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湖でこっそり

 新月から現実での時間が数日過ぎ、月の姿は上弦の月に近づきつつある。

 この世界の月は現実の月よりも明るい。今の姿の月でも、現実の満月の夜より明るく世界を照らし出している。しかし空に雲は多く、その姿は隠れてしまうことも多い。

「微妙に雨が降りそうな天気だね」

「雨に濡れても着替えを一式持っているから大丈夫!」

 手に持っている可愛らしいバックをアピールしながら使い魔は笑顔で言う。

「雨……そうか、その手も……。…………は! おっと、少し考え込んでしまった」

「用意した着替えを無駄にしない展開?」

 魔術師の考え込んでいたことを推測して聞く。

「まぁ、そんなところかな。でも、今回は雨に濡れる展開じゃないよ」

「そうなんだ。……あ、そうか。このまま雨が降って来たらバックの中の着替えも濡れちゃうもんね!」

「……うん。そうだね」

 魔術師の言葉に、自分の台詞が魔術師の考えの的を少し外してる? と使い魔は感じた。

「え~、さて! 月の光で見えるあの先に今回の目的地がある」

 使い魔の視界にも。すでに入っていた場所を魔術師は手で示した。

「えっと、洞窟どうくつ?」

「そう……地底? へと続く洞窟」

「怖くない?」

 ヒンヤリした空気を吐き出す洞窟の入り口を見ながら不安を口にする。

「大丈夫。綺麗な所だよ」

 魔術師はそう言うと、使い魔と手を繋いだまま歩き出す。

「……」

 手を引かれて歩き出した使い魔は、地底? へ続く洞窟に入るのが微妙に怖いらしく、手を繋いだまま更に腕も絡ませて魔術師との距離を縮めた。

「ではでは、地底探検に足を踏み入れよう!」

 二人は、地底? へと続く洞窟に足を踏み入れた、下へと続く洞窟の足場は、微妙に階段状かいだんじょうになっていて歩きやすい。

「洞窟の先が明るいよ?」

「自然のトンネルという感じだね。……ランタンの明かりがあるけど、足元が暗いから気を付けてね」

「うん」

 足元に気を付けながら、階段状になっている岩場を降りて行く。

「トンネルの幽霊……。いや、何でもない」

「ここでそういう話をするのは悪趣味だよ」

 少し怖い話をしようと思った魔術師だが、すぐにやめた。そして、使い魔がその上にふたをして怖い話を封じ込めた。

「まぁ、現実の私は怖い話が好きな割に、自分ではそういうお話をつむげな――――」

「ぃ!」

 魔術師の台詞の途中で、洞窟内での定番? のトラップが発動し、使い魔はその餌食えじきになった。

 天井から落ちて来た水滴が、使い魔の左肩に命中した。その水滴の冷たさにも驚いている。

「大丈夫?」

「う、うん。平気……」

 ランタンの明かりで薄ら照らされている天井を見ながら答える。

「お! 君の驚いた声の『ぃ!』が私の途中まで並べた台詞に丁度良く合う!」

「……紡げなぃ! だね」

「そうそう! こうしてくっ付いているから台詞もくっ付いちゃうね!」

 魔術師は明るい声で台詞を並べる。

「そうだね!」

 使い魔も明るい声を出した。それは、怖がる自分に魔術師が明るく声を掛けてくれたことへの、お返しの気持ちも含まれている。

「さて、もうすぐ出口に辿り着くよ」

「どうして下に降りて行く洞窟の先が明るいのか謎が解けるね!」

「ふっふっふ、それは洞窟の先が別の世界に繋がっているからさ! ……という訳じゃないけどね」

 魔術師は微妙に怖そうなことを言おうとしつつも、余計なひと言を付け加えた。この辺りは、照れた時の癖に似ている。

「……出口の先が目的地なら、綺麗な所なんでしょ?」

「少なくとも、私は綺麗だと思う」

 洞窟の出口まで降り、そこから外を見た使い魔の目はきらめいた。

「本当だ! 綺麗な所だね!!」

 使い魔の目に映ったのは、みずうみだった。

「涼しい所で間違いないかな?」

「うん! 涼しい」

「こういう地形をなんていうのか知らないけれど、地上に出来た大きな穴? みたいな所だね」

 魔術師は空を見上げて雲の隙間から覗く月を見ながら言う。

「この洞窟を通るか、上から降りてくるかしないと来れないね!」

「そんな感じだね!」

 みずうみの周囲は、岩肌で囲まれている。その水面にはゆるやかな流れがあった。

「この水はどこから来てるのかな?」

「湧き水かな? 地下水……。屋敷の井戸の水はここの上流のだよ」

「へ~! ……そっか、それで前回の時、井戸を見てたんだ」

 使い魔は、前回のお話を思い出して言った。

「無駄に伏線を使ってみたのだよ! ……さて、ここの水は綺麗だしかってみよう!」

 肩にかけていたそれなりの大きさのバックを、雨が降っても濡れないように洞窟の中に置き、着ていた黒のワイシャツなどを脱ぎ、ほぼ服を着たまま素足で湖に入って行った。

「…………」

 魔術師の様子を見ながら、使い魔は色々な文章が自分の中で繋がるのを感じていた。

「さぁさぁ、君もおいでよ!」

 呼ばれた使い魔は、可愛らしいバックを洞窟の中に置き、素足になって湖に入る。

「思ったより冷たい!」

 湖の洞窟に近い辺りは浅く。その先は徐々に深くなって行く。

「着替えが必要だったのは、汗をかくからじゃなかったんだね」

「正解!」

 使い魔の手を取ると、少しずつ深い方へ進んでいく。

「冷たいから少しずつね!」

 着ているワンピースがどんどん濡れて行く。

「服を着たままだし、海水でもないから溺れないように気を付けないとね」

「溺れたら助けてくれる?」

「もちろん! ……無事を確認しても、念の為お胸のマッサージも念入りにやるから任せてくれたまえ!」

 真面目な顔をしながら変態っぽいことを言う魔術師に手を引かれて進む使い魔は、胸の辺りまで湖に使っていた。

「髪縛るの忘れた……」

 使い魔の髪は湖の水に濡れている。

「濡れた髪……。色っぽさを感じる言葉だね」

「全部は濡れてないけどね」

「もう少し深い所に行っちゃう?」

「足がつかないと、ちょっと怖い」

 魔術師は、使い魔の肩が浸かる辺りで先へ進むのを止めた。そして、空を見る。

「月が見えるね。月明かりの下……いいね」

「月夜の湖もいいね! ……この状況はこっそり君を抱き締めたくなってしまう」

 月を眺めていた使い魔は、水の動きで魔術師の動きを感じ取る。そして、顔を正面に向けると視線の先で魔術師が答えを待っていた。

「こっそりなら良いよ」

「では、こっそり」

 何に対しての”こっそり”なのかは不明だけれど、魔術師は使い魔を水の中で抱き締める。

「わたしもこっそり……」

 使い魔も、魔術師の背中に両手を回した。湖の中で二人は抱き締め合っている。湖の中央は、足がつかない深さなので、やや洞窟寄りの場所で……。

「濡れた服の向こうにある君の素肌を感じ取る……。素晴らしいな!」

「ふふっ、台詞が少し変態っぽい!」

「そうか……このくらいでは変態っぽいレベルか。レベルを変態まで上げねば……」

 魔術師の台詞が少し気になりながら、使い魔は、少ししている化粧を気にし始めた。

「……」

「そろそろ上がろうか?」

「うん」

 二人は洞窟の方へ歩き出した。

「転ばないようにね」

 魔術師は、使い魔の腰の当たりを右手で抱きながら台詞を並べる。

「あなたが支えてくれてるから……大丈夫」

 台詞を並べた使い魔の顔に少し赤みが帯びる。

「おや? 心なしか、君の体温が上がった感じがする。湖の水で少し冷えたから温かさが心地いいな!」

「…………うん」

 何かを言おうとした使い魔だったけれど、恥ずかしくて言えずに返事だけをした。

「何を言おうとしたのかな?」

 二人とも湖から上がり、向かい合う立ち位置で魔術師は尋ねた。

「……」

 沈黙の使い魔に代わって文章を並べると、使い魔は……”わたしを照れさせてくれることを言ってくれたらもっと熱くなって、もっと心地良くなっちゃうかも!”と、言おうとしていた。

「そうか。……では、とりあえず……ワンピースが濡れて、その下に装備している布が上下とも透けて見えるよ!」

「それは、照れるというより恥ずかしい!」

 使い魔は両手を使って隠そうとするけれど、全部を隠すことは出来ない。濡れて透けてしまうワンピースの中には、水玉模様の布が見える。

「そうか。特にお気に入りの下着の一つは水玉模様だったか! ……可愛くて似合ってるよ」

 恥ずかしさと、似合っていると言われた嬉しさで、使い魔の体温は高まる。

「変態っぽいから、変態にレベルアップしたね」

「君が素敵だから仕方がないさ。それに……」

「それに?」

 使い魔は、魔術師の変態らしい台詞が気になって”それに”の先をうながす。

「それに、月の光に照らされている濡れた服の君が美しくて、誰にも渡したくないという欲望がいつも以上に高まってしまったから」

 見つめ合いながらその台詞を聞いた使い魔は、両手を下ろし、目を閉じてその台詞を自分の中で反芻する。

「微妙に臭い台詞だね。でも……なんだろう。ありあとう」

「引かれてしまったかな……」

「引いてないよ。さてと、着替えなきゃ!」

 使い魔は明るい素敵な笑顔を見せながら台詞を並べると、可愛らしいバックを取りに向かった。

「……私も着替えるか」

 使い魔の後に続いて歩く魔術師は、その後姿を堪能していた。

「エッチ」

 振り向いて一言いった使い魔の口調はなぜが嬉しそうだった。

「まぁ、変態ですから!」

「それじゃあ、仕方ないよね~!」

 向き直って先に進む使い魔の頭の右上に、魔術師は音符やハートの記号が見えた気がした。

「目の錯覚か……。あ、バスタオル使う?」

 魔術師はそれなりの大きさのバックまで走り、その中からバスタオルを取り出し、使い魔に差し出す。

「わぁ、ありがとう。小さいタオルは持って来てたけど。……ぅふ!」

 バスタオルを受け取ると、とても嬉しそうな笑い声を零す。そして、可愛らしいバックから着替えを取り出した。

「では、私も着替えねば。……私は外で着替えるとしよう」

 着替えを持って魔術師は洞窟の外へ向かった。

「……」

 使い魔は魔術師を見送ってから着替え始めた。

 着替えを持って外へ出た魔術師は、困っていた。

「着替えは持ってきたけど、自分の分のバスタオルをそれなりの大きさのバックに忘れた……。でも今、着替えてるだろうし……タイミング。いや、声を掛けて行けば問題は無いはず。しかし、着替えというシチュエーションは……。現実ではダメだけど、お話としてだと覗くのが定番。……でも、許されるだろうか。正直、見たい! いや、声を掛けつつ堂々と……。まぁ、バスタオルを取りに行くだけだ。ただ、それだけのこと。偶然見えてしまうだけで…………なんて独り言を言っていたら、意外と時間を使ってしまった。着替えは終わっている頃かな」

 魔術師は独り言を言いながら時間を使い、タイミングを見て、バスタオルを取りに洞窟の入り口へ向かった。

 洞窟の入り口に立った魔術師の目には、髪を高めのポニーテールで纏めた下着姿の使い魔が映る。

「……」

「……」

 目が合った二人は沈黙を並べた。

「…………バスタオル取りに来たんだ。あなたも早く着替えないと風邪引いちゃうよ?」

 頭の右上辺りに音符やハートの記号を出していそうな心境の今の使い魔は、魔術師に対して少し大胆になれる感じだった。

「う、うむ」

 魔術師は、それなりの大きさのバックからバスタオルを取り出すと、つい、使い魔の方を見てしまう。

「……この下着どうかな? 似合う?」

 魔術師に対して少し大胆になれる感じになっている使い魔だけれど、魔術師を目の前にして並べたその台詞は少し震えた声で紡がれた。

「とても似合っているよ。白くて清楚せいそな感じは君にピッタリだね」

「アリガトウ」

 使い魔は照れ恥ずかしくて、硬い口調でお礼の言葉を台詞にした。

「では、私も着替えてくるね」

 魔術師は着替えに洞窟の外へ再び出て行った。

「今のわたし、ちょっと変だ。落ち着かないと……」

 呼吸を深くしながら、長袖のブラウスに腕を通し、ゆっくりボタンをしめる。そして、ふんわりとした淡い色のスカートを履く。そして、靴を履き、濡れた衣服をしっかりと、可愛らしいバックにしまう。

 そして、バスタオルでポニーテールに纏めた髪を拭きながら魔術師を待つ。

「えーと、地の文を読んで、大体わかるけど、そっちに行っても大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 魔術師は丁寧に声を掛けてから洞窟の中へ入って来た。

「では、そろそろ帰りますか」

「うん」

 使い魔からバスタオルを受け取り、その匂いを楽しもうとした魔術師だったけれど、使い魔の優しげな視線に動揺して大人しく大き目のバックにしっかりとしまった。

「さて、帰り道も手を繋いで進みましょう」

「涼しくて、綺麗な所だったね。また来たいな!」

「また来ようね!」

「次は水着を用意しようか。まぁ、来年以降だろうけど」

 ランタンの明かりを頼りに、二人は洞窟を登っていく。階段状になっているため、歩くのはそれほど大変ではない。

「今回のわたし、変じゃなかった?」

「少し大胆な時もあったかな。でも、可愛いかったし、良いものも見せてもらった!」

「あぅ、思い出すと恥ずかしい」

 洞窟を登り切り、二人は外の景色を見た。そこは、雨が降っていた。

「雨か」

「ここで止むのを待つ?」

「いや、屋敷に帰ろう。現実の私もそろそろ眠くなっている」

 雨の降り方はかなり弱い。

「あまり降ってないみたいだけど、帰り着くまでに濡れちゃいそうだね」

 着替えの用意がもうないので、使い魔は少し逃げ腰だった。

「私は魔術師。微妙に得意なのは召喚術……。このそれなりの大きさのバックから、傘を召喚しましょう!」

 魔術師はそれなりの大きさのバックから、新品の傘を一本召喚した。

「もう一本召喚できる?」

「残念ながら、今はこの一本しか召喚できない。なぜなら、君と相合傘あいあいがさをしたいから!」

 大き目の傘を広げると、使い魔が濡れないように意識しながら、外への一歩を踏み出した。

「あなたも濡れないようにね」

「気を付けよう! さて、今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして!」

 二人は肩を寄せ合いながら相合傘で屋敷へ帰って行った。そして、お座敷で座りながら落ち着いて少し話をしてから、それぞれ帰った。

 という感じに今回を終わりにしよう。

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