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夢になった文章

 空は雨が降り始めていた。雨音は次第に大きくなっていく。雲に覆われた空から漏れ届く月の光は弱い。その姿は新月に近いのだろう。

 降り注ぐ雨に打たれている屋敷。その部屋の一つに作られたお座敷には人影は見えないが、一人誰かがいる。

 テーブルにはコタツの布団が装備されている。窓から中を見ると、テーブルの右側にストーブも置かれている。冬の時期も過ぎて今回は必要ない程度に暖かい。

 ストーブとテーブルの間の空間には毛布が置かれている。

 お座敷の中は暗い。もちろんお座敷の外、部屋の中も暗い。

 部屋の中に使い魔の気配が現れ、地の文を読みながらお座敷のドアの前で気配のままたたずむ。しばらく考える雰囲気が気配に宿る。

 そして、使い魔は姿を現した。

「この場合は、わたしが恐る恐るお座敷に踏み込む感じでいいのかな? ……えっと、誰かこの中にいる!?」

 使い魔は、なんとなく文章から空気? を読んだ。

「でも、お座敷の中にいる誰かって……もう決まってるよね」

 地の文に語り掛けるけれど、普通に見れば独り言を言っているように見える。

「……このお話では地の文を登場人物も読めるから、別に変じゃないし。……変じゃないよね?」

 少し不安になったのか、地の文に念の為、問いかける。それに答えるなら、設定上、変じゃない。

「だよね!」

 明るく台詞を並べるが、同じ部屋の中だけれど、お座敷の外に一人で暗い所にいることで使い魔は少しずつ不安感が高まっていた。

「……恐る恐る踏み込むつもりが、安心する為に踏み込むみたいになっちゃった」

 使い魔はお座敷のドアを軽くノックしてから開けた。

 お座敷の中も暗い。ドアを入ってすぐの所は玄関になっている。そこで靴を脱いで畳の上に敷かれた絨毯に上がる。

「おじゃましまーす」

 静まり返っているお座敷の奥へ向かって遠慮がちに声を掛ける。

 しかし、返事は無い。使い魔は首を傾げてから慎重しんちょうに奥へ進むことにした。

「怪しいのはコタツの中だよね」

 使い魔はコタツの前に立つ。その位置は右に窓、左に座椅子が二つ、正面の少し右側にストーブ。後ろは玄関。

「何だかやけにわたしの位置を描写するね。何か意味あるの?」

 使い魔は魔術師に何かされる期待? を込めて地の文へ尋ねる。しかし地の文としてはただ単に、このお座敷の中の描写をしたかっただけ。

「……そうなんだ」

 使い魔は残念そうな声で台詞を短く並べた。そして、注意深く暗いお座敷の中を見回す。幸い、弱い月の光が届いているので物の形は把握できる。

「ちょっと怖いかも!」

 声のトーンに明らかな期待がこもっている。そんな使い魔はコタツを前にして立つ自分の足元を見ていた。

 今使い魔の頭に浮かんでいるのは、急に足を掴まれて驚き、尻餅をついてしまい、コタツから顔を出した誰か……魔術師にワンピースのスカートの中を見られてしまう……という光景。

「……」

 無言で移動を開始して、今度はコタツを後ろにして窓の外を眺める。閉まっている窓の向こうでは雨が降り続いていた。

「………………」

 無言でしばらく何かを考える。

「……」

 辺りには雨音だけが聞こえる。

「……」

 雨音の中に使い魔が両腕をさする音が混じった。

「わたしが考えていることを文章にしないの?」

 どうやら自分の考えていることを文章にされるのを待っていたらしい。……窓の外を見ている自分の足元に、コタツから仰向けで顔を出した魔術師にスカートの中を見られる。と、いうシチュエーションを考えていた。その考えの根本にあるのは魔術師が喜んでくれるかな? という思い。

「……なんのことかな!」

 なぜか少し嬉しそうな顔をしながらとぼける。

「それにしても、こんなに隙を見せてるのに何も起きないなんて……。ひょっとして、コタツの中には居ない?」

 使い魔の思考は、コタツの中に魔術師がいないという可能性を追加した。それと同時に不安感が微妙な妄想を生む。……誰かというのが魔術師ではないかもしれないという妄想を……。

 妄想から不安感が強くなり、左のストーブの方を向き、目に入る毛布を意識しつつ膝をついてコタツの布団をめくった。

 コタツの中は更に暗かった。そのくらい空間を注意深く見るがそこには誰もいなかった。

 コタツの布団を元に戻すと、膝をついたまま移動して、毛布を観察する。

「この膨らみしかないよね? 大きめのダンボールに潜んでたりしないよね」

 恐る恐る毛布をめくっていくと、そこには眠っている魔術師がいた。

「……だよね」

 魔術師の顔を見て安堵した使い魔は、先ほど両腕をさすった理由を強く意識した。

「ちょっと寒い。……だから、わたしも毛布に一緒に入れてね」

 毛布に包まって仰向けで眠っている魔術師の右隣に、起こさないように慎重に自分も入る。

「暖かい」

 体が温まるのを感じながら横向きになり、眠っている魔術師の横顔を見る。

「あなたの体温が伝わってる。これも魔術なのかな。わたしとあなたの間にある魔力が無ければ、この状況はあり得ないし」

 眠っている魔術師に対して台詞を並べる。

「どんな夢を見てるんだろう。ひょっとして、わたしの夢?」

 使い魔は魔術師の耳元でささやくように言う。そしてふと気づく。

 今は眠っている魔術師も、目が覚めれば地の文を読める。更には、今並べた自分の台詞も……。不安感と安心の狭間で、使い魔は自分でも並べていたこの世界の設定を一時的に忘れていた。

「どうし……よう?」

 台詞の途中で、魔術師の目が開くのを見た。そして、自分の方へ顔を向けた魔術師と近い距離で目が合う。

「あの、えっと。こんばんは」

「……」

 どうするか考えが纏まらない使い魔の方へ、顔だけでなく体も向ける。そして、左手を使い魔の背中の方へ回した。

 使い魔はその状況に混乱して、向けあっている顔を俯くように首を曲げた。

 魔術師の顔の前には使い魔の頭があり、髪の匂いを嗅いでいた。

「起こしちゃってごめんなさい」

「……そうか、あれは夢か。それにしてもいい匂いだ」

「……」

 使い魔は髪の匂いを嗅がれていることに何も言えなかった。

「ある意味この状況は夢の続きなのかもしれない」

「どんな夢を見ていたの?」

 使い魔は顔を上げずに聞く。内心、顔を上げたらそのままキスされちゃうかも……と思っている。

「君の夢を見ていた。正確には……現実の私が並べた文章かな」

「ふーん」

 気のないような台詞を並べながら、キスされた後、の展開を考えてしまっている。

「ふむ、どんな展開なのかな?」

「うぅ……」

 使い魔は恥ずかしさでうめいた。

 そんな使い魔を左手に力を込めてギュッと抱き寄せてから、魔術師は仰向けに寝なおした。

「これなら顔を上げれるかな?」

「えっと、うん」

 キスはされなかったけれど、ギュッと抱き寄せられて安心感が安定した使い魔は顔を上げた。

「君が仰向けになるという選択肢もあったね」

「……そうだった」

 その選択肢に気付いたが、使い魔は仰向けにならず、そのまま横向きのままだった。そして勇気を出して右手を魔術師のお腹の上へ回す。

「なんだか、感動だ!」

「そ、それより、どんな夢だったの? わたし、夢の中で変なことしなかった?」

 使い魔の安心感は安定したが、その中で混乱してた。

「……それは、現実の私が使おうとした手を使おう。まぁ、単に並べ途中の文章を夢として、コピーして貼り付けなんだけどね」

「そうなんだ」

 ということで、夢の内容です。


  空は晴れていた。黒い空に月があり、それと共に星も見える。

 月の明かりに照らされる今回の世界は風が強い。風が温度を連れて行ってしまうのか、それとも気温が低いのか、寒さを感じる。

 窓から月の光が差し込む屋敷の部屋の中にある部屋……お座敷の中で動く人影があった。

 その人影は右手に何かを持ち、それでお座敷の中の色々な所を軽く撫でている。

 一通り撫で終わると、右手に持っていたものを窓枠に置いた。そして後ろを振り返り、テーブルの上のお菓子が入ったかごを下に置いてから、持参したウェットティッシュでテーブルの上を拭く。その後、同じく持参した布巾ふきんで水気を拭き取った。

 月の光に照らされるテーブルの上を見て、一人頷うなづいてからお菓子の入った籠を元の位置に戻した。

 立ち上がり周りを見て掃除が終わったと納得し、お座敷の中を撫でまわしていたものを先に片付けることにした。

「下は絨毯だし、埃は静電気で集めた方がいいよね」

 窓枠に置いたハタキを右手に持ち、静電気でくっ付いた埃を払おうと窓に左手を添えた時、風で窓が激しく揺れた。

「……窓は開けない方がよさそう」

 窓の外を見つめる人影は窓に映っていた。それは困ったような表情をした使い魔だった。

 風の動きを読んで窓を開けようかと考えていると、お座敷の外……部屋の中の空間が揺らぎ、魔術師が来た。

 使い魔はそれに気付いたけれど、風の動きを読んでハタキについた埃を払う瞬間を狙っていた。

 鍵の掛かっていないお座敷のドアノブが回り、ドアが開かれるとゆっくり魔術師が入って来た。丁寧に靴を脱ぎお座敷に上がると使い魔の方へ近づいていく。

 風の動きを読んでいる使い魔だが、意識の三分の二ほどは魔術師に向けられていた。入って来ても何も台詞を並べないので、自分に何かしてくるのだろうと思っていたから。

 窓の外を見つめる使い魔の瞳は、警戒ではなく、何をされるのだろうという期待が浮かんでいた。今までの魔術師との付き合いで、自分に明らかな危害を加えないことがわかっているから。

「今回もまた寒むいね」

 魔術師はそう台詞を並べて左手を使い魔の右肩に置いた。

「風が強いからかな?」

 使い魔は魔術師の方を向いてそう答えた。そして目が合うと魔術師が微笑んだので自分も同じように返す。すると、ゆっくりとした動きで魔術師は使い魔を抱き寄せた。

「君の体少し冷えてる」

「う、うん。ちょっと寒いけど。……えっと、どんな技を掛けるの?」

 使い魔は魔術師の体温が自分に伝わって来るのを感じながら尋ねてみた。

「技か……考えてなかった」

「そうなんだ」

 少し残念そうに台詞を並べる使い魔だったが、自分に伝わって来る体温で満足感を得ていた。

「なんとなく、君を抱きしめたくなっちゃって」

「ふーん」

 気のない台詞を並べながら、使い魔は窓枠にハタキを戻すと魔術師の背中に両手を回した。

「私は精神的に一人と感じていた時間がとても長かったりして、寂しさのたぐいには人より強い耐性がある……けれど、少しずつその耐性が弱くなってる気もする。今の状況はそれをジワリと感じたからなのかもしれない」

「この状況だとそれは和らぐの?」

「……そうかもね。……ふむ、ここは君を強く抱きしめて『痛い』といわれて、突き飛ばされるパターンにした方がいいのかな!」

「……」

 魔術師の台詞を聞いて、使い魔は黙って何かを考えていた。

 以前に魔術師は、ある時期から人と精神的な距離を結構置くようになったというようなこと言っていた。それと、照れると余計なことを付け足す癖があるとも言っていた。そこから、照れると余計なことを付け足すのは距離を置くためなのではないか……。

「なるほど、そういう考え方もあるね」

「実際はどうなの?」

「さぁ? あまり難しく考えてもしょうがないよ」

 そう台詞を並べると魔術師は使い魔から離れようとした。しかし、使い魔は逃がさなかった。

「わたしにも距離を置くの?」

「う~ん、結構近いと思ってるけど。……抱き締められる距離もいいけど、少し離れて君の姿をみたいっていうのもあるんだよ」

「証明できる?」

 魔術師はまじめな表情で台詞を並べた。それに対して、使い魔は魔術師の目を見つめながら問いかける。月の光に照らされた使い魔の顔、そしてその瞳には月の光が映っている。

「……」

 まっすぐ自分を見つめるその瞳に、魔術師は見惚れていた。しかし、その瞳はゆっくりとまぶたに両方とも隠されてしまった。それを残念に思っていると、今度は使い魔の唇に意識が向く。

 月の魔力の影響もあるのか、魔術師は使い魔の唇が欲しいという欲求を抑えられなくなっていた。

 魔術師は使い魔の首の後ろあたりに右手を添え、使い魔の背中に左手を回して抱き寄せる。

 そして、使い魔の唇に自分の唇を重ね、しばらく、そのままの状態で時を過ごした……。

「わたしの初めての……奪われちゃった」

 唇同士が離れて、使い魔は小さな声で台詞を並べた。

「そうだったか。大切に頂いておくよ」

「うん」

 月の光を映す使い魔の瞳を、もう一度よく見ようとしてみると、その瞳は泣いている訳ではないけれど濡れているように見えた。

 それを見て心臓が妙に高鳴る感覚を感じた。

「……えっと、あれだ……。!!……」

 照れた魔術師が余計なことを付け足そうと台詞を並べる前に、その口は封じられた。使い魔の唇で。

「…………。この状況で余計なことは言っちゃダメ」

 使い魔は強引に魔術師に言葉を飲み込ませた。そして、唇にキスされて少し顔が赤くなっている使い魔は、自分が今した行動で更に顔が熱くなったのを感じた。自分らしくないと思いながら……。

「なんだか、君の体の方が体温高いみたいだ」

「あなたのせいだからね!」

「それはすまない」

「あなたのせいだけど、べつにあなたが悪いわけじゃなくて……えっと」

 使い魔の言いたいことをなんとなく理解した魔術師は提案する。

「とりあえず座ろう」

「うん」

 使い魔の背中を軽く押して、座椅子の方へ移動して二人は座る。

「毛布は掛けておこう。このお座敷が寒いことに変わりはないから」

「顔熱い……テーブルに顔をつけたら冷えるかな」

 使い魔は座ったまま上体を倒してテーブルに頬をくっつけた。

「冷える?」

「うん。ちょっと気持ちいいかも」

 左の頬をテーブルにつけたまま、魔術師を見ながら感想を言う。

「そういえば、お座敷の中を掃除してくれたんだね。ありがとう」

「わたしとしては、お掃除の展開に持っていこうと思ってたりしたんだけど、こういう展開になるなんてね!」

「うむ。月の魔力に魅入られてしまったのかな……」

「月明かりの差し込む窓辺……なかなか良いシチュエーションだったよ」


 魔術師が見た夢、現実の魔術師が途中まで並べた文章が並んだ。ある意味、文字数の水増しな気もする。

「まぁ、こんな感じの夢を見たんだよ」

「夢じゃない今回でも……キスしちゃう?」

 使い魔は夢の勢いに押されながら台詞を並べた。

「うーむ。やっぱりシチュエーションは大事だし……また今度、良いシチュエーションの文章が並んだときに取っておこう」

「雰囲気は大事だよね」

「そういうことさ! ……今回の私は起きたばかりだけど、現実の私がそろそろ限界のようだ」

「現実のあなたが眠いってことだね」

「うん。今回、私が眠っている時も、夢の中でも、文章並べを手伝ってくれてありがとう!」

 魔術師はお礼を言いながら自分のお腹の上に乗せられている使い魔の右手を握る。

「……どういたしまして!」

 握られた手を握り返しながら使い魔は答えた。

「では、また次回にね」

「うん」

 二人はその後、並んでいる夢の内容をネタに話をしてから帰って行った。

 と、いう感じに今回を終わりにしよう。

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