一、雷雨の夜に
閃光、そして一拍おいてからの雷鳴。
轟きはたっぷり数十秒も耳の中でうねり、脳髄を揺さぶって夜の静寂に消えていく。雨が本格的に降り出した。今までの霧雨から水玉の質を変え、小さな飛礫がばら撒かれたような無愛想な音が、やがて大河のようなさざめきに変わっていく。天気予報を信じるならば、今夜は近年まれにみる大雨になる。
俺は目を見開いた。
閃光。
雷鳴。
今度はもっと近い。道場の高い窓から差し込む光と、それにへばりついたように伴う轟音だけが、現実感を持って感じられた。あとは、俺の荒い吐息も、跳ね回るような鼓動も、むせ返る様な臭いにも何も感じない。
落雷。
一瞬だけ、カメラに切り取られたように鮮明に全てが見えた。
背後で、小さな悲鳴。それはマズイ、と脳裏で誰かがささやく。雷はいい。雨もいい。しかし、人の声だけは拙い。ひどく拙い。
どうするべきかは、結局わからなかった。
考える前に、全てが動いていた。
「お嬢様。怪我人がいます。診療所へ行って助けを呼んでください」
口が、慣れた台詞を吐いていた。
手が、雨水が滴る雨傘を逆手から順手に持ち替える。
足が、柔らかく肩幅に開き、粘るようなスリ足を始める。
腰が沈み、背が屈む。
背後で、せわしない呼吸音とともにのたりのたりとした足音がゆっくりと遠ざかっていく。
前方から、もはや隠しもしない呼吸音と、俺と同じようなスリ足で近づいてくる気配がある。
少し迷って、雨傘を右手に、左手で電灯のスイッチを探った。馴染みの感触はすぐに見つかり、一瞬おいて柔らかな明かりが部屋を照らす。雷光が見せたのは、あれは何かの間違いであってほしい。その願いは蛍光灯の瞬きによって見事に打ち砕かれることになった。
そこに、凄惨な光景が現れた。
一人の男と、七人の死体。どれもが知った顔だった。倒れ伏す七人の誰もが、この道場でともに研鑽を積んだ同門の徒。その実力は俺の肉と肌と骨が知っている。俺が生まれてくる前から竹刀を握り木刀を振り回していた猛者たちが、あるいは首を皮一つ残して切り裂かれ、あるいは背骨ごと断ち切られた胴体から腸を吐き出して、あるいはまるで何の傷もあるように見受けられないのにこと切れている。血が、肉が、脂肪や骨が、あるいは肉体の一部や衣服の切れ端が、道場の畳をべったりと汚している。
その中を、悠然とひとり歩む者がいる。
俺はその姿を信じられないもののようにみる。
しかし成程。
七人の猛者が斃れるのも道理。
「……師匠、何故」
俺は、全身の骨がきしみを上げる様な自分の声を、どこか遠くで聞いていた。思わず細めた視界は暗く、しかし別の事実を見い出せるほどの明るさでもない。
血の海に独りたたずむこの男こそ俺の通う剣道道場の主。俺と死んだ七人の剣の師匠。六十絡みながらも未だ筋骨隆々。普段は好々爺然としたその面はしかし普段の修練の時とも異なる戦意によって能面めいた鋭さを発している。
手には一刀。血の滴る鉄色の刃。
下手人と思しきその男は、視線を凍らせたまま、口角を上げるだけの冷たい笑いを返す。その間もその足はゆっくりと俺に近づいてくる。情理をつくしてそれ以上会話を交わしている余裕はなかった。
是非も無し。
師匠が疾走る。その踏込の瞬間から、青眼からの袈裟懸けが来ることはわかっている。俺は迷わず左手でスイッチを切る。細めていた眼を見開けば、うっすらとだが視界が確保できる。それでも横っ飛びに躱したはずの袈裟懸けからの切り返しの太刀筋が目前に閃いたのには死を覚悟した。それが三寸俺に届かなかったのは、おそらく血か肉片を踏んだせいで師匠の踏み込みが不完全なものになったからだ。
長い。
何よりもそこが気になった。
いつも使っている竹刀木刀、はては師匠のコレクションの中にある模造刀や実剣を思い浮かべても、やはり長い。師匠が今持っている獲物は俺には未知の刀に他ならない。光の下で退治した時に無意識化で違和感を感じていたのだが、ようやくそれが言語化できた。
日本刀、に見えた。
結局それは一見での話だ。参考にはなっても当てにはならない。
未知の武器と、明らかに格上の使い手。真っ当な手段では抗し難い。
俺は半身に構え身を深く沈め傘を片手で強く突き出す。使い慣れた剣道流は一旦すべて無視した。見よう見まね、生まれて初めてのフェンシング擬きの突きである。
当たった。
手ごたえがない。
二つの矛盾した感触をもとに、俺はそのまま身を地に投げた。はたして、伸びきった俺の身体をかき切らんと横なぎの一閃が俺の頭上をかすめて飛んでいく。生ぬるいより少し冷たい液体と固形物がきつく結んだはずの唇を濡らして一滴入り込んでくる。嫌悪感をてこに、伸びきったまま地に投げた体をごろりと一転、そして全力で飛び退く。
明かりがついた。
先ほどと、俺と師匠との位置は逆転していた。立ち姿まで似通ってもいたかもしれない。師匠の左手は電気のスイッチに伸びている。今では俺も師匠と同じぐらい血と肉に塗れている。
まるで一時間も立ち稽古をこなしたような疲労感を感じているが、どうせあれから一秒もたっていないのだ。そう考えると意味もなく笑いがこみあげてくる。
ただ、遠く。玄関ががらりと開いた音が、逃がした女が雨の中へ駆け出していったという確信と、一抹の希望のようなものを繋いてくれる。
落雷。
そして、突然の暗闇。
戸惑いが雷の残響を通して伝わってくる。おそらく事態を把握したのは同時。停電だ。雷で電線がやられたのだろう。理解した時にはすでに俺は傘を投げている。何でもいい。時間を稼ぐチャンスだった。一撃でも多く打撃を与え、一瞬でも長く致死の一撃を遠ざける。そのことしか頭にはない。だからこそ、勝ち得た反応速度だった。
苛立ちが、傘を刀で殴りつける音を通して伝わってくる。
暗闇の中、俺は後じさり足元を探る。あった。殺された誰かの持っていた得物。触れた柄の装飾に覚えがある。兄弟子の一人の愛用していた梓の木刀。弓をしているという奥さんと一緒の木から削り出したのだと、言っていた優しい顔を涙と共に頭から振り払う。
あえて、傘の飛んで行った方向に一足飛びに駆け寄る。
落雷と停電によって暗闇に慣れる間は双方に無かった。視界が効かないのは同等。であるならば、耳と何より先読みがものをいう。
俺が一度手放した獲物に執着する姿勢を見せれば、必ずやこの梓の木刀が生きてくる。
耳元で風切り音。
敵も然る者、俺の足音だけで正確に剣を寄せてくる。今のは袈裟懸け。俺を想像上の動線に沿って斬りつけたものに違いない。それはおそらくひどく正しい。余計な得物を持っていて動作が一拍遅れることを考えに入れなければ、俺を真っ二つにできる軌跡であったに違いない。
刃を振り切ったその瞬間を狙い澄まして木刀を放り込む。この距離。この軌跡で切り付けてくるからにはここにあらねばならないという右足と左足のちょうど間。
傘を拾う。
何か重たいものが湿ったものに倒れ込む音。まさかそこまでという会心の出来で、剣鬼を転ばすことができたのだ。
絶好の機会だった。
もちろん、双方がそれを承知していた。
下手を打ったのは俺だった。この期に及んでようやく手に入れた一瞬の優位に浮かれて、思わず舌なめずりをした。上手く勝とうだなんて思いあがった。これまでの稽古を想い、お嬢様を悲しませたくないなどと考えて、眼前の敵をできれば殺したくないと欲をかいた。頭ではなく半歩遠くの胸を狙って突きを繰り出したのだ。もちろんそれでは遅すぎた。
傲慢の代償は迅速に支払わされた。
およそ、この道場の稽古では知りえない、下方からの角度から氷の刃が左目を通り過ぎて行ったのを、俺は確かにこの左目で見た。
成程、倒れ込んだ相手からの斬撃は下から来るのが道理だなどと悠長なことを考えつつ、俺の意識は消えた。
落雷。
意識を失っていたのはそう長い話ではない。顔の傷は未だ血を吹きだして止まる気配もなく、体の熱もいや冷めやらない。おそらく、ほんの一瞬のこと。
だと、いうのに道場には今や俺一人だった。他に、生きているものの気配は何一つない。雨音だけが今更のように意識に上がってくる。
「夢……?」
それはない。
であればこの血の匂い、この血の迸りを何とする。俺は願望を切り捨てた。
けれど。そうであればいいのにという思いは捨てきれない。
兄弟子たちが死に、それをしたのが師匠とは。結局その乱心の理由らしき理由さえ分からない。しかし師匠相手であったからこそ、試合場外の奇手に頼って俺は生き延びることができたのだ。そこは、決して忽せにはできない事実だった。
事実。それだけを見れば、現状はどうだろう。師匠もあの体勢から俺を確実に殺したと確信は出来なかったはずだ。事実殺し損ねたのだし、あんな寝ころんだ体勢からよく刃筋が通ったものだとも思う。俺が倒れ伏したとしても、存外軽傷ですぐ起き上がってくる可能性は捨てきれなかったはず。だというのに、俺を無視して行ってしまった? どこへ? 何をしに?
凶人の思考など、もとより読みきれるものではない。そう思いつつも、なにかが喉の奥まで出かかっている感覚が俺を思考に駆り立てた。
そのとき、落雷。
俺は、眼前に広がる七つの死体を見た。
傘は探すまでもなく右手に握りこんでいた。ただ、妙な力の入れ方をして気絶したためかくそ握りのまま離れない。どうにか親指が少し動くかどうかという仕儀。仕方がないのでそのまま雨の中に走り出した。
なんという事はない。あの場の死体の中には背後から切り殺されたものが約半数もあったのだ。もちろん向かってくれば殺す。そして、向かってこなくても追って殺す。そういう風に動くらしい。
そして、俺は倒れたが、まだ確かに生きて動いている標的が一つ。
それに剣鬼が少しばかりの理性を保っているのなら、俺が助けを呼ばせたことも理解していたことだろう。
敵はこともあろうに、お嬢様を追っている。おそらくは、殺すために。
そればかりは何としても止めなければならなかった。その為の理由ならゆうに十も二十も思いつく。忠義。良識。慙愧。孝悌。恩義。思慕。……いくつも、いくつも。
けれど、それを考えるのも後だ。
道場を出て、二人の辿るであろう最短経路を思い描いて走る。屈強な男どもが集まっては奇声を上げて打ち合うためにある道場だから、出てすぐには人家もまばらだ。向かう診療所は川向うの住宅地。
不幸中の幸いか、雨のおかげで人通りは少ない。剣鬼が余計な目標に襲い掛かるような事だけはなさそうだった。
舗装された道に出てしばし、橋を目指して一路川沿いの堤防を辿る。左手に逆巻く流れが死を意識させたのが、逆に緊張感を高めてくれた。
見つけた。
見つかった。
奇襲を撃つとまではいかなかったが、先に心構えができたのは幸いだった。顔の傷がうずき、心拍数が危険な域まで上がっていく。
十メートルを置いて対峙した。
落雷。
その一瞬に見た剣鬼の顔は、正気を失った上に憎悪に燃えていた。弟子の中でも上手い方でもない俺などに後れを取ったのが気に喰わないらしい。俺だってこれまでの健闘に少しは驚いている。
……けれども、師匠。あなたの下にいた年季だけは、兄弟子たちともさほど変わりはないんですよ。
俺は改めて傘の握りを確かめる。少しは指が動くが、まだ硬い。とても有効打を打てるほど柔らかくはない。
目は、雨に洗われても開かない。この時には死んだと考えておくほかない。ひどい雨と相まって、距離感がつかめないのも痛い。
結局は、体重を乗せた突きにかけるほかにないだろう。
俺の覚悟が決まるのを待ったわけでもあるまい。しかし、そのようなタイミングで剣鬼は動いた。
動いた、といっていいのか。
俺には理解不能な動きだった。
まるで、天にかざすように剣を両手で高々と上げたのである。
雷雨の最中という事を考えれば自殺行為にも等しいし、剣の理にもかなっていない。あんなに腕を伸ばせば、剣をふるうどころではない。精々真っ直ぐ振り下ろすぐらいしか持って行きようがないし、それだって威力は知れたものだ。
不可解だった。
だが、師匠の剣の理を離れた動きは、殺戮と同種の剣の凶気でもあるはずだった。
果たして、その恐怖に俺は耐えきれず、右を迂回する様に俺は突撃を敢行した。あっという間に埋まっていく距離の中で、近づいていく剣鬼の勝利を微塵も疑わない血に飢えた瞳と、その背後に。
(――このタイミングで)
こちらを見て、なにか声を張り上げている女。見間違えようもなくお嬢様だ。あの女に、父親が死ぬところか、父親が人を殺す場面を見せなければならないのだ。俺が。
困惑が、俺を逸らせた。
せめてもの隠し手だった、傘のはじきを押してしまったのだ。音を立てて骨が弾け布を張り、黒色が視界を遮る。本来は、避けようもないタイミングで、邪魔にならなければ牽制にとだけ考えていたのに。これでは俺の攻撃もままならない。
一旦、退
――赤光
断じて雷ではない。音のない光が、傘の向こうで爆発した。と、同時に唐竹割りの一撃が、傘を半分切り裂いて、俺の傘を持つ右手の皮を切り裂いていく。慌てて飛びのけば、あからさまに仕損じたと無念がる剣鬼の貌と、その向こうで倒れ伏す女の姿。二つが同様に視界に飛び込んでくる。距離感が失われつつあるのだ。
石突のすぐ下から切られ、中軸だけを残した傘はとどのつまり細い鉄パイプに他ならない。まして、切り取られた先端は鋭利。少々のリーチを失ったが、刺突をする分にはやはり十分な凶器である。
小手を狙った。
躱される。
だが、その隙をついて体当たりには持ち込めた。傘を擲って狙うはその手の凶刃のみ。結局、この場に決着をつけられる武器といえばこれをおいて他にはない。万力のごとき握りの、まず右親指に狙いをつけて指と膝をつかってへし折った。呻きが漏れる。腹に蹴りを入れられる。
そこから先は一進一退、上になり下になりの攻防が続いた。利き手親指を折られてなお十代の俺と同等以上にわたりあう六十代の達者に舌を巻きながらも、時間は俺に味方をした。スタミナ切れの一瞬をついて俺は凶器を奪い取り、そのまま師匠を蹴飛ばして距離を取る。
その一瞬の猶予で俺はお嬢様を背後に庇い、刀を構えた。
重い。
そして軽い。
竹刀や木刀よりはもちろん重いが、初めて手にした本物の刀からは想像していたほどの重さを感じない。血中のアドレナリンがそう感じさせているのかもしれない。
あるいは、純正な刀ではないからなのかもしれない。
弱弱しく呻いてうずくまるだけの師匠から狙いはそらさず、いつでも一刀のもとに切り伏せられるようにしながらも、俺は手中の刀を観察した。
やはり、今まで師匠の身近で見たこともない刀だ。拵えは日本刀のそれだが、刃の細部が微妙に異なる。やはり通常より長い。時折雷に照らされる刀身は銀色ならぬ鉄色。ダマスカス鋼のような木目、あるいは墨流し様の模様が入っている。血に塗れていると見えたのは、その模様に沿って引かれた赤銅色の装飾線であった。大きな金色の目釘がむき出しに打たれ、白銀の握りも相まって、一種の芸術品にも見える。少なくとも、日本刀の常識からは大きく外れる外観だ。
しかし、その切れ味は俺自身が体験したものだ。これが実用的でないなどとは言えない。
それに道場の七つの死体が証明している。これは立派に凶器なのだ。
――殺意。無差別。有用性証明――。
そう。これを使って誰か殺してみれば
「…………っ!?」
背筋に冷たいものが走った。
俺は、今、何を考えた?
丹田を意識して調息を行い、気を静める。自分の呼吸音さえ今は耳障りだ。
これは俗に言う、妖刀の類かもしれない。
オカルトめいた思い付きだが、いい線を行っているような気はした。なにせ、師匠の突然の凶行と同時に出現した刀である。牽強付会のそしりは免れまいが、全てを一言の下に説明できる強い理屈でもある。この剣の邪気にあてられて、師匠は狂った。そして七人も殺したのだ。
馬鹿な。説明できたとして、それが何だという。俺の左目を数えないとしても、これまで出た被害にはすでにもはや何の救いにもならない。
「…………!」
「…………?」
沈痛な気分でしばし、俺の前後で二つの声があがった。
後ろの声は、か細くき消されてしまった。
「てくれ……返してくれ! 俺にその剣を! それは俺の」
前の声を、俺は聞くには堪えなかった。
――拒絶、弱者。所有者変更――。
気が付けば。
俺は、目の前の人を物言わぬ骸に変えてしまっていた。
「……え?」
あっけなく。
あまりにもあっけなく。
俺の振った凶刃は、俺にすがるような師匠のその二つの目を、その奥にある脳髄ごと切り捨てていた。音もなく絶命した肉体はしかし、立ち上がろうとしたその勢いだけは死なず、かといって立ち上がる事も出来ずによろけて玩具の様に倒れる。土手を転げて止まらず、あれよという間に増水した川の流れに呑み込まれて、消えた。
消えてしまった。
本当に俺が殺したのか、その確認さえとる間もなく。
俺の手に、耐え難いほど軽い感触だけを残して。それさえも揮発するかのように消えてしまう。
呆然と立ち尽くす俺を、背後から縋りつく手。
女が。
何事かを言っている。濁流渦巻く河を指さし、なにかを切々と訴えかけてくる。それを俺は理解できない。いや。多分したくないのだと思う。
――雑音、処分。照覧光剣呪――。
そうだな。
俺の雰囲気の変化を感じ取ったのか。女はじりじりと後ずさっていく。その眼の中に、俺が高々と掲げた剣が見えてそして、
落雷。
意識が戻って初めに気が付いたのは、視界が半分くらいになっている事だった。
(ああ、そうか。左目は師匠に切られたんだっけ)
そんなことをぼんやりと思う。それ以上にも、多くの事があったような気がしたが、それは今は思い出す気にはなれなかった。寝ていたところが非常に硬くてゴツゴツしていて、体中が痛いのだ。たまに道場で兄弟子たちに可愛がられた結果床で昏倒することもあるが、それ以上に固い床だったらしい。
ようやく体を起こすと、不意に俺の上に大きな影が差した。
自然、見上げる。
目が逢ってしまった。
俺を覗きこんでいたのは、怪獣映画から抜け出してきた様な巨大な爬虫類だった。爬虫類はまるで舌を出して辺りを探るかのように、炎を吐き出した。その熱が俺の頬を軽く焼いて、俺はそれを夢の産物や幻覚だと思うのは止めにした。
それから数秒、俺はドラゴンとにらみ合っていた。