なんとも寂しい絵面なんだよ。
まあ、これから増えるけど。
で、そっちは置いといて。
今度は鯖を一口サイズの切り身にして、皮を切らないように包丁を入れまくり!
……そうしている間に、他の頭の片隅がキュピーン!と何かを察知。
視界の端に何かを捉えたね。
察した何かがありそうな方向に目を向ける。
そこにあったのは、ステンレス製のトレーに乗っけられたチヌの頭と骨。
あ、そっか。なるほどアラを見てピンと来たみたい。
よく見たら振っておいた塩のおかげで、良い感じに水分出てる!
どうやら準備がバッチリになったみたいだよ。
急いでザルの中にアラを入れて、用意しておいたお湯にどぼん。
取り出したら丁寧に水洗いして、これまた用意しておいた昆布出汁の中に投入っ!
そこそこの火加減で煮ていく。
「くんかくんか」
出汁のじゅわっとくる香りと、チヌちゃんのガツンとくる磯の風味。
二つの美味しい匂いが、ゆっくりと混ぜ混ぜされていっておりますなぁ。
うん、これでよし。
あとは定期的にくんかくんかしながら様子見かな。
んで、その間にさっきの鯖にお湯をかけていきまーす。
「皮の上からジャバジャバぁ」
鯖の身を下に、皮を上にして設置。
沸かしてあった熱湯をスルーッとかければ……、
はい花開きました!
キュッ!と皮が縮んで、切り込みの入った身がバッ!と広がる。
熱で白っぽくなったそれは、まるでシロツメクサの花みたい。
イメージ通りなんだよ!
まあ、色んな食べ物に色んな角度から、色んな温度のお湯を掛けたり、もしくは潜らせたりしてきたからね。
思い通りに湯引きするなんて朝飯前!
いやあ、一時期はずぅ〜っとやってたなぁ。湯引き。
湯引きって面白いんだよ?
例えば動物の皮の部分って、脂がメッチャ乗ってて美味しいんだけど、逆にしつこ過ぎる時もあるっしょ?
でも、湯引きすると良い具合に脂が落ちて、あら不思議!
脂肪でグニュグニュだった皮が、プルプルとかコリコリな食感になって、なかなか味わい深いんだよ。
他にも、ささみとかの脂が少ないお肉に葛粉をまぶして……、
って思考を続けてたんだけど、頭の片隅が語りかけてくる。
ふむふむ、なるほど。
「チヌは刺身にするから皮を引くよー!」
って、言ってるみたい。
おお、確かに!
これは使うしか無いね!!
後で湯引きにしちゃおう。
って感じで色々考えている間にも、身体はどんどんお仕事中。
花開いたサバたちをすぐ冷水で締めて、水菜を鳥の巣みたいに盛り付けた皿にイン。
そして最後の仕上げは酢味噌!
お皿の縁に、四つ葉のクローバーっぽい模様を描いたら、前八寸の出来上がり!
「ふぅ」
ここでちょっと一息しようかな、疲れたし。
てことで、少し料理人モードはご休憩。
平行して考えまくってた頭も、ちょっと一旦停止。
ふと外が見たくなって、右に顔を向けた。
調理場の窓から見えるのは、ちょうど海辺で釣りをするトトッチと、その隣に座るよいしょっち。
「ふむふむ……」
調理開始前に見た二人の状態からは……変わって無いね。
なら、献立の変更も無しかな。
きっと美味しく食べられるはずなんだよ。
口に入れて、もぐもぐ味わう二人を想像するだけで……。
「にひひ」
頬が緩んじゃうんだよ!堪らないね!!
さてさて、食べる時の妄想でモチベーションの補給も完了したし、頭の疲れも吹っ飛んだ。
汁物の状況を香りから察するに、ちょうど今から捌き始めるとベストっぽいね。
頭も身体も、また料理人モードになってもらおうかな。
さて、今度はお刺身を完成させるんだよ!