本能
黒い空に星が煌いている。
月は姿を隠して新月の夜。地上は夜の闇に包まれていた。その闇の中に明かりが見える。その明かりは屋敷の窓から漏れている光。
光が漏れている窓は、お座敷と呼ばれている場所。そこには二つの人影があった。一つの人影は、テーブルに腰かけて窓からを見ている。その窓辺には電池式のランタンが置かれていた。
もう一つの人影はテーブルの上に電池式のランタンを置いて、両膝を立てて座椅子に座り、膝の上に雑誌を乗せて読んでいる。
「夏……。夜はそこそこ涼しいね」
「そうだね」
座椅子に座っている人影は雑誌から目を離し、窓の方へ視線を向けて応える。
「雑誌……どんな内容かな?」
「今見てたところには……アイスの特集? みたいな感じだよ」
視線を雑誌に戻して、特集という単語を見ながら答えた。
「アイスか~。暑い時にアイスも美味しいね。まぁ、真冬でも美味しいけど!」
「美味しいよね~!」
明るい声を出しながら、使い魔は雑誌のページをめくる。
「……ふむ」
魔術師は振り返って、使い魔を見つめる。
「な、なぁに?」
二つのランタンに照らされるお座敷の中、魔術師が自分に向ける視線に真剣な感じを覚えて少し緊張して聞いてみる。
「うむ、本能というものについて考えていたんだ」
「本能……」
本能という言葉をみて、使い魔は”本能”と”変態”の能と態は字が似てるな……と、思い。何か関係があるのだろうかと、少し考えてみた。
「私もその辺は知らないな……」
地の文をから、使い魔の思考を読んで魔術師は言う。
「……そうなんだ。……なんとなくあなたが本能っていうとエッチな意味が含まれている感じがしちゃう」
少し冗談を含めながら言うと、使い魔は微笑む。
「今回は、まぁ、正解と言えるのだろう……。おっと……」
使い魔の台詞を聞いて、手を伸ばした先にあったランタンに触れると、ランタンは落下していく。しかし、畳を外して石の床に落ちる前に魔術師はランタンを捕まえた。
「すごい反射神経! それも本能なの?」
「今回のこれは、自分でわざと落としたし、石の床に当たる前に捕まえる自信は十分にあったかな」
「……わざと落としたの? 何のために??」
魔術師の行動の意味がよくわからなくて、使い魔の思考は少し混乱した。
「何のためかと言われれば、なんとなく偶然を装ってみたくてかな!」
魔術師は捕まえたランタンで照らされているテーブルの下の、奥の方を照らすようにランタンを持つ右手を伸ばした。
「テーブルの下に何かいるの?」
使い魔は、自分に気づかれないように魔術師がさりげなくテーブルの下を確認しようとしたのだろうと思った。そして、確認しようとしているものが何なのか気になった。
「なるほど、白ですな! 少し見える刺繍もいい仕事しているように見える!」
「……えっと、……エッチ!」
使い魔は座り直し、ワンピースのスカートを整える。
「なんと!? 見えなくなってしまった!?」
魔術師は残念そうだ。
「まぁ、あなたは変態だし。別に怒ってないからね。恥ずかしかっただけだし……。わかってて、そのまま見せ続けるのも変だし、……でも、見たいっていうなら……じゃなくて、えっと、ダメだよ!」
このまま喋り続けると、変なことを言ってしまいそうだと思い、台詞を止めた。
「似合ってて、とても可愛いと思ったよ。やっぱり、見ると喜びを感じる!」
「へ、変態さんがいる!」
恥じらいを隠しつつ明るく言う。
「変態さんは考えていたのだ……。男というものは、女性が服の下に装備する布がチラリと見えたりするのが好き……という、命題? のようなものを読んだのか、聞いたのか……。私も男。……見えたとしたらやはり嬉しいと感じる。……なぜだろう? と」
「変態さんだからじゃないの?」
使い魔は思ったことを真面目に言った。
「それも正解だと思う! しかし、それに仮説を立ててみるのも面白そう……かな?」
「つまり、その仮説を聞かせてくれるんだね!」
「その通り!! ……まぁ、私が思いつく程度のことは誰かが、すでに思いついているだろうけど」
「……とりあえず、テーブルの下から出てこのない?」
「見えそうで見えないというのも、また良いと思いつつ、スカートからのびる白い君の足が可憐で見惚れたりしていたのだよ!」
「太いからあんまり見ちゃダメ!」
使い魔は、雑誌で自分の足を隠す。
「細いと思うけどな~」
魔術師はそう言いながらテーブルの下を移動して、使い魔の座っている座椅子の隣に座る。そして、テーブルの上にあるランタンの隣に、自分が持って移動していたランタンを置く。
「ふふっ!」
並べて置かれたランタンを見て使い魔は笑い声を出した。
「何か変なことしたかな?」
「並んだランタン。わたし達みたい」
並んで座っている自分たちと、並んで置かれているランタンを重ねて見ている。
「では、こうしてランタンをくっ付けると……。私達もくっ付いてしまうということかな!」
二つのランタンをくっ付けてそう言いながら、魔術師は使い魔の右手の二の腕辺りに、自分の左の二の腕が触れ合う距離に移動した。
「暑くない? 大丈夫?」
「涼しいし大丈夫なはず! まぁ、暑かったら言ってくれたまえ」
「……そういえば、仮説って?」
使い魔は少し重心を魔術師の方へ傾けながら聞く。
「そうだった! つい、君との触れ合いに夢中になってしまった……。……君は歴史は得意かな?」
「……あんまり得意じゃない」
「私もだ。……とはいっても、何度かチャレンジはしたんだ。縄文時代とか弥生時代とか……」
「えっと、土器だっけ?」
「うむ。石器時代とか……。まぁ、それはさておき、仮説を展開していこう。稲作が始まる前は、狩猟と採集で食料を確保して生活していた……そうですな」
「そんな感じのことを習った気がする」
「うむ。……狩猟や採集は主に男の仕事だったとなんとなく想像できる。そういった食料は、見つけるのも大変だった……と、思う。つまり、食料を見つけた時は嬉しかったはず。狩猟や採集の本能……その名残により、チラッ見えたりするのが好きなのではないだろうか」
「本能の名残……。本能……」
「人間の三大欲求とやら……食欲、性欲、睡眠欲……だったっけ? ……とりあえず、現代の日本は食欲を満たすのは難しくない。と、いうこともあり食欲ではなく、性欲と狩猟や採集の本能が組み合わされ、チラリと女性のそれが見えると喜びを感じるのではないだろうか! と、いう……穴だらけのような仮説を立ててみたのだよ」
「女の人も木の実とかの採集はしてたんじゃないかな?」
「なるほど……ということは、狩猟本能オンリーか! いや、採集の本能……女性もやはりチラリと何かが見えたら気になってしまう気も……う~ん。まぁ、仮説だし……ぶつぶつ」
使い魔は魔術師の方へ顔を向け、その表情を見る。
「真面目に考えているんだね」
「そう見えるかい?」
「違うの? ……『ぶつぶつ』って言ってたけど、表情が真剣だったし」
「そこそこ真面目には考えている。……稲作が始まると、狩猟の機会は減っていったのかな。…………チラリと見えたりして得られる喜びも、慣れてしまうとその喜び具合も減っていく……。仮に恋人を稲作と考えてみる……安定して見ることが出来るようになっていくと、喜びは低下していく」
「……そういうものなの?」
「まだ続きがある! 当たり前に御飯が食べられる……これは忘れがちだけど幸せなこと。つまり、見慣れたとしても、それはやはり幸せなことなのだよ」
「なんとなく言いたいことは解る。……ような……」
「それに、料理の仕方で味に変化を付けることも出来る」
「なんとなく言いたいことは解る! 解るけど……変態っぽい感じがする」
「まぁ、そこは君のご想像に任せよう」
魔術師は使い魔に魔術をかける呪文を唱えた。
「……。かからないもん!」
と、いいつつも、いろいろと想像して頬が少し赤くなっていた。
「まぁ、人間とはそう単純なモノじゃない。チラリと見えて喜びを感じたり、見慣れてもそれが幸せなことだと認識出来ても。それは一部。もっと色々な喜びや幸せなんかもいっぱいある。……こうして触れ合っていることも……」
魔術師は使い魔に自分の左手を見せてから、ゆっくりと使い魔の右手に近づけていく。
「わー、捕まっちゃった。狩猟?」
「美味しく頂いてしまおう」
魔術師は手と手を重ねた形から、握り合う形に変えた。
「あれ? 月が……」
「ぬぅぅ、新月の夜に並べ始めた今回……。現実の時が流れて満月も過ぎてしまっているようだ!? ……あ、私は正直なところ……手汗が出てましたが、大丈夫だろうか」
「大丈夫! わたしも出てたと思うし! 夏は暑いよね!」
「汗と汗が混じりあう。うむ、なんだか良いぞ!」
「その言い方は、なんとなくだけど変態っぽい」
「あれですな! これは個人の感想で……なんとかかんとか。……さて、そろそろ今回を終わりにしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして! 今回もあなたは変態だったけど、楽しかった!」
「ミートゥ! ……みーみー? いんぐりっしゅは苦手だ。……白い布も可愛かったな!」
魔術師の笑顔で台詞の最後の部分をサラッと言う。
「……聞き逃してもよかったけど……色は白が好きなの?」
「君が装備しているなら何色でも! ……白、似合うと思う。ああ、いや、ええっと! ……それはそうと、台風がいくつか来ているそうだ」
「うん。……えっと、そうみたいだね。大丈夫かな……」
「まぁ、気を付けるしかない。風や雨などに気を付けて、次回もまたよろしく!」
「よろしく! ……もうちょっと、このままでいいかな?」
「うん。もうしばらく一緒に空模様を見て、しっかり戸締りをしてから帰ろう」
「そうしよう!!」
そのあと二人は、しばらく空模様を見ながら話をして、微妙に台風に備えた戸締りをしてから帰っていった。
と、いう感じに今回を終わりにしよう。




