ある晩夏の一場面
「高電力のオーブンレンジで、こんがり焼かれている最中なのではなかろうか」
そう思ってしまう程の陽射しも、ここ数日は徐々に和らいで、「弱火でじっくり炙られちゃってるなぁ」という程度まで、太陽の火力が低下している。
そんな秋の欠片が見え隠れする夏の日。
舗装されていない砂利道を、木々の騒めきとともに三人の少女が歩いていた。
一人は、短めの髪を揺らして真っ直ぐ歩いている。
その両肩には、少し小柄な身体に似合わないほど縦長のバッグと、数十リットルは入る大きなクーラーボックスを、それぞれ手慣れた様子で携えている。ポケットのたくさん付いたノースリーブジャケットを着てていることから、釣り用の装備だと判るだろう。
澄ました表情ではあるが、その瞳には武芸者のような真剣味が浮かび、頬には内なる昂りを表すように朱が差していた。
その斜め後ろには、中学生にしては小柄、どころか下手をすれば小学校低学年にも見える少女。
それどこで売ってるの?と聞きたくなるほど巨大なバックパックを背負い、けれど重さを欠片も感じさせない身軽さがある。
あちらに蝶がいれば追いかけ、こちらに水辺があれば覗き込む。そうやって、元気に手足を振って楽しそうに跳ね回っている。
対照的と言うほどでもないが、スタンスの異なる彼女たち。
その後ろを、「そうです、わたくしがお嬢様です!」というオーラ全開の縦巻きロールな少女が、初老の気品溢れる執事を連れて歩んでいる。
ふわりと上品な日傘をクルクル回し、百合の花のように完璧な姿勢と芸術的な所作で、晩夏の砂利道を進んでゆく。
釣りに行く寡黙そうな少女と、異様に大きい荷物を背負った元気っ子、そして完全無欠のお嬢様。
かなり不思議な組み合わせであり、なんの共通点もなさそうだ。
しかし彼女たちには、三つの共通点がある。
一つめは、同じ学校の生徒であること。
二つめは、そこで『サカナ部』という部活に所属していること。
そして、
三つめは、これから行う部活動を心底たのしみにしていることだった。