第5話 料理するんだよ~まだ料理しないんだよ~
大きな魚を抱えて、桜そぼろみたいに微笑むトトキっち。
「チヌ、獲った」
ほろほろと綺麗だけど、それだけじゃない。
すっごく薫り高い桃色が、挑戦的に突き刺ささってくる。
……って、なんかショウビーみたいな言い方になっちった。でも本当にそんな感じ。
ポワッポワの達成感とキレッキレの期待感が籠ってる。
負けたく無いな、この笑顔には。
それに……このチヌには、トトキっちの強い想いがギッチリ詰まってる。
だったら最高の味にして食べなくっちゃね!
「にひひ」
完成品を食べてもらった瞬間を想像したら、ワクワクが止まんなくない!
てかそんな想像してる場合でもない。美味いもん作りたいなら、スピードが超大事なんだよ!
さあ善は急げって事で、マイ包丁をフルスイングだ!!
「こめかみにどーん!!」
クリティカルヒットォォゥ!!
50cmオーバーのチヌを、一撃で失神させてやったぜ。
「さあさあさあ、急ぎまくるぜ!」
暴れなくなったからマシにはなったけど、それでも照りつける太陽とか、地上で上手く呼吸できないとか、いろんな事が刻一刻とダメージを与えちゃうんだよっ!
それは不味い!二つの意味でっ!!
「魚の鮮度を損なう状況に対する『不味い』と、味が落ちたことそのものを指した『不味い』のダブルミーイングですわね」
わたしの脳内音声にフォローを入れつつ、ショウビっちが謎の方角を向いてウィンクしてる。
そこにカメラでもあるんですかい?
なんて考えながらも身体はフル稼働。
スムーズにチヌを受け取り、海辺のハイスペックキッチンへと猛ダッシュ!!
「美味美味にしてやるぜー!」
熱々の鉄板みたいな岩肌をサンダルで踏みしめ、メチャクチャ重たい魚を担いでスタコラとひた走る。
……あれあれ?
「って、走れる訳あるかい!」
50cmの魚なんて、ほいほい運べるか!
全長がわたしの腕とそんな変わらんやないかい!
……でも何故か軽快に走れとる。なにこれ怖い!
まさか、わたしにもスタンド能力が目覚めた!?
そ、そういえば、さっきから背後に何かの気配を感じるんだよ!
期待に胸を膨らませて背後を振り向くと、
「どうかされましたか?」
花森さんやないかーい!
チヌの胴体を思いっきり支えてくれとる!!
くそう、わたしのスタンドじゃなかった。
いやまあ、ある意味スタンドより凄い存在って気もするけど。
でも60代の執事とか、ちょっと渋すぎるわ。
そうして助けてもらいながら、縦横3メートルはありそうな扉を開けて、スイスイっとチヌの搬送を完了。
厨房の奥にはさっき釣った、鯖と鯵が数匹入れられた水槽も運び込まれてる。
冷蔵庫にはネギも味噌も入ってるし、各種調味料は調理台に配置済み。
あとチヌが釣れるのを待ってる間に、出汁取りとか時間かかるやつも終わらせた。
よし、全部揃ったんだよ。
あとは……
「捌くのみ!!」
トトキっちも、ショウビーも、花森さんも。
みんなまとめて笑顔にしてくれるわ!