第十一話 釣りなのです~トトキ vs チヌ~ 決着
更新が遅れがちです。すみません。
これから取り戻します。
また、危険なのでこういう釣り方は真似しないでください。命大事に。
こちらに向かって激走する巨大チヌ。
足元に潜り込まれるだけでも竿や糸への負荷は増し、泳ぐ方向のコントロールも難しくなる。
それに加えて岩陰などに飛び込まれでもしたら、もう勝機はほぼありません。
だから、選べる式は一つだけ。
こちらに到達する前に釣り上げるのです!
一瞬でドラグを締め、竿を垂直に引き上げリールを全力で巻く。
刹那を惜しんで相手を海面へと引き寄せます。
集中力が高まってゆく感覚。
スロー再生のように間延びした波音とリールの回転音。
異様にゆっくりと振られる銀の尾びれ。
2.5m……2.4m……2.3m……
チヌの泳ぐ水深が浅くなるほどに、遅々として停滞していた時間も確実に進んで行く。
チヌ到達まで 2秒75……2秒25……1秒35……
「くっ!」
ギリギリ間に合わないっ!
「冥れ『片吟の瞳』」
魔眼を封印して地上に視界を戻しました。
諦めた訳ではありません。
すぐさま足場の縁まで目一杯踏み込みます。
でないと、糸が足場の磯に当たって切れてしまうのです。
海に落ちるか落ちないかの境目、その限界に挑みつつ糸を巻き続ける。
さらに、身体をたわませて全身のバネをフル稼働。
自らを竿の一部として、全てを一瞬に注ぎ込む。
「ぬぅぅぁぁぁああ!」
鋭くしなる釣り竿。
もはや岩場が目前であったチヌ。
しかし竿先が海に飛び出している今となっては、海側に引っ張り上げられる。
そうはさせまいと一層強く陸地へ突進するチヌ。
逆行する張力が釣り糸に、限界を超える負荷をかける。
強い力に延ばされ細くなり、千切れる寸前の不自然に軽い手応えが竿から伝わって、そしてプツンと…
「させるかぁぁあ!」
雄叫びを上げて、さらに竿を振り上げた。
不安定な足場も御構い無しにかかとを上げて踏ん張る事を捨てて下半身のその全てをバネへと転化する。
高級な和竿の如くしならせていた上半身もバネのクッション性を発揮させつつ跳ね起こす。
急激な張力を全て呑み込んで、無段階的な力を一瞬で与えてゆく。
もしも、今。
ちょっと強めに潮風が吹けば。
ほんの少し足元が滑れば。
僅かにでも竿の操作を誤れば。
岩礁の広がる海中へと真っ逆さまでしょう。
でも。
私の背後には支援力MAXのお嬢様と、サポートが仕事のプロ執事が控えてくれてる。
だから私は、限界の先へと踏み込める!!
「にゅおらぁぁああ!!!」
乾坤一擲。
全てを捧げて引き上げられた釣り糸の先には、
「うん、うん!!」
凛々しい背中越しに見たあの日のチヌよりも、遙かに大きくて鮮烈なものでした。
空を泳ぐその魚影が、私の胸へと飛び込んでくる。
ズッシリとくる重量感。満ち足りた。
全てを捧げて尽くして、心地のよい弛緩が全身を包む。
そして、
「あ、」
総てを絞り尽くして出涸らしとなった私は、50cmを超えるその巨大の直撃に耐えられるはずもなく。
ゴツゴツとした岩肌へと墜落したのでした。




