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切っ掛け

 空には星がまたたいている。

 黒い空に輝く星に紛れて月があり、その姿は有明月ありあけづき……月が姿を隠す新月が近い。

 季節は夏になり、しばらくの時が過ぎた。

 やや気温の低いこの夜に吹く風は涼しい。涼しい風はお座敷の窓から入り、そこにいる人影たちを撫でた。

「あの三日月っぽい月は、有明月か。三日月より見える姿が多いようだね」

 人影の一つが月を見ながら台詞を並べる。

「あれが有明月なんだ。三日月みたい」

 もう一つの人影が同じように月を見ながら言う。

「やっぱりそうだよね。恐らく私は過去何度も、あの姿を三日月と思っただろう」

「細い感じの月は大体、三日月だと思っちゃうね!」

「うむ。……危うく、あの月を見ながら……”ほら、三日月だね……”という感じに君を口説く可能性があった。しかし、実際に月の姿の名前を間違えたとして、君を口説く成功率に変化はあるのだろうか……いや、三日月と言わなければ……。綺麗な形の月だね、君と……」

「……」

 魔術師の台詞が独り言っぽくなって来たので、使い魔は静かに聞くことにした。

「おっと、危ない。考えが台詞に漏れていたか……」

「続けてくれてもいいよ?」

 使い魔は魔術師が自分をどう口説くつもりなのか興味があるので、先が気になっていたりする。

「うぅ、急に恥ずかしくなって来た!?」

 一度、使い魔の方へ視線を向けてから、すぐに窓の外の月へ視線を戻した。

「わたしと?」

 使い魔は”君と……”の後が気になっている。

「引かれたり、微妙……と思うだろうけど。……君と一緒に月を眺めても、意識は君につい向いてしまう。私にとって、月より君の方が魅力的だから……。……なんていうパターンもあったり」

 魔術師は自分を見る使い魔の目を見つめながら、口説き文句の一つを並べた。

「……」

 お行儀悪くテーブルに座っている二人。左側に座っている使い魔は腰を少し上げ、魔術師との距離を縮めて座り直して肩と肩をくっ付ける。

「おや? 口説きが成功したのか!」

「とりあえず、あなたがどう思っているかは伝わって来たから……。わ、わたしたちの間にある魔力のおかげだからね!」

「そうか。言葉に良い感じに魔力がこもったということか!」

「そうだね。……他の人に同じことを言っても効かないと思うよ?」

 使い魔はそれほど意識してはいないけれど、魔術師が自分以外の女を口説かないように言葉で縛る台詞を言う。

「そうかな。……そうかもね」

「……」

 使い魔は地の文を読んで、束縛する女と思われて嫌われたかもと思い、不安を抱いている。

「隙だらけですな」

 肩が触れ合う距離にいる使い魔の左肩に左手を伸ばす。そして、その左肩に手を乗せると、自分の方へ抱き寄せる。

「……」

 抱き寄せられた使い魔は、魔術師の左肩に頭を預けた。

「嫌いになっていたとしたら、こんなことはしないよ」

「……うん」

 使い魔は安心したような笑みを浮かべながら台詞を短く並べる。

「不安そうな表情もいいけど、やっぱり笑顔の方が好きだな」

「……夏だけど夜だし風も涼しいから、もうちょっとこうしていてもいい?」

「もちろん! 涼しい風に運ばれる君の淡くて良い匂いが、私をリラックスさせてくれる」

 魔術師はそんな台詞を並べると大きく鼻から息を吸い込んだ。

「お風呂入って来たばかりだけど、匂いを意識されるとちょっと恥ずかしいよ」

「おっと、私としたことが匂いの楽しみ方が少しお下品だったか……。まぁ、変態なので仕方ない。……普通に空気を吸うように楽しむとしよう」

 自然に息をしながら使い魔の匂いを意識する。

「わたしの匂いというか、シャンプーとかの匂いだからね?」

「それも含めて君の匂いなのさ!」

 涼しい風が窓から入り、使い魔の前髪を優しく揺らした。

「良い風だね」

「うん。……このお話を最初に始めた頃は、君とこんな感じになるとは思ってなかった。……こんな感じの台詞は以前にも並べたことがあった気がするな……」

「切っ掛けはなんだったのかな?」

「自然と……かな?」

「ふーん。それもあるかもね! わたしは……わたしにとっての切っ掛けは…………」

 使い魔は台詞の途中で口籠くちごもった。それは、魔術師がその切っ掛けを覚えているかが気になってしまったから。

「いやぁ~、さすがに覚えてないかも」

「……あなたが、わたしのことを特別って言ってくれたから」

 魔術師は目を閉じて思い出してから台詞を並べる。

「いつだったかは思い出せないけど、確かに言ったことがある」

「今もそうかな?」

 使い魔は、ほぼ答えのわかっていることを聞く。

「えーと、……言わなくてもわかるだろ! ……と、言ってみる」

 棒読みで台詞を並べる。

「……」

「……もちろん。今も君は私にとって特別だよ。そして、これからもね!」

「うん」

 使い魔は自分の目が潤むのを感じた。それは、自分が意識している以上に嬉しく感じているのだと、使い魔は実感した。

「おや? 少し月が……」

「細くなった気がするね」

「どうやら、現実の時間が少し過ぎたようだ。……少し暑くなったかな?」

「……離れた方がいい?」

「私は大丈夫。むしろ離したくない! ……次回は外に出て涼しい所に行ってみようか?」

「涼しい所?」

 魔術師の肩に預けていた頭を起こしながら聞く。

「ここから少し距離があるし、辿り着くまでに汗が出そうだけどね」

「着替えを用意した方が良い?」

「……うん。着替えは一式、用意しよう」

 涼しい所……というのが、どいう場所なのか具体的に魔術師が言っていないことを意識しつつも、使い魔は持って行く着替えをどんなのにしようか頭の中が忙しくなっていた。

「まぁ、涼しい所だよ。長居すると寒いかもしれないけどね」

「厚手の服の方が良い?」

「帰り道はまた暑いだろうから、この季節に合ったので良いと思うよ」

「それもそうだね」

「ところで、行きはそのワンピース?」

「そのつもりだけど……ダメ?」

 使い魔の答えに、魔術師は何かを考える感じに妄想している。

「……良いと思うよ。ビショビショに濡れても怒らなければ……」

「怒らないよ。洗えば大丈夫だし……。それに、わたしはすごい汗っかきってわけじゃないよ?」

「現実の私の描写能力が低いせいかもしれないけど、春も夏も秋も冬も長袖ワンピースの君は、暑さに強そうだ」

「……暑いのは苦手です。というか、あなたこそ夏でも長袖じゃない!」

 使い魔は魔術師の服装の一部を描写した。

「長袖の方が落ち着くっていうのもあるけど……。その切っ掛けは、小学生の頃、日焼けした腕を見て、外側が焼けてるのに、内側は白いまま……。それがちょっと嫌だったからかもしれない」

「そうなんだ。……それから日焼けはしない感じ?」

「日々の生活の中で日焼けしたな~と、思う時はあるよ。……まあ、この世界は毎回夜だけどね!」

「そうだったね!」

「とりあえず、長袖の方が防御力が高いし、どうしても暑ければ腕まくりも可能!」

「防御力?」

「転んだ時なんかに腕をすりむかなくて済む」

「気温が少し上がったけど、まだこうしていても大丈夫だよね?」

「私は大丈夫だけど、君は大丈夫? ダメそうなら離れるけど」

「わたしも平気!」

「そうか。……唐突ではあるけれど、そろそろ今回を終わりにしよう。文章並べを手伝ってくれてありがとうね!」

「どういたしまして! ……えっと、次回は、着替えを一式持ってくるだよね」

「うん、そうだよ。忘れ物をしないようにね」

「はい!」

「では、もう少し君との触れ合いを楽しんでから帰るとしよう」

「触れ合い……変なところ触っちゃダメだからね!」

「変な所に偶然触れてしまうかもしれないけど、気を付けるよ!」

 この後しばらく空を見ながら話をして二人は帰って行った。

 という感じに今回を終わりにしよう

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