金色
黒い空に浮かぶ月は、満月の姿から十六夜、立待月、居待月、……新月の姿へと進みつつあった。
風が冷たい空気を運び、窓に当たって音を立てる。今、辺りを漂っている風は大人しいので、その音は控えめだった。運ばれる空気の一部は隙間から室内へ入り込む。
「外は寒そうだね」
閉じられている窓に、軽く右手を触れながら外を見ている人影がいう。
「時々、暖かい日もあったけど、この所また寒いね」
少し離れた場所から、窓辺に立つ人影の背中を見ている人影は同意する。
「ストーブが点いているけど、少し肌寒い……」
窓の外の月に視線を向け、後ろの人影を意識しながら台詞を並べる。
「まぁ、衝立で区切られた空間……。このお座敷の密閉度はそれほど高くはないからね」
「それは……うん、そうだね」
左上に顔を向け、衝立と天井の空いている様子を見ながら言う。
「体を冷やさない内に、ストーブの近くへ行くのもいい」
「……うん」
頷くけれど、再び窓の外へ視線を戻して佇む。
「窓の外に何かあるのかな?」
「えっと、んー、んー、探してみようかな。……なにかあるかな」
窓に少し顔を近づけて外の様子を窺う。その姿は隙だらけ……しかし、それは作りモノ。窓辺の人影は、後ろの人影に何らかの行動を誘っていた。けれど、慣れない駆け引きの様なことをしているので、口調と動作に、ぎこちない雰囲気が漂っている。
「……ワナか!」
地の文を読んで後ろの人影は驚いたように言う。
「……ち、ちがうよ」
本当に隙だらけになる為に、目を閉じて首を軽く振りながら思考を濁らせる。
「……ふむ」
首を振る人影は、地の文も声も認識しないように心掛けて隙を作っているので、作りモノとはいえ無防備になっていた。
無防備になっていたけれど、だんだんと首が疲れて来たこともあり、振るのを止めた。
「なんだろう、ちょっと気持ち悪くなっちゃ……た。……あれ?」
言いながら振り向くとそこには誰もいなかった。視界の正面にあるのはコタツと並んだ2つの座椅子と衝立だけだった。思考の濁りが治まり始めると、地の文に意識を向ける。
「つ~か~ま~え~た~~」
「ひぃ!?」
突然右足を掴まれて、小さく悲鳴を上げた。そしてすぐに、状況を理解した。
「こんな感じはどうだろう? 地の文の”何らかの行動を誘っていた”に対して」
そう、コタツの中から声がした。
「……ドキッとしたけど、違うと思うよ」
「私もそう思う!」
そう言って魔術師はコタツの中から仰向けで顔を外に出した。
「地の文さんに意識を向けないで、見たままの状況に意識を向ければあんなに驚かなかったかも」
魔術師を見下ろす格好で使い魔は台詞並べる。
「ふむふむ。えっと、この状況は半分くらいは狙っていたけれど。う~ん、良い感じだ!」
「……えっと、踏まれても文句は言えない状況だよね?」
「その覚悟もあるさ! うむ、スカートの中に白系の布が見える!!」
「もう! 変態だな~!! ……ぅぅ……どう?」
怒る振りをしつつ、気になって尋ねる。
「素晴らしい! 可愛いからもっとじっくり見てみたい!!」
「……。…………ダメ。恥ずかしいから。……手を離して」
自分の足を掴んでいる手など、簡単に払いのけられるのに魔術師に言葉を渡す。
「ダメか~。それは残念」
魔術師は使い魔の足から手を離すと。コタツの中へ消えた。
「……ちょっとなら」
使い魔は、小さな声でつぶやく。その声はコタツの中で体の向きを変えている魔術師には聞こえなかった。しかし、このお話は地の文を含めて、登場人物が文章を読み直すことが出来る。
「……。ほほぅ! ……私は欲深い……。君を相手にでは、ちょっとではすまない可能性が高いよ!」
コタツの中で色々と動き回り、座椅子に座り直した魔術師は言う。
「…………それじゃあ、やっぱりダメだね!」
つい呟いてしまった自分の台詞に、恥じらいを感じたこともあり、妙に明るい口調で台詞を並べた。
「その恥じらいの浮かぶ表情も、好きだな! ……そろそろこちらに来ないかな? 君を側に感じたいのだよ」
魔術師は照れた顔を俯いて隠しながら使い魔を呼ぶ。
「ふふっ!」
使い魔は嬉しそうな笑い声を出すと、軽やかな足取りで魔術師の隣の座椅子へ向かい、上品を意識しながら座る。
「ではでは、一緒に毛布を掛けましょう!」
「くっ付いた方が温かいよね」
毛布を自分の肩にも掛けようとする動きに合わせて、使い魔は魔術師の方へ寄り、触れ合う面積を増やした。
「少し冷えたかな?」
使い魔の体温を感じて聞いてみる。
「そうかもしれない。ストーブ点いてるけど……」
首を魔術師の方へ少し傾けて、少し冷えた理由を考える。その拍子に揺れた髪の毛から、使い魔の匂いが香る。
「おぉ! 良い匂い!!
魔術師は鼻から大きく息を吸う。
「やっぱり隙間風が冷たいからかな?」
「ふぅ~。……そうかもね。何はともあれ、風邪を引かないようにね」
「うん。気を付ける」
使い魔は魔術師の行動に怯まない。お風呂上がりの結界に守られているから。
「ぬぅ~、この結界を破るには時間が経つのを待つ……あるいは体を動かして汗をかいてもらう必要があるのだろうか。……他にもあるかな」
「破られたら、こんなに近くにいられないかも」
「大丈夫、大丈夫。むしろ君の汗の匂いを――――」
「それは、恥ずかしいからダメだよ!」
魔術師の変態っぽい発言を途中で遮るように台詞を並べた。
「うむ」
素直に声を出して頷く。その表情には目を閉じて口角を両方上げ、楽しそうな笑みが浮かんでいる。
「イジワルされた?」
「7割は本気だけど? ……なんてね!!」
「…………ふふっ!」
「何かおかしいことでも言ったかな?」
「うぅぅん! なんとなく、あなたらしいかなと思って」
柔らかく微笑みながら魔術師を見つめて言う。
「そ、そうか。……えっと、そう、あれだ。”あれは一体なんだのだろう??”の三つめの話をしよう」
照れを隠している所に使い魔の視線を受けて、妙にときめいてしまい、話題を変えた。
「あはっ! ……あ、うん。どんな話?」
使い魔は弾んだ声で話を促した。
「こほん。……あ、一応、今回も前置きを置くと……。あの頃を越えて、悟りの領地に踏み入れて戻って、しばらく経った頃。……えっと、簡単に言うとすると、平常時でも集中力がかなり高い状態で、そういうモノが見えてもおかしくは無いのかもしれない。と、いう状態だった」
「そういうモノって……?」
使い魔は前回の幽霊っぽいモノを連想する。
「う~ん。とりあえず、人の姿ではなかったよ」
「……どんな姿?」
「ソレを見たのは夜……。時間は22時過ぎというのは確かだった。最初にそれを見て、その数日後にも同じのを同じくらいの時間に見たんだ」
「2度?」
「うん。ソレは……金色に光っている鳥」
「金色に光る鳥……。鳥って光るの?」
「いや、たぶん光らないと思う。だから”あれは一体何だったなろう??”なんだ。……2度見たけど、両方ともその正体を確認できなかった……。2度とも、仕事中だったし」
「どうして光ってたんだろう?」
「う~ん、目立ちたかったから?」
「なるほど!」
使い魔は軽く手を叩いて声を上げる。
「ごめん、ちょっとボケただけだよ。……時間的に夕日で金色に光って見えた。ということはなさそうだ。月は満月じゃないけど出てたから、月の光を浴びて金色に見えた……これは、あるだろうか……。あるいは車のヘッドライトに照らされて金色に光って見えたのか……。……何かの光に照らされていただけかもしれない」
「その金色の鳥ってどんな感じの鳥だったの?」
「……3階くらいの高さを飛んでたソレを見て、鳩? と、思った。シルエット、大きさ、飛び方が、そう見えた。でも、金色に光ってる。ちなみに、2度とも、2羽で飛んでた」
「光る鳩が2羽……」
台詞を並べて、使い魔は光る鳩が2羽飛んでいる光景を想像してみる。
「どう?」
「う~ん。……綺麗かも! でも、確かに何だろう? ってなりそう」
「……それは普通に飛び去ってしまった。夜……。夜に飛ぶ鳥……夜行性の鳥? あるいはUFO? 宇宙人!? ……鳳凰とか、そういう系のモノかもしれない。まぁ、結局のところ、ソレがなんだったのか、私は確認出来ていない。だから、断言できるモノじゃない」
「……あなたは、ソレを見て驚いた?」
「まぁ、少し……。感情面は、今と比べてかなり冷めている感じだったし……。見えている間、ただ、ソレが何なのか考えていた。見えなくなってからは、頭の片隅に置いて仕事を続けた」
「今のあなたが見たら?」
「目が輝きそうだ! ……君が側にいれば、ソレを出汁……でじるにして、君の体を色々と触るかもしれない!」
「ど、どうしてそうなるの!?」
「ドサクサというやつかな」
「肩を抱くとか、腰に手を回すくらいならいいけど、色々と触るのは不自然だと思う」
使い魔は、やや真面目に言う。
「それもそうだね。君と一緒にソレを見ることが出来たら、そのどちらかにしよう。まぁ、別の、そういう系に出くわした時は……そのパターンの確立が高いということで」
「違うパターンもあるんだ」
「そういう系に出くわした時、危険な場合もあるかもしれない、そういう時は、お姫様抱っこで走るとか、手を引いて走るとかも有ということで」
何気に、魔術師も真面目な感じに台詞を並べた。
「状況にもよるんだね」
「そういうことさ! ……3つ目の”あれは一体なんだのだろう??”は、こんな感じの話だよ。……さて、そろそろ今回を終わりにしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして! ……意外と不思議な経験があるんだね」
「まぁ、勘違いや、見間違え、聞き違え、錯覚、ただの物理現象……かもしれないけどね。私は魔術師だけど、結構、現実的な考え方をする方だと思っている。まぁ、頭悪いけど!!」
魔術師は使い魔に笑い掛けながら言い終わる。
「幽霊とか、そういう系はやっぱり信じない感じ?」
「幽霊とかを、妄想や夢と言って否定はしない。むしろ、そういう所に”住まうモノ”でもいいとも思う。科学で証明とかも面白いけど……。妄想や、夢だと否定されたところで、信じれば、魔力が生じて……」
「後半の辺りが、ちょっと怖いかも」
魔術師が言い切らないで並べた台詞に込められた意味を感じて、感想を言う。
「ははは! ごめん。……綺麗に? まとめると、妄想や夢は否定するものじゃない! という感じかな。心というモノも似たようなもの……そういうモノを否定するのに、心というモノを否定しないというのも面白いかな……それとも、心は科学で証明されている?」
「心を科学で証明……。あんまりロマンチックじゃない気がする」
「そうかもね! ……今回を終わりにしよう! と、台詞を並べてからちょっと長くなってしまった。改めまして、今回もありがとう!」
「改めまして、どうしたしまして!!」
使い魔は楽しそうに、いつもの終わり際の台詞を言う。
「そういえば、月の姿がそこそこ変わってしまったね。もうちょっと一緒に月を眺めてから帰ろう」
「うん」
魔術師の台詞に使い魔は、笑顔で頷いた。
と、いう感じに今回を終わりにしよう。




