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梅雨のある日

 空は雲に覆われている。その向こうに滲んで見える月は、半分ほどの姿を見せている。

 微かな風の吹く静かな時間が流れている。

 雲で滲む月の光は、屋敷の窓から入り、その窓の近くで寝転がる人影も照らしていた。

「曇りだ……この雲は雨を降らすのだろうか」

 テーブルの上に寝転がり、足を窓の方へ向けている人影はそんな台詞を並べた。

「前回は、頭を窓の方へ向けて仰向けで、見上げる感じで空を見たけど、向きが逆の方が外の景色が良く見える」

 窓は開いている。そこから涼しい空気が入り込む。屋敷の中のお座敷と呼ばれている空間は、やや肌寒い。

「文章を並べる力は、向上していると思う。と思いたい……」

 魔術師は、少し弱気な表情を作って台詞を並べた。

「一人の状況で弱気な表情を作るの、いつの間にか苦手になってしまった」

 そんな台詞を並べると、口元に笑みが浮かぶ。

「気分を深く沈めて……」

 リラックスした表情でゆっくりと目を閉じる。そして、気分をゆっくりと深く沈めようとした。しかし、少し沈んだところで、ふわりと現れた使い魔の気配に気づいて気分は浮上した。

「おぉ、沈んでる場合では無いな!」

 魔術師は起き上がり、テーブルから降りる。そして、お座敷の奥の絨毯が敷かれていない畳の辺りへ移動し、絨毯と畳の境目で、衝立ついたてに向かって立つ。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 魔術師が振り向くと、そこには使い魔が微笑みながら立っていた。

「こんばんは。えっと、なにか邪魔しちゃったかな?」

 自分が来る前の文章を読んで、来るタイミングが悪かったと思った使い魔は、魔術師に尋ねる。

「なんとなく深く沈んで思いを巡らせてみようとしただけ。……たまにはやってみようかなって思って」

「……そういう気分だったんだ」

「うむ。梅雨の25は、自然と……あるいは強制的に数字が1足されるのでね。なんとなく、そんな気分さんだったのだよ」

「先にそれを教えていてくれたら……何か用意したのに」

 使い魔は目を伏せて台詞を並べる。

「ところで、どうして私はここに移動したんだろうね?」

「……どうしてかな?」

 使い魔は、魔術師の台詞の意味を探る為に視線を左右にゆっくり動かし、そして元の正面に向けた。しかし、そこには魔術師の姿が無かった。

「隙あり!」

 素早い正確な動きで魔術師は動く。

「ん? わっ!」

 驚いて声を出した使い魔の両足は、絨毯から浮き上がった。

「君をこうして抱き上げて、少し歩いてみたかったからだよ!」

 魔術師は使い魔をお姫様抱っこしながら、テーブルから降りてここまで移動した訳を答えた。

「罠に掛かっちゃった! のかな?」

 使い魔は魔術師の首に両腕を回して抱き付きながら尋ねる。

「ある意味そうかもね! 妄想でイメージトレーニングしたおかげか、スマートに出来た!!」

 魔術師は答えながら、テーブルの近くをわざわざ大回りして歩く。

「大丈夫?」

 使い魔は自分の体重を気にして尋ねる。

「楽勝ですよ! 雨の心配が無かったら、このまま出かけたいくらいだ! ……まぁ、今回は出かけないけどね」

「出かける時は、わたしもちゃんと歩くね」

「そうか……。まぁ、その時は手を繋いで、はぐれない様に気を付けよう!」

 魔術師は使い魔のお尻を静かにテーブルに乗せると、使い魔をお姫様抱っこから解放した。

「もし、はぐれちゃったら探してくれる?」

「もちろん!」

「ぅふ! ……何か欲しいものある?」

 なんとなく、何かに満たされた使い魔は、自然とそんな台詞が出た。

「そうだな~」

 魔術師は周りを見回して毛布を探す。そして見つけると、それを取りに向かった。

「……」

 無言の使い魔は、意識の片隅で思い出していた。梅雨時の暑さで汗をかいたので、ここに来る前に、いつもより念入りに体を洗ったことを。それは、魔術師の欲しいものを予測して思い出されていた。

「月夜の、このお座敷は少し肌寒い。毛布があると良い感じかな」

 テーブルに毛布を乗せると、自分もテーブルに上がる。

「何も掛けないとちょっと寒い感じだね」

「という訳で、毛布を掛けよう。とりあえず、足は窓の方へ向けて……」

 二人は窓の方へ足を向けて座り、一枚の毛布を二人で掛けた。

「毛布を足に掛けるだけで、だいぶ違うね」

「うむ……。うー、偶然スカートの中が見えてしまう展開にならなった……」

 魔術師は、さりげなく変態な台詞を並べながら仰向けで寝転がった。

「前回と同じだよ。……同じだけどちゃんと洗ってあるからね! ここに来る前に履き替えて来……」

 使い魔は、数字が1足されたばかりの魔術師に対して甘くなっている。しかし、恥ずかしいことは恥ずかしい。

「水色の水玉模様か……いいね!!」

「……台詞にされると恥ずかしい」

「そうか。では、思い浮かべるとしよう」

「あぅぅ……」

 自分の記憶と、魔術師の思い浮かべているそれが重なり、使い魔は恥ずかしさから変な声を漏らした。

「……今に限らず、私は君の妄想をする。それを許してくれるかな?」

「それは、わたしのことを想ってくれているってこと?」

「そうともいう」

「それなら……。……でも、あんまりエッチなのはダメだよ」

「少しならオーケーということで。……曖昧あいまいだけど、妄想する許しを頂いた!」

 魔術師はさりげなく欲しいものを頂いた。

「でも、許しが無くても妄想するよね?」

「うん」

 使い魔の台詞に魔術師は素直に頷いた。

「普段はどんな妄想してるの?」

 魔術師の隣に仰向けに寝転んで尋ねる。

「それはその……」

 改めて問われると、魔術師は答えを言いよどませる。

「……………………」

 使い魔は沈黙を長く使い、答えるまで待つ意志を表現する。

「ロマンチックな感じに、君を口説くシチュエーションを思い描いたり。……まぁ、色々さ! ……いや、エロエロさ!」

 魔術師は、自分の妄想を気持ち悪がられるのを恐れつつ台詞に並べた。最後の方は相変わらずの癖。

「あなたの妄想の中で、わたしは色々と口説かれてるんだ……」

 使い魔は、内心を地の文にも文章で並べられないように隠して台詞を並べた。

「何だか怖いな。君に気持ち悪がられたら、辛い」

「腕枕が欲しい」

「お、おう。……私の腕で良ければ」

「あなたのがいいな」

 使い魔は上半身を起こしながら、台詞を並べて足元の毛布の端を掴む。その間に、魔術師は腕の枕を用意した。

「どうぞ」

「ありがとう」

 使い魔は再び仰向けに倒れつつ、毛布を引っ張り、魔術師と一緒に一枚の毛布に隠れる。

「気持ち悪がられたかもしれないけど、嫌われてはいない様で安心した」

「あなたと、わたしの間にある魔力は満ちてるよね」

ちていると信じている!」

「満ち満ちてるね!」

 使い魔は仰向けから横向きに姿勢を変えて、魔術師の右半身に覆いかぶさる感じになる。

「おぉっと! これは以前にもあった状態だ! お胸が当たっています!」

「そういうことは、台詞にしなくていいと思う」

「……文章並べの練習なので、あえてさ!」

「そっか。……ねぇ、耳を貸して。……耳もちょっと貸してほしいな」

「小さい声でも、文章が並べばわかるよ?」

「おねがい……」

 使い魔のお願いに、魔術師は耳を貸した。

「…きだよ」

 声を魔術師の耳に届けつつ、文章は微妙に隠すテクニックを使い魔は使用した。

「私もだ。……えっと、ミートゥ!」

「ふふ!」

 魔術師の耳元から少し顔をずらして、使い魔は魔術師の右頬へキスをした。

「先ほどのお許しと、キス……。ありがとう! 耳元でささやかれた言葉も嬉しかったよ!」

「今のキスは……特別だからね。忘れちゃダメだよ」

「うむ。……キスと鏡をキーワードに、耳元で囁かれた言葉も忘れない!!」

 毛布の中で魔術師は、左手を使い魔の背中に回す。

「ふぅぅん。……少し眠いかも」

「この間もそんな展開だったかな」

「そうだね」

「今回も君は良い匂いだ~!」

 鼻から大きく息を吸い込んでそんな台詞を並べる。

「……」

 使い魔は沈黙のまま、穏やかな息遣いをしている。

「おや、眠ってしまったのかな? ……それにしても、やはり、君と一緒にいると寂しさに対する魔法陣的なモノが弱まる。……北風と太陽という感じだな。完璧ではなかったか……」

 自分の力の一つ、その弱点を意識した。

「……」

 使い魔は静かにしている。

「この力を得るにはかなり苦労した。でも、君といれば必要ない……不思議な感じだ。でも、それがとてもいい感じだよ」

 魔術師がそんな台詞を並べ終わると、雲の隙間から月が顔を出した。

「おや、どうやら現実での時間が一日くらい過ぎたかな。……次の1が足されるまでのとき

が始まっている」

 月を意識していると、風が窓から入り込んで来た。その風は、使い魔の前髪を揺らす。

「ぅん……」

 使い魔は心地良さそうな声を出した。

「どうかな? 口説きを意識して並べた台詞もあったけど?」

「口説かれちゃったんだね」

 静かにしていた使い魔は言葉を並べた。

「わー、眠っていると思って、照れ恥ずかしいことを喋ってしまった~!」

 魔術師は少し棒読み気味に台詞を並べた。棒読み気味の理由は、最初から使い魔が眠っていないことに気付いていたから。

「地の文さんも、わたしが眠っているっていう描写はしてないものね!」

「うむ」

 頷きながら、使い魔の頭に顔を近づけて髪の匂いを楽しむ。

「そういえば、梅雨の25は過ぎちゃったんだね」

「現実の時は過ぎ行くのだよ。さて、今回の文章並べをそろそろ終わりにしよう」

「うん」

「今回も手伝ってくれてありがとうね!」

「どういたしまして! ……過ぎちゃったけど、おめでとう」

「おぉぅ。ありがとう!」

 今は枕の役割を果たしている右手のひじを曲げて、魔術師は使い魔の頭を撫でながらお礼を言った。

「もう少し、このままでいたいな」

「君のお胸の柔らかさに意識を向けてもいいなら、もう少しこのままで……」

「変態さんだね」

 今の状態の主導権は主に使い魔にある。その使い魔は、この状態を続けることを選んだ。

「君が側にいると幸せだな」

「ふふっ!」

 使い魔は笑顔を魔術師に向けた。それにつられて魔術師も笑顔になる。

 その後、しばらくの間二人は話をしながら過ごし、帰って行った。

 という感じに今回を終わりにしよう。……いつの間にか、月の前に再び雲が集まった。

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