黒塀
思い付きで書きました。よろしければ見てください。
この町には、「黒塀」と呼ばれる場所がある。
40メートル四方の空き地を、4、5メートル程の黒いコンクリート塀で
囲まれた場所で、名前の通り、黒い塀で囲まれているから黒塀である。
近所の人は、かなり昔から存在していたらしく、一体誰が何のために
建てたのかは分からないと言っている。
民家が密集している中、ひっそりと佇んでいる黒塀は、不気味な
存在感を放っていた。それと同時に、あの塀の中には何があるの
だろうかという好奇心を、私達に抱かせていた。
あの時の選択は、今でも後悔している。
最初の場面は、放課後の教室だっただろうか。
「黒堀の中を、見に行こう。」
そう言い出したのは、友人の武蔵だった。
ワックスと皮脂でギトギトになった髪の毛が特徴的だ。
制服を適度に崩し、今風な格好をしている。けれども、所属している
部活がフラフープ部なので、女子からはあまり人気がない。
「学校からどのくらいだっけ、あそこ。結構遠いだろ。」
俺はそう言い返すと、武蔵は油が付いた手でスマホをいじり出した。
アプリで経路を検索しているらしい。
「あー、5、6キロぐらいだな。チャリで行けば余裕だろ。北谷、お前のチャリ直ったっけ?」
俺の自転車は昨日、武蔵の手によってパンクさせられた。
外でフラフープの装飾をしていた時だ。
フラフープに付ける、装飾用の画鋲が入ったケースを奴は気づかずに
足で倒してしまった。その結果、大量の画鋲が路上に飛散し、俺の自転車は
回収し忘れの画鋲を踏み、パンクしてしまったのだ。
「直ったよ。タイヤ新品だわ。」
「そっか、んじゃ行けるな。」
武蔵はスマホをズボンのポケットにしまうと、窓際に腰掛けた。
そして遠くまで広がる町並みを眺めながら、小さな溜め息を付く。
風で武蔵の髪の毛が、ギトギトとなびいた。
「俺、あそこの中見たよ。」
そう言ったのは、音も無く近付いて来た直紀だった。
目の前から机を避けながら接近してきたので、直紀が
こちらに近付いて来ていることは、俺には分かった。
だが、武蔵は直紀から背を向けていたので、突然の出来事に「うっひぃ」と声を出し、窓から
滑り落ちそうになっている。
「まじでいってんのお前、どうやって見たの。」
俺が笑いながら直紀に質問すると、直紀は鼻翼に生えていたニキビを潰し、ぐふふと笑う。
武蔵は風でなびいた髪を整えていた。
「いや、こうさ、あの堀ちょっとでこぼこしてんだよね。」
「だからさ、手で登ったさ。ほほほ」
直紀は笑いながら手でロッククライミングのジェスチャーをしている。
潰したニキビからは白い膿が出て来ていた。
「すげーなお前、まじはんぱねーわ。」
「んで、何かあった?空っぽ?」
武蔵の質問にも、直紀はポケットティッシュで膿を拭きながら、ぐふふと笑った。
信憑性のある話を、直紀は余りしないが、俺も黒塀の中がどうなっているか気になって
いたので、ひとまず直紀の次の言葉に期待を寄せる。直紀は口を開けると
「知らんわ、登れるわけないじゃんあんな堀。」
そう言った後、直紀は一人で大爆笑を始めた。カエルの様な笑い声が
教室に反響する。武蔵もそれに共鳴して、鈴虫の様な笑い声で笑い始めた。
俺もちょっとだけ笑う。
笑い声が収まった後、武蔵は直紀を軽く小突き、スマホを再び取り出した。
「んじゃ、これから見に行くか。黒塀」
武蔵は俺達の方を交互に見て、にやりと笑う。直紀はぐふふと笑いながら
「どうやって中見んの?」
「そりゃ、ほら、ちょっとでこぼこしてんだろ。だからさ、こう手で登ってさ。」
静まり返った放課後の教室に、また笑い声が響いた。
彼らは黒塀がある場所へと向かいます。