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手の温め方

 年が明けても、空の月は変わらず満ち欠けを続けていく。

 地上へ向かう月の光は、冷たい空気の中へ沈むように進む。屋敷の窓へ入り込むその光は室内を照らしていた。

 窓から月の光の差し込んでいるそこは、お座敷と呼ばれている。そこには二つの人影があり、二人掛かりでストーブを運んでいた。

「一人でも持てるけど、二人で持つと結構軽く感じるものですな!」

「そうだね!」

 ストーブをお座敷の窓側の奥に置く。

「この時期にしては微妙に暖かいけれど、ストーブを点けるね!」

「うん。……あ、水の入ったヤカンを乗せておかないと乾燥しちゃう」

「うむ、そこのテーブルに置いてあるヤカンには井戸の水が入っている。ストーブの上に乗せてくれたまえ!」

 使い魔は、テーブルの上に置いてあるヤカンをストーブの上に乗せると、しゃがんでストーブの火をつけている魔術師の隣に同じようにしゃがむ。

「よし、古いストーブではあるけれど、ちゃんと点いた。……角度の問題……いや、この場合は高さか」

 魔術師はストーブの中を覗き込みながら、何やら呟く。

「どうかしたの? 角度……高さ??」

 台詞の意味がよくわからなかったので尋ねてみる。

「うむ、ストーブの中は熱の進む向き? を絞る為なのか中が鏡のようになっている」

「それが……ぁ」

 使い魔は魔術師の台詞の意味を理解した。

「まぁ、反射角の……。しゃがんだ君の……スカートの……うん」

「ストーブの前は暖かいよね」

 しゃがんだ状態から膝をついて座りながら魔術師の台詞のを流す。

「だね! ……多少、変態っぽい所も出しましたが、あけましておめでとう!」

「ふふっ! あけましておめでとう!」

 二人は新年のあいさつを交わした。

「今年もよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします! ……えっと、わたしにならいいけど、あまり変態なことしちゃダメだからね」

 使い魔は、少し心配している所に釘を刺す。

「大丈夫。普段からアクティブに変態という訳じゃないから……。先ほどのも、君と二人きりだからこそという部分も大きいのだよ」

「そうなんだ。……あ、わたしも変態っぽいことされるのは……変な所触られたりするのも……あなただからいいのであって……」

 とぎれとぎれ台詞を並べる。

「光栄ですな! ……ストーブの前とはいえ背中が微妙に寒い。いつも通り、毛布を一緒に掛けよう」

 魔術師は近くに置いてあった毛布を取ると、使い魔と一緒に掛けた。

「暖かい!」

「布が一枚増えるだけで結構違うよね」

「うん……」

 使い魔は目を閉じて、服越しに触れ合っている魔術師の体温を意識する。

「正直な所、私は手がとても冷えている……君の体温を頂いてもいいかな?」

 よく冷えた左手をストーブの火の明かりに照らしながら、左隣にいる使い魔に聞いてみる。

「よく冷えた左手……。右手も冷えてる?」

「冷えてるよ。……しかし、この普通に並んで座っている体勢では、右手は君に良い感じには届かない」

「……どうしよう?」

 使い魔は、魔術師の両手を温めるという使命感を微妙に抱いている。

「体勢を変えれば解決するさ! 例えば……」

 魔術師の左手は使い魔の背中へ移動する。そして手首を曲げて腰と太ももの境目さかいめ辺りに手の平を置く。

「本当に冷たいぃ!」

「あ、ごめん。やっぱり冷え過ぎていたか」

 冷えた左手を戻そうとすると、使い魔の右手がその手をつかまえる。

「大丈夫だよ」

「えっと……ありがたい! ……いや、ありがてぇ!!」

 魔術師は台詞を言い直した。

「どうして言い直したの?」

「なんとなく使ってみたい台詞だったから。……どこで聞いた台詞だったかな」

 一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに思い出すのを止める。

「思い出せない感じ?」

「そんなところかな。しかし、この左手の位置……少し指を伸ばしてみたくなってしまったり」

「エッチなこと考えてるでしょ?」

 魔術師の左手を捕まえていることもあり、使い魔の声色こわいろは余裕があり冗談っぽい。

「考えを読まれた~」

 と、いいながら左手を少し暴れさせる。

「少し温まってきたかな?」

「うん。ありがとう! ……左手を意識しつつ、右手もお願いしよう!

 お礼を言われて口元に笑みが浮かぶ。そして、微笑みながら後に続いている台詞に注意を向けた。

 注意が台詞に向いている間に、魔術師は体勢を使い魔の方へ向ける。

「その右手の動き……」

 ストーブの火の明かりを目に宿している使い魔の視界には、怪しく動く魔術師の右手を捉えていた。

「きっと君のお胸は暖かい!」

 熱に飢えている右手は欲望にとり憑かれている。

「……」

「……」

 右手のあるじは自分を見つめている視線に気づいた。そして、その優しげな視線で我に返った。その影響で、右手は着地する目標地点を外してしまった。

「ここも温かいですな! ……目標地点を外してしまったけれど、人差し指が山のふもとに少し埋もれている」

「微妙に人差し指をグリグリ……。やっぱり変態さんだ!」

 怒った表情を作ろうとするが、口元が緩み笑みがこぼれる。

「こんな感じのイチャイチャ感が、私は結構好きだったりする」

 そう台詞を並べると、静かに使い魔を見つめる。

 見つめられた使い魔は、妙に照れてしまい目をらす。そして一度目を閉じてから視線を合わせて笑顔を浮かべる。

「ストーブの近くのせいか、ちょっと顔があつい」

 照れて顔が赤くなっている気がした使い魔はそんな台詞を並べた。

「ストーブの火はオレンジ色っぽいね」

「そうだね」

 視線をストーブの日へ向けた魔術師の横顔を、今度は使い魔が微笑みながら見つめる。

「私も顔が少し熱い。ストーブに近すぎたかな」

 使い魔はその台詞から、魔術師も実は照れながら台詞を並べていたのだと気付いた。

「ふふっ! 照れちゃって可愛い!」

 先ほどの静かに自分を見つめる視線が、照れを隠しながらだったと知り、笑顔に声も付いた。

「あぅ、これはこれで照れる。……というか、恥ずかしい感じがするぞっ!」

 後半の台詞には勢いを付けて言う。

「大丈夫だよ。大丈夫。わかってるから!」

 使い魔は、なだめるように優しい口調で言う。

「う、うむ。君が大丈夫と言うなら、大丈夫なのだろう!」

 なにが大丈夫なのか、よくわからないけれど。大丈夫なのだということで二人は落ち着いた。

「そういえば、月の姿だいぶ変わったかな? よく見てなかったけど」

 窓の外へ視線を向けて台詞を並べる。

「変わっただろうね。現実の世界では、年が明けて半月くらい経っているから……えっと、今の月は三日月を通り越して上弦の月に近づきつつあるようだ。う~ん、現実の私が月の名前を忘れかけているようだ」

「そういうこともあるよ!」

 使い魔の明るい声に対して笑顔を向ける。

「お気遣いありがとう! ……右手も良い感じに温まって来た」

「そうえば、ストーブに手を向けた方が早く温まるんじゃ……」

「……ふ、ふはははは! そういえば、その手もあった!? 君と触れ合うことばかり考えていて、その手に全く気付かなかった」

 本当に今気づいたので、魔術師は使い魔の胸元から右手を顔に当てて笑っている。

「えっと、そういうこともあるよ!」

 使い魔は再び”そういうこともあるよ”という台詞を並べた。

「うん。ありがとう!! まぁ、ストーブの熱より、君の体温の方が魔力という点でははるかに意味深いのだよ! この手に残るぬくもりが顔に伝わる……君の胸元の体温が顔に……素晴らしい魔力を感じるぞ!」

 魔術師の中で魔術が展開された。

「どんな魔術?」

「どんなだと思う? ヒントはイメージ系です」

「…………」

 使い魔は、自分の胸元に魔術師が顔を埋めているイメージを浮かべた。しかし、自分の大きさを考慮こうりょすると、それが正解なのか疑問を浮かべ始める。

「大丈夫! 正解です!!」

「でも、わたし小さいし……」

 魔術師のイメージの中で、自分の胸が大きくなっているのか考えながら言う。

「挟まれているイメージではないな。……ふむ、実際にお胸をイタズラしながら試してみてもよろしいかな?」

「……ダメ! イタズラしちゃダメだから!!」

「それは残念」

 半分冗談で並べた台詞だったので、あっさり引き下がった。

「…………ぅん」

 あっさり引き下がった魔術師に対して『イタズラしないなら、いいよ』と言おうとしたけれど、勇気が足りずに声が出なかった。

「勇気というのも魔力……。私も勇気という魔力がもっと欲しいものだな! そうすればもっと君に言葉を……」

「……あなたの魔力の基本……? は自信だったっけ?」

「うん。自信だよ……。まぁ、自分がダメ人間ということも信じているというタイプの自信だけどね! ……自分の精神状態の安定に消費されている割合が多い。……その影響もあって自信があふれ出る感じには、そうそうなれない……。だから勇気が欲しいですな!」

「欲しいね!」

 笑顔で同意しながら、自分に変態っぽいことするのは勇気を出してなのだろうか? と使い魔は考えていた。

「あぁ、それは、君と私の間にある魔力があるからこそだよ。どちらかというと臆病な私にとって、スキンシップは苦手な方なので!」

 地の文を読んで台詞を並べ、苦手と言いながら、左手に力を入れて使い魔を自分の方へ、より引き寄せる。

「本当に苦手なの?」

「本当さ~! と言いながら腰の辺りをナデナデ」

「結構大胆な触り方……怪しいな~」

「ははっ……」

 短い笑い声を出すと、使い魔から視線を外へ向ける。

「あ、いつの間にか空が曇って雨が降ってる」

 魔術師につられて外を見ると天気が変わっていた。

「寒さも増して来たね……この雨は雪になるのかな……。さて、今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして! 現実の世界での時間は結構経っちゃったみたいだけど、改めまして、今年もよろしくお願いします!」

 窓の外から魔術師に視線を戻して台詞を並べる。

「確かに現実では半月以上経っている。……改めまして、今年もよろしくね!」

 使い魔と視線を合わせて魔術師も台詞を並べた。

「うん! 今年も頑張ろう!!」

 笑顔で頷く使い魔を見て、魔術師は文章並べをもっと頑張ろうと思った。

 その後、ストーブの火をしっかり消してから二人は帰っていった。

 と、いう感じで今回を終わりにしよう。

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