星の目立つ空
月がほとんど隠れてしまった空には、星が目立っている。
暗い夜の景色に風が静かに吹き、木の葉を揺らす音が響く。
夜の風景に明かりが揺れている。その明かりの正体は炎だった。小さな炎ではあるけれど、暗い夜の中ではよく目立つ。
窓辺に置かれた大き目のコップに入った蝋燭は、静かに吹く風で揺れていた。
「風吹いてるけど大丈夫だよね?」
風で揺れる蝋燭の炎を見ながら使い魔は不安そうに尋ねる。
「これくらいの風なら大丈夫……だと思う。炎は消えるかもしれないけど、コップは落ちない!」
魔術師は体に感じる風の強さを確認しながら台詞を並べた。
「大き目のコップだし、それなりに重さもあるから大丈夫だよね。火は消えても、また点ければいいよね!」
「うむ。……さて、このフカフカの絨毯を転がしながら丸める作業を始めよう」
窓辺に立つ二人は足元を見る。
「絨毯片付けちゃんだ……」
使い魔はフカフカの絨毯の感触を思い出しながら残念そうに言う。
「これから暑くなるからね……暑い時期が過ぎたらまた敷こう……。じゃない、召喚しよう!」
魔術師は、魔術師っぽい言い回しで言い直した。
「そういえば、今回は少し暑い感じがする」
「風があるし夜だから、それなりには涼しいけど、以前ほどの涼しさはないね」
「……そうだね」
隣で足元を見てる魔術師の方へ顔を向けて相槌を打つ。
「ん?」
自分に向けられる視線に”何かが込められている気がした”魔術師は、使い魔の顔を見た。
「……」
視線が合い、使い魔は一度、瞬きをしてから正面の窓の外へ顔を向けた。
「今回は星がよく見えますな~!」
魔術師も窓の外へ顔を向け、台詞を並べる。
「うん」
正面に顔を向けた使い魔は、星を見ているわけでは無かったけれど、頷いてから顔を少し上に向けた。
「う~む、なぜだろう。隙だらけにみえるのに、私の方へ意識が向けられている気がする」
「そう? 星が綺麗だよ」
「ほ、星空を見る君の横顔も綺麗だよ! ……なんて…………」
魔術師は思ったことを照れ臭そうに台詞を並べた。並べ終えたあとに、警戒している感じではないんだよな……と、小さな声で言っていた。
「……星空の方が綺麗だよ」
使い魔は顔を下に向けて窓辺の蝋燭の炎へ視線を落とした。その動作で髪が揺れ、その匂いが辺りにふんわり広がる。
「あ、あわわ! もっと近くで君の匂いを楽しみたい衝動が……」
「……でも、涼しくないよ?」
「…………暑いけど我慢してくれたまえ!」
魔術師は使い魔の台詞から、先ほどの”何かが込められている気がした視線”に、なんとなくの答えを見つけ、それを踏まえて台詞を並べた。そして、使い魔の背後に移動し、その両肩に自分の両手をそれぞれ優しく乗せる。
「ふぅう!」
使い魔は少しくすぐったかったのか、妙な声を出した。その声には嬉しそうな色が浮かんでいる。使い魔が先ほど魔術師に向けた視線……”何かが込められている気がした視線”には、暑くなったら、抱き締めてくれないよね……。という意味が含まれていた。
「変態な私は暑さに負けはしない! ……暑いのは苦手だけど。……君が許してくれるなら、暑くてもたくさん触れ合いたい!」
地の文を読んで魔術師は本音を零す。
「あなたは変態だものね。その時は、わたしも暑さを我慢するね!」
使い魔は魔術師の台詞に答えた。
「お許しを頂いたぞ!! ……一応、私は魔術師です!」
喜びの声を上げ、次に自分が変態である前に魔術師であることを主張した。
「うん。あなたは魔術師だよね」
使い魔は少し甘えるように体を後ろに倒す。すると、後ろで両肩にそれぞれ両手を置いている魔術師との接する面積が増えた。
「素晴らしい!! ……しかし、今回は絨毯をお座敷の隅まで転がしながら丸めねばならんのだ」
「そうだったね!」
明るく台詞を並べると、軽やかな動きで魔術師の両手から逃れて、玄関側の窓から近い角へ移動する。
「う、うむ。では、始めよう……」
魔術師は両手に残る、使い魔の感触を大事に記憶にしまってから、窓側のもう一つの絨毯の角へ移動した。
「あ……立てかけてあるテーブルはどうしよう?」
使い魔は正面にあるテーブルを見ながら言う。
「途中まで丸めたら、私が移動させるから大丈夫。……長方形の長い辺から丸めるから、長めの筒が出来ますな!」
魔術師は台詞を並べると、自分のいる角から絨毯を捲り上げて行く。
「えと、あっと」
自分の足元の絨毯が捲り上げられて来たので、使い魔は少し慌てて動いた。
「さあ、君も畳の上に移動したまえぇ~」
魔術師は、使い魔が移動するのを待ってから、絨毯の一辺を完全に捲った。
「わたしも最初から、あなたの方にいればよかった」
「君の慌てた感じの動き、可愛かった」
「意地悪!」
怒った振りをしながら台詞を並べる。
「では、丸めて行きましょう!」
辺が長いせいか少し丸め難そうに作業を進める。
「丸め終わったら衝立を動かして部屋の方に出すの?」
ストーブを片付けた時のことを思い出して聞く。
「お座敷の端に丸めて置いておくだけにしよう。使うかどうかわからないけど、枕にも使えそうだし」
「枕……」
使い魔はなんとなく魔術師の方へ顔を向ける。しかし、魔術師はほぼ同時に移動してた。テーブルを移動させに動く姿を使い魔の視線は追う。
「よいしょ」
魔術師は軽い掛け声を出して、テーブルを少し持ち上げた。
「あ、わたしも手伝う」
一瞬遅れて使い魔は立ち上がり、魔術師を手伝う。
「一人でも大丈夫だけど。助かるよ」
「うん」
二人は協力してテーブルをお座敷の角の一つ、片付けたストーブが置いてあった所へ移動させた。
「……わかっている。最初からここに移動させとけばよかった」
「何も言ってないよ?」
「うむ。……では、絨毯を転がしながら丸めて隅に置く……作戦を続けよう!」
「えっと、絨毯の上にはクッションとかも片付けられていて、今は何もないね!」
使い魔は状況を台詞にして描写した。地の文の仕事が奪われた!? ……まぁ、使い魔はただ気を使って台詞を並べただけだけど。
「では、仕上げと行きましょう!」
二人は絨毯転がしの仕上げに入った。そして、丸められた絨毯は上手く部屋の隅に配置された。
「枕になるかな。思ったより硬いよ?」
「確かに……。まぁ、次に召喚する時が楽だからオーケー!」
改めて絨毯をこの場所に置いておくことを宣言した。
「あとはテーブルを戻せば完了だね」
「テーブルを設置して、掃除は次にしよう」
魔術師はテーブルの方へ歩いて行く。
「テーブルを設置する前に掃除した方がよさそうだよ?」
「……よし! 素早くやろう!!」
大き目のダンボールから、ほうきとチリトリを召喚して畳の掃除を始める。
「どうして次にしようとしたの?」
掃除をしながら使い魔は魔術師に聞いた。
「テーブルを設置して、お行儀が悪いけど、テーブルに座って……早く君と星空が見たくてさ……」
「そうなんだ」
使い魔は、魔術師に背中を向けて掃除を続ける。魔術師の台詞の中の”君と星空が見たくてさ……”という部分で、顔に笑みが浮かんでしまったのを見られるのが恥ずかしくて。
「さて、掃除はこれくらいでいいだろう!」
掃除の終了を宣言する。
「あまり汚れてなかったね」
「うむ、だから早く綺麗になった」
掃除用具を片付けると、二人はテーブルを移動させて、ちょうどいい場所に設置した。
「何だか展開が早いね」
「現実の私が疲れて来ているのだろう」
「……えっと、テーブルに座るんだよね」
「そうですとも! お行儀悪いけどね! ……さぁ、お隣にどうぞ」
窓が前に見える位置に、先にテーブルに座った魔術師は、左隣へ使い魔に座るように勧める。
「失礼します」
少し躊躇う素振りを見せながら、魔術師の隣に座る。
「蝋燭の炎が無い方が星がよく見えるかな?」
魔術師は手を伸ばして窓辺に置かれている大き目のコップを手に取り、その中に灯る蝋燭の炎を吹き消した。そして、それをテーブルに置く。
「暗いね」
「月がほとんど隠れているからね。……月が隠れて星が目立っている」
「うん」
使い魔は星を見ながら、周りの暗さに少し不安を感じる。
「最初の方より、少し涼しさが増したね」
魔術師は使い魔との距離をさらに縮めて、左手を伸ばして使い魔の左肩を抱いた。
「……」
使い魔は何も言わずに、重心を魔術師の方へ少し傾ける。
「良い匂いだ。……おお、あった!」
暗闇の中、隣に座る使い魔の右手をを見つけて軽く握る。
「星……綺麗だね」
「うん。綺麗だ……。とはいえ、隣に君がいると星空より君の方へ意識が向いてしまう。……私にとっては星空より君の方が――――」
「わたしの方が?」
「魅力的……。さ、さて! 今回をそろそろ終わりにしよう!! ……今回も文章並べを手伝ってくれて、ありがとうね」
「うん……。わたしも楽しかったよ!」
使い魔は夜の闇の中、目を閉じて台詞を並べた。
その後、二人はしばらく星空を見てから帰って行った。
という感じに今回を終わりにしよう。




