月明かりが欲しい
三十日月なのか新月なのか、空に月の姿が見えない。月のない夜の空には星たちが煌めいている。多くの星々が煌めいているけれど、そこに星座の名前は浮かんでこない。
古より星の並びに物語を紡ぎ、ソコに存在を与えられたモノたちの名を知らない。勉強不足……。しかし、そこに星があれば愛でることは出来る。そして、そこに新たな物語を紡ぎ、ナニモノかを召喚することも可能かもしれない……。けれど、それは別の話……。
月の姿が無いため、闇に染まっているお座敷に人の気配が一つある。開いた窓から入る風はやや生ぬるい。
「月が無い。これでは……。参ったな……ぬぅ~」
闇の中に声が聞こえる。
「さすがにこの暗さでは……」
声の主は、闇夜の暗さを確認しながら困っていた。
「ランタンの明かりや、蝋燭の明かりがあれば問題は無い。問題は無いけど、月明かりで見たいのだよ」
独り言を並べる声の主は、明かりの種類にこだわりがあることをアピールする。
「どうしたものか……うーーーーーむ」
唸り声を出しながら考え込み始めた。……息が続かなくなり唸り声が止むと、ふわりと何者かの気配が現れた。
ふわりと現れた気配は、お座敷の中が真っ暗なことに戸惑いを覚えつつ、暗闇の中のもう一つの気配の位置を探す。
「この暗さで私が見つけられるかな?」
魔術師のその声は使い魔に居場所を伝えてしまう。
「も、もちろん、ワザとさ!」
地の文を読んで、どことなく慌てた口調で台詞が並ぶ。
ふわりと現れた気配は、微笑むような雰囲気を漂わせる。
「……………………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
台詞の始めに少し長めの間を置いてから、魔術師は使い魔を呼び出す呪文を唱えた。
居場所はわかっても、魔術師の向いている先がどこの方向かわからない使い魔は、最初の間の部分で魔術師の側まで移動し、呪文の最初の区切りの所ですでに姿を現していた。
姿を現していてもお互い姿は見えていない。使い魔は手探りで魔術師の向いている方向を確認して背後に回り込んだ。
使い魔が姿を現すのに、呼び出す呪文の詠唱は必要ない。魔術師が呪文を唱えなくとも、使い魔は姿を現すことは出来る。
「暗闇の中で触られるのはドキドキするね」
台詞を並べながら、呪文の通りに少し遅れて振り向く。
「うん」
暗闇に少し不安を抱いている使い魔は、魔術師の背中に自分の体をくっ付けている。
「ふんわり良い匂い! 視覚が封じられているせいなのか、嗅覚が研ぎ澄まされている感がする!!」
「……」
お風呂上がりの使い魔は、匂いを近くで楽しまれても余裕だった。
「余裕か~!」
「……うん」
魔術師に匂いを楽しまれるのは余裕でも、暗闇の中はそれほど余裕ではない。
「とりあえず、明かりをつけよう」
明かりをつけに向かおうとした魔術師は、まず暗闇で不安を感じている使い魔の手を探した。探す振りをしながら暗闇を理由に変な所を触ることも無く、自分と使い魔のお互いの左手を繋げた。
「……変態じゃなくて、紳士っぽい」
「ただの変態ではないのだよ!」
「そうだね!」
暗闇の中で手を繋ぎ、紳士っぽい魔術師に守られていると感じた使い魔は、不安が和らいで、声にいつもの明るさが戻る。
「あれ? ランタンどこだっけ…………。おお、あった!」
ランタンの明かりが点き、お座敷の中の様子が浮かび上がる。その様子は、前回と特に変わりがない。
「いつものお座敷だね!」
暗闇から解放されても、手は繋いだままだった。
「おや? あの可愛らしいバックは?」
「着替えを一式持ってきたよ」
暗闇の中を手を繋いで移動する前にいた位置に、可愛らしいバックが転がっている。それは使い魔のもので、中には着替えが一式入っている。
「着替えが一式ということは、もちろん……服の下に装備するタイプのものも入っているのだね!!」
「入ってるよ」
紳士っぽいから、変態っぽい感じになった魔術師。その変化を使い魔は自然に受け入れた。二人の間にある魔力がそれを可能にする。
「……紳士っぽい人が急に変態っぽくなったら、やっぱり引かれるか……。……いや、普段の私は基本的には女性に対して紳士的を心がけている。……うん、心がけていると思う」
紳士的という意味を正確に理解していないことに気付いた魔術師は少しニュアンスを言い直した。
「わたしには変態っぽくなるんだ……」
やや責める感じの台詞を並べる使い魔だけれど、その顔にはどことなく優越感? のようなものが隠れている。
「ここで使うのはズルい気がするけど……。君が私にとって”特別”だから! ……ちなみに、変態っぽくではなく、変態になるのだよ!」
台詞の後半は勢いで台詞を並べていた。前半……というより、中間の台詞を口にして照れてしまったようだ。
「ふふっ、照れちゃうんだね!」
使い魔は嬉しそうに笑う。
「……さて、展開としては急だけど……前回言った通り、涼しい所へ行こう!」
「確かに、急だね。…………えっと、月が出てないけど大丈夫?」
使い魔は地の文章を含めた、今回の最初の方を読み直して台詞を並べる。
「大丈夫。良いか悪いかは別として手は思い浮かんだから」
「そう……なんだ」
「それでは、出発!」
魔術師は、大き目のダンボールから、それなりの大きさのバックを取り出してお座敷の玄関へ向かった。
「それはなに?」
「涼しい場所にいって、何かと必要なものが出てくると思うから」
「ふーん」
使い魔は可愛らしいバックを手に取り、窓を閉めつつ、いつの間にか窓辺に置かれていたランタンを持って魔術師の後に続く。
「外も暗いから、明かりは必要だね。持ってきてくれてありがとう!」
「外を歩く時も、ちゃんと手を繋いでね?」
「外じゃなくても、ここから手を繋いでしまおう!」
それなりの大きさのバックを肩にかけ直すと、右手にランタン、左手は使い魔と手を繋ぐ……という感じに歩き始めた。
「この世界でお屋敷の外に出るのって久しぶりだよね」
「うむ。えっと、外の世界へようこそ!」
二人は玄関から外へ出た。
「カギは掛ける?」
「一応掛けておこう」
玄関の戸締りをして、歩き始めた。
「そういえば、涼しい所……場所? ってどこ?」
「えーと、とりあえず着いてからのお楽しみで」
台詞を並べつつ魔術師は、少し離れた所にある井戸へ視線を向けていた。
「井戸がどうかしたの?」
「いや、なんでもない」
魔術師は、使い魔の手を軽く引きながら歩調を合わせて歩く。
「着替えは必要かな? 結構涼しいから汗もあまり出ないよ?」
左手に持つ可愛らしいバックを見ながら言う。
「それの出番は次回かな」
「次回……」
使い魔は、着替えをするというストーリー展開の予定から、魔術師に下着姿を見られることを予想していた。その為、今、身に付けているものも、着替える用のものも、特にお気に入りのものを選んでいた。
「興味深いですな! ……そういえば、現実の私はホラーっぽい本を意外とよく読む……という話は以前にあったよね?」
「うん。そうらしいね」
「そういうお話の前置きで、夏なのに肌寒い……なんて描写も意外とあるんだよ」
魔術師が何を言いたいのか使い魔は考える。
「……わたしたちが向っているのって、そういう場所? 幽霊が出るの?」
使い魔の足取りが重くなる。
「……ふっふっふ!」
「そうなの?」
魔術師の妙な笑い声に使い魔は微妙に混乱する。
「いや、幽霊は出ないよ。……たぶん」
「たぶんって……」
「大丈夫! この世界で幽霊が出て来ても、私はたぶん戦えるから!」
「”たぶん”が多いね!」
「まぁ、たまたま”たぶん”が並んだだけさ! ――――」
二人は”たぶん”について話しながら進んでいく。そのまま、それなりの時間進んでいくと、あたりの空気がヒンヤリしていることに気付く。
「涼しい……」
「どうやら、目的地の側まで来たようだ。では、ここで今回を終わりにしよう。続きは次回ということで!!」
「次は月の光が出てそうだね」
「そういうことさ! 今回の文字数も3000は超えているし。……今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして!」
「さて、では次回はこの続きからということで……」
「うん」
使い魔は頷きながら返事をした。
という感じに今回を終わりにしよう。




