毛布の使い方
空は多少の雲があるものの、晴れていた。黒い空に浮かぶ月はかけ行く時期に入っている。しかし、その姿は丸に近く、その光は強く地上を照らす。
月の光が窓から入り込んだそこは部屋の中の部屋、お座敷と呼ばれている場所だった。ストーブで温められているその空間には二つの人影があった。
二つの人影の内の一つは、テーブルに向かい座って本を読んでいる。もう一つは、ストーブと本を読んでいる人影の後ろに挟まれる位置に、うつ伏せの状態で寝転んでいる。
本を読んでいる人影は、座っているのが疲れたらしく、仰向けに寝転んだ。
「いい枕だ……毛布越しなのが少し残念だが」
うつ伏せで寝転んでいる人影の、腰の当たりに頭を置いて台詞を並べる。
「いい枕でしょ!」
枕にされた方は嬉しそうに言った。
「うむ! このまま眠ってしまいたいくらいだ」
「寝ちゃってもいいよ。ストーブの火はわたしが見てるから」
うつ伏せのまま首を曲げて後ろを見ながら使い魔は言う。
「それはまた今度、毛布越しじゃない時に取っておくことにしよう。今は、後頭部で甘える!」
魔術師は、使い魔の腰の当たりに頭を乗せたまま首を左右に動かした。
「ふふ! でもちょっと意外かな……」
「何が?」
「あなたって変態だから。……その、もうちょっと下の方を枕にすると……思ったから」
使い魔は途中から声の大きさが小さくなりながら台詞を並べた。
「高さ的にここがいいかなと思って……。ご希望とあらば、喜んで移動しますが?」
「お好きにどうぞ?」
使い魔は正面に向き直してから言った。
「ではお言葉に甘えさせて…………」
「…………」
正面を向いて表情を見ることが出来ない魔術師は様子を窺う。しかし使い魔は無言。それは本当に”お好きにどうぞ”なのだろう。
「ではお言葉に甘えて…………このままもう少し休ませてもらおう」
魔術師は目を閉じてゆっくりと息を吐いた。
「どうしちゃったの?」
「どうもしてないよ? 少し疲れたのは本当で、君に甘えたいだけさ」
「……ふふっ!」
甘えられていると意識して嬉しくなった使い魔は笑う。
「頭が重くて邪魔だと思ったら言ってくれ、すぐにどくから」
「平気だよ」
「そうか、ありがとう」
魔術師はお礼を言いながら体勢を横向きに変える。その為、頭の向きも使い魔の上半身が見えるように変わり、使い魔の腰の当たりに左耳を当てる感じになった。
「あぁ、えっと、やっぱりちょっと重いかも」
使い魔は最後に食べ物を口にした時間を思い出しながら、台詞を並べた。耳を当てられた状態でお腹が鳴ったら恥ずかしいと思ったから……。
「…………そっか」
魔術師は少し間を置いてから、うつ伏せになり一度使い魔の腰の当たりに、毛布越しに顔を押し付けてから起き上がった。
「ごめんね」
「良い音だったよ」
「嘘だよ! わたしお腹鳴ってないし!!」
使い魔は動揺しながら抗議した。
「心臓の音だよ」
「……だよね!」
落ち着きを取り戻した使い魔は毛布から出て、伸びをした。
「おや、空の月は更に欠けてしまったか」
伸びをしている使い魔は窓辺にいる。そこから少し視線をずらした魔術師は月を見て言った。
「寒い季節も、もうすぐ過ぎるのかな」
「もうすぐかもね」
魔術師の答えを聞いてから、使い魔は毛布をたたみ始めた。
「おっと、毛布は二つ折りでいいよ」
「大丈夫、持ちやすいようにたたんでるだけだから」
「いや、二つ折りで絨毯の上に敷いてくれるといいな」
使い魔は首を傾げながら言われた通りに毛布を絨毯の上に敷く。
「これでいい?」
「うむ、いい感じだ。次に君は毛布の上に、仰向けに寝転んでも頭が壁にぶつからない位置に足を延ばして座っておくれ」
「こんな感じ?」
「おーけー」
魔術師は足を延ばして座る使い魔の位置を計算しながら、薄手の毛布を三つ折りにして二つ折りの毛布とくっつけて並べて敷く。
三つ折りの毛布の上に魔術師も足を延ばして座り、二人は足の裏をくっつける感じになった。
「……ひょっとしてストレッチ?」
「その通り! この状態でお互いの両手を繋いで引っ張る感じのやつをやろう!」
「いいよ!」
快く同意した使い魔だったが、なぜ毛布を敷くのか疑問を感じていた。
「いずれわかるさ! 上手くいくかな」
わざわざ状況を用意して、何か企んでいることを匂わせている。
「……」
使い魔は沈黙のまま両手を前に伸ばした。その両手を魔術師も掴む。
「では、最初は私が引っ張ろう。膝を曲げないように注意ね!」
「うん」
ゆっくりと両手を引っ張られて、使い魔は上体を伏せていく。
「意外と柔らかいじゃないか!」
「ちょっと痛い」
「おっと、ごめん」
魔術師が引っ張るのをやめると、使い魔は上体を起こした。
「次はあなただよ」
「痛くしないでね!」
「痛かったら言ってね、もっと引っ張ってあげるから!」
冗談を言ってから使い魔は魔術師の手を引っ張る。
「あだ、あだだ。痛くはないから……。はっ! 美味しそうな足が!? もっと引っ張っても大丈夫だよ!」
魔術師は使い魔の足を目指して更に頑張ろうとした。しかし、使い魔は魔術師に無理をさせない為に引っ張るのをやめていた。
「やっぱり無理はよくないよ?」
「仕方ない。まだまだ力不足だったか」
「力不足だったね」
使い魔は楽しそうに笑っている。魔術師も同じように笑うが、次第に怪しい笑みに変わっていく。
「……ぐへへ、両足の裏をお互い合わせた状態、そして下には毛布……」
「それが、なにか?」
「このまま私の足の力で、君の両足を開脚させることも可能なはず! 毛布も滑りやすい。開脚するにつれて距離が近づくことにも有利なはず!!」
その台詞を聞いて、使い魔は着ているワンピースのスカート部分に意識が向いた。
「へ、変態さんがいる!?」
「私が変態なことを知ってたくせに!」
魔術師は両足の親指を使て、使い魔の両足の親指を挟む感じの状態になった。
「……」
使い魔は無言のまま繋いだ両手を見ている。
実際には使い魔が両足に力を入れていれば、魔術師の台詞の通りにはならない。しかし、使い魔は足の力を抜いていた。
「少し予想外だ。もっと抵抗するかと思ったのに」
「抵抗した方がいいの?」
「そうだな……とりあえず膝が曲がらないように注意してね」
「……うん」
使い魔は膝が曲がらないように力を込めた。
「今だ!」
「わっ、ちょ、え?」
魔術師は使い魔が膝が曲がらないように力を入れたタイミングに合わせて、力強く使い魔の両手を自分の方へ引っ張った。
油断していた使い魔は、自分のお尻が座っていた毛布から浮くのを感じながら、引っ張られる先にいる魔術師にぶつからないように無意識的な動きをした。
その結果、使い魔は魔術師の太ももに、膝を着いてまたぐ感じに座り込んでいた。
「上手くいった。けど、ごめん。思ったより乱暴な感じになってしまった」
仰向けで使い魔を見上げる状態の魔術師は、謝りの言葉を混ぜて台詞を並べた。
「えっと、大丈夫。どこも痛くない」
かなり驚いて、上手く頭が回らない使い魔はとりあえず台詞を並べる。そして、状況を確認する。
膝をぶつけた感じだが、痛くない。これは三つ折りにされた毛布の上に膝を着いているから。それを認識して、魔術師が毛布を絨毯の上に敷いた本当の目的に行き当たった。
次に、突然のことで心拍数が上がっていることにも気づく。
正直、怖かったので少し怒ろうとしたけれど、自分が魔術師の太ももの上の方に、またぐ感じで座っていることに注意が向いて、何かを想像してしまい、表情に恥じらいが浮かぶ。
「何を想像しているのかな?」
「わかってるくせに……エッチ!」
使い魔は繋いだままの両手を少し強く握り、恥じらいを隠す。
「膝は大丈夫?」
「うん。……えっと、降りていい?」
使い魔は目の前の衝立に、自分たちの状態が微妙に月の光の影として映っているのを見て更に恥ずかしくなり、台詞を並べる。
「そうか」
魔術師は繋いでいた両手を離した。
「わたし、重くなかった?」
そう尋ねながら腰を上げようとした使い魔は、魔術師の動作に気付き、その意味を考えてしまった。その為、その攻撃を受けてしまった。
「重くないよ。でも……やっぱり、逃がさない!」
台詞を並べながら上体を起こした魔術師は、使い魔をその両腕ごと抱き締めた。動作の意味を身を持って知り、使い魔は返し技で、動かせる両腕を魔術師の背中に回した。
「思いっきり締め上げちゃおうかな」
返し技を繰り出した使い魔は台詞を並べながら、衝立に映る自分たちの影を見ながら、また何かを想像してしまう。
「締め上げますか!」
「……もう!」
使い魔は腕にさらに力を込める。しかし、魔術師はなぜか喜んでしまう。
「これは危険な魔術かもしれないね。想像するほど変態になるかもしれない」
「わたしはあなたの魔術に掛かってたのかな?」
「ある意味、はめられたのかもね!」
「やだ! この人変態だ!!」
使い魔は面白くて笑いながら台詞を並べた。
「ちょっとした、言葉遊びだよ。許しておくれ」
「しょうがないな、いいよ。わたしはあなたを許す!」
「よかった!」
魔術師は安堵して、使い魔の頭を優しく撫でた。
「あなたとわたしの間にある魔力で許されるんだからね!」
「もちろんそれはわかっているよ。君が相手だから使える魔術さ!」
「えっと、釈迦に説法? だったね」
「微妙に難しい呪文を使ったね。私も、まだまだ魔力関連も知り尽くすには程遠い。頑張ろう!」
「頑張っていこう!!」
「さて、それでは、今回の文章並べを終わりにしよう。今回も手伝ってくれてありがとう!」
「どういたしまして! ちょっと怖いところもあったけど、楽しかったよ!」
使い魔は衝立に映っている影を見ながら嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「私も楽しかった。では、また次回に」
「うん。また次回にね! ……でも、もう少しお話ししてから帰ろうよ」
「そうだね」
ストーブの火を消してから、二人は座椅子に座り、しばらく話をしてから帰って行った。
という感じに今回を終わりにしよう。




