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コタツから白い右手が

 空の月は満ち行く月、半分以上その姿を現して世界を照らしている。

 月の光は窓から部屋に入り込んでいる。しかし、その内の一つの窓にはカーテンがしっかり閉められていた。

 部屋の中の空間の一部が揺らぎ、そして魔術師が現れた。

「今回はなかなか明るいな……」

 辺りを見回して部屋の中を確認する。その目は使い魔の姿を探していた。

「部屋の中に部屋を作って、死角が増えたな……」

 そんな独り言を言いながら、部屋の中の部屋の壁の周りを探る。

「なんとなく、かすかに……シャンプーの匂いがするような気が……ん? ほほぅ。やはり中か!」

 部屋の中の部屋……お座敷から物音が聞えた。そして、魔術師の目はお座敷へのドアに向かった。

「かくれんぼみたいだ」

 魔術師はドアノブを回してゆっくりと中に入る。使い魔が何か罠を仕掛けていないかを警戒していた。

「……おじゃまします」

 靴を脱いでお座敷へ上がる。使い魔の靴は綺麗に並べられているので、それに習ってお行儀よく靴を並べた。

「なるほど……地の文で並べられていた『その内の一つの窓にはカーテンがしっかり閉められていた。』というのは、ここの窓だな」

 座敷の中の唯一の窓を見て魔術師は台詞を並べた。カーテンがしっかり閉められているので同じ部屋でも、このお座敷の中は若干、暗い。

「あのカーテンは何らかの伏線に違いない。やはり何らかの罠が……」

 魔術師は若干、暗いお座敷の中を注意深く見る。テーブルがあり、窓に向かって座る感じに座椅子が二つ置かれている。テーブルの向こうには、魔術師が使い魔にあげたパーカーのフードが見える。その姿は毛布を掛けて横になっていた。

「そういえば寒いな。ストーブをつけよう。……そうか、火種が無くてストーブを点けれなかったか……悪い事したな。電池を入れれば直るかな……」

 毛布に視線を戻すと小さな動きが見えた。

「毛布に包まれば暖かいけど……」

 台詞を並べながら、カーテンがしっかり閉められている理由を探る。座敷の中を暗くするのが目的なのかもしれない。

「寝たふりで、実は寝ていなくて驚かすつもりかな?」

 魔術師は、毛布に包まったパーカーに台詞を投げる。しかし、毛布は微かに動いているだけで特に変わった反応は無い。

「まさか、ただ単に眠る為にカーテンを閉めただけとか!?」

 再び台詞を投げてみるが、反応は変わらない。

「仕方ない。まずはカーテンを開けるか……本当に眠っていたら、少し悪い気もするけど」

 魔術師は座敷の中の窓辺に注意深く向かい、カーテンを開けた。そして左を向き、毛布を掛けているパーカーに視線を向ける。

「!? ……」

 魔術師は一瞬ビクっとして、毛布の方から足元に視線を移動させた。その先には…………女の白い右手が自分の左の足首を掴んでいた。

 月明かりに照らされているその手をよく見ると、その手はコタツの中から伸びていた。

「えっと……怪奇現象だ」

 その台詞が並ぶと、今まで掴んでいるだけだった手が、微妙にコタツの中に引きずり込もうと引っ張る。

「すまないが、ストーブの火をつけるから離しておくれ」

 魔術師は腰を曲げて足首を掴んでいる右手を軽く二度叩いた。すると、その手は足首から離れてゆっくりとコタツの中に戻っていった。

「少し驚いてしまった」

 ストーブへ向かう途中、チラリと毛布を見ると不自然な感じに動いていた。

 魔術師はポケットからライターを取り出し、ストーブに火を点けた。

「とりあえず、ライターはテーブルの上に置いておくことにしよう」

 ライターをテーブルの上に置くとすぐ側の不自然な動きをしている毛布に添い寝をした。

「フードの向きが変わってしまっている……恥ずかしがり屋め」

 不自然な動きはフードの向きを変える為だった。

「…………夜の静寂 足元に影は無く 空を見上げれば月は雲の向こう 空に手を伸ばすと雲は流れ月が出る 月の光で右手を見つけ コタツの布団をめくると君はいた……」

 魔術師が使い魔を呼び出す呪文を微妙に変えて唱え、コタツの布団をめくると、そこには使い魔がいた。

「えっと、怪奇現象には驚いたね!」

 使い魔は微笑みながら台詞を並べた。

「うむ。まさか、コタツから手が出てくるとは思わなかったよ。なにモノの手だったんだろうね」

「ひょっとしてこんな手だったり?」

 使い魔は自分の右手を差し出した。

「よく見せてもらおうかな」

 魔術師は使い魔の右手を両手を使って確かめる。

「綺麗な手をしているね……さっきの手もこんな感じで綺麗だった」

「そ、そう? ありがとう。……足首掴まれて怖くなかった?」

「んー……。まぁ、最初はびっくりしたけど、すぐ君の手だってわかったし」

「わ、わたしは”ここ”で横になってるのに?」

 使い魔は自分と魔術師の間にある毛布が掛けてあるパーカーを軽く叩く。それには薄手の毛布がつめられている。

「若干、暗めの時は気付かなかったよ。足首を掴まれなければ、もう少し気づくのに遅れたかも」

「わたしの、変わり身……身代わり? の術を見抜くとはなかなかだね!」

 使い魔はコタツの中に潜みつつ、テーブルのすぐ側の毛布をゆすることで動きをつけていた。

「パーカーにこんな使い方があるとはね……フードか」

「ちょっとやってみたくなって……ひょっとして怒ってたりする?」

 使い魔はコタツの中から出て、内心の微妙な不安を台詞にした。

「……こんなイタズラをするとは、いけない子だね」

 魔術師は窓の外を見ながら静かな口調で台詞を並べた。

「……」

 台詞の内容と口調から使い魔は叱られたと思い、不安感を増してしまった。

「身代わりと君の位置が逆が良かった」

「……え?」

 使い魔は魔術師の台詞の意味がよくわからなかった。

「いや、その……君と添い寝をしてみたかったってことで……。君の身代わりの術? に気付く前まで、ストーブを点けたらこっそり添い寝をしようと思ってたんだ!」

「…………ふふ! なんだ、そうだったの!!」

 魔術師の台詞から、その意味を読み取った使い魔は笑い出した。その笑みは安心から。

「身代わりなんてイタズラをしなければ、君と添い寝が出来たのに!」

「……添い寝をして、わたしに変なことをしたかったの?」

 使い魔は笑顔を一旦隠し、真面目な顔で問いかける。

「う~ん、背中をくっ付けて横になってみたかった」

「それだけでいいの?」

「もっとさせてくれるというなら、背中同士をスリスリしてみたい!」

 真っ直ぐ使い魔を見つめて台詞を並べた。

「ふーん」

 使い魔の短い台詞には少し残念そうな色が浮かんでいた。

「もちろん、成り行きとか、君が何かを望む台詞を並べるなら……ふっふっふ」

 コタツから出て窓を背にして座っている使い魔の両肩に、魔術師は両手を伸ばす。

「えっと、えっと!! ……月が明るいし、背中をくっ付けて横になるだけなら良いよ」

 急に恥ずかしくなった使い魔は立ち上がると毛布から自分の身代わりを出し、壁に立てかける。

「君にかわされたこの両手はどこへ持っていけば?」

 魔術師は両手を前に伸ばしたまま、首を曲げて使い魔に問いかける。

「その動作を解除すれば良いと思うよ」

「なるほど!」

 両手を下ろして体ごと使い魔の方を向く。

「じゃあ、添い寝しよう。変なことしちゃダメだからね!」

「まぁ、偶然はあるかもしれない……ああ、君はストーブ側だよ」

 毛布を掛けて横になった使い魔はテーブルの方を向いていた。

「こう?」

 使い魔はストーブの方を向いて横になった。ストーブまでの距離はそれなりにあり、熱すぎることはない。

「そう、それでいい。では、失礼します」

 魔術師は使い魔に掛けられている毛布に進入する。進入しながらちょうど良い位置まで手を使いながら移動する。そんなさなか、右手が柔らかい何かに触れた。

「エッチ。お尻触っちゃダメ!」

「おっと、失礼。わざとじゃないよ偶然、偶然ね!」

 実際は約半分が偶然で、もう約半分は? ……。

「……あなたの背中暖かい」

 使い魔も背中を合わせるのに協力して上手く背中をくっつけることに成功した。

「君の背中はひんやりしている」

「うん。ちょっと冷えちゃった。あなたの体温貰っちゃうね」

「背中同士をスリスリすれば摩擦熱も発生だ!」

「……摩擦熱。スリスリはもうちょっと待って」

 魔術師の体温が欲しい使い魔は、摩擦熱に待ったを掛けた。

「ふむ、お座敷も暖まってきたね」

 お座敷には天井が無いので暖かい空気は部屋の中に逃げていく。それでも、壁に囲まれているので中の空気は暖まっていく。

「……ごめん。ちょっと眠くなって来ちゃった」

「そうか。体が温まって来たからかな。うりゃりゃ!」

 魔術師は使い魔の背中を自分の背中で擦る。

「この揺れ方、気持ち良い……うぅ、眠い……」

「これは、かなり眠そうだ。とりあえず枕にこのクッションを……」

 手を伸ばして近くにあったクッションを取ると、使い魔の頭の下に差し込む。

「ありがとう。眠っちゃっていい?」

 許可を取ろうとしているけれど、すでに半分以上眠っている。その目はしばらく開きそうにない。

「いいよ。火の番は私がしておくから、次回まで眠ると良い」

「うん……」

 使い魔はそのまま眠ってしまった。

「この状況は、寝顔を見ることは許されているのだろう」

 魔術師はゆっくりと毛布から脱出した。魔術師の背中にもたれ気味だった使い魔は自然に仰向けになっる。

 使い魔の寝顔を見て微笑むと、ストーブの方を見た。

「ああ、湿度も大切だし、やかんに水を入れて乗せておこう……」

 そう台詞を並べて座敷の中の大きめのダンボールへ向かった。

 という感じで今回を終わりにしよう。

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