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リハーサル

 曇り空。空の雲は流れ、時折切れ間をつくる。そこから地上をのぞく月の姿は小望月こもちづき

 雲の切れ間がまり、地上に届く月の光が弱まった。しかし雲を通したその光は、本を読める程度に明るく地上を照らしている。

 風が静かに踊り、窓をかすかに揺らしている。月が風の踊りを見ることを望んだのか、雲の流れは再び隙間を作った。

 月の光は、風の踊りに合わせて微かに動く窓から室内に入り込む。そこには、絨毯じゅうたんき、掃除をしている人影があった。

「掃除はもう終わるんだけどね」

 月の光に照らし出されている室内……お座敷の中を見渡して、その人影は台詞を並べた。

「今夜の月は中秋の名月だったかな」

 窓辺に移動して月の姿を見ると少し目を細める。しばらくそのまま見ていると、雲の流れが月を隠した。静寂(せいじゃくに耳をますと風の踊る音が微かに聞こえた。

「優しい風だな……」

 風の踊りをほほで感じながら目を閉じ、視覚を封じて残りの感覚へ意識を向ける。そのまま静かに過ごしていると、ふわりと気配が現れた。

 ふわりと現れた気配はお座敷の様子をうかがいつつ、目を閉じている魔術師の背後に回り込む。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師は召喚の呪文を唱えてから振り向いて静かに目を開けた。

「こんばんは」

 目を開けて、そこにいた使い魔は挨拶をする。

「こんばんは」

 魔術師も普通に挨拶を返す。

「……どうかしたの?」

 自分が来る前の文章を読んで使い魔は尋ねてみる。

「どうか……と、言われれば、君が来るのが待ち遠しくて、君の気配を探していた」

「…………絨毯を敷くの手伝いに来るの遅かった。ごめんなさい」

 使い魔は申し訳なさそうにうつむいて謝る。

「……まずは顔を上げて欲しい」

 両手をそれぞれ使い魔の両肩に軽くのせて、お願いをする。

「…………」

 顔を上げた使い魔の目を見つめながら、真面目な顔をして魔術師は口を開く。

「君が来るのが待ち遠しかったのは、敷いた絨毯の上で君と早く文章並べをしたかったからなんだ。だから、早めに来て絨毯を敷いて、掃除もしてこの状況を作り出した――――。だから、君は謝る必要はないんだよ」

「…………えっと、わたしも絨毯を敷くの手伝いたかった」

 使い魔も真面目な顔で台詞を並べてみた。

「ごめん。君が来るのを待ってから絨毯を敷くべきだったね。つい、君と……その、早くイチャイチャしたくてそこを省略しちゃったんだ!」

 真面目な顔に、照れをにじませながら魔術師は言い切った。

「そうなんだ」

「ぐっ……気持ち悪いと思われた気もするし、怖いと思われた様な気もする……うぐぐ」

 魔術師は使い魔の両肩から手を離し、頭を抱えながら俯く。

「えっと、真面目な顔で台詞が始まったの怖かったし、ちょっと気持ち悪いかもしれない台詞だけど……大丈夫!」

「そ、そうか。大丈夫かな?」

 頭を抱えたまま、顔を上げて尋ねる魔術師はいつもの感じに戻っていた。

「ふふっ! 大丈夫だよ!!」

 優しく微笑みながら使い魔は魔術師をはげました。

「……そういえば、あの月は中秋の名月というらしいよ」

 雲の切れ間から覗いている月に視線を送りながら言う。

「綺麗な月だね」

「うん。綺麗だ」

 月を見る使い魔の横顔を見ながら魔術師は使い魔の心境を想像していた。

「ん?」

 視線に気づいた使い魔は、魔術師の方を見て微笑む。

「……さっきは怖がらせてしまったりして、ごめん」

「真面目な顔で怒られるかと思って、怖かったよ。それに、わたしはあなたの台詞が気持ち悪いとは感じてないよ。”かも”とは言ったけど。……言われて、恥ずかしいというか、ちょっと照れちゃった」

 使い魔は、優しく先ほどの台詞に込められていた真意を伝えた。

「なるほど、そうであったか! ……おぉと、安心したら立ちくらみがぁ!?」

 わざとらしい口調で喋りながら普通に横になると、近くに置かれていた大き目のクッションを枕にしながら薄手の毛布を掛けた。

「その位置だと、雲の切れ目から月も見えそうだね」

「よく見えるよ」

 今までの付き合いの経験から、魔術師が今望んでいる展開を使い魔は理解している。

「ちょっと肌寒いよね」

「そうなんだよね。そこで君も、この薄手の毛布の中を温めるのに協力してくれないだろうか?」

 魔術師は使い魔に協力を求めた。

「いいよ。私もちょっと肌寒いし、一緒に温めちゃおう!」

 答えを聞いて、掛けている薄手の毛布の左側を上げて使い魔を誘い込む。

「どうぞ、お入りください」

「失礼します。……誘い込まれちゃった」

 遠慮がちに使い魔は薄手の毛布の中に入り込んだ。

「こ、これは!」

 何かを手にした魔術師は嬉しそうな声を上げる。

「それは、わたしの右手です」

「なるほど君の右手か! 手の平を合わせて、指と指の間に私の指を絡ませると――――」

「――――しっかり手を繋いじゃったね」

 使い魔は魔術師の台詞と自分の台詞も繋げて並べた。

「いつの間にか空が晴れて来たみたいで、月が出てる時間が長い」

「わたしたち、中秋の名月に照らされてる」

 使い魔は台詞を並べると目を閉じて月の光を感じ取る。

「そういえば、心霊ホラー系の物語を読んでいると、金縛り状態で幽霊をみることが多いらしい」

「……幽霊?」

 使い魔は、幽霊の話より月の光でロマンチックな雰囲気を味わいたいと思いながらも付き合う。

「うん。金縛りになって周りを見ると自分の上に”不気味”な老婆が正座して座っているとか」

「動けない状態でそれは怖いね」

「うむ。”不気味”というのが怖そうな味付けだ」

「血まみれも付けたら、少しクドイかな」

「そういう描写もありかもね……。私も金縛りになったことはあるけれど、幽霊は見たことが無い」

「ふーん」

 怖い話が微妙に苦手な使い魔は、興味があまりない感じに台詞を並べる。

「金縛りは怖いというより苦しいという印象が私は強い。寝相が悪いせいか、なぜこの状態で金縛り!? ぐ、ぐるじぃ……ということもあるので、早めに解く方法を考えたりする……」

「金縛りを解く良い手はあるの?」

「正直、よくわからない。体は動かないし声も出ない……。そこで考えてみた。自分の上に乗っているのが君だったらと……」

「……えぇ?」

 話の展開を微妙に見失い使い魔は困惑した。

「金縛りになった時、もし君が私の上に乗っていたとしたら……すぐに解く自信がある!」

 魔術師は力強く台詞を言いきった。

「どう……やって?」

「うむ、それを説明する前に、金縛りになった体勢が仰向けなのか、うつ伏せなのかに着目しよう」

「体勢で違いがあるの?」

「ある! 仰向けの場合、君が上に乗っていたら抱き締めたい欲求で金縛りを解くことが出来る」

「……それで解けるの?」

「苦しさで弱気になっている所に君がいたら抱きしめたい欲求はかなり強いからね!」

「そうなんだ。……うつ伏せだったら?」

「うつ伏せ状態では上に乗っている君を抱き締めることは出来ない。しかし、君のお尻の感触を手でも味わいたい欲求が金縛りを解く!」

「……うつぶせの状態の方は変態っぽい欲求だね……。あ、でも……うつ伏せだと上に乗ってるのが誰なのか、

みえないよ?」

 使い魔は、ふと思ったことを口にした。

「おぉぉ……。な、何ということだ!? うつ伏せ状態での金縛りは、仰向けより解くのが難しいのか。君のじゃないと尻を触りたいという欲求が使えない!?」

 魔術師は、変態っぽいことの上に馬鹿なことで悩み苦しみ出した。

「……」

 悩んでいる理由的に使い魔はただ見守ることしかできなかった。

「……まぁ、いいか。その時はその時だ。よし、うつ伏せは保留にして、仰向けでリハーサルをしてみよう。手伝ってくれるかな?」

「手伝うって?」

「仰向けで金縛りにあって、上に君が乗っている展開を!」

「お話の流れが急展開じゃない?」

「ダメかな?」

「う~ん……。いいよ!」

 使い魔は話の展開に流されている気がしたが、相手が魔術師なので流れに任せても良いと思って答えた。

「温まって来た薄手の毛布が名残惜しいけれど……お願いします!」

「これが終わったら、また温まろうね!」

 薄手の毛布を丁寧に畳んで近くに置く。

「仰向けで金縛りだ~」

「すごい棒読みだね。えっと、あなたの上に乗る……。のるってどの辺に、どんな感じに?」

「う~ん、上半身を起こす必要があるから、腰辺りかな」

「……腰辺り。金縛りの解き方のリハーサル。そう、これは……リハーサル?」

 何かを意識してしまった使い魔は、話の流れに意識を向けるために”リハーサル”という言葉を使った。

 最初の”リハーサル”と口にした時は、話の流れに意識を向けることに役だったけれど、確認のためにもう一度その言葉を口にした時は、何かの方のリハーサルが頭に浮かんでしまった。

「何かの方とは?」

「……この辺でいい?」

 魔術師の問いには答えずに、魔術師のお腹の下辺りに、絨毯にひざをついてまたぐ感じに座る。

「もう少し下……いや、リハーサルだからそこで大丈夫!」

「やっぱりエッチなこと考えてるでしょ?」

「……何かの方のことかな?」

 下から使い魔を見上げる魔術師は優しい感じの表情を向けながら尋ねる。

「……もっと変態っぽい表情してくれたら、遠慮なくグーパンチ出来るのに!」

「ぬぅ、それはすまなかった……。こんなことに付き合ってくれて嬉しくて……。いとしく思っていたらそんな表情になっていたようだ」

 魔術師の台詞を聞くと使い魔は横を向いてしまった。

「……本当にイヤだったら付き合わないからね!」

「噂に聞くツンデレというやつか!」

「つんでれじゃ――――」

 向き直りながら台詞を言おうとした使い魔を、上半身を起こした魔術師が抱き締めた。

「これはイヤかな?」

「……」

 使い魔は答えなかったけれど、両手を魔術師の背中に回した。

「これならきっと金縛りを解くことが出来るな!」

「……よかったね!」

「まぁ、現実的ではないけど」

「月の光……いつもより強いかな?」

 使い魔は、自分の後ろの窓から入る月の光が衝立ついたてに作る影を見ながら聞く。

「おや、空がいつの間にか晴れて月が良く見える……十五夜じゅうごやさんだ」

「満月……現実の世界で時間が少し経ったんだね」

 魔術師に座るような感じで抱き合っている今の状態を、衝立に出来た自分たちの影で改めて意識すると、力を抜いて体を魔術師に預けた。

「確かにお預かりしました!」

 預かった使い魔の背中を優しく撫でる。

「今のわたし達って、どんな感じに見えるのかな」

「イチャイチャしているようにしか見えそうにないだろう!」

「そうだよね。人前だと恥ずかしそうだけど……。わたし、これ好き!」

「私もだ! ……もう少しこの状態を続けたいけれど、現実の私の頭が眠気で急激に回らなくなってきている」

「そうなんだ。そろそろ終わりにする?」

「うん。……でも、もう少し展開を進めよう。えっと、君は手を横に下ろしてくれるかな?」

「こう?」

 使い魔は両手を下ろす。

「そうそう」

 魔術師は使い魔を抱き締めたままゆっくりと後ろへ倒れる。

「薄手の毛布をまた温めないとね!」

「うむ」

 使い魔を抱き締めながら仰向けで横になっている魔術師は、次に横向きに体勢を変えた。そしてその次に再び仰向けになった。

「何だか大切に扱われている感じがする」

 大き目のクッションに頭を預けながら使い魔は言うと、抱き締めから解放されて少し残念そうな表情を浮かべながら薄手の毛布を左手を伸ばして取る。

「では、改めて薄手の毛布を一緒に使おう」

「うん!」

 残念そうな表情が笑顔に変わった。毛布の肌触りを感じていると、自分の背中の下に残されている魔術師の左手が抜け出そうとしているのを感じ取る。

「えっと、手を抜く?」

「そうしよう」

 使い魔が腰を少し浮かせると、魔術師の左手はそこから抜け出した。

「……えっと、怒ってないけど、今お尻触ったよね?」

「うん! 触っちゃった!!」

「やっぱりエッチで変態さんだね」

「まぁね!! ……では、今回をそろそろ終わりにしよう。文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして!」

「ではでは薄手の毛布を、もうしばらく一緒に温めてから帰るとしよう」

「温めながらお話をしよう! ……えっと、この間ね――――」

 薄手の毛布を二人は一緒に温めながら話をして、しばらくしてから帰って行った。

 と、いう感じに今回を終わりにしよう。

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