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脳内変換

 空には薄く雲の掛かった三日月があった。少しずつその姿を満月へと近づけて行く時期の月は、気付かない速度でその明るさを強めている。

 季節は春。しかし、夜のこの世界は肌寒い。

 屋敷の中にある部屋に作らてたお座敷の窓から差し込む月の光には、体感できるほどの暖かさはない。

 お座敷の中では、二つ並べて置かれている座椅子にそれぞれ座る人影がある。

 二つの人影は正面の窓から見える月を見ていた。

「さすがに、もうストーブは必要ないかもね」

「毛布はまだ必要だけどね」

 ストーブの前に畳んで置いてある毛布へ視線を向けながら使い魔は言う。

「まぁ、コタツに入らないで活動する場合はまだ必要ありそうだ」

 魔術師は、コタツの布団を軽くたたきながら言った。電源の無いコタツでも、それほど寒さを感じないが、コタツの布団が無いと暖かさが物足りなくなる。

「それにしても、暖かくなったね。冬に比べれば……」

「うむ。……冬は寒い。春は暖かい。夏は暑い。秋は涼しい。季節の気温を表す言葉としてはこんな感じだろう」

「肌寒いは、どの季節でも使えそう。夏も夜は意外と寒いこともあるし」

「言われてみればそうだ。……! そうか!!」

「どうしたの?」

 何かに気付いた魔術師は、張りのある声を出した。それに対して少し驚いて尋ねる。

「この世界は基本的に夜。つまり、ほぼ一年中、寒いや、肌寒いという表現を使える」

「ぅん?」

 自分の方を見ながら首をかしげる使い魔に、魔術師はなぜか得意げな表情をする。

「何だか寒い……と、いう理由で君に触れる口実が作れるということさ!」

「……」

 無言で表情を隠したまま、使い魔は正面の窓から見える月に視線を向けた。

「……」

「……」

 微妙に気まずい様な感じの空気が漂う。しかし、それは気まずい様な……であって、実際には気まずい空気ではない。無言で表情を隠した使い魔は、魔術師の台詞に嫌悪感を抱いた訳ではなく、自分もその口実を使おうと思ったら口元がゆるみそうになったから。

「そうだったのか。一安心だ! 口元が緩んでもいいじゃないか!」

「その理由で口元が緩んだの見られたら恥ずかしいと思ったから……」

 寒さを感じながら毛布で一緒に包まって温まったり、抱き締められたりした最近のお話で、使い魔の中で魔術師と触れ合う意味が以前より少し変わったようだ。

「どう変わったのか興味深いな」

「……」

 口を開いて言葉を出しかけたが、声は出ずに無言だった。

「なるほど……これは調査する必要があるのか!」

 魔術師はコタツ布団の中に左手を入れると、隠れている使い魔の右手を探す。微妙に無駄な動きもあり、使い魔の太ももに触れたりもした。

「今回も変態っぽいね」

 自分の右手が魔術師の左手に握られると、軽く握り返しながら台詞を並べる。

「握り返す……これもヒントになるのかな」

「普通は……わたしは男の人に太もも触られたら嫌だよ?」

 使い魔は魔術師の”ヒント”という単語に対して台詞を並べる。

「つまり、君のその台詞はヒントということか」

「……」

 無言で魔術師に向けられる視線には”わかるでしょ?”という意味が含まれていた。

「なぞなぞをしているみたいで面白いな」

「……」

 無言の使い魔は、魔術師の内心を探る。

「男である私が、君の太ももに触った。普通は嫌だと言いっているけど、手を握り返した……つまり?」

 微妙にとぼけた感じの口調で台詞を並べる魔術師の手を、使い魔は強く握った。

「本当はもう解ってるんでしょ?」

「嫌じゃなかった。……う~む、私を男と思っていないとか!?」

「……」

 使い魔はがくりと首を曲げて下を向いた。

「ははは、すまん! ”ヒント”という単語に対しての、君の台詞で確信を持てたけど、嬉しさと照れ臭さで惚けてしまった」

「意地悪された」

 言葉とは裏腹に、嬉しそうな口調で台詞が並んだ。

「つまり、君も私のことを”特別”と思ってくれているということだね!」

「……うん。”特別”を言い換えた感じだけどね」

「シャイなので、今はその言葉を脳内変換してくれたまえ」

「あなたもね!」

「うむ。そうしよう」

 お互い脳内変換して同じ言葉を受け取った。

「ちょっと寒くなって来たかな?」

「確かに……。ただ単に体が冷えただけかもしれないが。今回の文章並べを始めた時は、外に散歩に行く展開にするつもりだったが、止めておこう」

「そうだったんだ。……毛布取って来るね!」

 使い魔の台詞を聞いて、魔術師は使い魔の手を握る力を弱めた。するりと逃げていく使い魔の手に少し寂しさを感じた。

 ストーブの前の畳んで置いてある毛布を手に持つと、使い魔は広げながら戻ってくる。

「何かと役立つ毛布さんですな」

「温まろう!」

 使い魔は、広げた毛布の片方を魔術師の肩に掛けながら座椅子に座る。

「ありがとう」

「ふふっ!」

 隣に座る笑顔の使い魔を見て魔術師は安心した様なため息を吐いた。そして、左手を使い魔の左肩に回して抱き寄せる。

「毛布に隠れて積極的な行動だ~!」

 魔術師は冗談っぽい口調で勇気を高めた。

「きゃ!」

 使い魔はわざと小さな悲鳴を出して抵抗もしない。それは魔術師への甘えの気持ち。

「君との接地面から温かさが広がっていく感じだ」

「そうだね。あったかい」

 抱き寄せられて、やや斜めになっている体勢の使い魔の頭は、魔術師の左肩に乗る感じになっている。

「う~ん。良い匂いだ!」

 使い魔の髪の匂いを楽しんでいると、癒される感覚を覚えた。

「匂いを嗅がれるのは恥ずかしい……」

「大丈夫! すごく良い匂いだよ」

「シャンプーの匂いだからね」

「正確には、君の髪からするシャンプーの匂いだ。”君の”というのが重要」

 魔術師は”君の”という部分を強調した。

「そういわれると照れちゃう」

「狙い通り!」

「……温かくなったら、ちょっと眠くなっちゃった」

「そうか、じゃあ、そろそろ今回を終わりにしよう」

「……もう少し、あなたと一緒がいい」

 使い魔は両目を閉じたまま台詞を並べた。

「そうか。……とりあえず、テーブルとストーブの間に移動しよう」

 魔術師は使い魔を立たせると、場所を移動した。テーブルとストーブの間は少し広いスペースになっている。

 絨毯の上にお尻を着いて座る使い魔の目は、本当に眠そうだった。

「ごめんね」

「いいさ、私も眠るのは好きだし。隣でうたた寝をさせてもらうことにしよう」

 先ほど一緒に掛けいた毛布を魔術師は持ってくると、毛布を掛けつつ使い魔を優しく押し倒す。

「あなたも一緒に入らないと寒いよ……」

「なんだか、いつもより甘えるね」

 魔術師は枕代わりにするクッションを使い魔の頭の下に入れつつ台詞を並べた。

「意地悪されたから」

「そうか。甘えてもらいたい時は意地悪することにしよう」

「……優しくして欲しい」

「その時のノリでいこう。……さて、今回も文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

「どういたしまして! ……一緒に寝よう」

「眠そうな目だね。色っぽい目をしてたら別の意味に聞こえそうだ」

「……ぅふ」

 台詞を並べながら魔術師が使い魔が掛けている毛布に入ると、微妙に色っぽくも聞こえる笑い声を出してから使い魔は目を閉じた。

 そして、すぐに規則正しい寝息を立て始めた。

「こんな感じも悪くない」

 魔術師も目を閉じて、しばらくすると眠った。

 そして二人はしばらくうたた寝をしてから帰った。

 という感じに今回を終わりにしよう。

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