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腕は枕になる

 雨雲の向こうににじんで見える月は丸い。雨雲にさえぎられているとはいえ、その光は、強く世界を照らしている。

 雨が降り出しそうな空の下、屋敷の窓の一つは開いていた。その窓からは月の光と共に、涼しい風が入り込んでいる。そこは屋敷の中でお座敷と呼ばれている空間。

 お座敷の中は、いつもと少し様子が違っていた。違っているのは、お座敷と部屋をへだてる衝立ついたてにテーブルが立てかけられていること。テーブルに装備されていたコタツ布団は外れている。

 お座敷のほぼ中央に置かれていたテーブルが、衝立の方へ移動して立てかけてある影響で、広々としていた。

「ストーブを片付けようと思ったけど、つい掃除をしたくなってね」

 お座敷の中は掃除されていた。しかし、ストーブは片付けられずにそのまま残っている。

「片付けてから掃除をした方が良いと思うけど、つい……」

 魔術師は広々としたお座敷の絨毯の上に寝転んだまま独り言をいう。

「雲……雨雲か。それ越しとはいえ、月が丸いからつい見惚れてしまった」

 雨雲越しに滲んで見える月を見ながら、色々と思いを巡らせている。

「月は一つ。違う場所から見る月は同じ月……」

 巡らせていた思いが少し口から零れた。そして、何気なく置かれていたクッションを手に取り、少し考えてから頭の下に置いた。しかし、胸の辺りが寂しい気がして、クッションを移動させようか少し迷いだす。

「どうしたものか……」

 クッションを頭の下に置いたまま、窓から見える雨雲越しの月を眺める。そのまま、しばらく月を見ていると、使い魔の気配が現れた。

 使い魔の気配は、魔術師の格好を気にしている感じを漂わせている。格好といっても服装ではなく、体勢。仰向けなので、そのまま呪文を唱えられた場合はどうしよう……と。

「ふむ、君を呼び出す……召喚する呪文の最後を変えるという手もあるけど……」

 魔術師は台詞を並べながら仰向けから横向きに姿勢を変える。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で影を見つけ振り向くと君はいた……」

 呪文を唱えて首を曲げる形で振り向くと、そこには使い魔がいた。

「わたしもクッション欲しい」

 横向きで寝転がる使い魔は、少し首の角度が辛い。

「つまり、枕ですな」

「うん」

「……しかし、このクッションは一人用だ。なので、君にはこの枕を使ってもらおうかな」

 魔術師は、背後の使い魔の位置をなんとなく確認しながら、体を左右に揺すりながら頭側の方へクッションごと少し移動した。

「起き上がるの面倒な感じなんだね。寝たまま取りに行くなんて……」

 使い魔は、魔術師が枕になるものを取りに移動した思っているけれど、魔術師の頭の先には、ストーブがあり、その他は大き目のダンボールしかなかった。立ち上がらなければダンボールの中身も取れない。

「地の文は謎々がしたいのかな」

「謎々……あ! ……えっと、ストーブを枕にするの?」

 魔術師の狙いに思い当たったけれど、とぼけて答える。

「さすがにストーブは、枕になりそうにないね」

 ストーブの代わりに枕になるものを、仰向けの格好で使い魔の頭の下へ入れた。

「……腕枕だったんだ」

 謎々の答えが、自分が思い当たった答えと同じだったことを。台詞に出して確認した。

「高さの調整は多少できるけど……調整は必要かな?」

「このままで……丁度いいよ」

「了解だ!」

「うん」

 少し熱い感じの雰囲気を、窓から入ってくる涼しい風がその熱を下げる。

「……そういえば、空の雲は雨雲……窓は閉めておこう。ちょっと、ごめんね」

 魔術師は静かに枕と化していた右腕を使い魔の頭の下から抜く。使い魔は大人しくその状況に従った。

「ちょっと肌寒いね」

 立ち上がって窓を閉めている魔術師に話しかける。

「そうだね。毛布……いや、あえて今回はコタツ布団を使おう!」

 窓を閉めたついでに、テーブルから外されていたコタツ布団を取りに向かった。

「あ、掃除手伝わなくて、ごめんね」

「この状況で君とイチャ……文章並べを楽しむための状況づくりも兼ねていたから大丈夫」

 使い魔は、魔術師が途中で並べるのを止めた台詞を見逃さなかった。

「あなたも謎々?」

「なんのことやら?」

 魔術師は惚けながらコタツ布団を使い魔に掛けて、自分もそこへ潜り込む。そして、自分の頭の下にはクッションを。使い魔の頭の下には自分の右腕を置いた。

「まだ夜は涼しいね」

「風邪を引かないように注意しないとね。特にお風呂上りは」

 使い魔は、ここへ来る前にお風呂に入る習慣がある。理由は、変態である魔術師が自分の匂いを嗅ぐ描写をよくするから。

「……湯冷めには気を付けないと」

 お風呂上がりの使い魔は、匂いの結界により精神面の防御力が上がっている。さらに、自分を気遣う魔術師の台詞で勇気が出た。

「おぉ、無防備な脇腹辺りに、お胸による幸せ攻撃だと!?」

 勇気が出た使い魔は、魔術師の無防備な右半身へ、横向きからうつ伏せのような感じに体勢を変えてくっ付く。

「大胆すぎたかな?」

 勇気を使いすぎたのか不安になる。

「少し驚いたけど、ナイスだ!」

 魔術師は腕枕にしている右腕の肘を曲げて、使い魔の頭を優しく抱く。

「……ふぅ~ん」

 嬉しかったらしく妙な鳴き声を出した。

「コタツ布団で目視もくしが出来ないのが少し残念だ。……幸せゾーンを想像してみよう!」

 魔術師は、感触から想像力を働かせて映像を脳裏に浮かび上がらせる。

「ちょっと恥ずかしいよ」

 そう言いながら、コタツ布団で隠れている足を、魔術師に遠慮がちに絡ませる。

「ほぅ、そんな手で我が想像を妨害するとは! そちらも想像せねば!!」

「やっぱり、微妙に変態っぽいね」

「変態ですから!」

 足同士の絡まりが落ち着くと、使い魔は自分の顔の前にある魔術師の胸の辺りに顔を埋めた。

「暖かい……」

「確かに、暑いというより暖かい。それにしても……いい感じに足が絡まって、足の疲れが取れる感じだ」

「マッサージしたらもっと取れるかな?」

 使い魔は、魔術師の足と自分の足をすり合わせてみる。

「血行がよくなるな~! 最近ふくらはぎがだるいことが多いから。とてもいい感じだ」

「ふふっ!」

 魔術師が喜んでいると感じた使い魔は、嬉しくなって続ける。しかし、素足の肌同士が触れるのを意識すると、動きが止まる。

「触れ合ってるだけでもいい感じだ。何気なく私の胸に置かれている君の右手も捕まえてしまおう」

 胸の上に置かれていた使い魔の右手に自分の左手を乗せる。

「わたし、こんなことしてるけど変じゃないよね?」

 自分の行動が心配になった使い魔は、魔術師に尋ねてみた。

「変じゃないさ! ……少なくとも、私はこのまま君を離したくないと思っている!! ……かもしれない」

 相変わらず魔術師は自分の感覚で、照れすぎていると感じると、余計なことを付け足す。

「このままくっ付いてても、いいんだよね?」

「もちろん! むしろ、逃がさん!! ……なんてね」

「……」

 魔術師の胸の辺りに顔を埋めている使い魔は、目を閉じたまま、照れている魔術師の顔を思い浮かべている。

「変態でも照れるものだから、仕方ない」

「うん」

 体が温まりつつ、何かに満たされているらしい使い魔は、心地良い眠気を感じていた。

「眠いの?」

「うん。……このまま、寝ちゃったらダメかな?」

「……良いよ。私の腕の中で眠ると良い」

「うん……」

 使い魔は、魔術師の”私の腕の中で眠ると良い”という台詞の部分を反芻はんすうして、意識しながら眠りについた。

「寝るの早いな!? ……今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

 自分の胸の辺りに、顔を埋めて眠る使い魔へ優しく微笑みながら台詞を並べる。

「……」

 使い魔の寝息を楽しもうと耳を澄ませると、雨音が聞こえた。

「君が眠る前に窓を閉めておいて正解だった。次回は、この続きから始めようかな」

 魔術師は、雨音に隠れている使い魔の寝息を探すために目を閉じた。そして、しばらくすると、使い魔の匂いを楽しみつつ、寝息と雨音を子守唄に眠ってしまう。

 という感じに今回を終わりにしよう。

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