餅を召喚
空の月は満月に近い姿をしていた。
前回の続きとして始まる今回。現実の世界では数日経っているけれど、この世界での時間はそれとは別の流れがある。
「この世界での月の姿は、現実の私が観測したその日の月の姿で描写されている。……どうやら現実の私にとって、前回の続きの今回、前回からのこの世界での時間が経ちすぎていると都合が悪いらしい」
という微妙な前置きの文章が並べられた。
「……もうすぐ満月か」
窓の外に見える月を眺めながら魔術師は一人つぶやいた。座椅子に座っている魔術師の隣の席は空席。その空席の少し向こうには、使い魔の寝顔が見える。
「そういえば、年が明けたな。今年はひつじ年だったか……」
「…………」
眠っている使い魔に話しかけてみるが、穏やかな寝顔のまま答えない。なので退屈そうに魔術師は再び窓の外を眺める。
「この”ぷらくてぃす”という物語を紡いできて、伏線っぽいのが幾つかあった気もする。今年はそんな感じのも拾ってみようかな。…………ヨシジさんの召喚、夢の城、ホラー系の話、……それに、”ソレ”の化身……脈絡も無く”ソレ”と言う言葉も変だな。”アレ”の化身と呼ぶことにしよう。……すぐに出てきたのはこんなところか。まぁ、この”ぷらくてぃす”の中で拾うかは、わからないけれど」
独り言を言うと魔術師は座椅子に座ったまま上体を横に倒した。そしてわざわざ隣の座椅子の座るところに頭をもっていく。
「……いや、横になるのに枕的なものがあったほうが良いと思っただけだから」
なぜか魔術師は横になった自分の頭の先にある、使い魔の顔に行動の理由を述べた。
「…………」
しかし、肝心の彼女は眠ったまま。
「いいのだよ。このお話では登場人物が、地の文も含めて読み直すことが出来るから」
魔術師は地の文へ台詞を並べた理由を言う。そして眠っている使い魔の口元を見る。
「よだれが出てたりすれば、それはそれで良い感じだけど……出てないな」
魔術師は使い魔の呼吸の仕方から、寝た振りなのかを確認しようとしている。しかし、地の文が”寝顔”と言う言葉を使っているので使い魔は確かに”眠っている”
「大丈夫。確認するという理由を使って見てるだけだから! ……あまり見すぎると気持ち悪いって思われるだろうし」
魔術師は使い魔から視線を外し、コタツから出て仰向けになって部屋の天井を見る。
「少し寒いな。ストーブから離れると温度が低くなるな。このお座敷には天井が無いから熱が逃げやすい」
天井を見るのを止めて起き上がると、テーブルの上に置いてあるヤカンから白湯を湯飲みに注いだ。ちなみに、ストーブの上にもヤカンはのっている。つまり、このお座敷の中にヤカンは二つある。
「私は意外と猫舌なので、熱すぎると飲めないから」
魔術師は湯飲みに注いだ白湯を一気に飲み干した。
「微妙に体が温まったような……ならないような。白湯といっても、私にはだたの、ぬるま湯にしか感じられん!」
「わたしにも一杯もらえるかな?」
声のする方へ顔を向けると、使い魔が横になったまま伸びをしていた。
「ただのぬるいお湯だけどね」
魔術師はテーブルの上にあったもう一つの湯飲みに白湯を入れると、起き上がって隣の座椅子に座った使い魔の前に置いた。
「……わたしはどれくらい寝てたのかな? 前回から何日くらい?」
まだ少し眠そうな表情をしながら、今回のお話の最初の方を読んで台詞を並べた。
「この世界ではそれほど時間は経ってないよ」
「そうなんだ。……イタダキマス」
完全にまだ起きていないらしく、時々長く目を閉じたりしている。
「前回の時は去年の終わり頃……そして、今回をそれほど時間が経っていない設定で行きたいらしい。どうやら、現実の私は年明けっぽい内容にしてみたいと思っているようだね」
「……あけましておめでとうございます!!」
白湯を飲みながら魔術師の台詞を聞いていた使い魔は、急に元気な声で新年の挨拶をした。
「あけましておめでとう! 今年もよろしくね!!」
「こちらこそよろしく!」
「……年明けっぽい内容になったかな?」
「なったと思う」
使い魔は同意すると、外の月を見る。それにつられて魔術師も月を見た。
「満月か……現実の世界で時間が進んだな。なんとなく、お正月っぽい食べ物も欲しいところだ」
「おせちとか?」
「この世界に”おせち”を持ち込むのは難しい」
「どうして?」
「現実の私が”おせち”についての知識が足りないから……」
「それじゃあ、無難にお餅とか?」
「お餅は知ってる。持ち込み可能だ! ……とはいっても、今回は前回からの続き。火の番をしていた私はこの世界を離れていない」
「取りには戻れなかったってことだね」
「そういうことになる。ここはお菓子でも食べるとしよう」
「…………」
「ダメかな?」
「ダメじゃないけど……」
使い魔は何かを考えているらしい。
「……前回、あなたはお座敷の外。部屋の中でシャンプーの匂いを見つけてたよね。それはわたしの……匂いだった?」
「もちろん!」
魔術師は即答した。
「ということは前回文章として並んでいない所での、わたしの行動。わたしはすぐにこのお座敷に入ったわけじゃなくて、部屋の中で何かしてたってことに出来そうじゃない?」
「ほう。……そこに、お餅を召喚する余地があるということか!」
「そういうこと! ちょっと待ってて!!」
使い魔は立ち上がり玄関に向かう。そして靴を履いて部屋へ出て行った。部屋へ出て行った……妙な表現だけど、間違いではないよ!!
部屋へ出て行く使い魔を見送ってから、隣の座椅子を見る。そこには使い魔のぬくもりが残っている。それを求めて魔術師は左手を伸ばすが、途中で止めた。視線の先には使い魔の身代わりがあった。
「部屋に行くなら、このパーカーを着ていったほうが……」
パーカーで作られた使い魔の身代わりに気を取られていると、使い魔が戻って来た。
「お待たせ。お餅と水筒を持って来たよ!」
お座敷のドアを開けて報告した。
「う、うむ。早かったね」
「でもね、水筒の中の紅茶が冷たくなっちゃってる。お餅は涼しいところに置いておく方がいいから、部屋に置いておいたんだよ。お座敷の中はストーブをつけると思って」
使い魔は、台詞で餅が外に置いてあった理由を並べながら魔術師の側へ行く。
「なるほど。では、ストーブでお餅を焼くとしよう」
魔術師は大きめのダンボールからアルミホイルを取り出して、ストーブの上に敷く。
「はい、どうぞ」
使い魔から餅の入った袋を受け取り、広げたアルミホイルの上に置いていく。
「君はいくつ食べる?」
「えっと、一つでいいよ。食べ過ぎると太っちゃいそうだし……」
魔術師は使い魔の全身をチラリと見て台詞を並べる。
「少し痩せ気味に見えるけど?」
「そんなことないよ。わたし重いよ」
「そうだったかな……」
魔術師は自分の体に感覚として残っている使い魔の重さを思い出す。
「変なこと思い出さなくていいの!」
「……わかったよ。しかし、ストーブの側はさすがに熱いな。少し離れよう」
二人はストーブから少し離れて絨毯の上に座る。そして、使い魔は手を伸ばしてクッションと毛布を持ってくる。
「毛布に包まっちゃおう! …………あなた……」
使い魔は魔術師の右肩に手を回して毛布で包みつつ気付いた。
「窓の外を眺めていたら体が少し冷えてしまった」
「ちょっと、うつ伏せでここに寝て!」
珍しく使い魔が怒ったような強い口調で台詞を並べた。
「こ、怖いよ~」
魔術師は少し怯えた振りをしながら言われた通りにうつ伏せで横になった。
「年が明けたばかりだし、特別だからね」
うつ伏せの魔術師の上に使い魔は覆いかぶさるように自分の体をくっつける。
「君の体は温かいね」
「前回の反対だよ。わたしの体温をあげる」
冷えた魔術師の体が使い魔の体温で温まっていく。暖かいと感じつつも背中に当たる柔らかい二つの感触にも意識が向いていた。
「お餅よりこっちの方が……いや、なんでもない」
「……お餅みたいに膨らまないかな。じゃなくて、わたし重くない?」
「軽い。……背中とお胸をスリスリしてみないか?」
魔術師は後ろの方の台詞を冗談とわかる口調で並べた。
「…………ダメ」
使い魔は少し考えてから答えて、上体を起こし魔術師の背中の下あたりに座る格好になった。
「……お餅はまだ膨らんでないかな?」
「えーと、まだ膨らんでないよ」
「そうか、このままもう少し様子を見ててくれ」
「うん」
魔術師は使い魔の注意を餅に向けさせ、今の状況を楽しむ。
「なんだか背中の下辺りが幸せな感じだ」
「……」
餅に注意を向けつつ魔術師の台詞の意味を考える。
「餅はそろそろ、ひっくり返した方がよさそうだ。もうすこし、下着越しの君の体温を感じていたかったが」
今の状態を続けたかった魔術師は、使い魔の注意を餅に向けさせる台詞を並べていた。
「変態! エッチ!!」
使い魔はそのままの格好で、軽く魔術師の背中を一度叩いた。しかし、実は使い魔自身、魔術師の背中の下あたりに、下着越しに座っていることは最初から気付いていた。それでも、そのままでいたのだ。
「へー、ほー、そうだったんだ。ふーん」
「……座り直すのが面倒だったからだよ!」
使い魔は少し顔を赤くしながら台詞を並べた。ついでに文章を並べると、魔術師がそのことに気付いているのかを気にしていたりもしていた。
「大丈夫! 最初から下着越しなのには気付いていたから!」
「うぅ、恥ずかしい……。地の文さん!! あんまり変な文章を並べたらダメだからね」
使い魔のこの行動の理由は、彼女の何らかの欲求だったのかもしれない。……なぜか、地の文に微笑みかけている使い魔の笑顔がどこか怖く見える。
「可愛い笑顔ではないか」
「地の文さんの勘違いだよ」
地の文の気のせいだったのかもしれない。
「背中の下あたりの幸せな感触が続いて嬉しいけど、お餅が少し焦げてきたかも」
焦げ臭い匂いが少し漂いだす。
「あ、ごめん。おりるね」
「いや、そのままで大丈夫!」
魔術師は背中に使い魔を乗せたまま四つんばいで起き上がる。
「わ、わっ!?」
使い魔はバランスを取る為に魔術師の両肩の辺りに両手を着いた。
「ほら、軽い!!」
四つんばいのままストーブの方まで移動する。
「手でお餅をひっくり返すのは熱くない?」
魔術師が素手の右手で餅をひっくり返そうとするのを見て使い魔は注意した。
「熱さを感じる前に終わらせればいいのだよ。それよりちょっと顔が熱い!」
自分的な理論をかざして餅をすべてひっくり返すと、使い魔を背中に乗せたままストーブの近くから移動した。
「本当に熱くなかったの? 火傷しなかった?」
「ちょっと熱かった。火傷は……してないと思う。少しヒリヒリするけど」
それを聞いた使い魔はすぐに背中からおりて、魔術師に右手を出すように要求する。
「無理しちゃダメだよ」
「ははは……。つい、君に良いところを見せたくなってしまった」
「……冷やしたほうがいいと思う」
使い魔は辺りを見回して手頃な冷たそうな物を探す。そして、冷めてしまった紅茶の入った水筒を見つけて魔術師に持たせた。
「……ありがとう」
「うん」
右手に水筒を持った魔術師は、客観的に自分の姿を思い浮かべて行動に出た。
「湯飲みに冷めた紅茶を入れよう。熱いお餅を食べるにはきっと役立つ」
「口の中を火傷しない為だね」
「その通り!」
会話をしながら二つの湯飲みに冷めた紅茶を入れた。
「ヒリヒリするところ大丈夫?」
「問題ないって! ふむ、お餅も良い感じだな」
魔術師は着ている服の長袖の先で指先まで手を隠し、ストーブの上のアルミホイルを取り、テーブルの上に置いた。
「今度は大丈夫だった?」
「この程度の熱では、この服の防御力でノーダメージさ!」
使い魔に心配されて嬉しかった魔術師は微妙に冗談を言った。
「そうなんだ……」
微妙に使い魔は頭の中で、自分の体温とストーブの熱について比べていた。
「冗談だよ? ストーブも暖かいし、君の体温も服と君の下着越しに伝わっていた」
「……お餅を食べよう」
使い魔は自分の座椅子に座ると、冷めた紅茶を自分の前と、隣の席の前に置き直す。
「うむ、では頂くとしよう!」
座椅子に座る使い魔の後ろを通り、隣の席に座りながら台詞を並べた。
「あの月……少し形が変わった?」
「現実で一晩くらい経ったのだろう。さて、火傷しないように気を付けて食べよう」
「うん」
二人は夜空を見ながら餅を食べた。
「さて、お餅を食べるところが微妙に省略されたけど、もう少し文章を並べよう」
「火傷しないで食べれたね。危ないかなと思った時、冷めた紅茶が役に立ったよね!」
「紅茶が冷めててよかった」
「だね!」
召喚した餅との戦いをなぜか短く語り合った。
「お餅を食べて、年明けっぽい感じが出せたのかは別として、そろそろ今回を終わりにしよう」
「今回は大体5000文字くらいだね」
「今の私としては少し多いほうだ……では、ストーブを消すとしよう」
「わたしの方が近いから、わたしが消すね」
使い魔は四つんばいで移動してストーブの火を消した。
「今回も文章並べを手伝ってくれて、ありがとう!」
「どういたしまして! あなたが変態だったけど、わたしも楽しかった。ありがとう!」
「変態か。ならばあえて再び変態になろう!! ストーブを消しに四つんばいで向かった君のお尻の振り方もよかった。ありがとう!」
「ふふっ、エッチ」
「良い笑顔だ」
使い魔の笑顔に魔術師も笑顔を返して、二人は帰っていった。
という感じに今回を終わりにしよう。




