梅雨空と水色
新月の時を過ぎ、月はその姿を少し見せている。しかし、それは雨雲の向こう。月の光は雨雲を通して地上に雨と共に降りている。
薄暗い闇夜の中に明かりが見える。それは淡く揺れていた。
屋敷の一つの窓が開いていて、そこには一つの人影があった。その人影は、窓枠に背中を預けた格好で座っている。
「この窓は横にスライドするタイプだったか、開け放つ感じだったか……。開け放つタイプだな」
人影は、窓の描写を簡単に台詞にした。……下の窓枠の中央には、大き目のコップに入った蝋燭が置いてある。
窓枠に背中を預けている格好なので、体は屋敷の中……お座敷に向いている。
「外は雨だ。月の光で雨粒が光って見えたりもする」
首を曲げて外へ顔を向けながら外の様子を描写する。状況描写は、主に地の文の仕事……のはず。
「まぁ、台詞にしたい状況描写もあるという感じで……」
梅雨の時期、心境も湿っているのか、声色に湿り気が感じられる。
魔術師が雨を眺めていると、使い魔の気配が現れた。その気配は、魔術師が窓枠に背を預けていることを気になるようだけど、それとは別に、魔術師が座っている場所も気になっている。
「高さも丁度良くて、良い感じに外が見えるよ。お行儀は悪いかもしれないけど……」
魔術師はそういうと、体を窓の方へ向けた。しかし、背後にある気配には戸惑いがある。
「戸惑い? ……あぁ、このテーブルの脚は丈夫に出来ているから大丈夫だよ。君と私が乗っても問題無い」
魔術師の背後にある気配が静かに座る雰囲気を漂わせた。
「では……。…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」
魔術師は使い魔を呼び出す呪文を唱えると、再び窓枠に背を預ける形で振り返った。
「こんばんは」
「こんばんは。……」
二人は挨拶を交し合った。そして、魔術師は使い魔を見つめてから再び首を曲げて外を見る。
「どうかしたの?」
使い魔は、見つめられた意味を混ぜながら魔術師の心境を尋ねた。
「あの頃のどこかに、ただ雨を見ていた時間があったな……と思いながら、雨を見て楽しんでるだけだよ」
「梅雨だね。でも、ジメジメというか、ちょっと肌寒い」
「おっと、悪い。窓は閉めよう」
「あっ、大丈夫だよ」
窓枠の蝋燭の入った大き目のコップへ手を伸ばす魔術師に、使い魔は声を掛けた。
「無理はよくないよ?」
「うん。でも、わたしも雨が見たい」
「そうか。とりあえず、薄手の毛布を持って来よう」
魔術師は窓辺に置かれているテーブルから降りると、薄手の毛布を取りに行った。
「ありがとう」
使い魔は魔術師の背中にお礼を言うと、魔術師が背中を預けていた窓枠の反対側……窓から外を見る立ち位置で左側にある窓枠に背中を預けて座る。
「お! ワンピースのスカートの中に水玉模様が一瞬映った」
使い魔が窓枠に背中を預けて座り、足の位置が決まる前の瞬間を、魔術師は偶然? 振り返ってその一瞬を捉えた。
「今回も変態だね」
「偶然ですよ偶然! 地の文の偶然に?(はてな) が付いているのは私への意地悪だろう!」
「……そうなんだ」
「うむ。……とりあえず、よいしょ!」
魔術師は薄手の毛布を手に、テーブルへ上がる。そして、両足の膝を同じ方へ曲げて座る使い魔の足に掛けた。
「上は、あなたに貰ったカーディガンを着てるから大丈夫!」
笑顔で台詞を並べる使い魔を見て、魔術師もつられて笑顔になる。
「君と一緒に雨を眺めるのも良い感じだ!」
「うん」
魔術師も先ほどと同じように、窓枠に背を預けて座る。そして、視線の先は使い魔ではなく外へ向かう。
「う~む」
「雨はまだ降るのかな」
「どうだろうね。梅雨は雨が多い……ぅん~」
「何か気になることでもあるの?」
「……水玉模様はわかったけど何色だったかは微妙にわからなかった」
窓の外から使い魔へ視線を向けると真面目な顔をして答える。
「ぇ?」
真面目な魔術師の顔を見ながら聞き違いじゃないかと、台詞を読み直す。
「蝋燭の光ではよくは見えなかった。……恐らく青系かな?」
「み、水色かもね」
魔術師が真面目な顔で考え込んでいる感じなので、使い魔はつい答えてしまった。
「なるほど。カラーになった記憶を更に大切に保管しよう」
「……恥ずかしいから、ちょっとあなたを叩いても良いかな?」
「記憶を無くさない程度なら……」
魔術師は反省を込めて頭を差し出した。
「……」
使い魔は魔術師の頭を叩いた。その叩き方は軽くドアをノックする感じに三回。本当はもう少し続けたかったけれど、やりすぎて嫌われるのを恐れて止めた。
「甘いですな! 一応、本気で記憶を消される覚悟をしていたのに」
「お望みなら頑張るよ?」
「……遠慮しておこう。君の手に乱暴は似合わない。……でも、もし水色の水玉模様が記憶から消えたら、探す手助けをお願いしよう!」
「……雨音が止んだね」
魔術師の台詞を聞きながら読む。しかし、それはスルーして、話題を変える。
「でも、まだ空には雨雲がある。まだ降りそうだ」
使い魔の作る話の流れにのり、台詞を並べる。
「少し風が出て来たよ」
「涼しい風だ。窓に備え付けてあるカーテンを纏うのもいいかも」
カーテンを一度見てから、自分の足に掛けられている薄手の毛布へ視線を向けた。
「一緒に掛ける?」
薄手の毛布を軽く持ち上げて尋ねる。
「いいのかい? 変態な私は、君の匂いを楽しんでしまうかもしれないよ?」
「お風呂入って来たもん」
「楽しみだのう!」
魔術師は目を閉じて何かを考えながら嬉しそうな声で言う。
「エッチなこと考えてるの?」
「否定は出来ないが、私は変態であると同時にロマンチストでもあるのだよ」
使い魔は魔術師の台詞を読み直し、”ロマンチスト”という単語へ意識を向けた。その隙をついた……訳ではないけれど、その間に魔術師は大き目のコップに入った蝋燭の火を消した。そして、使い魔に近づく。
「わわ! えぇ!?」
驚いた声を出す使い魔は、雨雲を通り抜けて降り注ぐ淡い月の光の中で、座った状態の魔術師にお姫様抱っこされていた。
「そんなに首に抱き付かれると照れる」
「あ、ごめん」
驚いてとっさに魔術師の首にしがみつく感じに抱き付いていた使い魔は、謝る。
「私こそ、驚かせてしまって、すまない」
魔術師も謝る。そして、使い魔をお姫様抱っこしたままテーブルの上を滑るようにゆっくり移動する。
「どうするの?」
「うむ、テーブルの向きを変えようと思ってね」
テーブルの端まで移動すると、魔術師は自分の足を絨毯へ下ろして立ち上がる。使い魔をお姫様抱っこしたまま。
「そのまま下ろしてくれてよかったのに」
「ふっ、君に私の腕力を見てもらいたかったのさ!」
魔術師は、えっと……たわけた台詞を並べると、左ひざを絨毯について使い魔の足を下ろしてあげた。
「ありがとう。……たわけたってどういう意味だろ?」
魔術師の台詞から”たわけ”の意味を推理する使い魔。
「この場合の”たわけ”の意味は――――」魔術師は、片膝をついた格好で、使い魔の左手を自分の左手に乗せ、さらにその上に自分の右手を重ねると、優しく握る。「愚か者という意味かな」
「そうなんだ……でも、あなたは別に愚かなこと言ってないと思う」
平静を装いながら台詞を並べる使い魔は、片膝をついて、かしづきながら自分の手を取る魔術師にドキリとしていた。
「もったいないお言葉であります。……なんてね!」
魔術師は立ち上がり、俯いている使い魔に台詞を並べる。
「……急に格好つけるからビックリしちゃった!」
「いや、自分でも照れるやら恥ずかしいやらで……。正直、勇気を使い果たした感じだ」
魔術師は勇気が切れていることに気付いて、動揺しながらゆっくり使い魔の左手を放す。
「ロマンチックな感じで嬉しかったよ。……って言ったら勇気は回復する?」
使い魔は、魔術師の癖を真似した。
「私の真似……。そうか、ありがとう。勇気が出て来た!」
「よかった」
魔術師は使い魔を抱き締めたい衝動に駆られたけれど、我慢した。ここで抱き締めたら、使い魔を抱き締め続けてしまいそうだったから。
「えっと、テーブルの向きを変えるの手伝ってくれるかな?」
「うん」
二人は協力してテーブルの向きを変える。
「この向きなら、窓に頭を向けて寝転がってもギリギリ足が出ないで済む」
魔術師はテーブルの向きを変えた意味を台詞にした。
「寝転がって薄手の毛布を一緒に掛けるんだね」
「現実の私が運動をして疲れているのか、楽な姿勢でいたい気がして」
「寝転がって外を眺める。……テーブルの高さと窓の高さからすると、仰向けで空を見る感じだね」
「うむ、では雨雲を一緒に見よう!」
二人はテーブルに乗ると、仰向けで寝転がり、薄手の毛布を一緒に掛ける。
「雨雲……。雨降ってきたら、風もあるし顔に雨がかかっちゃうね」
「その時は、窓を閉めよう。しかし、テーブルに寝転がるのはお行儀が悪い……のだろうね」
「ベットだと思えば……いいんじゃない?」
使い魔は、テーブルをベットと意識して、何かを妄想したらしい。
「何を妄想したのかな?」
「想像にお任せします」
「ふむ」
魔術師の頭に、水色の水玉模様が思い浮かんだ。
「……」
「君の妄想から遠くはないと思ってみたり……。さて、そろそろ、今回を終わりにしよう。現実の私は、この状況を描写したくて今回の文章並べを始めたところもあるし」
「そうだったんだ」
「うん。……今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして! 今回もあなたは変態だったけど、ロマンチックな感じもして楽しかったよ!」
「もう少しロマンチックな描写が出来たらよかったなぁ~」
「また今度、こんな感じに寝転がって月を見ようよ」
「それもいいね!」
雨雲を見ながら、二人はそのあと、もう少し話をしてから帰って行った。帰るきっかけは再び降り始めた小雨だった。
という感じに今回を終わりにしよう。




