第3話 料理するんだよ!~何が出るかな♪~
調理場から海辺にドーン!と飛び出した。
瞬間、夏のあっつい陽射しがズバーン!と刺さってくる。
「あぢぃ」
さっきまで屋内だったから、余計に暑く感じちゃうんだよね。
そろそろ九月のくせに、元気過ぎるぞ太陽!!
ショウビーはどうかな?と思って振り返ると、日傘の下でトロピカルな飲料をちゅーちゅーちゅー。
「うわ、美味そう!」
いいなー、いいなー、のーみたーいなー。
「ちゃんと、お二人の分も有りますわよ」
とショウビーが言った瞬間には、もうすでに執事の射程圏内。
気がつけば、すぐそこに花森がいる。
なんかの歌詞とか、ホラー映画のキャッチコピーっぽい。
なんにせよ、トロピカルジュースを二つ持った花森さんが、気配も違和感もなく隣に参上!
片方のジュースを、すっ、とわたしの手の中に納めてくる。
ばっちりその瞬間を見てたはずなのに、いつの間にか給仕されていた!みたいな感じの自然なサービスなんだよね。
いっそ忍者になるか、黒子な感じのバスケやるかすればいいと思います、まる。
んで、集中しまくってるトトッキーにも、そっとトロピカルジュースをちゅーちゅーさせる花森さん。
あの様子だと、飲まされたことにも気が付いてないかも。
マジで半端ないんだよ!
そして、気が付いたら影も形もない花森さん。
うん。花森さん、マジ花森。
あのワザが使えれば『食材自身が切られたことに気付かない』的なことも可能じゃなかろうか?!
となれば、刺身の踊り食いとか、味の落ちない生野菜とか、屠殺したてホヤホヤなのに死後硬直しない柔らか牛肉とか、そんな夢いっぱいのワンダラーランドが広がっちゃうんだよ!!!!
なんて言ってたら、海のほうから鋭い気配が!
なにかの魚が針に掛かったのかな?
目線を向けると案の定、トトッキーが釣り竿を右に左にブンブンしながら、いーとー巻き巻きしてる。
うーん、あの釣り竿のしなった感じ…なんかいいね。
うん決めた。後でお皿の上に再現してみるんだよ。
なんて思ってたら、もう釣り上げたみたい。
頼むから美味しい魚が来い!
祈るようにトッキーの右手を凝視。 おっ、アジだ。
いくつもの料理が頭の中に、ぱっ!と点灯する。
「ナイスだ、ときとき!」
アジ。なかなか良い物なんだよ。でも今の季節のアジだと、ちょっとパワー不足かな?
もうちょい早いタイミング、先月とか先々月のアジがいいなー。
タイムリープ機能のついた釣り竿、誰か作ってくれ!
とか言いつつも、メインはチヌだから逆に丁度良かったりするんだけどね。
サイドのインパクトが強いと、なかなか扱いに困るし。
投げ渡されたアジを柔らかタッチで、ふわっと受け取って水槽にイン。
釣れた魚を貯める水槽の前にしゃがみこんで、アジが『すいすい~』っと泳いでる姿をルッキング。
そうすると、パタパタ振られる尾ビレに『おいでおいで』ってされたみたいに、皿に盛り付けられたアジの料理が、何十個かポポポポーン!って頭に降ってくる。
でもチヌのメニューは決定してるしなー。
って思ったタイミングで、いい感じの一皿がズバーン!って落雷みたいに頭を直撃っ!
一品目が完成だね。まだ実物は作ってないけど。
さてさて、これを作るとなると、あと一、二匹はチヌ以外が欲しいかな?
なんて考えてたらトトッチの竿が、ぐんっ!と跳ね上がる!!
「いけ!釣り上げろトトっちゃん!!」
おおー、なんか鋭い雰囲気が醸されてるぅ!
大物ですか?大物なんですか!?
……おやおや?
なんかテンションがいきなり大暴落したんだよ?
それまでとは打って変わって、無造作に『ぺい~ん』って竿を上げるトトッチ。
も、もしかして、アイツですかぁ??
もはやアトゥム神のスタ◯ドを使わなくても解っちゃう。
だって、引き上げられた釣り糸の先に、ふぐ付いてるのが見えてるし。
「oh……フグは、フグだけはあかんのやでぇ」
がくんと膝から崩れ落ちるわたし。
まさに、ずど~ん…って感じ。
え、落ち込み過ぎ?
だってわたし、ふぐ調理師免許はまだ持ってないんだよっ!!!
今は免許取得を目指して、イザショウん家が経営してるふぐ料理店の大将の下で修業中。
てか正直もう捌けるんだけど、試験を受ける許しが大将から出ないんだよ!
あのおっさん、スッゲー最強料理人なんだけど、めちゃんこ頑固だからなぁ。
そんな無免許状態のわたしの前に、ふぐがプラプラぶら下がってるこの状況。
ふぐは美味しいって分かってるのに、法律が捌くことを許さない!
めちゃくちゃ腹立つ!!
法律に『だが断る!!!』って、言ってやりたい!
そんな衝動と戦っている間に、ふぐは海の中へリリース。
視界から消えると、ちょっとはスッキリする。
これって、かなり不思議なんだよね。状況は何にも変わってないのに、気持ちがコロッと変化しちゃう。
料理で言うと、キライな食べものをすり潰して、気付かないように工夫する的なやつなんだよ。
そんな感じで関係無いことを考えて、なんとか気を紛らわせていたんだけどね。
でも、ふぐ地獄はここからが本番だったんだよ……。