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手と手

 空は曇っている。雲の向こうの月は満月を過ぎて、その姿を隠して行く。

 季節は春。やや暖かい日々が続いていたけれど、冬が戻って来たような寒さを感じる。冬は何か忘れ物をしたのかもしれない。

 雲を通り抜けて地上に届く月の光が屋敷の窓から入り、お座敷と呼ばれている空間を照らしている。そこには二つの人影があった。

 テーブルを挟んでテーブルに突っ伏している二つの人影の姿勢は、鏡に映した様に同じだった。

 それぞれ片手を延ばしていて、その手と手は重ねられている。もう片方の手を枕代わりにしているのも同じ。

 違うのはそれが右手なのか、左手なのかの違い。鏡に向かって右手を延ばした時、鏡の向こうの自分は左手を伸ばしている。もっとも、この場合姿勢が同じだけで姿形は別人。

 窓を背にしている人影は男。窓を正面にしている人影は女。

 窓を正面にしている人影が延ばしている右手には手帳がのっていた。その手帳の上に窓を背にする人影の左手がのっている。

 このお座敷の中は、外の気温が低い影響で寒い。片方の人影には毛布が掛けられているが、もう片方は何もかけていない。

 窓を正面にしている人影の頭が少し揺れる。目を覚ましたらしい。

 目覚めたその人影は、ゆっくりと正面を見る。そして、次に延ばしている自分の右手を見た。

「……夢」

 一言つぶやいて、手帳を持った手を静かに自分の方へ戻す。正面の人影の左手を丁寧に静かにテーブルの上に落して。

 手帳の表紙を少し眺めてから体を起こすと、掛けられていた毛布がずれ落ちた。

「寒い」

 この空間の室温に気付き、正面の人影を見る。そこには、何もかけずにテーブルに突っ伏している男の姿があった。

「……」

 手に持っている手帳を、脱いで置いてあった自分のパーカーの右ポケットにしまうと、自分に掛けられていた毛布を羽織り、男の後ろに回り込む。

 毛布の端をそれぞれ持った両手を自分の頭より上へ延ばし、自分ごと毛布を男の背中に掛けた。すると、そこに見える人影は一つになった。

 毛布を掛けているその人影は、背中の辺りが不自然に膨らんでいる。

「だって、寒いんだもん。接地面が多い方が暖かいし……」

 毛布の中から使い魔の声がした。

 正座を崩した形でお尻を絨毯じゅうたんに着けて、右耳をテーブルに突っ伏している魔術師の背中にくっ付けている。毛布は魔術師の両肩に掛かっていて、使い魔の両手は自由だった。その両手は、魔術師の胸とお腹の間の辺りを彷徨さまよっていたが、自分の手同士を掴むことで落ち着いた。

「私としてはギュッと抱き付いて背中の柔らかい感じをもっと強く押し付けて欲しかったりもするのだが……」

 突っ伏している魔術師は使い魔に提案した。

「……起きてたの?」

 少し驚いたように使い魔は聞く。

「まぁね。君が目を覚ます前から起きてた。地の文が微妙に長くてわかり難いかもしれないけど、私が眠っているという描写は一つも無いのだよ!」

「そういえば、夢の中であなたが先に目が覚めるような場面が……」

 使い魔は夢の内容を思い出しながら台詞を並べた。

「喋る時の君の息が暖かい。これも良いな~」

 魔術師の台詞を、ちょっと変態っぽいな……と思いながら、右耳に聞こえる心音を聞いていた。その音は少し早く鼓動していた。

「……」

 心音に集中している使い魔は沈黙している。

「ま、まぁ、君との密着度との関係で心臓が少しアピールしているだけだ」

「……ギュッとしたらもっと早くなる?」

「それは、やってみないとわからないかな!」

 魔術師の台詞には期待がこもっていた。

「……でもね、わたしの手はすごく冷えてるの。だから、出来ないよ」

 使い魔が自分の両手を彷徨わせていた理由は、冷えた手を魔術師に付けたくなかったからだった。

「遠慮しなくて大丈夫! むしろ冷えた手を温めさせて欲しい」

「でも、本当に冷たいよ?」

「大丈夫だから」

 柔らかくてまじめな感じの口調で魔術師が台詞を並べると、使い魔はゆっくりと魔術師の胸の下辺りに両手を回した。

「確かに冷え冷えだ。ストーブを点けよう。……ごめん。君と一枚の毛布で温まることばかり考えていて、ストーブを点けてなかった」

 そう言って、ストーブの方へ移動するように働く魔術師の動きを、使い魔は弱い力で止めようとする。その力は魔術師の動きを止めるには弱すぎる。しかし、そこに込められた意志は魔力となり、魔術師に伝わる。

「……」

「寒くてもいいの?」

「うん」

 使い魔は右耳を当てたまま小さく頷いた。そして、魔術師の心音を聞きながら目を閉じる。

「……まさか! 心臓の音で私の心理状態を読むつもりか!?」

「ふふっ! あなたのこともっと知りたいし。心臓の音から何か解るかも!」

 そう台詞を並べると、両手に力を込めてギュッと抱きしめる。

「ぬほほ! いいね!!」

 嬉しそうな魔術師の台詞を左耳で聞きながら、右耳で心臓の鼓動を聞く。

「ドキドキしてる!」

「それは、まぁ、えっと。生きてるからね」

「そうだね!」

 心音の違いをはっきり聞き分けられたのかはともかく、使い魔は嬉しそうな声で台詞を並べた。

「今度、機会があれば、君の胸に耳を当てて心音を聞かせてもらおう」

「エッチ!」

 魔術師の背中から右耳を離し、代わりにおでこを付けて楽しそうに一言明るい声で言った。

「楽しみだ! ……さて、今度こそストーブを点けよう」

 そう言って動き出す魔術師を使い魔は止めようとしなかった。

 魔術師が立ち上がるのに合わせて一緒に立ち上がる。その際落ちてしまった毛布を腰を曲げて使い魔は右手で拾う。そして、ストーブの方へ向かう魔術師の後姿を見ていた。

「それにしても寒いね」

「そうだね。地の文も並べてたけど、冬が戻って来たみたいだ」

 ストーブを点けたが、水の入ったやかんが無かった。

「乾燥しちゃう?」

「多少ね。外は曇りだし、ちょっと前に雨も降ったから……大丈夫! たぶん」

 台詞を並べた魔術師は立ち上がり、おもむろに使い魔の方へ、右手を手の平を上にして差し出した。

「ぅん?」

 使い魔はその手の意味を考えた。そして、二つの考えが導き出された。

 一つは毛布を手渡すこと。もう一つは、毛布を持っていない自分の左手をそこに乗せること。

「選択肢は二つ……どっちを選ぶのかな?」

「……」

 使い魔は、毛布を持つ右手より左手の方が魔術師の右手に近いという理由で、自分の左手を魔術師の右手に乗せた。

「なるほど。その選択肢を選んだか……」

「っぁ!」

 乗せられた使い魔の手をしっかり握ると、魔術師は力強く右手を自分の方へ戻した。すると、バランスを崩した使い魔は魔術師へと倒れこんだ。

 使い魔が選択した瞬間にこうなることを予定していたので、魔術師は、自分の方へ倒れてくる使い魔を左腕で優しく抱きとめた。使い魔は右手に持っていた毛布を落としてしまったが……。

「自分でも驚く大成功だ」

「強引過ぎ! 怖かったぁ!!」

 怒っている感じが出ているが、そこには甘えた感じが含まれている。小さい”あ”の部分にそれは見えた。

「今の君の心臓の音はどんなかな?」

「ばか!」

 使い魔は今度は甘えた感じを隠して台詞を並べる。

「ふむ、立ち話も疲れるので、横になるか」

「座るんじゃないの?」

「よし、座るを挟んで横になるとしよう」

 使い魔を抱きとめたまま、腰を下ろし、そして横になる。使い魔もその動きに合わせてスムーズに体勢を変えた。

「重くない? というか、この体勢って……」

 正面から抱き合う格好をしている自分たちの姿を意識すると、使い魔は急に恥ずかしくなった。以前にも、こんな感じのことはあったはずなのに。

「軽い。君の背中に回した左手を重力に貸してやるとしよう」

 使い魔は魔術師に強く引き寄せられた。そして、目の前の魔術師の、首の左側を見て思い出した。

「仕返し」

 そうつぶやいて、ゆっくり自分の唇を魔術師の首へ付けた。これは前回、首筋にキスされた仕返し。

「これは至福というやつか」

 仕返しが済み、魔術師の左手に力が入っていないことに気付くと、使い魔は体を起こした。その際、魔術師の左手は、使い魔の背中から腰、その先のお尻を少し触れて絨毯へと落ちた。

「お尻触られた……」

「わじゃとじゃないよ」

「……そうだね」

「左手はしっかりその触り心地を味わったけどさ!」

「変態さんだね」

「知ってる!」

 使い魔を見上げる感じに台詞を並べる。今の恰好は、魔術師のおへその下辺りに使い魔が座る感じになっている。

「ストーブの側は暖かいね」

「うむ」

「この体勢って、主導権はわたしにある感じだね」

「一見そう見えるけど、私の右手と君の左手は繋がったまま、ここから逆転は可能でもある」

「やってみる?」

「ふーむ。このままっていうのも悪くない。まぁ、今回もいつの間にか3000文字を超えている。そろそろ、終わりにしよう。今回も文章並べを手伝ってくれてありがとうね!」

「うん。どういたしまして!」

「しかし、ストーブは点けたばかり……この格好で、もうしばらく、話をしてから帰ろうか」

「そうしよう!! ……この格好のままでで良いんだね?」

「ワンピースのスカートの部分がめくれるのに期待しよう」

「それは……だめ」

「ふー、ふー……。息では捲れるほどの風は起こせないか……」

 そんな台詞を並べた魔術師を、使い魔は優しい目で見つめた。

 という感じに今回を終わりにしよう。

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